レビュー
遂に発売開始、“ワーナーのハイレゾCD”中森明菜やドナルド・フェイゲンを聴いてみた
2019年8月7日 19:41
ワーナーミュージック・ジャパンから、ハイレゾデータも収録する高品位ディスク「ハイレゾCD 名盤コレクション」が8月7日に発売された。ドナルド・フェイゲンやディープ・パープル、イエス、ジョン・コルトレーン、中森明菜など、各ジャンルから名盤29タイトルを用意。音楽ファンだけでなく、オーディオファンにも要注目のラインナップだ。そのサウンドを発売日にチェックした。
いずれも完全生産限定版で、価格は各2,800円、クラシックは各3,000円。2枚組の場合は3,800円。
まず“ハイレゾCD”のおさらいをしておこう。オーディオ/音楽ファン向けの高音質ディスク「UHQCD」と、MQA技術を組み合わせたもの。これまでユニバーサル・ミュージックが発売していたが、ワーナーミュージックからもタイトルがリリースされた形だ。
UHQCDは、微細ピット転写技術と特殊合金反射膜によりCDプレーヤーが情報を読み取る際の精度を向上させるもの。レーベル面には、CDプレーヤー内で反射する不要なピックアップ光を吸収する「グリーン・カラー・レーベルコート」を施すなど、ディスクの素材や製法の工夫により音質を追求している。
MQAは、ハイレゾ音源をクオリティを維持しながらファイルサイズを抑えられる技術だ。MQAデータをCDに収録することで、MQA CD対応のプレーヤーであればハイレゾ品質で、一般的なCDプレーヤーの場合はCD品質で再生できるという便利なものだ。
収録するMQAデータは、44.1kHz/24bit(ドナルド・フェイゲン「ナイトフライ」)や、176.4kHz/24bit(ドゥービー・ブラザーズ「キャプテン・アンド・ミー」)など、タイトルにより異なる。
なお、ほとんどの作品はアナログマスターから、192kHz/24bitでデジタルマスターを作り、そのデジタルマスターをMQA-CD向けに、176.4kHz/24bitに変換したデータとなる。
さっそくCD VS ハイレゾCDを聴き比べる
オーディオファンにはお馴染み、「ドナルド・フェイゲン/ナイトフライ」から「I.G.Y. / I.G.Y.」、「リッキー・リー・ジョーンズ/浪漫」から「恋するチャック」を再生。どちらも、CD版とハイレゾCD版を聴き比べてみる。
試聴のシステムは、MQA-CDを手軽に楽しめるシステムとして、MQA-CDがダイレクトに再生できる、クリプトンの、USB DDC搭載の小型スピーカー「KS-9Multi+(オープンプライス/実売28万円前後)」と、プレーヤーにはパイオニアのUHD BD/BDプレーヤー「UDP-LX500」を使用。プレーヤーとスピーカーはHDMIで接続。クリプトンの試聴室において、ニアフィールドで聴いた。
音の違いは歴然だ。1曲をフルでじっくり聴いて違いがどうこう……というレベルではなく、一発目の音が出た瞬間から、まったく音が違う。すぐにわかる違いは、中低域の密度感と、それが音圧豊かに胸に迫ってくる“飛び出し方”だ。
'70年代後半や'80年代のサウンドは、アナログ録音の良さとも言える、音がギュッとつまった密度感と、それがパワフルに、まるで熱風のようにリスナーに押し寄せてくる心地良さが魅力だ。“音楽の一番美味しい部分”とも言えるが、そうした魅力が、CDからハイレゾCDに切り替えると、一気に高まる。
“ハイレゾの良さ”と聞くと、どうしても「レンジの広さ」や「音の描写の細かさ」といったイメージを持ちがちだ。実際、最初からハイレゾでデジタル録音した最新楽曲の場合は、その通りなのだが、アナログマスターの名盤をハイレゾCD化したものは、中低域のパワフルさ、1つ1つの音の熱気のようなものが、よりリアルに、生々しくなる。デジタル化されているのだが、アナログレコードを聴いているような感覚に似てくるのが非常に面白い。
では、単なる“なつかしい音”なのかというと、そうではない。 アニタ・ベイカーや中森明菜の「ミ・アモーレ」などを聴くと、確かに懐かしい曲なのだが、“音”は記憶の中の音よりも遥かにクリアで鮮明になっている。1つ1つの音が細かく、特に中低域の分解能がアップするため、「あれ、こんな音が入ってたのか」と驚く部分が各所にある。
