東芝、2009年度経営方針説明会を開催

-テレビは“数”と“質”を分けて展開。新興国を強化


佐々木則夫社長

8月5日開催


西田前社長の経営方針を踏襲

 株式会社東芝は5日、佐々木則夫社長の就任後初となる経営方針説明会を開催した。2009年度営業利益1,000億円達成のための体質改革プログラムの完遂や、事業の効率化などについて説明したほか、各事業の成長戦略などを明らかにした。

 6月24日に社長に就いた佐々木社長は、「私に課せられた使命は、昨年、赤字に陥った苦境から、一瞬でも早く立ち直り、利益ある持続的成長を実現すること。経営基盤の強化や利益の創出に取り組む」と切り出し、新方針を説明した。


 


■ 固定費削減による経営体質改善は順調

 2009年度の業績見通しは、5月に発表している通りで、売上高が6兆8,000億円、営業利益が1,000億円、税引前損益がゼロ、純損益がマイナス500億円。佐々木社長は、「これから説明する諸施策により、純損益のマイナス500億円を解消していく」とし、経営方針に掲げる「利益ある持続的成長への再発進」の実現に向け、1月29日に発表した体質改革プログラムの進捗を紹介した。

体質改革プログラムにおける固定費削減は、計画以上の進捗

 同プログムは、2008年度比で固定費を3,000億円削減を目標としている。重点事業となる半導体については、ディスクリートの前工程の大口径化や、後工程の海外生産移管などを図るほか、システムLSIにおける前工程の大分工場への集約、メモリ事業における四日市工場へのプロセス人員集約などを実施。設備投資は、当面微細化に特化し、2008年度比で60%削減する。研究開発費も20%削減し、半導体事業全体で約15%の固定費削減を計画している。

 また、液晶事業については、既報の通りアモルファスシリコン製品の生産縮小や国内拠点の集約などで、固定費を25%削減。家庭電器についても、愛知工場における製造終息や秦野工場の開発終息などで、固定費を300億円削減する。また、デジタルプロダクツ事業も効率化を追求し、携帯電話は日野工場における製造を終息し、海外生産へ移管。テレビも欧州生産体制の集約を行ない、デジタルプロダクツ事業全体で500億円の固定費減を狙う。

 当初計画では3,000億円の固定費削減だが、300億円上積みした3,300億円をストレッチ目標と設定し、月次管理を徹底する。この第1四半期には当初の固定費削減計画を、310億上回る870億円の削減を実現したという。佐々木社長は「この勢いで、第2~4四半期まで続けたい」とする。

 また中期経営戦略としては、電子デバイスやデジタルプロダクツ、家庭電器など「足(製品サイクル)の短く価格競争の厳しい事業については、市場変化に即応する商品戦略と他社を上回るコスト競争力をつけていかなければいけない」と説明。社会インフラやデジタルプロダクツ、家電の一部においては、環境、エネルギーや、バイタル/ヘルスケア分野への対応を強化すると言及し、「グローバル競争力を持ったトップレベルの複合電機メーカーを目指す」と語った。

 これらの戦略により財務体質の改善を図り、2011年度の経営目標として、営業利益3,500億円、自己資本比率25%、D/Eレシオ80%、ROI 15%を掲げている。佐々木社長は、「景気変動の影響を受けにくい、安定した収益基盤と財務健全性を確立する」としている。

中期経営戦略2011年度の経営指標

 


■ テレビはコモディティと差異化製品の両面展開

デジタルプロダクツの基本戦略

 テレビやパソコンを含む、デジタルプロダクツ事業については「市場ニーズを先取りした商品展開を図る」と言及。特に今後の伸びが期待される新興国において、「必要な機能に特化し、競争力ある製品を投入していく」とした。一方の先進国においても、差異化技術を生かした商品展開を図る。

 先進国向けで導入した技術は、新興国向け製品にも取り入れて、「時差を含めた2本立てでがんばっていきたい」と言及。2011年の売上高2.9兆円、利益率(ROS)2.1%を掲げる。


