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CDなのにハイレゾ? ユニバーサル ミュージックの「ハイレゾCD」を聴いてみた
2018年4月17日 18:16
ユニバーサル ミュージックが6月20日から発売する「ハイレゾCD」。「CDなのにハイレゾ?」という不思議なネーミングのソフトだが、その高音質の秘密や、ソフトの試聴会が17日、マスコミ向けに行なわれた。
詳細は既報の通りだが、「ハイレゾCD」は6月20日に全100タイトルが生産限定盤として発売される。価格は各3,000円だが、2枚組で4,000円のタイトルや、ハイレゾCDの効果が聴き比べできる体験サンプラーも1,000円で発売。タイトルは「ザ・ローリング・ストーンズ/メイン・ストリートのならず者」や、「エリック・クラプトン/461オーシャン・ブールヴァード」など。ラインナップの詳細は、ユニバーサル ミュージックの専用ページに記載されている。
「MQA-CD」×「UHQCD」が「ハイレゾCD」
「ハイレゾCD」は、簡単に言うと「MQA-CD」と「UHQCD」という、2つの技術を組み合わせたものだ。
ユニバーサル ミュージックはこれまでも“高音質CD”に積極的に取り組んでおり、2007年に、透明性・流動性に優れるポリカーボネイト素材を使用した「SHM-CD」、2010年に、そのSHM素材をシングルレイヤーのSACDに採り入れた「SA-CD~SHM」仕様、2013年には反射膜にプラチナを使用した「プラチナSHM」を発売。そしてハイレゾCDがその最新作となる。
MQAは、既に音楽配信などで使われているものだが、ハイレゾ音源を「クオリティそのままに小さくできる」とする技術だ。音楽を低域から高域までの部分と、それ以上の高周波な信号に分け、高周波信号を、低域~高域までの音楽信号の中にある耳に聞こえないレベルのノイズ信号の中に移動させる。まるで“折り紙を折りたたむように”コンパクトにする独自のエンコード方法だ。
これにより、MQAに対応していないプレーヤーで再生した場合は、通常のPCMデータとして認識され、CDと同じように再生できる。高周波な信号は、耳に聞こえないノイズの中に入っているので聞こえないというわけだ。
対応プレーヤーで再生した場合は、ノイズの中の高周波な信号が折り紙を開くように展開され、ハイレゾサウンドで楽しめるという。完全な非可逆圧縮ではないが、元のハイレゾ音源と比べ、音質の面でのロスを抑えた技術とアピールされている。
なお、MQA-CD/ハイレゾCDを作成する際は、収録するデータはCDの規格に準拠している必要があるため、48kHzではなく、44.1kHz/16bitのデータに変換し、ハイレゾCDへを書き込む形になる。
今回のハイレゾCDでは、マスターとしてDSDを使用。ここから176.4kHz/24bitのPCMに変換し、MQAへのエンコードを行ない、44.1kHz/16bitのデータを作成する予定だった。しかし、ユニバーサル ミュージックで実際に作業したところ、「聴き比べると、176.4kHzよりも352.8kHzに変換した方がよかったため、全ソフト352.8kHzに変換してからMQAへエンコードしている」(ユニバーサル ミュージック 塩川直樹氏)という。
時間軸方向の精度も向上
MQAはこれだけでなく、時間軸方向の精度も向上させている。アナログサウンドをデジタル信号に変換すると、時間的な音のボケが生じ、過渡的な音が滲むという。具体的には、トランジェント(過渡音)の前後に、リンギングという響きのようなノイズが発生する。MQAでは、これを10分の1以下(192kHz/24bitの録音と比べた際に)するという。
MQAのChairman & CTOのボブ・スチュワート氏によれば、「人間の耳の感度は、5マイクロ秒を検知できる時間軸解像度があり、指揮者などではもっと鋭い人もいる。しかし、CDでは4,000マイクロ秒であり、MQAに変換すると、それが10マイクロ秒程度になる」と効果を説明する。
つまり、MQAのデコードに対応した機器が無い状態でも、ハイレゾCDは、通常のCDと比べて、時間軸方向の精度を向上させたサウンドを聴く事ができるというわけだ。
CDの製造方法にもこだわっている。「UHQCD」は、素材系高音質CDの最新型とされるもので、メモリーテックが開発した。通常の音楽CDでは、インジェクション成形という方法で、ポリカーボネートにデータのピット(ミゾ)を記録する際に、スタンパとよばれる金型を使用し、高熱で溶かしたポリカーボネートを流しこむことで、スタンパ上のピット模様を転写する。
