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ソニー開発者が語る「WF-1000XM5」の魅力。「自らの技術を超えていく」

ソニーは7月25日、完全ワイヤレスイヤフォンの新モデル「WF-1000XM5」のメディア向け体験イベントを、東京・赤坂のBillboard Live TOKYOで開催した。イベントでは開発者とピアニストの山中千尋氏とのパネルセッションも行なわれ、製品の特徴が説明された。

同日にソニーが発表したWF-1000XM5は、2021年発売の完全ワイヤレスイヤフォン「WF-1000XM4」の後継機種で、“世界最高ノイズキャンセリング”を謳う新フラッグシップモデル。詳細やファーストインプレッションは別記事で掲載している。

WF-1000XM5で「より一層満足いただける製品を提供する」

イベントは東京ミッドタウン内にあるBillboard Live TOKYOで行なわれた

イベントの冒頭では、ソニーマーケティングのプロダクツビジネス本部 モバイルエンタテインメントPDビジネス部の麥谷(むぎたに)周一部長が登壇。「WF-1000XM5が実現する非常に高品位な音楽体験を、洗練された音楽とラグジュアリーな空間でお伝えしたく、この場所を(会場に)選びました」と、イベントをBillboard Live TOKYOで開催した経緯を説明。続けて、1000Xシリーズについて次のように語った。

「1000Xシリーズは2016年の初号機発売から国内の累計販売台数が200万代を記録しております。お客さまに大変ご愛顧頂いている、非常にロングランのシリーズになっています。また遡りますと、1995年にソニーが世界で初めて民生用のノイズキャンセリングイヤフォンを発売しました。そこから脈々と受け継がれてきたノイズキャンセリングの技術、高音質に対するこだわり、これらを余すことなく搭載した1000Xシリーズにおいて、自らの技術を超えていく新商品を発売させていただきます」

「前々作のWF-1000XM3では製品登録者の89%、前作のWF-1000XM4では94%の方から製品に満足しているという評価をいただきました。この結果に決して甘んじることなく、WF-1000XM5におきまして、より一層お客さまにご満足いただける製品を提供することを約束します」

ソニーマーケティングの麥谷周一部長

またWF-1000XM5に加え、発売中のノイズキャンセリングワイヤレスヘッドフォン「WH-1000XM4」についてもJEITA(電子情報技術産業協会)基準で“世界最高ノイズキャンセリング”になったとし、「1000Xシリーズとして、ハイレベルなノイズキャンセリングと最高の音質、さまざまな利用シーンにおける利便性をお届けしていきます。ソニーは今後もお客さまの期待に応えます。最高の音体験を1000Xシリーズで実現してまいります」と語った。

音質は前モデルから「低域の余韻や声の伸び、空間の奥行き表現」が向上

メカ設計に携わった松原大氏(左)と音響設計に携わった菊地浩平氏(右)

続いては開発担当者によるトークセッションが行なわれ、まずはWF-1000XM5のメカ設計に携わった商品技術センター 機構設計部門 機構設計2部の松原大氏、音質設計に携わった同商品設計部門 設計5部の菊地浩平氏が登壇した。

音響設計を担当した菊池氏は「今我々が持つ技術を惜しみなく入れ込んだ製品になりました」とWF-1000XM5の完成度を表現する。

WF-1000XM5はデュアルプロセッサー仕様
先代モデルから搭載マイク数が増加している

「新製品はノイズキャンセリングも、音質もこだわっており、非常に高い性能を実現できています。まずノイズキャンセリングに関してはプロセッサーをふたつ搭載し、フィードバック用マイクの数も増えました。ひとつのプロセッサーで複数のフィードバックマイクによるノイズキャンセリング制御を行ない、もうひとつのプロセッサーでリアルタイムに周囲の騒音、環境に合わせて最適化制御を行なっています。このふたつを組み合わせることで、ノイズキャンセリングの向上を実現できました」

「先代の1000XM4と比べると、ほぼすべての周波数でのキャンセリング性能の向上を果たしています。特に乗り物に乗ったときに感じるようなノイズで、より(進化を)実感していただけると思います。例えば電車に乗っているときの車輪のこすれる“キーッ”という高い音や、走行音そのものである”ゴーッ”という低い音で、特に性能の進化を感じられると思います」