TV事業とPC事業の戦略

 テレビは、低価格な「コモディティ」と「ミドル~ハイエンド」を区別して、商品開発する。コモディティについては、ODMを活用し、コスト競争力を確保して数の拡大を狙う。一方、ミドルからハイエンドについては、独自の画像処理技術や半導体の強みで、商品力やブランドを強化していくとする。コモディティ展開においては、PCの事業ノウハウを、テレビやスマートフォンなどの製品にも導入し、コスト競争力を高めていく。

 PC事業は、低価格シフトに対応した商品ラインナップを拡大。「携帯電話とPCの境界がなくなっていく。ネット接続専用機も成長分野と捉えて、積極的に参入していきたい」とする。また、高密度実装や高速機動、省電力、SSDなどを差異化技術として投入していく。地域別では、中国市場の台数シェアを2008年度の4%から、2010年度に7%まで拡大する方針。


 電子デバイス事業については、集中と選択を加速。半導体はNANDやSSD、アナログIC、CMOS、パワーデバイスなどに注力し、技術の先行性維持によりコスト競争力強化を図る。また、製品ラインアップの拡充による収益拡大や、構造改革により、2011年度売上高1.8兆円、利益率5.7%の達成を目指し、「売上高世界第3位以内を堅持する」としている。

 特にメモリ事業では、32nmプロセスでのNAND量産を7月から開始。先端プロセスの研究開発も進めていく。また、スマートフォンや、携帯電話、SSD、NANDのアプリケーション拡大に伴い、組み込み向けのMLCやSLCのラインナップも拡張する。

 システムLSIは、アナログICやセンサー、映像系に集中し、これらの売上高構成比を2008年度の35%から、2011年度の45%まで引き上げる。ディスクリートは、後工程の海外比率拡大により、コスト力を強化する。

電子デバイス事業の基本戦略メモリ事業の戦略
社会システムの基本戦略

 社会インフラ事業グループは、2011年に売上高3兆1,000億円、利益率6.5%を見込む。

 原子力事業においては、2015年までに全世界で39基の受注を見込む。また、鉱山会社への出資によるウラン権益の獲得など、フロントエンド領域の拡大を図るなどで、建設から、燃料、サービスまでの一貫体制を確立。2015年売上高1兆円を目標に掲げている。

 交通システム事業においては、中国や、南アフリカなど、電気機関車用電機品事業のグローバル展開を図るとともに、環境調和型ハイブリッド機関車の投入などを計画。ブラジルなどの世界高速鉄道計画への積極的な対応を行なっていくという。

 家庭電器については、LED照明などの省エネに集中するとともに、地域別の製品戦略を徹底し、中国やブラジル、アジアなどの現地のニーズにあった製品を投入。新興市場の拡大を目指す。2011年度計画は、売上高7,000億円、利益率1.4%。

原子力事業では、一貫体制を確立へ交通システム事業も強化白物家電の基本戦略

 


■ スマートグリッドや次世代ネット端末などを強化

2011年度の目標

 2011年度の目標は、売上高8兆円、営業利益3,500億円。利益率は4.4%。例としては、太陽発電システム事業や、スマートグリッド事業、SCiBや燃料電池などの電池事業、LEDを使った新照明システムなどが強化の対象となっている。

 また、次世代ネットワーク端末についても説明。アナログ放送停波、4K2K放送、ネットワークの高度化などを想定し、同社の映像処理技術や蓄積技術などを活かした端末の実現を目指す。

 ストレージについても、富士通からHDD事業を取得したことで、コンシューマだけでなく、サーバー向けなどのエンタープライズ向けの展開も強化。NAND技術と融合して事業拡大を目指すという。

 また、新たな事業領域として、「バイタル&ヘルスケア」についても説明。水や空気、食糧などの生命維持に寄与する要素や、高齢化対応などを想定しており、エネルギー創出技術や環境技術、システム構築力など、同社の各事業を横断的に組み合わせて強化を図るという。ヘルスケアや水ソリューションなどの事業拡大を目指す方針。

次世代ネットワーク端末も計画HDDもNANDとの相乗効果で拡大を目指すバイタル&ヘルスケア分野も強化

(2009年 8月 5日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]