NHK、小型スーパーハイビジョンプロジェクタを披露

-2020年のSHV試験放送に向け、実用的なサイズに


NHKらが開発した小型スーパーハイビジョンプロジェクタ

 NHKは、JVC・ケンウッド・ホールディングスやNHKエンジニアリングサービスと共同開発した、解像度7,680×4,320ドットの次世代テレビ放送サービス「スーパーハイビジョン(SHV)」向け小型プロジェクタの試写会を報道関係者向けに開催した。

 新SHVプロジェクタは、ビクターの4Kプロジェクタをベースに、新開発のe-Shiftデバイスを用いることで、R、G、Bのすべてにおいて画素ずらしを行なうことで、小型の筐体でもSHVをフル解像度画質相当で実現する。輝度は3,000ルーメンで、コントラストは1万:1、光源ランプは330W×2、消費電力は1,100W。


SHV映像を280型相当で投写プロジェクタの側面背面
SHVプロジェクタの画素構造比較。中央が新プロジェクタ

 従来、NHK技研公開などで展示されていたSHV用プロジェクタは2方式あり、1つは4Kデジタルシネマ用の800万画素(3,840×2,160画素)のプロジェクタを2台用意し、1台を緑(G)信号に2枚の表示素子を用いて斜め方向に半画素ずらして配置、実質縦横方向に2倍の解像度を得る一方、もう1台で赤(R)と青(B)に1枚の表示素子を用いて、2つのプロジェクタの映像を合わせることでSHVの3,300万画素相当を実現する「デュアルグリーン方式」。

 もう一つは3,300万画素素子をRGBで3枚使った方式。前者はプロジェクタ2台で構成するため装置が大型化してしまうほか、2台の画素をそろえるための調整が非常に難しいという課題があった。一方、後者は素子の製造などが困難で、低コスト化が難しいという点が最大の課題となる。

 今回のプロジェクタは、800万画素の素子をR、G、Bで各1枚採用。すでに発売されている4Kプロジェクタに新開発のe-Shiftデバイスを用いることで、R、G、Bの各色において画素ずらしを行ない、SHVをフル解像度画質相当で実現する。

 画像シフト切り替えの電気信号により、e-Shiftデバイスの屈折率を変化させて、光源からの光の進路を2つにわけることで、1画素が斜めにシフトする。この屈折率を断続的に切り替えてひとつの光原から2つの画素を表示し、縦横解像度が実質2倍にできるという。

 このe-ShiftデバイスはJVCケンウッドが開発したものでOCB液晶を採用し、R、G、Bの各デバイスごとに1枚のe-Shift素子を利用している。

e-Shiftデバイスによる画素ずらしe-Shiftデバイスプロジェクタの素子は4KのD-ILAを採用している

 実際に、新型プロジェクタでNAB 2009用に撮影された素材や、昨年の技研公開でも披露された東京マラソンや2009紅白歌合戦などのSHV映像を280型のスクリーンで体験したが、画素ずらしによる解像度の低下などは特に感じられなかった。スーパーハイビジョンの走査線4,000本とまではいかないが、「3,300本ぐらいは出ている」(NHKでスーパーハイビジョンの研究開発を主導する金沢研究主幹)という。

SHVの投写映像
SHVの投写映像

 今回のデモではズームレンズに起因する色収差や画素のずれもあるとのことだが、走査線2,000本級のレンズを使っていることなどが原因とのこと。製品化時には専用のレンズの開発や、電気的にずれを補正する仕組みなども導入するため、さらなる高画質化が見込めるという。

 外形寸法が660×783×342mm(幅×奥行き×高さ)、重量50.5kgと小型/軽量化を果たした点も特徴。従来のデュアルグリーン方式プロジェクタ(750×950×370mm/92kg×2台)や、フル解像度の試作機(1,080×1,250×456mm/168kg)より大幅に小さく、軽くなっている。

 また、デュアルグリーン方式では2台の大型プロジェクタの画素を極めて高い精度で合わせるため設置や運用が大変だったが、新型では1台の筐体内に内蔵したことでこの問題を解消。同様にフル解像度の試作機は世界に2台しかなく、「価格も億を超えていた」とのことだが、新型は「1ケタは安くできる」という。

従来のSHVプロジェクタシンクグリーン方式では2台の大型プロジェクタを利用していた3,300万画素のフル画素SHVデバイスは非常に高価
スーパーハイビジョンの研究ロードマップ

 NHKでは、2020年のSHV試験放送の実現に向けたロードマップを策定し、今回のプロジェクタを含め、実用的なSHV機器の研究開発を進めていく。また、2011年のNHK技研公開においても、SHVシアターを構築する予定だが、どの方式のプロジェクタを採用するかはまだ決まっていないとのこと。


(2011年 1月 18日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]