クアルコム、「MediaFLO」を使ったiPad配信対応端末を開発

-KDDIらが地アナ終了に向けMediaFLOサービス会社を設立


6月3日発表


 KDDIは3日、2011年度の開始に向けて取り組んでいる「MediaFLO」技術のマルチメディア放送に向けた新たな事業会社「メディアフロー放送サービス企画株式会社」を5月26日に設立したと発表した。

 「MediaFLO」を使ったマルチメディア放送については、アナログテレビ放送が終了する2011年以降に空く予定のVHFのHIGH帯(10~12ch)を使うことを計画。

 KDDIは、送信インフラを開発する“受託放送事業者”として、クアルコムとともに「メディアフロージャパン企画株式会社」を'05年に設立しているが、新会社により、サービス提供やコンテンツ調達などを行なう“委託放送事業”にも参入。多チャンネル放送事業者などのコンテンツプロバイダが、受託側であるメディアフロージャパンにコンテンツを提供するための環境整備を担い「コンテンツ価値を最大化する」という。

 新会社には、KDDIのほかにも、テレビ朝日やスペースシャワーネットワーク、ADK、電通、博報堂もそれぞれ出資。各社のノウハウを結集し、携帯電話だけでなく電子書籍端末やタブレット型パソコン、カーナビなどに向けて、放送インフラの特徴を活用した新たなコンテンツサービスや事業モデルの検討を行なうとしている。

 なお、同じVHF HIGH帯の受託放送事業者には、フジテレビやNTTドコモ、スカパーJSAT、ニッポン放送、伊藤忠商事が共同で'08年に設立した「mmbi」(ISDB-Tmm方式を採用)も参入を表明しており、総務省の諮問機関である電波監理審議会(電監審)の審議を経て、どちらか一つの方式に決定する見込み。KDDIでは、早ければ7月14日の電監審答申にて事業者が選定されると見ている。この認定に向けた申請は6月7日が締め切りで、メディアフロージャパン企画では、申請の準備が最終段階になっているという。

アナログ放送終了後の周波数の割当て受託放送事業者は、2社のうちから選ばれる事業化に向けた想定スケジュール
受託放送事業者が決定すると、複数の委託放送事業者が、コンテンツを提供する形になる新会社「メディアフロー放送サービス企画株式会社」の概要メディアフロー放送サービス企画の目指す事業形態


■ “放送”サービスの利点を強調

メディアフロージャパン企画の増田和彦社長

 メディアフロージャパン企画の増田和彦社長は、ネット上の膨大なコンテンツから欲しいものを探し、都度ダウンロードして取得する従来の通信サービスに比べ、送り手が利用者のために編成したコンテンツがプッシュ配信され、時間を問わずリッチなコンテンツを同報で配信できる放送の利便性をアピール。

 リアルタイムで視聴できるストリーミング放送と、プッシュ配信のクリップキャスト、随時更新される情報を同報配信できるIPデータキャストの3つを組み合わせることで、将来の通信トラフィックの増加に伴うインフラ整備への投資を抑えつつ、ユーザーに効率的なコンテンツ提供が行なえるとし、結果として利用者層の幅を広げ、コンテンツ市場の拡大に寄与すると強調した。


コンテンツ配信方式による、カバー範囲の違い通信サービスと放送サービスの比較放送サービスでコンテンツ市場の拡大を追求

京セラ製の携帯電話試作機

 ビジネスの成功を握るカギとしては「端末の普及」を挙げ、携帯電話端末でワンセグと同等の回路規模でMediaFLO/ワンセグ両対応の回路を実現したことも紹介。試作機として京セラ製の端末を披露した。携帯電話だけでなく、PCにUSB接続する小型チューナや、スマートフォンに転送できる無線LAN搭載モバイルチューナなどの開発も、クアルコムや端末メーカーとの協力で行なっている。また、沖縄ユビキタス特区における実証実験などを通じて利用者からのフィードバックも得たことで、サービス開始に向けた準備が整っていることを強く訴えた。

 MediaFLOは既に米国では商用サービスが始まっており、携帯電話や小型テレビ、車載ディスプレイなどの対応製品が販売されていることから、端末メーカーにとってはグローバルで製品を展開しやすいという利点も訴求。多国間の協議の場であるFLO Forumで標準化作業が完了し、日本においても端末やサービスの開発が可能な段階に達しているという。


ワンセグ/MediaFLO両方に対応した回路の実装面積を、ワンセグ専用のものと同等にしたこの端末では、間欠受信にも対応したことで省電力化も実現する放送サービスでコンテンツ市場の拡大を追求
事業者選定などの、今後の想定スケジュールMediaFLOのグローバル展開動向米国では様々なタイプのデバイスが開発されている

