パナソニック、液晶パネル生産の姫路工場を公開

-開所式に大坪社長出席、2011年2月に81万台体制に


パナソニック液晶ディスプレイ姫路工場の外観

 パナソニック液晶ディスプレイは10日、兵庫県姫路市のパナソニック液晶ディスプレイ姫路工場において、開所式および報道関係者向けの内覧会を実施した。

 パナソニック液晶ディスプレイ姫路工場は、8.5世代と呼ばれるマザーガラス(2,200×2,500mm、薄さ0.7mm)によるテレビ用IPSα液晶パネルの生産拠点で、32型と42型の液晶パネルを生産。完成したパネルは、チェコとマレーシアのモジュール生産拠点に輸送後、米国、メキシコ、ブラジル、中国、台湾、ベトナム、タイ、インドのセット工場で液晶テレビに組み立てられる。日本では、第6世代の液晶パネル生産を行なっている茂原工場で、セット生産される。


上空から見たところ

 現在、32型換算で月産40万5,000台の生産体制を確立。32型で18面取りが可能な最新鋭の生産設備の導入や、露光工程の処理回数の削減といった基幹プロセスの合理化などにより生産効率を高めており、茂原工場に比べて、工程処理時間を20%短縮するとともに、生産リードタイムを14%削減。32型1台あたりの生産エネルギーコストを約2割削減している。投資生産性は1.6倍だという。

 2011年2月には81万台のフル生産体制に引き上げるほか、2011年度からは19型および26型のパネル生産も開始し、IPSαパネルの陣容を強化する。19型では50枚取りが可能になるという。


午前9時30分から開かれた開所式の様子出席したパナソニック・大坪文雄社長(左から4人目)をはじめとする関係者関係者によるテープカット。左から、姫路市の石見利勝市長、兵庫県の井戸敏三知事、経済産業省商務情報政策局審議官の富田健介氏、パナソニックの大坪文雄社長、日立製作所の川村隆会長、パナソニックの森田研代表取締役専務、パナソニック液晶ディスプレイの鈴木茂人社長

 



■LEDテレビの構成比を6割に引き上げる

パナソニック液晶ディスプレイの鈴木茂人社長

 さらに、パナソニックのVIERA向けの供給だけでなく、外販比率を3割以上に高めていく計画だ。しかし、「韓国のテレビメーカーなどにパネルを外販するつもりはない。全方位外交をしていくつもりはない」(パナソニック液晶ディスプレイの鈴木茂人社長)としている。

 また、「第8世代の製造設備を他社に比べて遅く立ち上げたことで、他社の第8世代の生産設備に比べて効率化や品質で優位性がある。短期間で、低コストで立ち上げることができたというメリットもある」(パナソニック液晶ディスプレイの坪香智昭常務取締役兼姫路工場長)とした。


グローバルでの薄型テレビ占有率

 さらに、鈴木茂人社長は、「薄型テレビ市場は、2012年度には2億5,000万台の需要が見込まれ、そのうち約6割が新興国市場が占める。また、約4割が32型になると見られる。現在、パナソニックは、薄型テレビ全体で全世界8%のシェアを獲得して第4位だが、37型以上では12%のシェアで第3位。32型以下では6%で6位だが、前年同期に比べて順位を2ランクアップし、成長を遂げている」とした。

 パナソニックでは、2010年度の新興国市場向け薄型テレビの販売計画で前年比1.7倍を目指すという。

 また、「IPSαパネルの透過率、動画性能を徹底追求するとともに、LED製品の商品化を加速し、2012年度のLED構成比を60%以上に引き上げる」とした。


 



■協力会社も姫路工場の敷地内に進出

姫路工場の協力体制

 パナソニック液晶ディスプレイ姫路工場は、36万1,000平方メートルの敷地面積に、パナソニックの生産拠点としては最大規模となる甲子園球場2個分となる生産棟を設置。1フロア当たりの面積は430×225m、地上4階建ての同棟の高さは56mとなっている。


パナソニック液晶ディスプレイ姫路工場のエントランスの様子
エントランスを入ると右側にショールームがある姫路工場で生産されるIPSα液晶パネルを搭載した液晶テレビ

 さらに、同じ敷地内に、カラーフィルタを生産するDNPプレシジョンデバイス姫路、バルクガスを供給するエア・ウォーター、特殊ガスを供給する巴商会、エネルギー供給の関電エネルギーソリューション、造排水を行なうパナソニック環境エンジニアリングがある。

