ミニレビュー

実はチューナーレス化がポイント!? デノン新AVアンプ「AVR-X2850H」の進化を聴いた

7.2ch AVアンプ「AVR-X2850H」

デノンが9月中旬に発売する、7.2ch AVアンプ「AVR-X2850H」(132,000円)。音質・機能と価格のバランスに優れた、まさに“AVアンプの王道”という価格帯の注目機だが、“X2850H”型番やスペック表だけを見ると、前モデル「AVR-X2800H」との違いがわかりにくく、あまり変更点がないようにも見える。だが、音を聴き比べてみると「いや、これはマイナーチェンジモデルじゃない」と断言できるほど、クオリティがアップしている。

なぜこんなにも違いが出るのか。鍵となるのは、「チューナーレス」と「HDMI入力用ジッターリダクション機能」、そして「デノンのサウンドマスター・山内慎一氏によるチューニング」だ。

AVR-X2850Hの詳細については、同日に掲載しているニュース記事を参照して欲しいが、AVR-X2800Hからの進化点、変更点をまとめると、以下のようになる。

  • HDMIから入力されるデジタルオーディオ信号対するジッターリダクション搭載
  • AM/FMチューナーが非搭載に
  • HEOSモジュールが、AVC-A10Hと同じ最新世代に
  • 山内氏があらためてチューニング
  • 各スピーカーの音量をリアルタイムで画面表示するチャンネルレベルモニタリング

高音質化に寄与する、HDMIジッターリダクションとチューナーレス化

音の進化として、わかりやすいところから見ていこう。

AVアンプは、様々な機器からの映像・音声をまとめて、切り替える役目も備えているが、昨今メインとなるのがHDMI入力。そのHDMI入力に、ジッターリダクション機能が追加された。

HDMIにおいて、音声のデジタルデータは、データだけでなく、揺らぎ(ジッター)を含んだマスタークロックと共に伝送される。それがAVアンプ内のDACに入ると、D/A変換が正確なタイミングで動かず、アナログ変換された波形が、元の波形に対して、歪んだものになってしまい、音に悪影響が出る。

そこで、AVR-X2850Hでは最新のHDMI ICチップを使い、ソフトウェア処理を行なうことで、ジッターを低減。上位機に搭載している、ジッターリデューサーは搭載していないが、それでもかなりの効果があり、クリーンなマスタークロックを用いて、正確なタイミングでDACを作動できるようになったという。

もう1つ、高音質化に大きく寄与したのが「AM/FMチューナーの非搭載」、つまりチューナーレス化だ。

「機能が減ったのに、良いことなの?」と不思議な感じもするが、ラジオを受信するチューナーは、高周波を扱う回路であるため、ある程度ノイズを持つ傾向にある。前モデルなど、チューナーを搭載しているAVアンプでは、その影響が他の回路に影響を与えないように、できるだけ対策を施した設計になっているが、影響を完全にゼロにはできない。

だが、AVR-X2850Hでは、そもそもAM/FMチューナーを外してしまった。これにより、チューナーの動作電流が無くなり、オーディオ回路のよりノイズを下げられた。チューナーが運ぶ高周波が、ループする電源ラインを伝ってオーディオ回路に入る事が無くなったわけだ。

なお、チューナー基板があった部分は空きスペースになるわけだが、そこを遊ばせずに、アナログ入力を追加した事で、アナログ音声入力はAVR-X2800Hの4系統から、AVR-X2850Hでは5系統に増えている。

AVR-X2800Hの内部。銀色のケースでシールドされているのがチューナー基板
AVR-X2850Hの内部。チューナーが省かれ、アナログ入力になっている

また、AVR-X2850HはHEOSに対応し、ネットワークプレーヤー機能も備えているのだが、それを実現する「HEOSモジュール」自体が、AVC-A10Hなどで使っている最新のモジュールに刷新された。HEOSの処理速度が速くなるほか、これも高音質化に寄与しているという。

