デジタル家電の“復興需要”立ち上がる。BCN分析

-エコポイント不発となるも、テレビは特需製品へ


BCNの道越一郎アナリスト

 BCNは7日、「PC・デジタル家電の震災インパクト」と題した記者発表会を開催。東日本大震災が、薄型テレビなどの家電やPC市場に与えた影響を、量販店などの売上データに基づき分析した。

 BCNの道越一郎アナリストは、3月11日~31日の売上金額データ(推計値)を前年と比較し、「特に被害が大きかった岩手、宮城、福島の売上減は74.7%に上っているが、全国へのインパクト(前述の3県以外)は1.2%減に留まっている。震災翌週(3月14日~20日)をボトムとして、直近で売上は戻り始めている」と指摘。また、「“復興需要”の初速に、エコポイントの駆け込み需要が寄与した」との見方を示した。


震災により一部のデータが欠けており、推測値も含まれている

 この市場分析は、家電量販店など全国23社、2,336店舗(2011年3月現在)のPOSデータを集計したBCNのデータをもとに行なっている。Amazonなどを中心としたネット店舗のデータも加味した形で前年同月比などを算出。発表データ内の金額は全て税抜きとなる。

 なお、震災の影響で3月11日~13日の販売データの一部に欠落がある。このため、前年比など絶対比較のデータについては、欠落分をBCNが推計した。一方、メーカーシェアなどの相対比較のデータについては、「暫定値」として算出している。



■ エコポイント駆け込みは“空振り”。震災直後にワンセグテレビやUPSが大きな伸び

 デジタル家電製品のBCN指数(116品目の実売データから、全商品の平均販売単価と販売金額の前年同月比をまとめたもの)で見ると、3月は昨年のエコポイント制度変更による駆け込み需要に比べ大きく減少、前年同月比75.6%となった。前年割れの傾向は、エコポイント減額の'10年12月から既に始まっていたが、そこから回復基調にあった動きが、震災の影響で一気に冷え込んだ形となった。このことから、道越氏は「家電エコポイントの“特需”は不発に終わった」としながらも、「震災に関わらずこの落ち込みは、健闘している」と加えた。

 BCN推計による、仮に震災が無かった場合の売上を100とした「震災インパクト」については、岩手、宮城、福島の3県は、数量が30.4、金額が25.3と大幅なマイナスになった。一方で、3県以外の都道府県については数量/金額ともに98.7とわずかな減少に留まっている。

デジタル家電全体の販売動向岩手、宮城、福島の3県と、他の地域の影響の違い

 地域別にみると、被害が大きかった東北(「北海度・東北」)や、関東については、3月7日週からの減少幅が特に大きいほか、全国的にも物流の機能停止や自粛ムードなどを背景に売上が落ち込んでいる。しかし、東北を含むいずれの地域においても、3月14日週をボトムとして回復傾向にあり、直近の3月28日週では、全国規模で販売台数を見るとプラスに転じた。販売金額も、戻りは鈍いが、台数と同様の回復傾向を示している。この動きから、「“自粛ムード”などによる消費マインドの冷え込みは限定的」とした。

 液晶/プラズマテレビのエコポイント駆け込み需要を地域別で見ると、3月28日週は、北海道・東北を含むすべてのエリアで2桁増となっており、全国では137.4%となっている。この傾向を受けて、道越氏は「最終週の駆け込みで、エコポイントは“復興需要初速”の役割を果たした」と述べた。

 レコーダの販売台数についても、北海道・東北と関東では大きな影響があったが、他の地域では堅調な伸びとなった。しかし、デジタルカメラについては需要の戻りが鈍い結果となった。要因としては「イベントが減ったことや、本来“ハレ”の場で使うものという製品特性の影響」を挙げた。

地域別の震災インパクト(販売台数)地域別の震災インパクト(販売金額)
震災前後の薄型テレビの販売台数の推移デジカメは、テレビやレコーダに比べ、震災後の戻りが鈍い

 震災以降に需要が大きく伸びた製品としては、パソコンなどで使うUPS(無停電電源装置)があり、計画停電の影響などから、3月14日週は台数が前年比614.9%、金額は同722.1%となった。UPSの売上増については「本来は停電後にPCを安全にシャットダウンするための機器だが、“無停電”を文字のまま解釈して、計画停電時もずっと使えると思っている人も多かったと聞く。実力以上に売れたのかもしれない」とした。