新開発のドライバーユニットを採用する

「音質についても向上していて、楽曲が持つ魅力をより素直に引き出せるようになりました。そのために必要なのは物理特性として、広い周波数帯域を低歪で再生できること。今回は専用設計の8.4mmドライバーユニットを完全新規で開発しています。振動板中央のドーム部と外側のエッジ部で異なる材料を組み合わせることで、低域から高域まで歪みのない再生できるドライバーとなっています」

「基本的に1000Xシリーズの音質の方向性はつねに共通で“音楽ジャンルや年代によらず、楽曲が持つ魅力を素直に引き出す”ことを目指しています。この1000XM5では先代モデルに比べて、低域の余韻や声の伸び、空間の奥行き表現などがより向上しています」

「音質調整にもこだわりました。古いレコードをリマスターしたような音源から、今年の最新作品まで、非常に幅広い楽曲を使って、音質設計を行なっています。楽曲が持つ特徴、周波数バランスや低域の余韻の処理、声の輪郭の出し方などは、音楽ジャンルや年代によって嗜好も流行もさまざまなあるので、あらゆる楽曲に対応できる音に仕上げるのは、相当苦労したポイントです」

「今回、目標をかなり高い次元で実現できたと感じています。例えばシングル盤とアナログ盤で、若干マスタリングを変えてきているような音源もありますが、そういったわずかな違いを聴き分けて楽しめると思いますので、ぜひお気に入りの楽曲を聴き込んでいただけたらと思います」

こういったノイズキャンセリング性能の向上、音質向上を果たしているにもかかわらず、WF-1000XM5は先代モデルよりもイヤフォンが小型化されているのも大きな特徴。

メカ設計を担当した松原氏は「小型化に関しては、非常に苦労した部分ではありますが、単に小型化するだけではなく、装着感の向上に重きを置いて設計しています」と語った。

従来モデルから小型化されたWF-1000XM5のイヤフォン(プラチナシルバー)

「最近では(イヤフォンで)楽しむコンテンツが、従来の音楽から、動画やSNS、ポッドキャストなど大きく広がってきていて、使用されるシーンも大きく変わってきていると感じています。またコンテンツを楽しむ用途だけではなく、オンライン会議など仕事で使うというケースも増えてきました。そうしたなかで長時間装着できる快適さについても、今まで以上に重要視されてきていると感じており、今回は装着感の向上を目指しております」

快適性な装着性を目指したというWF-1000XM5のイヤフォン(ブラック)

「今回のサイズは、1000XM4と比べて体積で約25%、重量で約20%の小型・軽量化を実現しています。特にこだわったのが、耳に対して正面から見た際の干渉量を減らすこと。快適な装着性を実現するために、開発当初から小型化には特に力を入れて取り組みました」

「ただし、1000Xシリーズは音質・ノイズキャンセリングに妥協のないフラッグシップモデルですので、そのふたつの性能を維持しつつ、小型化の検討を行ないました。具体的には設計初期段階から、音響設計、デバイス開発チームと協業し、部品レイアウト効率を重視した開発を行なっています」

「ドライバーユニットとバッテリーを重ねて小さなボディに収める内部構造を設計初期段階から見据えて、音響性能を向上させながらも、排気効率の良いドライバーユニットの開発を、音響担当と一緒に進めました。今回のドライバーユニットは(前モデルより)口径サイズを大きくしながらも薄型化を実現しています。デバイス面ではLinkBuds Sで初採用のSiPを進化させて小型化を実現しています」

WF-1000XM5に採用されているSiP

「SiPは、半導体製造技術を駆使して、複数の小型モジュールへ凝縮する技術です。小型化を目指す上で、最適な形状になるようにSiPの形状を作り込みました。これだけ小型化していますが、最大再生時間は(前モデルから)そのままで、さらにクイックチャージへの対応や通話時間を伸ばすことができています」

WF-1000XM5のイヤフォンは、従来モデルで特徴的だった出っ張りがなくなるなど、形状も進化している。松原氏は「先代の1000XM4からイメージが異なる印象があると思いますが、トップ部はマット加工、側面は光沢加工のイヤフォンになっています。メインパーツはふたつの素材感でありながら、ひとつのパーツからできたシームレスデザインになっています」と説明する。

