西田宗千佳のRandomTracking
第657回
今年もAV目線で解説する「WWDC 2026」。驚きのリフレーミング、スマートホームも快適に
2026年6月10日 16:26
アップルの開発者会議「WWDC 2026」の取材に来ている。
今年のテーマは明確に「Apple Intelligenceのリブート」だ。第3世代となったApple Intelligenceは、2年前の公約をようやく果たし、機能も向上する。
とはいえ、ここはAV Watch。「AIが進化した」だけでは面白くない。そこで、(かなり拡大解釈はあるが)AV的な話題を集め、今年のアップル・プラットフォームがどうなるかを占ってみたい。
その1:それでもやっぱりApple Intelligence
とはいえ、最大のテーマを外すことはできない。Apple Intelligenceの実質的な再開発は大きなことだ。
可能になることは多数あるが、「普段使っている言葉で語りかけると、自分の事情を忖度した上でAIが作業をしてくれる」というのは、やはり大きい。
テクノロジートレンド的に言えばエージェンティックAI、ということになるが、音声や文章で命令を与えると、その結果として目的を達成してくれる……というのは、iPhoneやMacを使うときのスタイルを大きく変える可能性が高い。
ただ、「アイコンのクリックから命令へ」といった形で大上段に構えなくても、AIがOSの根幹に入っていくことで変わる部分は多い。
非常に細かい例で言えば、Macでファイル名を変更するときに「同じフォルダにある同種のファイルの名前から自動生成して提示する」という機能もある。たくさんのファイルを扱うときなどには便利だろう。ちょっとしたことだが、「普段の面倒をAIがカバーする」一例と言える。
アップルの主要製品のどれもが新しいApple Intelligenceに対応したことで、音声リモコンの域を出づらかったSiriも「Siri AI」になる。賢く色々なことができるようになるなら、音声アシスタントの使い道も変わってくる。
その2:スマートホーム快適化。「文章でショートカット作成」で便利に
Apple Intelligenceの進化によって生まれる要素の1つが「ショートカットの利用が簡単になる」ことだ。
ショートカットとは、アプリの機能を呼び出し、連携して動作させる機構のこと。例えば「特定のフォルダ内にあるファイルの数が一定を超えたら、ルールに従って整理して」という作業ができる。「自宅を出たら自動的に特定のプレイリストで音楽を再生する」というものも含まれる。
ショートカット自体は以前からある機能なのだが、これを使っているのは相当なマニアではないかと思う。プログラミング的なことが必要になるので、使いこなすのが難しいのだ。
だが秋に公開される新OS群では、ショートカットの設定が「自然文」で行なえるようになる。
今のAIサービスでは、文章でソフトを作れるようになっている。ちょっと前までは「バイブコーディング」と呼ばれていたが、今やこの言葉が死語になってしまうほど、エンジニアの間でも、「AIと相談しながらソフトを作る」のは当たり前になった。エンジニアでない筆者も、執筆に使うエディターから画像処理まで、いくつもの「自分だけのアプリ」を作り、使っている。
要はショートカットの設定もソフト開発に似ているので、文章で十分に設定できてしまうわけだ。
これは、スマートホームやホームシアターの価値を劇的に変える可能性を秘めている。
スマートホーム機器の多くはHomeKitというフレームワークに対応しており、ショートカットから操作できる。だから、スマートホーム機器の連動設定が、劇的に簡単になるのだ。
「カーテンを閉めて暗めの照明に設定したのち、テレビとApple TVをオンにする」といった、ホームシアター向けの連動も、今書いたような文章を入力するだけで可能になる。
今回は新しいハードウェアの発表はなかったが、スマートホーム環境が拡大するなら、アップルは当然「それにふさわしい製品」を用意してくることになるだろう。要はこの要素が、新しいHomePodやApple TV登場を予告させる存在になっているのである。
その3:「リフレーミング」は驚きの機能
Apple Intelligenceでは、画像の生成や写真の加工といった機能も進歩している。アップルの画像生成アプリ「Image Playground」は、先端のAIサービスに比べると生成画像が、いかにも「古いAI」という印象が否めなかった。
