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走る江ノ電から8K撮影、キュー・テックが評価用映像発売へ。初の8K/HDR CGも

 キュー・テックは、今後発売予定の業務向け8Kオリジナル映像コンテンツを披露する上映会を開催。8Kカメラを電車内に持ち込んで非圧縮収録した「ぶらっと江ノ電の旅」などを上映し、同作品のカラーリストや、オーディオ・ビジュアル評論家の麻倉怜士氏らが、高画質のポイントを解説した。

「ぶらっと江ノ電の旅」の映像の一部

 今回の上映会では、完全オリジナルの8Kコンテンツ3作品を、非圧縮/HDR/BT.2100/60pで上映。「ぶらっと江ノ電の旅」は最新8Kカメラを電車内に持ち込み、リアルタイムHDR/広色域で撮影して非圧縮収録。また、「ころころ」は業界初という高品位/高精細フル8K/60p CGの評価用動画となる。また、8K主観評価動画像として提供中の「京都ダイジェスト」(QT-8210D)も上映した。いずれも、テレビやプレーヤーなど8K対応機器開発などの評価に利用することを想定したもので、一般販売はされない。

小型機材と少人数で8Kロケを実現

 参考出品として上映された「ぶらっと江ノ電の旅」は14分のコンテンツで、藤沢から鎌倉の間を走る「江ノ電」の車窓と沿線の風景を8K/HDR/広色域で収めたもの。撮影は'16年10月に行なわれた。A-PAB(放送サービス高度化推進協会)の技術検証用映像として制作されたもので、今後は8Kの評価動画として、機器メーカーなどに年内をめどに販売予定となっている。

8K制作検証用に制作。評価動画像としてリリースする

 池上通信機の放送用8Kカメラ「SHK-810」を使用し、HLG/BT.2020で出力。撮影現場でソニーの有機ELモニター「BVM-X300」とHDR対応波形モニターを用意し、カラーグレーディングを想定したHLG方式で輝度を管理した。レコーダは計測技術研究所のUDR-N50Aを2台使用して非圧縮で収録。

使用機材
運転席からの風景や街の映像を収録

 音声収録はゼンハイザーのXY方式ステレオマイク「SPM-8000」を使用し、プロセッシングユニットの「SBP-8000」により5.1chを生成。素材収録からMAまではすべて96kHz/24bitで制作。

 全編8Kでロケ撮影ということもあり、機材をコンパクトに持ち運ぶため、自社で8K専用ロケーションカートを製作。2,500Wの大容量リチウムイオンバッテリと高効率インバーターを積んで、電圧ドリフトのない安定した電源供給が行なえ、一般客が乗車している車両内でも収録できることを実証したという。作品のスタッフは7名。

撮影風景。8K専用ロケーションカートを製作
相模湾に沈む夕日

 4日間のロケーションで、晴天/曇天/早朝/夕方など時間によって色温度や映像のトーンはそれぞれ異なっている。撮影には、編集やグレーディングを担当するエンジニアが同行。「撮影現場で自身の目で『生の画像』を把握することにより時間/気候などの条件の異なる素材であっても、トーンだけではなく、空気感までをも合わせることに成功した」という。

 グレーディングを担当するカラーリストが現場に同行し、現場で4K有機マスターモニターを使用したHDR(HLG)/BT.2020の基本グレーディングを行ない、その後、編集時の本カラーグレーティング工程を経て仕上げられた。カラーリストも同行し、HDRに向けた“輝度の残し方”や、色について現場でカメラマンやVE担当者と意見を交わしながら、撮影を進めたという。

 初の8K CG作品となる「ころころ」は、4K版では提供されているが、新たに背景などを8Kベースで作り直したというもの。日本伝統の「京手毬」が、江戸千代紙と漆のきざはし(階段)を転がり降りるという映像。パンフォーカスで8Kの高解像度が分かりやすく、実写のようなクリアさを実現している。

8K CG作品「ころころ」

 時間は1分間だが、8K画像1枚あたりのレンダリング時間は約20分で、複数台のPCを使っても合計2週間を要している。

 「京都ダイジェスト」は、'14年に京都でロケを行なったもので、ソニーのF65を使ってRAW収録し、4K主観評価ソフトとして製品化されたものを、新たにRAWからS-Logにディベイヤーし、SDR/PQ/HLG/BT.709/BT.2020の各フォーマットで作成。高精細版の「8K京都ダイジェスト」として提供している。