「耳の内側に沿う光沢部分と、マットなタッチ操作部で質感を分けることで、機能的な棲み分けを実現しています。装着した際にもマットな面と光沢面のコントラストがアクセントとなることで、よりシャープでコンパクトに感じられ、軽快な印象を与えていると思います」

WH-1000XM4で特徴的だった外側マイクの出っ張りはなくなり凹凸のない造形に

「1000XM4の外側マイクについては樹脂パーツによって、彫りの深い造詣でオーナメントとして見せていましたが、1000XM5では周囲と馴染む曲面形状にすることでボディとの一体感を出しながら、精密な作りや金属による輝度で象徴的に見せるようにしています。凹凸のない造形にすることで風ノイズ低減にも寄与しています」

ジャズピアニストの生演奏やWF-1000XM5イメージのノンアルカクテルも

ジャズピアニストの山中千尋氏

このトークセッションには、ニューヨークを拠点に世界で活躍するジャズピアニストである山中氏も参加。事前にWF-1000XM5を試用したといい、「最初に聴いたのは、曲と曲の間、曲間を聴きました。曲間というのは、一番ノイズキャンセリングイヤフォンのノイズがキャンセルされている様子が一番聴こえるところ。それが“真空状態”というよりは、森の中に入ったような、あるいはコンサートホールで演奏が始まる前に感じる静けさのようなものがあって、とても感動しました」という。

「いろいろなジャンルの音楽も聴きました。私はジャズミュージシャンですので、ジャズは自分の演奏も聴きました。クラシックは特にマーラーが好きなので、マーラーのシンフォニーの五番の四楽章、非常に小さな音から大きな音まで出るオーケストラのスケールの大きな作品を聴いたり、藤井風さんやビートルズも何曲か聴きました」

「どの曲もそうなんですが、特にオーケストラは一番音域が幅広いですが、ピアニッシッシモ、一番小さくて聴こえないような音から聴こえて、だんだんと大きくなっていく。そして音が大きくなっても音が割れることがありませんでした。コンサートホールで音が割れるということは絶対起こりません。ただイヤフォンやヘッドフォンではどうしても音が割れてしまうということが経験上、ありました。しかし、このWF-1000XM5では本当に天井の高いコンサートホールで聴いているような印象がありました」

「私は主にアコースティックのジャズを演奏しています。ピアノとベース、ドラムのピアノトリオが中心です。作品をマスタリングする時、いろいろな機材で聴きますが、ある一定の音程がブーストされてしまう製品もありますが、このWF-1000XM5ではそれがありませんでした。すべての音が包まれるように、そして外界の音もノイズキャンセリングされて、ライブハウスやコンサートホールにいるような、そんな感覚でした」

山中氏のコメントに対し、音質設計を担当した菊池氏は「音質担当として嬉しいコメントでした。ドライバーユニットの新開発も相まって、基礎能力として低域から高域までの音域を歪みなく再生することができています。その点でオーケストラの小さな音から大きな音まで包まれるような音を実現できたと思います」と解説する。

「空間の奥行き表現、奥行きと余韻、音の消え方のようなところには、とても気を使って設計しているので、空気感・ライブ感を再現できたのではとも思います」

また最後に菊池氏は「ソニーでは音楽制作スタジオへのヒアリングや、ワールドワイドでのお客さまの音質傾向、音楽トレンドなどを深掘りする活動を行なっており、制作現場の声から、お客さまの音楽関心までのノウハウが蓄積されてきています。今回、それらを考慮することで相当いいバランスに仕上げることができていると思います。ぜひ音を体感していただければ」とコメント。

メカ設計を担当した松原氏も「小型化による快適性を、ぜひお試しいただきたいです。装着した際に一番美しく見えるデザインを追求しました。みなさんの生活に溶け込みながらも、耳元を綺麗に演出してくれると思いますし、長時間利用でも疲れにくいのが特徴です。ぜひ装着して試してください」と魅力を語った。

イベントでは、山中氏による「八木節」の生演奏が行なわれたほか、WF-1000XM5の上質さや、カラーとして採用したブラック、プラチナシルバーのイメージからBillboard Live TOKYOが考案したというオリジナルのノンアルコールカクテルなどが振る舞われた。

「八木節」の生演奏が行なわれた
WF-1000XM5オリジナルカクテル
会場にはWF-1000XM3、WF-1000XM4、WF-1000XM5も展示