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オーディオメーカーが作るスマートスピーカーは何が違う? AIへ積極展開するオンキヨーの狙い
2017年8月25日 10:00
オーディオメーカーとして創業70年を越えたオンキヨーは今、米国などを中心に盛り上がる「スマートスピーカー」に積極的だ。AmazonやGoogleに加え、今後AppleもHomePodを投入予定という中で、日本のオーディオメーカーとしていち早く参入。米国や英国、ドイツ向けに対応製品を発表したほか、AIや自動車など、関連企業との連携も多方面で進めている。オンキヨーがなぜこの分野に参入し、どんな製品、立ち位置を目指しているのだろうか? 同社AI/IoT事業推進室の宮崎武雄室長と、八木真人副室長に聞いた。
音声で操作し、複数のネットワークサービスとつながることで様々な機能を利用できるスマートスピーカー。オンキヨーが第1弾として発表したのは、Amazonの音声サービスAlexaに対応した「VC-FLX1」。米国において9月末に279.99ドルで発売する。さらに、AlexaとDTS Play-Fiにも対応したモデルを米国、英国、ドイツで10月下旬に発売予定としている。なお、これらの日本での発売は未定。
スマートスピーカーを手掛けるAmazonやGoogle、LINEといった企業とは異なり、オンキヨーはAIやクラウドのサービスを含めた「プラットフォーム」となることは目指していない。より多くのプラットフォームやサービスと連携することによるユーザーの利便性向上に主眼を置いており、そのために様々な企業とのコラボレーションを進め、プラットフォーム提供会社などとも積極的に対話しているという。
なお、5月のGoogle I/Oで発表された新しい「GoogelアシスタントSDK」では、スピーカーを含む様々な機器にGoogelアシスタント機能を組み込み可能となる。Googleの協力メーカー/ブランドの一つとしてオンキヨーの名も挙がっている。
VC-FLX1
オンキヨーが米国で発売予定のAlexa対応スマートスピーカー「VC-FLX1」は、Bluetooth/無線LANを内蔵し、音楽ストリーミングサービスなどを利用可能。人の声による操作で音楽再生できるほか、天気や交通情報などの情報取得、Alexa対応スマートデバイスの制御なども行なえる。
さらに、モーションセンサー機能付きのWebカメラも内蔵。サードパーティーのクラウドサービスと組み合わせることで、外出先からスマートフォンなどで室内の様子を確認/録画できる。温度/湿度センサー、照度センサーも装備。WebサービスのIFTTT(イフト)などを使って、スマートホーム機器と連携。「明るさが〇〇ルクスになったら電気を点ける、湿度が〇%になったらエアコンを点ける、といったことができます」(八木氏)。
老舗オーディオメーカーがスマートスピーカーに注目する理由
――AIやスマートスピーカーを、オンキヨーが積極的に手掛ける理由を教えてください。
宮崎氏(以下敬称略):スマートスピーカーに参入するというと、AIそのものの開発を想像されるかもしれません。我々はAIそのものを開発するのではなく、AIを通じて、「音楽」や「音」といったオンキヨーとしてのコアコンピタンスの活用や、可能性がもっと広げられるという考えです。もっと単純にいうと、AIに対応したスピーカーは、音楽を聴くのがとてもラクです。そうした部分も、入り口としてあります。
今のAIは、声を認識してコマンドを送る準備をするという役割で、それに対してスキル(アプリなどの機能を指す)を組み合わせるというものですが、将来的には、AIのクラウドと別のクラウドを組み合わせることで全く違う付加価値が生まれてきます。
我々は、音楽を楽しむ企業であり、お客様にとっての付加価値を生む「VALUE CREATION」を目指しています。そのためにAIを活用するのはすごく自然なことだと思っています。いわゆる“垂直型産業”で、何から何まで自社で作っていたことが過去ありましたが、今の時代は、電子デバイス、ソフトウェアは外から買ってくるほうが早かったり、サービスを含めて色々なところと手を組んでいくことで新しい価値が生まれることが多いですよね。
スマホが出てきた当初は、例えば(タクシーを呼べるアプリ/サービスの)Uberのようなシステムができるとは想像されていなかったと思います。その後数年で、スマホがあるからこそできるサービスが登場してきました。色々な人のアイディアで生まれたアプリと、中のセンサー技術が組み合わさって、新しい価値、サービスが生まれています。
電話機が“携帯”から“スマホ”中心になったように、スピーカーがスマートスピーカーになり、スマートスピーカーがあるからこそできるサービスができてくるのが自然な流れだと思います。だったら、いろいろな会社と組んで、アイディアを出し合い、新しい価値を探していくのがオンキヨーの役目だと思っています。
――オンキヨーは、スマートフォンと車が連携するプラットフォーム「スマートデバイスリンク」(SDL)に対応したスマートスピーカーを開発すると8月16日に発表しましたが、これによってどんなことができるのでしょうか?