また、低域の中にあるドラムのビートや、ギターの弦の細かく鋭い音などのトランジェントが良く、ハイレゾCDでは音楽が気持ち良く聴ける。MQAは、“音楽の折り紙”と称される独自の手法で、ハイレゾ音源を少ない容量で収められることが大きな特徴だが、もう一つ重要な機能として「時間軸の解像度の高さ」を改善し、時間軸での“音のボケ”を低減する。この効果も、ハイレゾCDではかなり効いているのがわかる。
音の輪郭を無理やり強調しているわけではないので、不自然さはない。強調というよりも、音像のフォーカスがビシッと合ったような気持ち良さで、音楽全体にメリハリが出て、グルーヴに乗りやすくなる。前述のように、アナログらしい熱気も高まるため、まるで音楽やアーティストが若返ったように聴こえる。懐かしさと新しさが同居したような体験だ。
なお、中森明菜の「ミ・アモーレ」という曲は、2012年に作られた96kHz/24bitニュー・ミックス・マスターを88.2kHz/24bitに変換して収録した「ベスト・コレクション ~ラブ・ソングス&ポップ・ソングス~」(WPCL-13071/3,800円)と、アナログ盤用マスター・テープを基に、2012年に作られた96kHz/24bitマスターを88.2kHz/24bitに変換した「BEST」(WPCL-13073/2,800円)という、2つのハイレゾCDに収録されている。
同じ曲ではあるが、片方はニュー・ミックスバージョンで、もう片方はアナログ盤マスターからそのままデジタル化したという違いがある。つまりミックスの違いが楽しめるわけだ。
聴き比べると、ニュー・ミックスは音場が広くなり、ボーカルや楽器の音像が横に綺麗に並び、音楽全体の見通しがよくなる。音像の輪郭がクリアで、細かな音も聴き取りやすい、ハイレゾの良さがわかりやすい音だ。
一方で、従来バージョンは音がカタマリのようになり、スピーカーからグイグイ飛び出してくる懐かしいサウンド。しかし、ハイレゾCD化された事で、飛び出す音のカタマリの中が細かく描写され、決して団子状にはなっていない。細かな音がギッシリつまった、パワフルなパンチを浴びるような感覚で、これも実に気持ちが良い。できれば2枚購入して、聴き比べて欲しい。
ちなみにスピーカーの「KS-9Multi+」は、鳴きの少ない、アルミの押し出し材のラウンドフォルム筐体と、DDCとデジタルアンプを内蔵しており、鮮度の良い、クリアな再生が持ち味だ。それゆえ、今回のような“音の聴き比べ”がしやすいスピーカーと言える。
「第2弾、第3弾とつなげていきたい」
ハイレゾというと、音楽ファイルとして配信サービスでも販売されているが、ハイレゾCDには、ジャケットやライナーノーツを読みながら聴くなど、ディスクならではの楽しみと、CDを超えるサウンドが両方味わえるのが魅力だ。
また、今回のラインナップで言えば、「ベット・ミドラーの「ローズ/オリジナル・サウンドトラック」や「リトル・フィート/ディキシー・チキン」、前述の「リッキー・リー・ジョーンズ/浪漫」などは、ハイレゾCDのためにアナログマスターからハイレゾでデジタル化された作品で、まだハイレゾ音楽配信サービスでは販売されていない。このあたりも魅力と言える。
手掛けた、ワーナーミュージック・ジャパン ストラテジック本部 洋楽グループの道島和伸チーフ・プロデューサーは「できるだけ幅広い層のユーザーさんから、どのような反響があるか知りたいと考え、幅広いジャンルからラインナップしました」と語る。
発売日を迎えたばかりだが、特にドナルド・フェイゲンや中森明菜、イエス、ディープ・パープルなどに対する反響が大きいという。
昨今の音楽市場では、ともするとCDや配信よりも“ライブの体験”に重きが置かれる傾向もある。道島氏は「それも大切」としながらも、「こうした名盤を良い音でお届けする事、それを聴いて“感動していただく事”も、我々の大事な仕事だと考えています」と語る。
ワーナーミュージックでオーディオファンにお馴染みのアルバムと言えば、「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」なども気になるところ。道島氏も「予定として頭の中にはあります」と笑う。「今回の第1弾がうまくいけば、第2弾、第3弾と、繋げていきたいですね」。
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