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iFi audio、“手のひらに収まるマスタリング・スタジオ”ヘッドフォンDACアンプ。ビクター「K2テクノロジー」搭載

「iDSD Valkyrie」

エミライは、iFi auidoより、ポータブルヘッドフォンDACアンプの最上位モデルで「手のひらに収まるマスタリング・スタジオ」を謳う「iDSD Valkyrie」を発売する。日本価格は未定だが、米国ドル価格は1,699ドル前後。JVCケンウッドの高音質化技術「K2HDプロセッシング」を利用できるのが特長。

「iDSD Valkyrie」を手に持つ、iFi audioのMiles Roberts氏
同ブランドのポータブル製品最上位モデルと位置づける

iFi audioでグローバルセールスセールス責任者を務めるMiles Roberts氏が「iFi audioにとって過去10年の技術の集大成」と表現する製品で、「マスタリング技術を手のひらに乗せられるサイズで提供すること」を目的に開発したという。

開発にあたっては2~3カ月に渡って、世界中の音楽クリエイターの協力を受けてテストを実施。「iDSD Valkyrieのパフォーマンスに、全員とても驚いていた。ポータブル製品なので、世界中のスタジオに持ち運べる“マスターリファレンス”になっている」という。

上述のとおりK2HDプロセッシングが利用できるほか、カスタムコード化されたFPGAを搭載し、DSD 1024に対応。4基のバーブラウン製DACを備えるほか、最大5,700mWの高出力に対応している。

そのほかロスレスBluetoothへの対応、xMEMSドライバー専用モードの搭載、20,000mAh内蔵バッテリーによる最長18時間連続再生、USB-C急速充電機能なども備える。

xMEMESドライバー専用モードについて、Roberts氏は「今後、市場にはxMEMSドライバーを使ったヘッドフォンが登場する見込み。複数のメーカーとNDAを交わして共同開発してきた」という。

「xMEMSドライバー搭載ヘッドフォンは素晴らしいパフォーマンスを持っているが、組み合わせるアンプ側で、xMEMSドライバーを駆動させるための特別な調整が必要となる。現時点で市場にxMEMS製品は少ないが、xMEMSドライバー自体は今後数年で勢いを増していくことは間違いなく、iDSD Valkyrieでは先行して対応している」

筐体デザインは、ヴァイオリンや戦略偵察機「SR-71」などからインスピレーションを受けたという

筐体は、ヴァイオリンや米軍の戦略偵察機「SR-71」など、さまざまなものからインスピレーションを受けてデザインしたとのこと。

製品は専用の木製ケースに収められる
事前に行なわれた説明会では基板部分がシースルー仕様になったデモ機も展示された

「仕様どおり」のK2搭載で「これまで以上に自然な“K2効果”実感できる」

本体正面にK2テクノロジー専用のボタンを搭載する

最大の特長は、ビクタースタジオから生まれた高音質化技術「K2テクノロジー」に対応していること。iDSD Valkyrieでは、圧縮により音が変質・劣化してしまっているデジタル音源を、圧縮前のCDクオリティや、オリジナルマスターと同等のクオリティまで復元するという「K2HDプロセッシング」が利用できる。

K2テクノロジーを使ったふたつのモードを利用できる

iDSD Valkyrieで利用できるK2HDテクノロジーはふたつ。最大192kHz/24bitにアップサンプリングしつつ、特別なK2パラメータで音楽の波形を精密に補正、高域成分を復元し、より自然なハーモニクスを再現するという「K2HDモード」と、オリジナルのサンプリングレートを維持して音質補正する「K2モード」を利用できる。

秋元秀之氏

事前に行なわれた説明会には、JVCケンウッドでK2推進/音質マイスターを務める秋元秀之氏が登壇。音楽ストリーミングサービスの普及に伴って、高音質化技術が持つ音質改善や“音楽復元力”の重要性が増していること、民生機の高性能化によって、これまでプロの現場でのみ使われてきた高度な技術を一般ユーザーにも提供できるようになってきたことなどが説明された。

