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ソニーの技術で人の感覚を拡張、AIが作曲も? SXSW 2019で披露

ソニーは、米国テキサス州オースティンで開催される「SXSW(サウス バイ サウスウエスト) 2019」に出展。3月9日~12日(現地時間)に渡って展開するソニーブース(WOW Studio)内で、「テクノロジー×クリエイティビティ」をテーマに、トークセッションやプレゼンテーションと体験型展示を組み合わせて実施する。

SXSWへの取り組みを紹介した、ソニーのブランド戦略部 統括部長 森繁樹氏

主な展示として、暗闇の洞窟を再現し、ソニーの音響・触覚技術を用いて音楽を協奏する体験ができる「CAVE without a LIGHT」や、ソニー・ミュージックエンタテインメントとソニーCSLが共同で取り組むAIアシスト作曲技術を搭載した「Flow Machines」、コンピュータ技術を用いて人間の感覚に介入したり、人間の知覚を接続して、工学的に知覚や認知を拡張、変容させるという「Superception」、言語がどのように生まれ、どのように発達・変化していくか、その研究をロボットと自律型エージェントプログラムを使って表現した「Das Fremde(ダス・フレムデ)」などを用意する。

AIアシスト作曲技術搭載Flow Machines作品のImaginary Line

トークセッションでは、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)の北野宏明社長が登壇。毎日様々なゲストと、ソニーの研究開発段階のプロジェクトに携わるメンバーが「人間とAIの共創」や「クリエイティビティの拡張」などについて議論する。

上記のように言葉で説明しても、その内容は伝わりづらいかもしれない。また、体験できる内容や、そこで使われている技術の詳細などについて現時点では明かされていない。

ただ「SXSW」というイベント自体が、技術や製品そのものの新しさをアピールする場ではなく、そこで得た体験を通じて来場者が発見することを狙いとしていることもあり、結局のところ「実際にその場へ参加しなければわからない」のが実情だ。

そうした中ではあるものの、ヒントとなりそうな部分を探るため、今年ならではの展示の見どころや、ソニーがSXSWに出展する理由などについて、ソニーのブランド戦略部 統括部長 森繁樹氏に聞いた。

AIやロボットは本当に必要なのか。 ソニーが考える「人って何?」

(部門単体ではなく)ソニー全体として出展するようになった'17年、'18年は、どちらかというとアミューズメント的な見せ方でした。我々のテクノロジーを使って、どうやってエンターテインメントを楽しめるかというアプローチです。当時はソニーがビジネス的にはターンアラウンド(業績回復)したものの、2017年はまだaibo(2018年発売の新モデル)もありませんでした。

「ソニー復活」と言われながらも、本物の復活とは何だろうと考えた時に、ソニーが持つ「人というアセット」と「チャレンジする精神」をしっかり見せられる場所、やり方はないかということでこれまで展示してきました。そこで、情熱をもったエンジニアや研究開発者などが開発中の技術を披露して、今のソニーのムーブメントを感じていただこうという形でした。

2019年のテーマは、「もっと将来に向けてソニーが何をすべきか」を、SXSWというプラットフォームをつかって問いかけていこうというものです。SXSWはCESなどのトレードショーと違って、今後1年くらいに登場するプロダクトをお見せする場所ではなく、“問いかけ”の場です。その中で我々のビジョンをみせられるのではないか、もっと長い時間軸でのメッセージをお見せしようと思っています。

AIやロボティクス、ブロックチェーンなど注目の技術がありますが、「本当にAIやロボティクスが人間にとって良いものなのか、職が奪われるのではないか」という議論もされています。ソニーは今年のメインテーマとして「Will technology enrich human creativity?(テクノロジーはクリエイティビティを豊かにするのか?)」という言葉を掲げています。

ソニーは「クリエイティビティとテクノロジーによって世界を感動で満たす」ことをソニーの存在意義(Purpose)と定義しており、テクノロジー自体が人間のクリエイティビティを拡張し、豊かにするというところを信じています。そうした部分をSXSWのトークセッションや展示を通じて感じていただき、「みなさんはどう思いましたか? 」と問いかける形でクロージングしたいです。

昨年に比べると、アミューズメント的な体験展示は縮小して「インクルーシブデザイン(多様なユーザーを包含・理解することで新たな気づきを得て、一緒にデザインする手法)」を使った“人の感覚の拡張”や、“感性がどう変わるのか”などがテーマです。

例えば「AIやロボティクスが音楽の領域とつながるとどうなるのか」、「エンターテインメントのエリアをどう拡張していくのか」、新しいところでは“味覚”にも研究開発の領域を広げながらトークセッションを行ないます。

我々は、人間のクリエイティビティを豊かにするためにテクノロジーを使うべきだと信じていますが、それを実現するために大前提として必要なのが「人って何だ? 」という問いかけです。

SXSW初日の9日は、「現代人工知能(AI)の父」として知られるユルゲン・シュミットフーバー氏、ソニーが「ビジティング・シニア・サイエンティスト」として招聘しているロボット工学者の石黒浩氏を招き、ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野(北野宏明社長)とともに、「人間とは、テクノロジーとは、AIとは」などをテーマにディスカッションをします。