 DNPプレシジョンデバイス姫路は、生産棟の2階フロアに直結。カラーフィルターの梱包、輸送コストを最低限に抑えているという。

 また、隣接する関西電力の火力発電所から7万7,000ボルトを地中送電。これを姫路工場内の関電エネルギーソリューションで変電する。


左側がカラーフィルターを生産するDNPプレシジョンデバイス姫路。生産棟の2階に直結している左の先にある煙突がある建物がバルクガスを供給するエア・ウォーター。その先に特殊ガスを供給する巴商会がある姫路工場内の関電エネルギーソリューション。ここで変電する
造排水を行なうパナソニック環境エンジニアリングこのなかに水が蓄積されている。この壁面に太陽光パネルを設置する予定
液晶パネルの製造工程

 3階フロアにはTFT工程(アレイ工程)、4階フロアにはLCD工程(セル工程)を設置。1階の搬入エリアから納入されたマザーガラスは、3階のTFT工程に供給され、成膜、露光、現像、エッチング、剥離などの工程を通過する。

 一方、2階から直接納品されたカラーフィルタは、4階のLCD工程に投入され、3階で完成したマザーガラスと組み合わせされて、液晶滴下、貼り合わせ、切断、偏光板貼りを経て完成。出荷されることになる。


マザーガラス投入工程洗浄工程

 



■グリーンファクトリーへの取り組みも

姫路工場はグリーンファクトリーであることを訴求する

 姫路工場は、グリーンファクトリーとなっているのも特徴だ。千葉県茂原市の同社工場に比べて、CO2排出量を33%削減。これにより年間1万3,700世帯のCO2が削減できるという。また、廃棄物を100%リサイクルするゼロエミッションを実現。工場排水の回収、再利用などにより、水使用量を茂原工場比で35%削減している。「一日当たり25mプールで21個分の節水が可能」としたほか、「高度処理水再生プラントにより、100%の水リサイクルを実現し、瀬戸内海への影響を抑えている」という。

 さらに工場外壁への光触媒コーティングの採用や、環境に配慮した照明の利用、太陽光発電パネルの導入なども環境配慮型工場としての取り組みのひとつだ。

 そのほか、GP-Webにより全部品の化学物質情報の開示や、RoHS対応、REACH対応によるグリーン調達にも取り組んでいる。


CD2削減への取り組み節水への取り組み高度処理水再生プラントの概要

 



■開所式には約50人の関係者が出席

2010年10月1日から、社名をパナソニック液晶ディスプレイに変更。すでに4月から量産を開始しているが、社名変更を機に開所式が行なわれた

 午前9時30分から行なわれた開所式では、パナソニックの大坪文雄社長や、パナソニック液晶ディスプレイに出資している日立製作所の川村隆会長など、約50人の関係者が出席。テープカットなどを行なった。

 同工場は、すでに2010年4月から、32型換算で月産40万5,000台体制で量産を開始しているが、10月1日にIPSアルファテクノロジから社名を変更したことを受けて、開所式を行なったもの。


パナソニックの大坪文雄社長

 挨拶したパナソニックの大坪文雄社長は、「ハイテク製品である液晶パネルは、高度なプロセスが必要とされるが、その一方で激しい価格競争が起きている代表分野でもある。日本で頑張って生産するパナソニックにとっては、決して恵まれた環境にあるとはいえない。だが、需要の拡大ぶりには大きなものがある。パナソニックは、2010年4月から姫路工場で量産している液晶パネル、尼崎で生産しているPDPを両輪として、テレビの発展に貢献したいと考えている」と語る。

 さらに「パナソニックは、2018年に創業100周年を迎えるが、この時に、エレクトロニクスナンバーワンの環境革新企業を目指す。太陽電池や燃料電池といった環境エネルギーを利用し、AV機器や白物家電とをつなげた家電メーカーらしい提案を行なう。作ったエネルギーを、最適にコントロールする提案を行ない、CO2排出量を削減する。環境のなかにテレビが入っていないのではないかとも言われるが、家電メーカーであるパナソニックにとって、テレビは最重要商品であり、エネルギーをコントロールするための中核的役割を果たすのがテレビである。姫路工場を力の源泉として、グローバルに打って出る、攻めの経営をしていく」などと語った。