また秋元氏はK2HDの特長として、「タイムドメイン(時間軸)での信号処理」と「ハードの技術とソフトの感性が結合した『イノベーションテクノロジー』」のふたつを挙げる。

ひとつ目のタイムドメインの信号処理について、秋元氏は他社の類似技術では基本的に周波数軸で信号処理しているものが多く「どうしても高域成分はある程度推測で補正するしかない」と指摘。

これに対して、K2テクノロジーでは「シンプルに時間軸で処理するため、無理な強調感を付加することなく、自然な高域が復元される」と説明する。

K2HD音質調整の流れ。AのオリジナルマスターとCの「K2HD」復元音源を聴き比べて設定値を導き出しているという

ふたつ目については、そもそもK2テクノロジーはオリジナルマスター音源との比較試聴を繰り返すことで設定値を導き出した技術であることに加え、「(K2が正しく動作しているかを)最終的には、スタジオエンジニアが実際に音を聴いて判断している」と明かした。

「K2の信念とも言える、『音である以上、聴いて良くなければいけない』という考えを、厳格にキープしています。この基準は、K2技術をライセンスする際の認定試験でも同様で、データ上の厳密な検証も行ないつつ、実際に製品をスタジオに持ち込んで、スタジオエンジニアによる試聴確認を経て、最終的な認証を行ないます」

秋元氏は、今回のiDSD Valkyrieで「仕様どおりにK2HDが搭載されている」点を強調。さらにiDSD Valkyrieには新規設定したK2パラメータを適用していると説明された。

「当たり前でしょうと思われるかもしれませんが、K2の仕様上、誤差なくプログラム化するのは非常に難しい。それをiFi audio側でほぼ完璧な状態でプログラム化・実装されています。今回のiDSD Valkyrieでは理論どおりのK2テクノロジーが動いています」

「また、iDSD Valkyrieに搭載されているK2のパラメータはまったく新しいものです。iFi auido製品のクオリティの高さを、私どもも認識していて、通常であれば行なうK2HD側での製品補正を一切含まない、純粋なパラメータ値を新たに設定して、それをiFi audio側に提供しました」

「つまり、iDSD Valkyrieは理論どおり、理想どおりのK2HD処理が行なわれるようになっているので、これまで以上に自然な“K2効果”を実感していただけると思います」

実機を聴いてみた

短時間ながらiDSD Valkyrieの実機を試聴した。プレーヤーとしてFIIO「M23」をUSB-C接続し、ヘッドフォンも同じくFIIO「FT5」を使用した。

まずはK2をOFFにして試聴。「坂本真綾/うちゅうひこうしのうた」(WAV 44.1kHz/16bit)では、無音の状態からピアノの音色がスッと立ち上がってきたところに坂本真綾の透き通った歌声が響き渡り、SNの良さ、音の広がりの良さを体感できる。「米津玄師/KICK BACK」(FLAC 48kHz/24bit)のようなアップビートで情報量が多い楽曲でも、各楽器の鋭いベースや、ズシンと沈み込む量感あるドラムなどが鮮明に描かれる。

入出力部

続いて、K2モードをONにして「うちゅうひこうしのうた」を聴いてみると、先ほどはほとんど意識できなかったピアノの高音域の伸びがしっかりと感じられるように。またボーカルの伸びも1段階良くなったような印象に変化する。

「宇多田ヒカル/One Last Kiss」(FLAC 96.0kHz/24bit)をK2HDモードON/OFFを切り替えながら試聴してみると、こちらもK2HDモードをONにしていると、ボーカルの伸びが良くなったほか、薄いベールが剥がれ、もう一段クリアになったサウンドを味わうことができた。

iDSD Valkyrieのディスプレイ。K2HDモード、K2モードの状態もひと目で確認できる