AIモデルが進化したため、画質は一気にリアルになる。AIモデル開発でGoogleと連携した結果、ちょっと画質がGoogleの「Nano Bananaっぽい」印象も受けるのだが、それはちょっと穿ちすぎた見方かもしれない。
中でも驚いたのは、写真の加工でAIを使う「クリーンアップ」の強化と「拡張(Extend)」、「リフレーム(Spatial Reframing)」だ。
クリーンアップは、写真の中から消したい要素を選んで、隠れていた部分を生成して描き直すもの。すでにある機能であり、Androidでは「消しゴムマジック」と呼ばれているものだ。
従来は小さな領域の修正がせいぜいで、描き直した部分が不自然なものになることもあった。しかし、第3世代Apple Intelligenceによるものは、生成部分もかなり自然になった。
それ以上に驚くのが「リフレーム」だ。
これは「写真を撮っている方向を操作して、写っている風景を変える」ものだ。文章で見るより、以下の動画を見る方がわかりやすい。
要は写真を立体空間化し、画角を変えて再生成するわけだ。写真とは……と考えてしまうような機能ではあるが、「もうちょっと左から撮っておけば良かった」というような後悔をなくせるものでもある。
こうした画像生成は、以前は基本的にデバイス内のAIで処理されていた。しかし第3世代Apple Intelligenceからは、画質優先でない場合にはデバイス内処理ができる場合もあるが、基本的にはクラウドにある「Private Cloud Compute(PCC)」という仕組みで生成する。
この仕組みは、クラウドの演算力とプライバシーを両立するためのもの。命令に応じた処理が終わると結果のみがiPhoneなどに戻され、処理に使ったデータはクラウドから消える。というか、「AI処理に使ったデータをそののち蓄積しておく」という機能自体が存在しない。そのため、プライベートな情報がクラウドに蓄積されて流用される……といった問題を防げる。
一方、今回よりPCCは「GoogleとNVIDIAとアップルが協力して作ったサーバー」を、Google Cloudのファシリティに置いたものが使われる。演算力も上がるがその分コストも上がるので、画像生成などには「1日に生成可能な量の上限」が設けられる予定だ。
上限を増やすには、アップルの有料サービスである「iCloud+」への加入が必要になる。
ただし、「どのサービスに、どのくらいの量の上限が設定されるのか」「iCloud+で上限がどこまで伸びるのか」などの詳細は明かされておらず、新OS公開までに正式なアナウンスが行なわれることになる。
その4:そこかしこに見える「visionOS活用」
「リフレーム」もそうなのだが、今回の新機能の中には、Apple Vision Pro向けの「visionOS」で培われたと思しき機能が結構ある。
visionOS自体も進化した。
自分で用意したパノラマ写真を立体化し、Vision Pro内で作業する時の背景である「Environment」を自作したり、Appleマップの3D地図である「FlyOver」の質が上がり、いわゆるガウシアン・スプラット技術で作られた高精度な立体空間の中を飛べるようにもなった。
visionOS向けの「Siri AI」は、「空間の中で自分が見つめている情報を読み取って対話に使う」こともできる。要は気になる服が掲載されたウェブを見ながら「これの詳細が知りたい」というと、Siri AIが調べてくれたりするのだ。基調講演では、リュックを示して「これに全部入る?」と容量を確認するような質問をしていた。
Vision Proは高価であるためか販売数量は伸びていない。そのため「開発が中止される」「技術者は別のプロジェクトへ異動された」などの噂が出てもいる。
だが実際には、visionOSもアップデートしているし、visionOS上では新しい技術が貪欲に開発されている。
ディスプレイの技術開発動向や評判を考えると、すぐにVision Pro後継機が出るとは思えない。しかし、B2Bでの手堅い需要に加え、「今後のアップル製品の中で活かす機能」としての価値も考えると、そうそう止めてしまうつもりもないのだろう。
その5:AirPodsにイコライザー
AirPods周りは、一見して「すごく新しい」と感じるものはなかった。Siri AIとの音声による連動もアピールされているが、それは今でも十分できることで、驚きはない。
ではなぜわざわざアピールされたのだろう?
