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NHK“立体テレビ”が高画質化。8Kワイヤレスカメラや薄さ1mmの88型有機EL

5月30日~6月2日にNHK放送技術研究所で開催される「技研公開2019」。その開幕前に行なわれたマスコミ向けプレビューで、裸眼3D視聴「インテグラル3D」の最新版や、フルスペック8K/120Hz映像の伝送技術、4K8Kワイヤレスカメラなどが披露された。

インテグラル3Dディスプレイのデモ

今年の技研公開では、没入感の高い「高精細VR」や、テレビの出演者が間近にいるように感じる「ARテレビ視聴」のほか、AIを用いた映像制作などの最新技術も展示されている。これらについては別記事でレポートしている。

NHK技研公開2019
高精細VRのドーム型ディスプレイ(左)とヘッドマウントディスプレイ(右)のイメージ

視域の広い高品位な裸眼立体映像。インテグラル3D進化

特別なメガネを使わなくても自然な3D映像を観られるインテグラル3D映像システムが引き続き進化。携帯型端末を使って3D映像を視聴できるサービスを目指し、視聴者の視点に追従するインテグラル3D映像を小型ディスプレイに表示するシステムを構築した。

視線に追従するインテグラル3D映像。画面の上にカメラを搭載

視聴者の視点に追従するインテグラル3D映像の表示技術により、水平視域を従来の約3.3倍(81.4度)、垂直視域を約6.6倍(47.6度)に拡大した。

また、画素密度457.7ppiの小型ディスプレイと焦点距離の長いレンズアレイ(2mm)を用いることで、3D映像を再生する光線密度を水平/垂直方向ともに従来の約2倍とし、映像品質を向上させている。

今回の展示では、9.7型で4K解像度のディスプレイを使い、立体映像としては246×480ドット(水平/垂直)の解像度で表現。画面の上にカメラを備え、人が見る角度を変えると、その位置に合わせて最適な立体映像を表示できるようにしたのが特徴。

昨年までの展示では、多くの人が同時に見ても自然な立体映像を目指した大型ディスプレイが中心だったが、今回は一人で見る小型ディスプレイに特化して、解像度や奥行き感の表現向上に重点を置いて開発したという。

人が見る向きを変えると、横顔など違う面が見える

インテグラル3Dの取り組みの一つとして、3DCGのリアルタイム生成技術も紹介している。スマホなどに、スポーツ選手の動きを表すCGキャラクターのインテグラル3D映像を表示。選手の動きを様々な視点からリアルタイムに見られる。

今回の展示では、ボルダリング選手のモーションデータを取得し、CGキャラクターに反映させて、インテグラル3D映像を表示するまでをリアルタイムに処理できることを紹介している。

インテグラル3D映像が表示された端末の画面を操作することで、選手の動きを様々な視点から見ることが可能。ユーザーの操作をサーバーに送り、サーバーでレンダリングした4K解像度のインテグラル3D映像が、ユーザーの端末に無線伝送して表示される。

120Hzのフルスペック8Kをリアルタイム伝送。薄さ1mmの88型シート有機EL

フレームレート120Hzで滑らかな「フルスペック8K」の映像制作や、伝送技術も開発が続けられている。今年の展示では、8K/120Hz対応の番組制作機器、符号化装置、衛星伝送装置、表示再生装置を使って、フルスペック8Kのライブ制作伝送実験を紹介している。

フルスペック8K映像と、IP伝送装置(左下)

対応の中継車やリアルタイム編集可能なオンライン編集機、低遅延・軽圧縮IP伝送装置を用いてライブ制作され、8K120Hzの符号化装置と21GHz帯衛星によりライブ伝送。広帯域/大容量伝送が可能なBSAT-4a衛星の21GHz帯中継器を利用している。HDR/SDR変換にも対応する。

リアルタイム編集対応のオンライン編集機を開発
HDR/SDR変換にも対応

表示装置としては、8K/120Hz対応で薄型軽量な88型のシート型有機ELディスプレイを紹介。ビット深度は10bitで、高コントラスト/広視野角な映像を表示可能としている。ディスプレイの薄さは、ガラスのバックボードを除くと約1mm。22.2ch音響は、ラインアレイスピーカーを用いた“トランスオーラルシステム”で再生している。

8K/120Hz対応で薄型軽量な88型のシート型有機ELディスプレイ
シート型ディスプレイや超大容量ホログラムメモリーなど、放送サービスを支える様々な要素技術も紹介。その一つとして、高色純度の量子ドットEL素子の展示