震災直後は、UPSやワンセグ製品の売上が急増

 また、パソコン用のUSBワンセグチューナも台数が前年比357.9%、金額が同472.9%と大きく伸びた。加えて、ワンセグ搭載液晶テレビについても、台数が同217.1%、金額が同257.9%となっている。なお、ラジオについては同社の調査対象外のため、具体的なデータは用意されていない。「売り切れたラジオの代わりとして販売された、ラジオ機能付きICレコーダについては調査対象だが、思ったほどは伸びていなかった」とした。

 道越氏は今後の“復興需要製品”について「情報が少ない被災地で、一番はテレビ。生活必需品となりつつあるPCや、通信確保のための携帯電話/スマートフォンも期待できる」と述べた。テレビの特需については「アナログ停波のタイミングのサブテレビに期待する。復興需要も年後半には顕在化するだろう」とした。



■ 薄型テレビやレコーダの価格下落は加速

薄型テレビの販売台数/金額の推移

 薄型テレビの販売では、小型テレビの需要増と、それに伴う平均単価の下落が顕著。全体の販売台数でみると昨年並みの水準を維持しているが、20型未満の割合が4割近くを占めており、全体の売上額を押し下げている。画面サイズ別で見ると、特に30型台の下落傾向が大きい。このため、小型モデルの売上の落ち込みは緩やかになっている。また、消費電力についても、2011年に入ってからは平均消費電力が100Wを切る傾向が続いている。バックライトは、LED搭載モデルが2月にCFL(HCFL/CCFL)モデルを逆転。3月もLEDが54.7%、CFLが45.3%と差が拡大した。


テレビの台数規模は昨年並みだが、単価下落が進んでいる30型以下の勢いが強い画面サイズ別の構成比と、単価下落率の推移

 機能面では、録画対応モデル(別売USB HDDへの録画対応モデルを含む)の割合が3月に37.7%まで上昇。録画対応モデルの中では、HDD接続用の端子のみを備えたモデル(HDD/BD非搭載)が58.2%まで急伸している。また、HDD端子のみのモデルは小型モデルへの搭載も進んでおり、3月は20型台以下が66%を占めている。

 一方、3D対応テレビ(メガネ/トランスミッタ別売モデルを含む)は「足踏み状態」としており、台数比率では薄型テレビ全体の5.9%、金額比率では15.7%に留まっている。なお、40型以上では3月の台数が26.2%、金額が38.6%となっている。

録画対応テレビの台数比率録画用端子付きモデルの画面サイズ別構成比と平均単価
3Dテレビの伸びは弱い40型台のうちの3D対応テレビは、台数が1/4、金額は4割


レコーダの販売台数/金額の推移

 レコーダについては、テレビの需要が一段落した後も高い伸びを示しており、台数は3月が116.0%と、2桁増を維持。過去3年間で最高水準となった。しかし、金額が92.8%と前年割れとなり、レコーダも単価下落が進んでいる。この要因としては「BDXL対応モデルの価格プレミアムの消失」などを挙げた。レコーダ全体では、BDXL対応モデルが数量/金額ともに7割以上を占めている。また、3D対応モデルも全体の半数以上。テレビよりも3Dの立ち上がりは急速だという。


レコーダの台数は過去3年で最高水準BDXL対応モデルを含め、平均単価の下落が顕著BDXLモデルの割合は7割超に


パソコンの販売台数/金額

 パソコンは、インテル「Sandy Bridge」搭載モデルの発売延期と、震災の“ダブルパンチ”により、Windows 7搭載機が出てから初めて、台数が前年割れとなった。

 スマートフォンは、携帯電話全体の販売台数構成比で4割以上を継続。キャリア別のスマートフォン販売台数構成比は、3月はソフトバンクが68.2%、ドコモが49.0%、auが28.8%となっている。OS別の構成比は、'10年12月にAndroidがiOSを逆転。3月はAndroidが77.8%、iOSが21.9%。キャリア別の台数シェアは、ドコモが52.4%、ソフトバンクが25.7%、auが18.1%。

 3月24日に発売された「Xperia arc」は、特に大きな初速を記録。発売日から1週間経っても、他の機種に比べ高い伸びを示した。一方、長期間で見るとiPhone 4の伸びが強く、発売から約300日となっても、他機種のような落ち込みが無く、台数増を維持している。ワンセグや電子マネー(おサイフケータイ)、赤外線という国内向け機能については、スマートフォンの4~5割が搭載している。

スマートフォンの台数構成比とシェアXperia arcの初速を、他の機種と比較長期で見ると、iPhone 4が高い伸びを続けている

□東日本大震災関連情報
http://www.watch.impress.co.jp/eq1103/

(2011年 4月 7日)

[AV Watch編集部 中林暁]