“現代人工知能の父”ユルゲン・シュミットフーバー氏
ロボット工学者の石黒浩氏

また、「テクノロジーと音楽」というテーマのトークも行ない、北野とソニー・ミュージックエンタテインメントから“あるプロジェクト”についてお話しする予定です。

音楽を制作する中で「人の手を掛けることに音楽の良さがある」のは譲れないものの、作業の中でルーチン的な部分もあります。そこに人間のクリエイティビティの時間を割くのではなく、“パートナー”として作曲を手伝ってくれるAIがいたらどうでしょう。それによって「音楽の在り方」や「表現の在り方」という部分に人間がクリエイティビティを発揮することで、良いアウトプットができるのではというトライアルです。

2日目の注目は、チェスの元プレイヤー、ガルリ・カスパロフさんを招いたディスカッションです。“AIと戦った人類”をお呼びして、AIと人間の思考回路の違いだとか、AIとの関わり方などで深い議論ができるのではと思っています。

元チェスプレイヤーのガルリ・カスパロフ氏

現在、カーネギーメロン大学と共同で「料理に関するAIロボティクス」を研究していますが、そこからもう少し思考を先に延ばし「AIが味をリプロデュース、リクリエイトできるのでは」とも考えています。ワインのソムリエであり、味覚や嗅覚を分子レベルで研究している方を招いて、AIだからこその、「人間の発想にはない新しい味覚」を呼び覚ませるのでは、といった内容でトークを行ないます。

3日目のトークは「テクノロジーで感覚を拡張する」ことがテーマです。今回展示する「CAVE without a LIGHT」や「Superception」を通じて、人間が“今持っていない感覚について”の研究です。これは、「遠くのものが見える」など、ある意味超能力のようなものです。

「CAVE without a LIGHT」は、視界を閉じた中で、聴覚と触覚を使って空間(暗闇の洞窟)を把握する体験です。視覚障がいのある方が、視覚に頼らず聴覚や触覚でとらえているのをヒントに、ソニーの音響・触覚技術を用いて洞窟体験を創り上げました。結果、聴覚・触覚が拡張されて、あたかも洞窟にいるような体験を可能にしました。障がいの有無に関わらず多様な人が自分らしく楽しめるテクノロジーの可能性を提示した本体験は、シンプルな言葉で説明すれば「誰もが使えるような優しいテクノロジー」にもつながるのではと考えています。

音楽や映画、ゲームなど、テクノロジーによってエンターテインメントの楽しみ方が変わってきました。今まで定義されてきたカテゴリの境界線が無くなっていく中で、我々のテクノロジーを使って、もっとインタラクティブなエンターテインメントが生まれるかもしれません。例えば楽器自体が変わってくるかもしれない、というテーマの議論をします。日々それぞれのテーマのセッションがあり、来場した方に感じていただきたいと思っています。

“展示会”とは違うSXSWへソニーが取り組む狙い

ソニーは、1月のCESで「クリエイターとユーザーを結び付ける」というテーマを掲げていた。今回のSXSWも、このテーマに通じた部分があるのか森氏に尋ねたところ、下のように答えてくれた。

CESでは吉田(吉田憲一郎社長兼CEO)が、「CREATIVE ENTERTAINMENT COMPANY」という言葉で説明しました。

それは、我々ソニーとしての企業の在り方です。様々なテクノロジーを持ちながら、クリエイティブ業界にも幅広く展開しています。今は昔以上に、ソニーのグループ間のコラボレーションが活性化しています。

例えばオーディオ、テレビといったレガシーと言われる領域でも、ソニーのグループの中にいる“プロフェッショナル”(映像クリエイターなど)の声を反映することで、または我々のテクノロジーのコア技術で、まだ形にはなってないものを彼らに紹介することで、それをどう使えばいいかを議論しています。クリエイターに響くテクノロジーがあればあるほど、一般の方が感じるエンターテインメントの感動レベルが上がっていく。そういったサイクルを回していきたいですね。

CESやIFAなどのイベントは、そこから1年後ほどの短いタームを見て、商品やソリューションを発表していますが、SXSWではもう少し先を見て「将来何が起こるのだろう、何が課題なのだろう」ということに対し、ソニーがどういう姿勢で取り組むかを感じ取っていただきたいですね。テーマは(CESなどと)同じですが、時間軸が違うのが大きなところです。

SXSWは元々インディーズの音楽業界を盛り上げる目的から始まり、次にフィルム(映画など)や、テクノロジーを使ったインタラクティブなものへと広がってきました。ソニーはそれと逆で、“テクノロジーのインディーズ”として1946年にスタートし、そこから音楽、映画、ゲームへという形で領域を広げてきました。一方で、文化背景や、向かっている方向は同じところにあって、SXSWのメンバーと話していても“空気感”が非常にソニーと似てると感じていて、ソニーの将来像を見せるには最適な場所だと考えています。