京都ダイジェスト

 このほかにも、現在の4K評価動画像集であるQT-4000シリーズの中から、代表的なコンテンツを、RAWからの8Kディベイヤーで「8Kダイジェスト」として制作予定となっている。

 また、現在の4K版QT-4000/HDRシリーズは、用途に応じたファイル形式での納品となるが、UHD Blu-rayディスク版の制作も計画しているという。ただし、UHD BDも一般販売ではなく、機器開発などに向けた業務用のパッケージとなる予定。

4K評価動画像集のQT-4000シリーズ。UHD BD版も計画されている

カラーリストが全てのロケに参加。8K/HDR制作のポイントや見どころ

 「ぶらっと江ノ電の旅」を担当した今塚誠氏は、カラーリストとしてレーザーディスクの時代から現在のBD、UHD Blu-rayまで多くのビデオソフト制作に関わっており、4K作品からは評価用画像にも参加している。今回の8K制作には「現場で見たものとグレーディングしたものを近づける」ため、全てのロケに参加。撮影の時点で、経験豊富なカラーリストの知見を加えつつ進めたのがポイントとなる。

カラーリストとして25年以上の経験を持つ今塚誠氏

 8K映像の最適視聴距離(ドット感が見えなくなる距離)は、65型(画面の高さ80㎝)の場合はHD解像度で240cm、4Kで120cmに対し、8Kでは60cmとなる。ここまで近づくと、人の視界(約120度)に近い100度の範囲で映像が見えるため、より没入感が高まる。

HD、4K、8Kの最適視聴距離

 ただし、グレーディングでは全体を見渡す必要があるため、距離を置いて映像を見る必要があるという。今塚氏は「いずれ8Kモニターを導入し、立体感、奥行き感、没入感がどうなるのか模索したい」とした。

 また、画面に近いと、動きの速い被写体をブレとして感じやすくなってしまう。そこで、ブレ感の解消を目指して120fpsのハイフレームレートで制作した、「ころころ」の120pバージョン(QT-8101)も制作中だという。

8K/120p版も制作中

 HDR制作に関しては「どうしても抑えきれない直射の太陽光なども、抑えすぎると全体が暗くなり、後から補正すると粒状感が出てしまう。(ぶらっと江ノ電の旅では)一部で輝度の飽和もあるが、どちらかというと光よりも全体の見え方を重視した部分もある」としている。また、色彩、色調のバランスについては「輝度が高いと色の再現が豊かになるが、過剰な彩度の再現は、長尺のコンテンツでは目を疲れさせるため、注意している」という。

8K制作の特徴
制作時に注意した点など
キュー・テックの古迫智典社長は、8Kへ積極展開する意向を示した

8Kは「ナチュラル」、「ドラマチック」、「誘引力」

 8K映像のデモは、8K非圧縮映像を、レコーダのUDR-N50Aで再生し、シャープの8Kディスプレイ「LV-7002」に表示。「京都ダイジェスト」を監修し、ロケにも参加した評論家の麻倉怜士氏は、8K映像が持つ特徴について「ナチュラル」、「ドラマチック」、「誘引力」という3つのポイントを解説した。

麻倉怜士氏
シャープ8Kディスプレイ「LV-7002」
「UDR-N50A」で再生

 「8Kは、この(ディスプレイの)後ろに景色があって、実際に見ているような感覚。画素が圧倒的に細かく、詰まっている。表面的でなく奥行きがあり、本物らしい自然さがある。(ぶらっと江ノ電の旅で夕日が沈む)鎌倉・由比ヶ浜はドラマチックな色で、劇的な画が撮れている。お茶屋のあんみつは、かかっているあんこ、赤いサクランボ、向こうが透けて見える寒天を食べたくなり、江ノ電にも乗ってみたくなる。知っている場所でも、画が新鮮に見えるのが8Kの良さ」とした。

麻倉氏が8Kコンテンツの見どころなどを解説

 放送などの利用を想定し、圧縮した映像も上映。Spin Digital製のHEVC/H.265メディアプレーヤーソフトで再生。同社は自社でHEVCエンコーダも開発しており、オープンソースのHEVCに比べて高い圧縮率を特徴としている。1分間の「ころころ」の場合、非圧縮の530GBに対し、HEVCで1.2GBまで大幅に圧縮できたという。

8K/60p HEVC圧縮をリアルタイムデコードで再生