だが、ポリカーボネートは粘り気があり、スタンパのピットの隅々まで入りきらず、スタンパ原盤のピットを完全に転写することはできない。
HQCDでは、ポリカーボネートではなく、フォトポリマーを使用して、スタンパのピットを転写。フォトポリマーは通常状態では液体だが、特定の波長の光を当てると固まる特性がある。この特性を利用することで、液体状態でスタンパの微細なミゾに浸透し、その凹凸を高精度に再現できる。これにより、CDプレーヤーが情報を読み取る際の精度を飛躍的に向上できるという。
ハイレゾCDを聴いてみる
試聴は、通常のCD、ハイレゾCDをCDとして再生、ハイレゾCDをMQA対応DACを介してハイレゾで再生、という3パターンで行なった。
試聴環境は、プレーヤーにパイオニアのユニバーサルプレーヤー「BDP-X300」を使用。通常のCD、ハイレゾCDをCDとして再生する際は、プレーヤーのDACでアナログ変換。アナログ出力をエソテリックのプリアンプ「C-03Xs」に入れ、そこからパワーアンプ「S-03」へ。スピーカーはダイヤトーンの「DS-4NB70」を使っている。
ハイレゾCDを、ハイレゾで再生する際は、プレーヤーのBDP-X300からデジタルで、メリディアンのMQA対応DAC「Meridian Ultra DAC」へと入力。そこからアナログで、プリアンプ「C-03Xs」に入れている。
「カーペンターズ/シングルス1969~1973」から、「トップ・オブ・ザ・ワールド」を再生。既発売のCDと、ハイレゾCDのCD再生を比較すると、ボーカルや楽器の輪郭が、ハイレゾCD(CD再生)の方がシャープで、繊細な描写となる。全体として音がシャキッとして、細部も見やすく、見通しが良くなった印象だ。
ハイレゾCDを、ハイレゾ再生はしていないので、この違いはMQAの時間軸方向の精度向上と、CD製造方法の「UHQCD」による効果だ。
次に、メリディアンのDACを通してハイレゾで再生すると、シャープでクリアになったサウンドに、しなやかさや質感がプラスされ、より生々しいサウンドになる。ボーカルの余韻や、バックコーラスが背後に消えていく様子や、音場にふわっと広がる範囲も、ハイレゾCDの方が格段に広く、豊かに聴こえる。この3つの音の違いは、細部をじっくり聴いて「なんとなく違いがわかる」というレベルではなく、もう音が出た最初の数秒で多くの人がわかるレベルの違いだ。
ローリング・ストーンズやJAZZなどを再生しても、変化の方向は概ね同じだ。クラシック(チャイコフスキーの交響曲第6番 悲愴)では、弦楽器の質感や、ホールに広がる響きの範囲、そして立体的な奥行方向の広がりなどで、ハイレゾCDのハイレゾ再生の良さがよくわかる。逆に通常のCDでは、スケールが小さく、平面的な音に聴こえてしまう。
MQAの再生に対応した機器は、ファイル再生が可能なポータブルプレーヤーとしてソニーの「NW-ZX300」や、パイオニアの「XDP-30R」、オンキヨーの「DP-X1」など、増加している。一方で、ディスクプレーヤーはまだ高級機が多く、dCSの「Vivaldi One」やメリディアンの「808v6」、OPPO「UDP-205」など、まだ数は多くない。
しかし、通常のCDと比較しても、MQAの時間軸方向の精度向上と、UHQCDの効果は感じられた。
ユニバーサル ミュージックの塩川直樹氏は、「(MQA対応機器はまだ少なく、ハイレゾCDを)発売するのは先行気味ではあるが、対応するソフトを出す事で、それが売れればハードの対応も進むだろう。ソフトとハード、相乗効果で対応を増やしていきたい。そして、いろいろな機器が対応すれば、CDがハイレゾに変わるような未来が開ける。“将来的にMQA対応機器を買ったら、ハイレゾが聴ければいいな”という感覚で、買ってくれるといいなと考えている」と説明。
MQAのボブ・スチュワート氏は、「MQAは、マスターのクオリティをコンパクトにでき、再生時にはそれを再現できる技術。ダウンロードやストリーミング配信に向いているだけでなく、MQA CDとして楽しんでいただく事もできる。多くの人が、CDを使ってよりよい音が聴ける。きっと日本の皆さんにも喜んでいただけるだろうと思っている」と語った。
なお、ハイレゾCDにはパッケージにも工夫があり、通常CDと同じジュエルケースに加え、ケース全体を包み込むようなクリアファイルも付属。ケースからファイルを外し、そこにCDやジャケットを収めると、“スリムケース”として使え、収納スペースを削減できる。
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