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矢口史靖監督が新作「ダンスウィズミー」で音楽+映画の新たな形を見せた!

「ウォーターボーイズ」(2001年)や「スウィングガールズ」(2004年)、「ハッピーフライト」(2008年)などの矢口史靖監督による最新映画「ダンスウィズミー」が8月16日に劇場公開される。“ミュージカルコメディ”の作品だが、矢口監督によれば「“ミュージカルだったら観ない”という人が楽しめる」とのこと。夏休み注目の作品を、一足先に観てきた。

(c)2019「ダンスウィズミー」製作委員会

「ミュージカルが何より苦手なのに、催眠術にかかったことで、音楽を聴くと急に歌い踊り出してしまう体になってしまった」女性が主人公。その催眠術を解くために日本中を駆け巡り、様々な人と出会っていくというコメディ作品だ。配給はワーナー・ブラザース映画で、8月16日より全国ロードショー。

矢口監督は、これまでの作品でもシンクロナイズドスイミングやビッグバンドジャズなど役者に厳しい特訓を課すスタイルでも知られる。今回は自身が「好きだけどニガテ」というミュージカルへの思いが描かれており、ミュージカルシーンはキャスト全員が全ての歌とダンスを吹替え無しで挑戦したという。

主役の静香を演じたのは女優・モデルの三吉彩花。やしろ優、シンガーソングライターでモデルのchay、三浦貴大、ムロツヨシ、宝田明らが出演している。

(c)2019「ダンスウィズミー」製作委員会

あらすじ

静香が何よりニガテなのはミュージカル。しかしある日突然、催眠術をかけられ、音楽を聞くと所構わず歌い踊りだしカラダが止まらなくなってしまう。
携帯の着信音、駅の発車メロディ、テレビや街中で流れるどんな音楽でも、踊りたくないのに自分の意に反して勝手に歌い踊りだしてしまう! 仕事もお金も失いながら、催眠術を解くために催眠術師を探して日本中を駆け巡るが……。果たして静香は無事に元のカラダに戻れるのか?

ミュージカル好きじゃなくても、自然に伝わる面白さ

ミュージカル作品をあまり観ない人の理由として「なぜ急に歌い出したり踊り出したりするの?」という意見をよく聞く。その考えは主人公と全く同じであり、そんな主人公が催眠術によって“意に反して歌い踊ってしまう”ことが従来のミュージカル作品との大きな違いだ。

設定のユニークさが目を引くが、これまでの矢口作品と共通している通り、主人公は特別な才能を持っているというわけではなく、身近にいそうな“普通”な人。それが、催眠術をきっかけに日常が一変。予想外のドタバタに発展していく姿を観客はただ楽しむという気楽さが良い。“芸術”っぽい堅苦しさはなく、観終わって感じるのはただただ“爽快さ”。

今回のオーディションは、カラオケボックスの広い部屋で行ない、歌やダンスなども監督らが見た上で、三吉彩花に決定したという。「ギリギリまで決まらなくてヒヤヒヤした」という矢口監督だが、彼女の魅力について「歌だけ、ダンスだけ上手い人、芝居だけ上手い人もたくさんいたが、歌とダンス両方できて、見栄えも良いという点ではダントツだった。日常生活を送っている人が、突然踊りだして困ってしまう人の話なので、日常の映像では普通の女の子に見えてほしい。歌ったり踊ったりすることで華やかに変身できる人を探した。良く見つかったなと思う」と満足した様子。

主人公の「鈴木静香」という名前についても「そこらへんにいそうな人、として作った。観客みんなが憧れるスーパーヒーローじゃなく『よくいるよね』という人」とのこと。

矢口史靖監督

そんな普通の感覚を持っている静香だが、催眠術を解くための道中で出会うのは、一癖も二癖もある人々。全員が“何か裏がありそう”なのが、面白さでもありストーリーのカギになっている。宝田明が演じる催眠術師・マーチン上田は名前からして怪しさ全開で、静香と一緒にマーチン上田を追う斎藤千絵(やしろ優)も、金に汚く信用ならない。登場しただけで何かやらかしそうな雰囲気のムロツヨシが演じる探偵、イケメンだがキメ顔が嘘くさい先輩エリート社員の村上涼介(三浦貴大)など、身近にいそうな少し変な人や、できれば関わりたくないような人たちが、ちょいちょい出てきてトラブルが発生する。

ちなみに、宝田明のキャスティングについては、矢口監督の好きな映画「アラジン」(1992年)で、魔法使いジャファーの吹替えと歌が「最高に良かった」からだという。「ジャファーとマーチン上田は、キャラクターも似ているところがあって、依頼したらすんなり決まった。ホクホク楽しそうに演じてもらえた」(矢口監督)とのこと。

そうした濃い面々の中でも異彩を放っていた1人が、シンガーソングライター・モデルのchay。詳しくは本編を観てのお楽しみだが、ゆるふわなストリートミュージシャンとして登場する彼女による、今作が女優デビューとは思えないいくつかの姿は必見シーンとして推したい。

(c)2019「ダンスウィズミー」製作委員会

様々なトラブルに巻き込まれる静香を眺めるのがとにかく楽しい映画なのだが、ただ笑えるだけではなく、見どころであるミュージカルシーンはさすがの出来栄えでキッチリと引き締める。静香が普段のダルそうな雰囲気から、歌と踊りを楽しむ表情に一変するギャップが、最大の面白さだ。長身の三吉彩花が音楽に合わせてダイナミックに踊る姿は、やはりプロのモデルという存在感が際立つ瞬間であり、主役への抜擢も納得。

楽曲は「タイムマシンにおねがい」(サディスティック・ミカ・バンド)や「狙いうち」(山本リンダ)など、かつての大ヒット曲を中心にチョイス。矢口監督は「撮影は去年夏頃から開始しており、公開時に古びない音楽を探そうと考えた。40代くらいの人が知っている曲、口ずさめるくらいの、流行を超越した音楽を集めた。若い人には新しい曲として、壁を感じずに楽しんでもらえるのでは」とコメントしている。

最初は、色々なことが「催眠術のせい」という設定には少し無理があるかもと思っていた。しかし、物語が進むにつれて「なぜ静香はこんなに躍動感のある歌と踊りができて、表情も生き生きしているのか」といった理由も、徐々に分かってくる。すると日常シーンとミュージカルシーンのつながりも、少しずつ自然に見えてくるから不思議だ。

「ミュージカルが好きでない人も楽しめる作品」という説明は、映画の評価によく使われる言いまわしではあるが、この作品が単に“ミュージカルっぽくない”のではない。真剣にミュージカルと向き合いながらも「変に構えず自然体で映画と音楽を楽しもうよ」という監督のメッセージにも感じる。

この作品に限らず、矢口監督の面白さは、確実にヒットが見込めそうな“人気俳優+売れた原作”という作られ方とは違い、物語を最高に輝かせるための脚本や演出、出演者たちにある。「スウィングガールズ」で女子高生たちが見せたストレートな“音楽が好き”とは少し違うかもしれないが、根本的には大人も子供も歌を口ずさんだりリズムに合わせて自然に体が動く心地よさは同じだと思い出させてくれる。そして音楽と最高の形で融合した映画は、小難しく考えず心から楽しいと感じさせてくれる作品だ。

「ダンスウィズミー」特報