シャープ株主総会開催。「液晶TVの次の技術を目指す」
-株主からの厳しい質問に片山社長がコメント
シャープの株主総会が行なわれた大阪・中之島のグランキューブ大阪 |
シャープは、2011年6月23日午前10時から、大阪・中之島のグランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)で、第117期定時株主総会を開催した。
冒頭、報告事項として2010年度の業績についてビデオを放映。エレクトロニクス機器部門においては、液晶テレビ「AQUOSクアトロン」や3D映像が楽しめるブルーレイディスクレコーダーの販売を推進。オープンOSを搭載したスマートフォンの国内市場投入、GALAPAGOS事業の開始などについて説明した。
続けて、議長を務めた片山幹雄社長は、対処すべき課題について説明。「東日本大震災による製造業へのサプライチェーンへの影響や、消費マインドの一段の低下、さらには資源価格の上昇などが懸念され、予断を許さない状況が続くと予測される。必要部材の確保による安定生産に努めるとともに、今後、市場ニーズの高まりが予想されるLED照明などの節電型家電や、太陽電池応用商品といった省エネ、創エネ製品などの独自特長商品の創出に注力していくほか、中国や新興国などの成長分野に軸足をおいた展開を進める。また、各液晶パネル工場における生産モデルの見直しを中心とした事業構造改革を推進し、最適生産体制の構築に取り組むとともに、全社に至る一定した経費削減の実現などにより、一層の経営基盤強化に邁進する」とした。
また、「2011年度は震災の影響によって、部材供給の混乱、需要の急減、それに伴う在庫増への対応を図るため、大型液晶パネルの供給停止を決定した。その結果、第1四半期の業績は厳しくなるが、第1四半期を底とすべく業績改善に取り組んでいく。第2四半期は中小型液晶の売上げ増加などによって、回復を見込んでいる。一方で、液晶テレビは、国内では、エコポイント制度終了の反動があるほか、アナログ停波後の今年後半は厳しくなるだろう。だが、中国や新興国の海外市場は引き続き堅調な成長が続き、新興国向けの中小型サイズの液晶テレビの事業拡大、北米、中国における60型以上の大型液晶テレビの投入による新市場創出に取り組む。携帯電話においては、昨年度に投入したスマートフォンが注目を集め、高い評価を得ている。国内携帯電話市場では、海外メーカーが参入し、既存の携帯電話の販売が減少するなどの市場変化がみられている。海外メーカーに対抗できるグローバルスマートフォンを創出し、国内外での携帯電話市場の拡大を図る。また、液晶事業については、市場成長の鈍化によってパネル価格が下落。液晶パネル各社は収益悪化に直面している。だが、その一方で、スマートフォン、タブレット端末向けの中小型高精細パネルへのニーズが高まっている。これらの環境変化に、柔軟に、そして迅速に対応する」とした。
液晶パネル事業については、60型以上の大型液晶テレビ向けとともに、電子黒板を含むデジタルサイネージ分野などのテレビ以外の市場に参入することに加え、スマートフォン向け、タブレット端末向けのモバイル液晶事業を強化するという2つの切り口から液晶の事業構造変化に取り組むとし、亀山工場における中小型液晶パネルを中心とした生産体制への再編、グリーンフロント堺における60型以上の大型液晶パネルの生産量の引き上げなどについて改めて説明した。
■ 液晶事業や堺の津波対策、ヒット製品の創出などについて質問
株主総会では、午前10時45分過ぎから株主の質問を受け付けた。
「量販店店頭では、亀山モデルよりも、ソニーやパナソニックのテレビの方が評価が高い。シャープの液晶テレビでは、人の顔を映した時に肌色がペタっとしてしまう点を改善してほしい」という質問に対しては、片山社長が回答。「開発陣は、クアトロンを開発したのに加えて、コントラストをあげることにも努力をしているが、今後、消費者目線によるテレビに仕上げることを約束する。シャープは、亀山モデルによる液晶テレビ事業で会社を成長させたが、世界的にみると厳しい状況のなかに追い込まれている。株価が伸びないのは、大型液晶テレビの収益悪化であることは承知している。大型液晶は大きく流れが変わっていることを認識しており、液晶の構造改革を短期間にやり遂げ、7月以降の収益改善を図る」と応じた。
液晶テレビが赤字となり、世界的な過剰投資となっているのではないかとの指摘については、「世界中のパネルの生産能力をあわせると、需要よりも20%も多いため、世界中のパネルメーカーが大赤字となっている。だが、シャープは、液晶テレビ事業では黒字を確保している。生き残るには、オンリーワンのテレビを作らなければいけない。現在では北米、中国、欧州向けには、大型の液晶テレビだけを売りにいっていおり、黒字の可能性が出てくる。こうした取り組みがなければ、液晶事業は統廃合されることになるだろう。一方で、いま中小型液晶にはとんでもない大きな波が訪れ、世界の企業がシャープに目に向けている。しかし、これも未来永劫は続かないと考えている。技術は必ず盗まれる。それに対抗するためには、新たなものを開発していかなくてはならない」とした。
また、安達俊雄副社長は、「シャープの液晶技術は世界で抜きんでた省エネ技術を持っている。いかに大型液晶で利益率を確保するかがポイントであり、コストダウンを徹底的に進めていく。一方で中小型液晶はシャープがナンバーワンシェアと技術を持っており、円高のなかでもシャープに対して強い需要がある。亀山工場では、モバイル用もテレビ用も作れるという柔軟性を維持しながら、より利益率の高い中小型液晶ビジネスを積極的に推進していく。シャープの液晶は、省エネに強い、大型に強い、中小型に強いという観点から技術を高めていく」とした。