これは予測だが、スマートグラスやイメージセンサー付きイヤフォンなど、「AIと音声で対話する新しい機器」につながるものではないか。そういう噂は出ているが、辻褄があう部分はある。
また細かい点だが、AirPods向けにイコライザー機能が正式に搭載された。他のヘッドフォン・イヤフォンでは専用アプリに搭載されているので珍しくはないし、「アクセシビリティ」の中の「ヘッドホン調整」で音域のカスタマイズはできたものの、細かな設定はできなかった。
詳細は不明だが「ようやく」というところだろうか。
その6:iPhoneアプリがリサイズできるということは……?
現在も、iPadの上ではiPhone用アプリが使える。また、macOSには「iPhoneミラーリング」という機能があり、iPhoneの画面をMac上に表示し、アプリをMacから使うこともできる。
ただこれまで、この種の機能では「アプリの画面サイズ」が固定だった。アプリウィンドウの端を引っ張ればサイズが変わる、という話ではなかったわけだ。
だが、新OSではこれが変わる。
iPad上でiPhoneアプリのサイズや縦横比を自由に変えることが可能になったし、iPhoneミラーリングでも同様だ。
iPhoneアプリ側での対応も必要だが、非常に簡易な作業だという。なるほど便利になるのだな……と思ったのだが、この機能、さらなる「布石」かもしれない。
噂される「二つ折り型iPhone」があるのだとすれば、折り畳んだ時と開いた時では画面サイズが変わるので、変更は必須だ。
とすると、この変更もMacやiPadでの使い勝手向上だけでなく、先々を見据えた変化なのかもしれない。
その7:AIにはMac、をアップルが主張
最後に、また少しAIの話題を。
アップルは近年、「ローカルAIを使うならMacで」というアピールをしている。
Appleシリコンは、メインメモリーとビデオメモリーを共有し、高帯域なメモリーで対応する「ユニファイドメモリー構造」を採ってきた。このことは、大容量のメモリーを搭載したMac miniやMac Stuido、MacBook Proにとってはプラスであり、「ローカルAIが快適に使いやすい環境」だった。
そこでアップルは、ローカルAIを動作させるアプリである「LM Studio」開発元と協力し、「RDMA(Remote Direct Memory Access)」という技術を使い、Mac同士を繋いで「巨大なメモリー空間と高速なプロセッサーを持つ1台のPC」として扱う機能のデモを行なった。
デモでは4台のMac Studio(1台あたりのメインメモリーは512GB)をThunderbolt 5で接続、メインメモリー「2TB」のマシンとして動作させていた。LM StudioではRDMAを簡単に扱う機能をサポート。「Thunderbolt 5でつなぎさえすれば、自分のMacを複数使ったAIクラスターができる」として、今年後半に提供する予定となっている。
512GBでなくもっと容量の少ないMac同士もいいのだが、「相互に遅延がないようにつなぐ」というトポロジー上の問題もあり、現状では「同じスペックの4台で構成するのがもっとも効率がいい」とのことだ。
現状は大容量メインメモリーの高騰から、大容量メモリー搭載のMac miniやMac Studioを購入しづらいタイミングが続いている。
少々逆風が吹いている部分もあるが、アップルは今後もプッシュを続ける。macOS Golden Gate(macOS 27)では、Apple Intelligence以外のローカルAIを簡単に扱うフレームワークも用意された。これらの技術は消費者向け以上に、AIを積極的に活用する人々の目を惹くのは間違いない。

















