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世界初! 深海1,300mのエビ・300度の熱水を8K撮影したNHK番組を見た
2019年2月1日 07:30
NHKは、深海探査を追ったドキュメンタリー番組「深海の大絶景 世界初! 8Kが見た海底1300mの秘境」を制作。2月10日の8K放送を前に、報道陣向けの試写会を開催した。
既報の通り、「深海の大絶景」は、NHKと国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)による“深海の8K撮影プロジェクト”を番組化したもの。両者は4年がかりで“8K深海システム”を完成させ、水深1,300mの海底を世界で初めて8K撮影することに成功した。番組の放送は、NHK BS8Kで2月10日(日)19時00分~19時39分。
深海の探査と撮影は、8Kカメラを装着した7,000m級無人探査機「かいこう」を海底に送り、母船である深海調査研究船「かいれい」のコックピットからパイロット3名が各種操作を行なった。
NHKとJAMSTECは、この8Kカメラや伝送システムを共同で開発したという。
カメラは、3,300万画素のスーパー35mm単板式CMOSセンサ搭載ユニット(日立国際電気製)にキヤノンの17-120mm CINEーSERVOレンズをマウントしたもので、新規開発の耐圧容器に格納して「かいこう」のフロント部分に設置。カメラが捉えた8K映像・音声は、100Gbpsの大容量光ファイバー通信を使いリアルタイムに母船へ伝送された。
JAMSTECの石橋正二郎氏は「8Kの膨大なデータを、如何に解像力を落とさずに、かつリアルタイムで母船まで送るかが大きな課題だった。我々は深海撮影用に100Gbpsの光通信装置を開発し、信号が減衰して波形が崩れぬよう、分岐点では一度電気に戻して増幅・再伝送している。また深海撮影ならではの光学特性(赤色波長光の減衰)等も加味しなければならず、様々な要素技術の開発や準備、海中撮影による性能評価試験を重ね、ようやくシステムを完成させた」と話す。
深海探査は、'18年7月に小笠原沖で実施。一帯は10以上の海底火山が並び、噴火による西之島拡張など、活発な自然現象を見ることができる研究者達の格好のスポット。海底は約40億年前に生命が誕生した環境に近いと言われているが、調査が始まってからまだ30年程度しか経っていないという。
番組では、父島150km沖にある「水曜海山」、及び伊豆諸島の青ヶ島南にある「明神海丘」で撮影した深海映像を紹介。
水曜海山のカルデラ(水深1,380m)には、300度の熱水が噴き出す熱水噴出孔がいくつも建ち並び、その周辺をシチヨウシンカイヒバリガイが密集して巨大なコロニーを形成していた。
ヒバリガイは10cmほどの二枚貝の仲間。彼らのエラには“化学合成細菌”と呼ばれる細菌が住んでいて、細菌が熱水に含まれる猛毒の硫化水素と酸素をエネルギーに変えることで、過酷な環境でも生存できるのだという。
貝の表面や海底には、細菌が集まったバクテリアマットができており、それを栄養とするユノハナガニやコシオリエビ、オハラエビ、ホラアナゴなどの多種多様な生き物を8Kカメラが捉えている。
JAMSTECの吉田尊雄氏は「探査に使用していた従来のHDカメラでは、目の前に見えているものが時に生物なのか、影なのかが判別できないくらいの解像度しかなかった。8Kカメラは今まで見ることができなかった、海底の環境、生物の様子などが鮮明に記録できる。8Kが捉えた映像は、研究する上で非常に貴重な情報だ。また映像が不鮮明であるが故に、これまでは思い通りのサンプリングができなかったが、8Kカメラを使うことでより精度の高い、かつ効率的なサンプリングができるようになる。今回の映像は“しんかい6500”に乗船して、まるで自身が海底から見ている感覚だ」と話す。
タイマー仕掛けの深海用LEDライトを海底に3基設置し、海底全体を捉えようとする試みも行なわれた。探査機備え付けのライトだけでは届かない深海の広域を強力なライトで明るく照らすことで、深海を俯瞰で撮影。大小の熱水噴出孔が至る所から湧き上がり、それが海底に拡散する様子やヒバリガイのコロニーの規模など、生態系全体を確認することができた。このシーンは、JAMSTEC両研究者のオススメシーンとのことなので、是非番組で確認されたい。
番組後半は「明神海丘」(水深1,269m)にあるとされ、潜水艇のパイロットらから「ビッグチムニー」と呼ばれている絶景ポイントを探査。ビッグチムニーは、熱水噴出孔に含まれる亜鉛や銅などが長い年月をかけて積み重なって固まった巨大な柱。幅3m・高さ20m以上にも及び、途中で崩れることなく、ここまで巨大化するのは極めて稀だという。
ビッグチムニーの凹凸や柱の間から漏れる熱水、表面に張り付く微細なハナカゴやフジツボの様子が鮮明に捉えられていた。
NHKの落合淳氏は「世界初の深海8K撮影は、研究者も見たことがなかった貴重な映像が記録できた。海底1,300mもの世界に我々が行くことは容易ではないが、視聴者はまるで無人探査機の窓から深海を見ているような体験ができ、非常にゴージャスなコンテンツに仕上がっていると思う。8Kならではの高解像度とディテール描写はもちろん、こだわりのライティングが生んだ、今までにない広い視野での深海映像を楽しんで欲しい」と説明。
同番組のディレクターを務めたNHKの廣瀬学氏も「数年に一度しかできないくらいの大規模調査を8Kで記録・番組化できたことを嬉しく思う。これは一里塚。ディレクターとして、今後もより多くの映像を撮影したい」と意気込みを話した。