AVR-X2800Hの内部。中央がHEOSモジュール
AVR-X2850Hの内部。刷新されたHEOSモジュール

山内氏があらためてチューニング

これは、AVR-X2800Hから継承している特徴だが、AVR-X2850Hには上位モデルで採用されているパーツが、かなり多く投入されている。

例えば、音質において重要なブロックコンデンサーは、AVR-X3800Hと同じ、日本製の大容量のものを採用。整流ダイオードもAVR-X3800Hと同じもの。インシュレーターも、AVR-X3800Hと同じ、内部にリブを備え、機械的安定性を高めたものを使っている。

さらに、フロントLRのパワーアンプ部の電源は、根元から分けることで、チャンネル間の干渉を避けるなど、細かな部分の工夫も上位機譲り。信号ラインの抵抗値を下げたり、ワイヤーの引き回しや、捻り方なども見直すなど、細かな部分もこだわって作られている。

そして、デノンの音の門番、サウンドマスターの山内氏が、チューナーレス化やHDMIジッターリダクションの搭載により、高音質化した部分を踏まえながら、あらためてAVR-X2850Hとしてさらに音を進化させるため、全体的にチューニングを行なったそうだ。

サウンドマスターの山内氏

AVR-X2800HとAVR-X2850Hを聴き比べ

では、音を聴いてみよう。

アンプとしての“素の違い”を把握するため、CDプレーヤーとアナログで接続。「ジェニファー・ウォーンズ/I Can't Hide」を再生し、AVR-X2800HとAVR-X2850Hを聴き比べてみる。

AVR-X2800H

アナログ接続なので、HDMIジッターリダクションは関係が無く、音に関する進化点は“チューナーレス化”と“あらためてのチューニング”になるわけだが、「それでこんなに変わるの!?」と驚くほど音が違う。

本当にもう、音が出た、最初の数秒でハッキリわかるほど、AVR-X2850Hの方がSN比が良く、低域が力強くなり、低い音がより深くまで沈み込む。よりドッシリと、安定感のあるサウンドになったため、マイナーチェンジどころか、「ワンランクの価格帯のアンプを聴いているのでは?」という気すらしてくる。

2chでここまで進化しているので、マルチチャンネルの音も絶品だ。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』から、ヴェスパーの墓が爆破され、ボンドが襲撃されるシーン。『トップガン マーヴェリック』冒頭のハンガーでの会話から、ダークスターがマッハ10を突破するシーンまでを鑑賞した。

SNが良く、細かな音がよりシャープに聴き取れるため、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』のチェイスシーンでは、バイクが地面の細かな砂を巻き上げる小さな音まで認識でき、「こんな音まで入ってたんだ」という驚きがある。緊迫したBGMも、より重厚に響くため、画面から伝わる緊張感も増し、心拍数も上昇する。

『トップガン マーヴェリック』では、横方向に音が広大に広がるだけでなく、高さも良く出るため、格納庫の巨大さがわかりやすい。ダークスターがマッハ10を目指して、エンジンの出力がどんどん上昇するシーンでは、深く沈む低音が、前へ前へと吹き出し、迫力満点だ。解像感も兼ね備えた低音なので、ボリュームを上げ目で再生しても、大味な音にならず、パワフルさと情報量の多さを同時に楽しめた。

チャンネルレベルモニタリング機能

ちなみに、音とは関係ないが、AVR-X2850Hには、各スピーカーの音量をリアルタイムで画面表示するチャンネルレベルモニタリング機能が追加されている。要するに、メーターを見ながら「お、リアスピーカーが頑張ってるな」とか「トップスピーカーから音が出ている!」なんて確認ができるのだが、作品によって「ここぞというシーンでしかトップスピーカーが鳴っていない」とか、「全チャンネルが頻繁に鳴っている」など、映画を作った人のこだわりが垣間見えて面白かった。

このように、一見「チューナーが無くなっただけの、マイナーチェンジモデル」に見えてしまうAVR-X2850Hだが、実際は前モデルから音が大きく進化し、約13万円という価格に対して、音のポテンシャルの面では上位機にも迫るクオリティを備えている。この価格帯でAVアンプを検討している人は、ぜひ聴いてみてほしい。

山崎健太郎