4K8Kの小型ワイヤレスカメラ開発

4K8K放送のスポーツ中継番組などで迫力ある映像を撮影できるワイヤレスカメラも研究開発。大容量の4K8K映像をワイヤレスで伝送できる、持ち運び可能な小型・低消費電力の伝送装置を開発した。また、制作現場で機器の設営を簡単にするために、受信信号をEthernetで伝送する装置も開発した。

左が4Kワイヤレスカメラ、右が8Kワイヤレスカメラ

42GHzのミリ波帯の電波を使用して、8K映像を約200Mbpsの伝送容量で伝送できるワイヤレスカメラを開発。可搬型の低遅延コーデックと組み合わせることで、高画質/低遅延で映像を無線伝送できるという。現在のHDワイヤレスカメラは機動性が高く、自由にカメラマンが動いて撮影できることから紅白歌合戦を含め様々な現場で活用されているという。今回の4K8Kカメラにより、同様に自由に動いて高精細な撮影ができる制作環境を実現するという。

電力増幅器で生じる信号の非線形歪みに強く、受信信号を周波数領域で波形等化する「SC-FDE伝送技術」を採用。移動しながらでも安定して無線伝送できるという。

8Kワイヤレスカメラの送信部は重量が課題

なお、4Kワイヤレスカメラの送信部には4Kエンコーダー1台だが、8Kカメラの場合は4Kエンコーダー4台やTS多重装置などを含めて送信部が20kgの重さとなっているため、今後は軽量化が課題だという。

受信部は、受信信号をIP化してEthernetで伝送できる機能を搭載。信号処理の広帯域化によって8K映像にも対応する。また、市販のEthernet用機材を使って、ケーブルの延長や分岐なども行なえる。

Ethernetを利用した受信信号伝送技術
現在は世界で1台という8K/240Hzカメラも展示。来場者がスーパースロー映像を体験できる

22.2chと、5.1chやステレオ音声を一体制作

音響制作の取り組みとして、22.2chの音響的な特徴を保持したまま、5.1chとステレオを自動で制作するためのダウンミックス装置を開発。生放送にも使用可能なリアルタイムダウンミックス装置を展示している。

22.2ch音声の適応ダウンミックスのデモ

従来のダウンミックス技術は複数のチャンネルが加算されることで周波数成分ごとの音の強弱が22.2ch音響から変化し、音色の劣化につながっていた。そこで22.2ch音響の周波数成分ごとの音の強弱に合わせてダウンミックスを補正することで、劣化を抑制する技術を開発したという。

番組制作においては、平均ラウドネス値を適正に管理しているが、この値はダウンミックスすることによって変化する。そこで、5.1chサラウンドとステレオの平均ラウドネス値を22.2ch音響の番組全体の平均ラウドネス値に合わせてダウンミックスできるラウドネスチェイス技術も開発した。

この技術は生放送にも使用可能なリアルタイムのダウンミックスに対応。現在はソフトウェア処理で実現している機能だが、放送向けのハードウェア開発など今後技術を進めていくことで、例えば8K放送の22.2ch音声と地上波放送のステレオ音声を同時に生放送で流すとことなども想定しているという。

適応ダウンミックス装置の構成

ロボットと対話しながらテレビ鑑賞

テレビを観ながら、番組の内容について会話できるロボットも開発中。ロボットが番組の映像や音声から番組のキーワードを認識し、関連した質問などをユーザーにすることで、新しいコミュニケーションの形として紹介している。

ロボットと対話しながらテレビ視聴

ロボットは、視聴中の番組の映像や音声から番組のキーワードをリアルタイムに抽出。そのキーワードに関連した質問などをする。本体カメラで視聴者の人物検出も可能。通常はテレビの方に顔を向け、テレビの前のソファに人が座ると、その人に向いて会話をする。また、テレビ映像の中のオブジェクト検出により、人や物を認識。機械学習を元に、映像の中で注目すべき部分を強調する“顕著性マップ”も表示。その内容に応じた質問などをする。

発話の例としては、例えば料理をしているシーンで「食パンは好きですか」と質問したり、「スイーツ食べたい方は手を挙げてください!」と呼びかけるなどの形がある。そうした言葉をきっかけに、一緒に観ている人同士の会話にもつながるような視聴の形を提案している。

テレビ番組に関連した話題の質問などをロボットがしてくれる
映像のオブジェクト認識を元に発言の内容を生成することも可能