宮崎:例えば、スマートスピーカーがLTEで接続できれば、スマホを使わなくても独立してつながって便利に使えます。音声認識でいえば、車という閉鎖空間で、ロードノイズがある環境での音声の吸い上げる技術と、“カーコンピュータ”と呼ばれるほどコンピュータがたくさん入っている車のデータのやり取りをAIにつなげるときに、車自身がその役割をするのか、スマホだけでなくスマートスピーカーがハブになれるのか、といったことを含めて研究している段階です。
スマートスピーカーは音楽業界に新しい流れを起こすか
利便性の高さに加え、オンキヨーならではといえるのが音質の高さ。新開発振動版の「ODMD」(Onkyo Double Molding Diaphragm)は、軽量かつ低硬度のエラストマーを使ったエッジにより低域特性をワイドレンジ化。また、接着剤レスの2色成型一体型を採用したことで、重量や寸法にバラつきの少ない高精度部品を実現している。加えて、高剛性樹脂を射出成型した振動板により、大入力時の音崩れを抑制し、高域までピストンモーション領域が拡大。結果として、小型のユニットながら、低域から高域まで理想的な特性と、低歪み化を実現したという。
ユニット部だけでなく、それを筐体に固定する端の部分の強度確保により、スピーカーボックスへ伝搬する振動の抑制や、ボックス自体の強度確保も行なうなど、オーディオメーカーらしい細部までのこだわりも込められている。
八木:一般的に、小型のスピーカーだと低音が出なくなってしまいますが、低域と、理想的なバランスにするために使われているのがオンキヨー独自のODMDです。オーディオメーカーとして、スピーカーからはじまった70年強の歴史をもつ弊社ならではの良さを活かしています。
家の中にWebカメラやスピーカーなどをいくつも置くのではなく、1台でスマートホームの起点となり、音楽を楽しむだけでなく多くの用途のある「聴くだけのスピーカーから使うスピーカー」に変えていこうと考えています。
よく「音楽離れ」、「CD離れ」などと言われますが、米Experianの2016年調査を見ると、(Amazonのスマートスピーカー)Echoのユーザー約1,300人のうち、80%以上が音楽をかけていて、有料の音楽配信サービスを聴いている人も40%を超えているという結果も出ています。
スマートスピーカーを介して出会った音楽が気に入って、良い音楽環境で聴きたくなったら、弊社グループの(ハイレゾ配信サービス)e-onkyo musicがあります(笑)。音楽業界から見ても、スマートスピーカーの登場は良いことなのではと思っています。
オンキヨーはスマートスピーカー作りに“ちょうどいい”会社?
――宮崎さんや八木さんのAI/IoT事業推進室とは、どんな部署ですか?
宮崎:いろいろな分野の開発部隊などから人が集まり、マーケティングや販売などを含めて担当する部署として、今年の3月にできました。
オンキヨーグループには、スピーカーやAVレシーバなどの「オンキヨー&パイオニア株式会社」や、ヘッドフォンなどの「オンキヨー&パイオニアイノベーションズ株式会社」などがありますが、オンキヨー本社に属する我々は、両方にまたがって商品企画ができます。AIに対しても、いろんなことを考えられる立場です。
――オンキヨーがスマートスピーカーを手掛ける上での優位性は、音質面以外にも何かありますか?
宮崎:1月の「CES 2017」でVC-FLX1を発表した時はとても反応が良く、その後も色々な企業から問い合わせをいただいています。当社は、ある程度小回りが利く規模ですが、名前はそれなりに知っていただいており、ベンチャーの方々から、プラットフォーマーのような大きな企業の方々までお話をさせていただいています。
八木:スマートスピーカーは、家の“主役”ではなく、生活に寄り添ってくれる自分だけの執事、コンシェルジュになっていくのではと思っています。
これまでは音楽を聴くだけだったスピーカーが、朝にアラームとして使い、ニュースを聴くことができ、やろうと思えばいくらでもできます。そういうところまで寄り添ってくれる。
一方、もちろんこれまで通り弊社が提案しているHi-Fiの世界もあります。生活を豊かにするための“声”や“音”の技術は、オンキヨーとパイオニアがずっと持ち続けている一つのアイデンティティです。
これから注目のスマートスピーカー/AI動向。日本でも普及する?
――第1弾のVC-FLX1はAlexa対応ですが、他のプラットフォームにも積極的に対応していくということでしょうか?
宮崎:米国、英国、ドイツで10月下旬に発売するモデルは、AlexaとDTS Play-Fiに対応しますし、(パイオニアブランドで発売中のLightningイヤフォンの)RAYZはSiriに対応しています。その他に、CESの時に発表した、対話型音声対応知能「Houndify」を提供するSoundHound(鼻歌検索で曲が分かるSoundHoundアプリなどで知られる)ともいろいろアイディアを出し合っています。
――この分野でオンキヨーにとってのライバルはどういった企業でしょうか?
宮崎:「スピーカー」だけを考えると、本業ですので競合は色々あります。ただ、スマートスピーカーの今後の商品についてコラボレーション先と議論すると、様々なサービスを組み合わせてやれることがたくさんあると感じています。「音をコントロールする」オンキヨーから、「音を介在して新しい価値、世界を作り出す」方向へ踏み出していきたいと思っていますので、そういった意味で何が競合になるかわからないほど、ワクワク感があります。
――日本人は、声に出して操作することにあまり慣れていないように思いますが、スマートスピーカーが普及すれば変わるでしょうか?
宮崎:最初は、手が使えないとか、使いたくないときが、きっかけになると思います。寒い冬の夜に電気を消しに布団から出たくないとか、洗い物をしているときに音楽をかけたい、家でフィットネスをしているときに電話に出たい時などです。そういった手が使いにくいときに声だと便利であると感じていただけると思います。
使っているうちに、AIが学習することで精度が上がってきます。これからは“自分専用のAI”というものが出てきて、個人認証なども簡単になるのではないでしょうか。個人の生活パターンに合わせたレコメンドをしてくれるなど、AIの進化に合わせて商品も進化すると思います。
音楽でいえば、例えば個人の嗜好と楽曲のイコライジングを合わせるなどといったアイディアはいくつもでてきます。それを自社だけで全部作りこまなければいけないのではなく、他のクラウドとつながることで可能になると思います。我々は自社で一からプログラム組んでやろうとはあまり思わず、「あなたのサービスとうちの技術を組み合わせて商品化しませんか? 」と提案できると思っています。