日立製作所の川村隆会長

 また、日立製作所の川村隆会長は、「コンシューマエレクトロニクス分野においては、長年に渡り、パナソニックと研究開発を行なってきた経緯がある。液晶パネルに関しては、2004年から両社で育ててきた。姫路工場は大規模な最新鋭の工場であり、それに対して敬意を表す。IPSα液晶パネルはあらゆる角度から美しく見え、動画性能、省エネ性能でも優れたものである。日本のモノづくりの見本となる工場として、またIPS液晶パネルによって世界で勝ち抜いてもらいたい。日立製作所は、引き続きテレビ用IPSα液晶パネルの供給を受けるほか、さらに磨きをかけるための研究開発にも微力ながら貢献したい」と語った。


経済産業省商務情報政策局審議官の富田健介氏

 来賓の挨拶では、経済産業省商務情報政策局審議官の富田健介氏、兵庫県の井戸敏三知事、姫路市の石見利勝市長がそれぞれ登壇。経済産業省の富田審議官は、「薄型テレビの出荷は好調だと聞いているが、中長期的な視点で考えると、その先行きには不安がある。円高や株価の低迷など、日本のモノづくりが置かれた環境は厳しいが、日本国内に優れた技術を持つ企業が踏みとどまり、雇用を確保することは、政策の上でも大きな課題となっている。平成23年度予算での法人税の引き下げのほか、低炭素型産業の国内立地促進にも取り組む。そうしたなかで、世界最先端の姫路工場には、これからの努力によってぜひ発展してもらいたい。IPSα液晶パネルは、視野角、動画性能、省エネにも優れており、アジアや新興国市場に打って出るのに相応しい製品である。厳しい国際競争を勝ち抜いてもらいたい」とした。

 兵庫県の井戸敏三知事は、「今日の日を心待ちにしていた」と前置きし、「兵庫県には、姫路工場とともに、プラズマディスプレイパネルを生産するパナソニックの尼崎工場があり、県内2つの工場が世界のテレビ市場をリードすることになる。また県内には最先端技術を活用したモノづまりの拠点が数多く、神戸ではスーパーコンピュータの施設を建設中。世界最先端の科学技術拠点として、またモノづくり県としての改革を推し進めていく。日本の企業は技術で勝負することが求められており、先端技術を開発することが不可欠。その点でも姫路工場に期待している。隣にまだ広い空き地があるのでここにも工場を広げて欲しい」と語る。

 一方で、「欧州の空港では、サムスンのテレビが並んでいるが、普段見慣れているパナソニックのテレビに比べると、暗く、明瞭性に欠ける。隣にパナソニックのテレビを置いてもらえれば、品質の違いがわかる。この点では、日本の最先端技術の発信力が欠けているのではないか」と要望も出した。さらに、井戸知事は今回の開所式にあたり、「瀬戸内に 臨む拠点ぞ 今 成れり 生活創る 生産始まる」と唄を詠んだ。


兵庫県の井戸敏三知事隣には広大な空き地があり、ここに工場を増設することも可能だ
姫路市の石見利勝市長

 姫路市の石見利勝市長は、「戦後直後には、この地に富士製鐵(現・新日本製鐵)が進出し、日本の経済復興の拠点となった経緯がある。ここにパナソニックの姫路工場が建った。姫路市では、パナソニックを支援するために、道路、鉄道、高速道路のインターチェンジ、港といった基盤整備に力を注いできた。ぜひ発展させて、工場を拡張してほしい」としたほか、「姫路市の関係機関のテレビはすべてパナソニックに置き換えた」と語り、会場を湧かせた。

 また、パナソニック液晶ディスプレイの鈴木茂人社長は、「日立製作所という強力なパートナーと巡り会えたことで姫路工場が稼働した。2011年2月には、24時間365日でのフル稼働体制で、32型換算で月産81万台を目指す。IPSα液晶パネルは、高透過率、高視野角、高速応答性が特徴のパネルであり、さらなる省エネと高性能を両立を目指すとともに、世界トップの生産性や限りないコストの追求により、これからも驚きと感動を与えるパネルを生産していく考えであり、進化に向けた手綱を緩めることなく取り組んでいく」と決意をみせた。



(2010年 11月 10日)

[Reported by 大河原克行]