麻倉怜士の大閻魔帳
第65回
「音楽そのものに効く」刮目な音質アクセサリー。'25年のオーディオ製品5選
2025年12月18日 08:00
ハード・ソフトを問わず、さまざまな新製品・新技術が登場した2025年も残りわずか。今回も麻倉怜士氏が実際に体験したもののなから、特に印象に残ったものを10個ピックアップしてもらった。今回はオーディオ編として5アイテムを紹介する。
JBL「BAR 1300MK2」
――今年も気がつけば12月。今回も麻倉さんが今年1年体験して、特に印象的だった製品を紹介していただきます。まずはオーディオ関連のアイテムから。ひとつめはJBLの“リア分離型”サウンドバー「JBL BAR 1300MK2」です。
麻倉:ハーマンの試聴室で何度も音を聴いていますが、先日、入交さん(入交英雄氏/WOWOW技術センターのエグゼクティブ・クリエイター)の「入交イマーシブオーディオ研究所 ならまちスタジオ」でも聴く機会がありました。
入交さん自身、これまでどんなサウンドバーを聴いても「これは私が作った音じゃない。定位も位相もぐちゃぐちゃ」と言っていた方ですが、そんな入交さんが「これは素晴らしい」と初めて褒めたのがBAR 1300MK2でした。よくある“インチキイマーシブ”や“インチキサウンド”なサウンドバーとはまったく違います。
これはサウンドバーに限ったことではありませんが、“音場”と“音質”は違うもの。「音場はすごく広くても、音質はすごく悪い」ということも多く、特にサウンドバーはそういった製品が多いジャンルでもあります。
それに対して、BAR 1300MK2はまず音質が良いのです。一般的なサウンドバーは、映画では迫力の音が出るけれど、音楽を聴くとたいへん不自然というのが普通です。でも、BAR 1300MK2は実にオーディオ的。まるでハイファイ用のスピーカーで再生しているようなワイドレンジ感、構造感、スピード感があります。
音の素性が良く、音の飛び感、包囲感のクオリティが高い。ウルトラアートレコードの新譜「情家みえ/BONHEUR」では、くっきりと伸びたボーカル、明確な節回し、キレがシャープな伴奏のバンド音と、ジャズのグルーブがリアルに聴けました。ここまでの音質は、サウンドバーではたいへん珍しいです。
もちろん映画も素晴らしい。UHDBD「スター誕生」からチャプター7の「シャロウ」。冒頭のギターが生々しく響き、男性歌手の声のボディがエネルギッシュで、エッジが鋭い。レディー・ガガの声は輪郭が明確に再現されています。
そもそもの音質が良いのと、音場の再現性も高いところに、入交さんも驚いていました。入交さん自身が手掛けた作品を聴いても、ちゃんとあるべきところから音が出てきました。
そして特筆すべきは、たいへんリッチな音場感です。サウンドバー両端に取り付けているワイヤレス・リアスピーカーを分離できて、ユーザーの後ろに置けるという特長がとても効いています。
入交さんが手掛けた「源氏物語幻想交響絵巻 Orchestra recording version」というイマーシブ作品では、前と後ろで会話が繰り広げられる場面があります。その場面で後ろから女性の声がリアルに聴こえきて、怖さを感じるほどでした。
今回の10選には含めませんでしたが、前回の連載でも取り上げたヤマハ「SR-X90A」のように、“音質劣等生”だったサウンドバーというジャンルに、かなり使えるモデルが出てきたなというのがポイントですね。
――サウンドバーとセットになっているサブウーファーも、小型なのにしっかりと低音が出ていて驚きました。サブウーファーだけ単体販売して欲しいなと思ったくらいです。
麻倉:小型ながら対向配置を採用したサブウーファーで、音のつながりも良かったですね。あのコンパクトさはかなり魅力だと思います。とてもリビングルーム志向なサブウーファーで、音も良くて、キレ味も高くて感心しました。
INCRECABLE「iEARTH」
――次は米・INCRECABLE(インクレケーブル)のアクセサリー「iEARTH」。麻倉さんの部屋を見渡すと、それなりの台数を導入されているようですが……。