しかし、株主からは「シャープの液晶テレビはオンリーワンといえるのか」という厳しい指摘もあり、これに対して片山社長は、「当社が2001年に液晶テレビを発売し、テレビCMで吉永小百合さんがアナログテレビを風呂敷に包んでから10年たった。この10年でほとんどの家庭に液晶テレビが入った。だが、産業も10年経てば、追いつかれ、飽和状態となり、いまの液晶テレビも同じ状況にある。しかし、いまの段階では、第10世代の液晶パネルを生産できる施設はグリーンフロント堺にしかない。他社がこれから同じものを作ろうとしていも2年後、3年後になる。他の国の企業には真似できないのがグリーンフロント堺である。米国の液晶テレビ市場において、シャープはシェアを3~4%にまで落とした。これは売っても赤字であったため、意図的に落としたものである。だが、今年4~5月は、50型以上では25%のシェア、60型以上では70%のシェアとなっている。ここは独占的ともいえる強みを発揮しており、共同出資しようと考えていたところもそれをやらなかったために困っているはずだ。ただし、これも未来永劫は続かない。いまシャープは、全社をあげて次の新しい製品を作ろうとしている。シャープが次のディスプレイを提案できたらさらに成長できると考えており、それに取り組んでいる。オンリーワンに対しては、これまで以上に固執して取り組んでいく」と語った。ただし、新たな技術については具体的には説明しなかった。
グリーンフロント堺が大阪港の湾岸部にあるために、津波の被害を懸念する質問に対しては、井淵良明副社長が回答。「東海、東南海地震によって、大阪湾岸に訪れる津波は4メートルが想定されており、この高さの2倍に当たる8.55メートルにも耐えうるように設計されている。津波がきても大丈夫である」と断言した。
さらに、パイオニアへの出資に関しては、「ブルーレイ技術において成果があがっており、この分野でナンバーワンシェアとなっているのも、この出資成果によるもの」などとした。
「GALAPAGOSが店頭で買えないことや、iPadのようなヒット商品が生まれない事態をどう捉えているか、ホームランを狙いすぎているのではないか」との質問に対しては、「毎月1回、役員が集まり、オンリーワン商品企画会議を開催している。そのなかでは、ホームラン狙いの企画があったといえるかもしれない。消費者目線に本当にあっているのか、液晶テレビ、GALAPAGOS、携帯電話についても、まさに、ガラパゴスともいわれる余計な機能をつけて、肝心な機能をつけていないということがあるのではないかという反省もある。ホームランを狙うのではなく、小さなヒットから大きなものにつなげていくということも必要だ。地道に消費者目線にあったものを作るのがシャープの良さである」として改善に取り組む姿勢をみせた。
一方、太陽電池事業については、「シャープの成長エンジンである太陽電池の時代がやっと訪れた。これまでは生産したものの90%が海外向けであり、円高によって痛い目にあった。だが、いまこそシャープががんばり、日本のなかに太陽光の発電所をつくりたい。太陽電池の性能をもっとあげ、コストダウンに取り組みたい」と片山社長が語ったほか、太陽電池事業を担当する濱野稔重副社長は、「世界的にエネルギー政策が見直されているものの、昨年11月以降には約30%ものモジュール価格が下落した。中国での生産量は2倍となっているが、その多くが欧州市場向けとされていたため、欧州でのフィードインタリフの終了によって需要が激減。在庫消化により価格が下落したものだ。だが、この価格下落によって、日射量の多い米カリフォルニアや、南欧では、電力コストは家庭用電力と同水準になったという動きも出ている」などとした。
蓄電池への取り組みについては、太田賢司副社長が回答。「家庭用蓄電池は、いまの蓄電池の技術に比べて、4~5倍の容量が必要であることや、家庭内に設置した際に安全性の問題がある。だが、家庭用に使える技術にめどがつきはじめている」などとした。
一方で、「役員に元気がない」という指摘については、株主の指名により、町田勝彦会長が回答。「リーマンショック以降、ようやく明るい兆しがみられてきたところに、東日本大震災の影響や、主力工場の停止という大事件が起きて、シャープが元気を無くした、方向性を失ったという事態が起きていたともいえる。いまは真っ暗なトンネルのなかを歩いているが、先には明るい光が見えてきた。下期から急回復するだろう。事業はそのままでは永続することはできない。変化に対応していく力がメーカーに求められている。液晶も変化に対応していかなくてはならないが、そのなかで中小型液晶においては、オンリーワンの新たな技術が生まれてきた。60型以上の大きな液晶は2年はもたないともいえるかもしれない。だからこそ、次を考えていかなくてはならない。また、太陽電池についても、再生可能エネルギーに関する法案が日本では通っていないという状況にある。だが必ずフォローの風が吹くと考えており、シャープは上昇指向に向かっていく」などとした。
また、グリーンフロント堺への株主を対象にした見学会を実施しているが、5,000人の応募に対して、抽選で100人強しか招待していない現状や、株主総会開始前に多くの株主が並び、時間通りに着席できなかった事態になったことに対して片山社長は謝罪しながら、「必ず改善を図る」とした。
なお、第1号議案の剰余金処分の件、第2号議案の役員賞与の件、第3号議案の取締役11人選任の件、第4号議案の監査役2人選任の件、第5号議案の株式の大量買付行為に関する対応プラン(買収防衛策)継続の件は、いずれも可決され、12時21分に閉会した。
(2011年 6月 23日)