 増田氏は、今後の事業者選定に向けて「日本技術にこだわるあまり、『ガラパゴス化』を招き、日本の利用者が不幸になってはならない。今後は、グローバルでオープンなシステムを構築する“協働”への取組みが重要」と述べ、南米などでも採用が見込まれるワンセグと、MediaFLOを両立させた形でグローバルな普及を進めるという意向を示した。そのなかで、「ICT産業のグローバル化の潮流を踏まえ、透明で技術中立的な審査が行なわれることに期待する」とした。

これまでのユビキタス特区での実証実験の実施状況と結果「ガラパゴス化」への懸念から、グローバル対応を謳うMediaFLOの将来性を強調した

 新会社であるメディアフロー放送サービス企画の社長に就任した神山隆氏は、KDDIのこれまでの放送関連サービスの取組みについて説明。’03年11月に開始した、携帯電話で初の蓄積同報型マルチメディア配信サービスであるEZチャンネルや、FMケータイ、ワンセグなどを通信サービスと連携して提供してきた実績に触れ、中でもデジタルラジオについては「マルチメディア放送の先駆けとして、放送波蓄積配信など様々なノウハウを得た」と述べた。

 また、前述の沖縄での実証実験により、携帯電話での多チャンネル放送に対しては利用者の70%、ファイル蓄積型配信は75%が利用意向を示しており、放送事業者も14社、映画会社/出版社も12社が実験に参加したことを紹介しながら、利用者/事業者ともに高い関心を持ったことをアピール。

 さらに、MediaFLOは有料サービスが中心のため、嗜好性の高いコンテンツが多く配信されることから、新たなターゲティング広告モデルの可能性についても追求するという。

 なお、前述の通り、受託放送事業者の最終決定は下されていないため、MediaFLO方式が採用されないという可能性もある。もし採用されなかった場合の委託放送事業の方針については「全くの白紙になる」(メディアフロージャパン企画の増田社長)とし、メディアフロー放送サービス企画がMediaFLO以外の受託放送事業向けにサービスを展開する可能性については否定した。

メディアフロー放送サービス企画の神山隆社長委託放送事業参入に向けた今後のスケジュール出資会社との協力で、広告ビジネスの新たな展開も模索


■ iPadで受信できる「PocketFLO」を披露

iPadを手にするクアルコムの山田純氏

 クアルコムジャパンの会長兼社長であり、メディアフロージャパン企画の取締役を務める山田純氏は、米国において携帯電話大手事業者であるVerizonやAT&TがMediaFLO事業に参入したことで、既に112都市、2億人以上をカバーするという現状を紹介。

 クアルコムは、自身も放送事業者として「FLO TV」というブランドで対応端末を発売。ポータブルテレビや、自動車のヘッドレスト内蔵型ディスプレイなどを既に販売しているほか、iPhone用バッテリ内蔵ケースに、MediaFLO受信機を持たせた製品も発売予定。米国以外でも、アジア、欧州、中南米の約20カ国で導入に向けた検討が進んでいるという。

 山田氏は、新しい取組みとして、iPadでMediaFLOのコンテンツを視聴可能になるポータブル端末「PocketFLO」の試作機も披露。これは、MediaFLOのチューナとストレージを一体化した“パーソナル・セットトップ・ボックス”と位置づけられており、「PocketFLO」内のコンテンツをWi-Fiを利用してiPadで視聴できるというもの。

 デモでは専用アプリを使った放送のリアルタイム視聴や、蓄積したコンテンツの再生、雑誌コンテンツの閲覧などを行なった。このアプリには、録画機能や、Twitterを使ったコミュニケーション機能なども実装されているという。

 山田氏は「既存の通信サービスを利用したコンテンツ配信では、同時アクセスが増えれば増えるほどプロバイダのネットワーク負荷が高まるが、MediaFLOでは、容量を気にせず、リッチなコンテンツを何百万人という人に同時に提供できる。こういった魅力が、iPadのようなタブレットデバイスによって、ようやくエンドユーザーが実感できるようになるのでは」と、今後もサービスの盛り上げに向けた意欲を示した。

iPadと「PocketFLO」を使ったデモ。「PocketFLO」内のコンテンツをiPadから視聴した山田氏が手にしているのが「PocketFLO」
iPadアプリを使った画面の例。マイページで、放送中の画面や、蓄積したコンテンツを一覧番組表表示や録画予約も可能雑誌コンテンツの閲覧も
そのほか、会場に展示された試作機など。Snapdragon搭載の「Smartbook」端末で、小型USBチューナを介して視聴するデモ(今回は電波ではなくローカルでの再生)
iPhone用のバッテリ内蔵ケースに、MediaFLOチューナを内蔵。このケースからWi-Fiで再配信してiPhoneで視聴する
米国で展開中の、ヘッドレストディスプレイ型の受信端末(左)や、小型テレビ端末(右)携帯電話端末でも、多くのメーカーが既に参入しているUSB接続のPC用チューナも開発している


(2010年 6月 3日)

[AV Watch編集部 中林暁]