麻倉:ノイズだけでなく振動も吸収してくれるアクセサリーです。気に入ってしまって、HDMI用、アナログ用、スピーカー用、あとネットワークルーター用を導入しています。すごく効くんですよ。ぜひiEARTHあり/なしを聴き比べてみてください。
――(「情家みえ/BONHEUR」を試聴)。iEARTHを使うと、音に奥行き感、アナログっぽさが出てきました。iEARTHを取り外すと音が引っ込み過ぎている印象でした。
麻倉:透明感が上がって、音場も広がりますよね。こういったノイズ対策品は今までたくさん紹介してきましたし、使ってきましたが、iEARTHは頭ひとつ抜けている印象です。音楽そのものに効いている感覚があります。
デジタル周りに特に効くと思っていたのですが、実はアナログのほうがより効果を実感します。アナログノイズ専用の「Gold iEARTH (EBA-3)」が効きますね。
驚いたのは音だけでなく、画質にも効果があること。こういったデバイスは音質の違いは分かりやすくても、画質の違いは分かりにくいものが多い。実は3月ごろにアバックでiEARTHを使ったイベントを実施しました。当然、画質面に強い方々が来場するわけですが、全員その違いに驚いて、イスから転げ落ちていましたよ。
音質について言えば、アーティストの本当の姿が見えてくるような、音場が透明になる、よりグロッシーになるなど、音楽を楽しむ方向に音が変わってくれます。
またこういったノイズ対策品は「どこに挿しても良いですよ」というものが多いなか、iEARTHはデジタルノイズ専用、ネットワーク(LAN)ノイズ専用、スピーカーノイズ専用など、用途ごとに分かれているのもポイントです。
“都市伝説”のように思われるかもしれませんが、これは一度体験してみないと分からないと思いますね。
――細かく分かれているからこそ、“マイナスになっちゃったな”ということもなさそうです。たまに効果が強すぎて音に元気がなくなってしまうものもありますが……。
麻倉:各ノイズに特化しているわけですから、他には影響を与えません。
また過剰になってきて、マッタリした音になるということもない。キレは良くなりますし、透明度も高くなる。我が家ではオクターブのプリアンプ「Jubilee Preamplifier」を使っていて、「こんな高級なアンプに使って効果があるのか?」とも思いましたが、実際試してみると驚かされました。
感覚として1.3倍音が良くなるイメージです。極端に言えば1,000万円の機材が1,300万円の音に、10万円の機材は13万円の音になるような(笑)。
日本電気硝子“ガラススピーカー”
――残る3アイテムは、以前の連載でも取り上げたものですね。まずはガラスを使ったスピーカーユニットです。
麻倉:このガラススピーカーを採用した製品として、今市場にあるのはフィディリティムサウンドの「Alpair 5G」だけですが、夏ごろに参加したカーオーディオコンテストの会場でたまたま実機を聴く機会がありました。
すごく遠くからでもクリアな音が聴こえてきたので、話を聞いたら「これ振動板はガラスなんですよ」と紹介されて驚いたわけです。
ガラスを振動板にするという手法は、テレビで採用例(ソニー有機ELブラビアの「アコースティック サーフェス オーディオ プラス」)があるとはいえ、決してメジャーな存在にならないのは、音が悪いのと、音が“グラッシー”だから。それゆえ、“ガラスはスピーカーユニットに使える素材ではない”というのが常識でした。
ところが、日本電気硝子が素材を開発・製造し、台湾のGAITがユニットに加工したガラススピーカーは、そんな常識を覆してきたのです。これまでは「スピードが遅く、内部損失も低くて、強度も低い」という存在だったのに、このガラススピーカーは「スピードも早い、内部損失は高くて、強度もある」とまったく真逆なのです。
日本電気硝子が作ったガラスは超薄型。一般的に窓ガラスの厚さは3~5mm、液晶ディスプレイのガラスで0.4~0.5mmほどですが、このユニットに使われているガラスは厚さ0.2mm以下。髪の毛が0.1mmですから、その薄さが想像できると思います。
そんな極薄のアルカリガラスを硝酸カリウム溶液に浸すと強度が増します。また化学処理を行なうと、内部損失も高くなります。一般的な石英ガラスは分子が緊密に接着しています。つまり、状態の変化によって、振動を熱に変えて消失させにくい、内部損失が低いわけです。
ところが強化されたアルカリガラスはアルカリイオンの結合が弱く、振動を熱に変える度合いが大きい。つまり内部損失が高いのです。
そもそもスピーカー用として作られたガラスではないのですが、それをスピーカーに使ってみようというアイデアがあって、そこに台湾のユニットメーカーであるGAITが協力している形です。
GAITの社長にも話を聴く機会がありましたが、製造は相当難易度が高いそう。やはり割れやすいので、金型とのマッチングに苦労しているとのことでした。
高い目標を掲げて、そこに向けてコツコツと試行錯誤を重ねて到達するという手法は、日本的モノづくりだなと思いますね。このガラススピーカーの登場で、これまで“スピーカーユニットとしてダメ”とされていたものが、急に大スターになったような印象も受けました。オセロの白黒がすべて入れ替わったような。
GAITの社長によれば、ユニットをドイツ・ミュンヘンで行なわれたオーディオショウ「HIGH END 2025」で展示したところ、かなり評判が良かったそうです。
どのメーカーも新素材採用を喧伝していますが、金属素材もある程度のところまで追求されていますし、鉱物もダイヤモンドまでたどり着いているわけです。そのなかでどのメーカーも差別化要因になる新しい素材を探し回っているのです。
このガラスユニットを採用したハイエンドスピーカーが世に出てくるとしても、来年以降だと思いますが、スピーカーの革命的素材として今後も注目していきます。
Aura「linear classics」シリーズ
――続いては、Auraの「linear classics」シリーズが選ばれました。現時点ではステレオパワーアンプ「LCP 1」とプリアンプ「LCC 1」が発売されています。
麻倉:以前も紹介しましたが、非常に音が良いですね。上質でキレ味が良くて、なおかつグラデーションもあって、緻密な音が楽しめます。AURAが持つ音の発展型というサウンドです。
今のAuraは日本のユキムがプロデュースしていているので、英国風のサウンドとデザインを兼ね備えつつ、金属加工は、新潟・燕三条で行なわれていて、面の取り方やパーツの貼り方、ヒートシンクの並びなどモノづくりの精度がとても高い。
話を聞くと、職人さんに細かく指示しなくても、これだけの精度で作ってくれるそう。その職人芸というものが、モノづくりを上質にしていることを痛感します。
そんなモノづくりの日本らしさが色濃く出ているなと思います。
AUREX「AX-XSS100」
――最後はAUREXブランドのCD/FMワイヤレススピーカー「AX-XSS100」です。
麻倉:前回取り上げたあと、開発者の須永さん(須永哲明氏)と桑原さん(桑原光孝氏 DVAS合同会社CEO)に話を聞く機会がありました。開発者の視点では、「これまでのラジカセとはまったく違うものを作りたかった」そうです。
須永さんは「極端な言い方になりますが、従来のラジカセは“プラスチックっぽい音”だと感じていました。本体の構造的にも厚みのある低音を出すのは難しいし、筐体の鳴きとの戦いになってしまう。それもあり、木のエンクロージャーで、しっかりしたスピーカーを作りたいという思いはありました」と明かしてくれました。
またDSPを搭載することもポイントでした。スピーカーユニットなども含めて、基本的には中国で作られているパーツを組み合わせているわけですが、完全にお任せ状態にしてしまうと音の設計も中国側任せになってしまいます。
AX-XSS100では、設計・開発はAUREXで行なって、DSPも日本側でマネジメントするモノづくりを目指したのです。製造自体はコストが低いところで行なうのは仕方ありませんが、根本的な音の良さ、音質を保証する作業は日本側でしっかりやっている。
この点は、先ほど紹介したAURAにも通ずるところがありますね。日本的な考え方、モノづくり、こだわりをどう活かしていくのかは大きなポイントです。
ユーザー的には、下にオーディオボードを敷いたり、電源ケーブルを高品質なものに変えたりと、オーディオ的な楽しみ方ができます。こういった製品で電源インレットがあるものは珍しいですから。オーディオ的な面白みも追求できるのが魅力です。











