ミニレビュー

イヤフォンにもMOMENTUM。国内未発表のゼンハイザー「MOMENTUM In-Ear」を聴いた

 ドイツ・ベルリンで9月5日~9月10日(現地時間)に行なわれた国際家電ショー「IFA 2014」において、ゼンハイザーがカナル型(耳栓型)イヤフォン新モデル「MOMENTUM In-Ear」を発表。これを入手することができた。まだ国内では発表されていないが、ヘッドフォンで人気の「MOMENTUM」シリーズに、イヤフォンも仲間入りするとあって、注目度の高い製品。一足先に、そのデザインや音質をチェックした。

MOMENTUM In-Ear

 「MOMENTUM In-Ear」は、IFAで現地時間の9月6日に行なわれた基調講演でAndreas Sennheiser氏とDaniel Sennheiser氏の両CEOにより発表。デザイン性の高さなどで幅広い層に人気のシリーズであり、IFAの同社ブースでも注目されていた。

 簡単にMOMENTUMシリーズについておさらいすると、'12年に第1弾のアラウンドイヤー型ヘッドフォン「MOMENTUM」が発表。'13年には、ハウジングが少し小さくなったオンイヤー型の「MOMENTUM On-Ear」も登場した。その後カラーバリエーションも追加され、日本でも人気のシリーズとなっている。ヘッドフォンは、どちらもヘッドバンド部にステンレススチールを使ったレトロな趣きと、スウェード調の「アルカンタラ」を使った高級感が特徴的。オンイヤー型を身に着けている女性を街で見かけることも少なくない。

ヘッドフォンのMOMENTUM
MOMENTUM On-Ear

 新イヤフォンの「MOMENTUM In-Ear」は、ヘッドフォンのデザインイメージとは少し異なり、ハウジングはワイングラスのような曲線と表面の光沢が目を引く。シルバーの大きな「S」のメーカーロゴをあしらっている。外装はポリカーボネートだが、ハウジングから伸びている音道“sound tunnels”に、カスタム加工されたステンレススチールを使っている。ユニットはダイナミック型。欧州での価格は99ユーロ。日本円に換算すると13,500円ほど(10月9日時点のレート)だ。

IFA 2014でMOMENTUM In-Earを紹介するAndreas Sennheiser CEO
Andreas Sennheiser氏(左)とDaniel Sennheiser氏(右)
ワインレッドのような赤色が印象的だが、カラーの名称はBLACK
内部構造

 ケーブルは、平型よりもやや丸みがある楕円形になっていて絡まりにくいのも特徴で、色はブラックとレッドが半面ずつの2トーンカラー。R側のケーブルにはリモコンマイクを備え、スマートフォン用の音楽操作や通話などに利用できる。Android用(Samsung/LG/HTC/ソニー用)と、iPhone用の2モデルを用意する。なお、ケーブルの交換はできない。

ケーブルは楕円形で、黒と赤の2トーンカラー
リモコンを備えている
ハウジングに大きな「S」のロゴ
付属するキャリングケースはセミハードタイプで、表面は手触りの良い布素材が使われている。

 一見すると、女性やエントリーユーザーを意識したデザイン優先のイヤフォンと思うかもしれないが、以前から「デザインも音質も妥協しない」と主張し続けているMOMENTUMシリーズなので、あまり先入観にはとらわれないように聴いた。再生機はウォークマンF880を主に使っている。

 装着方法は、パッケージを見ると、ケーブルの付け根の部分を下にして垂らす一般的な方法が図示されている。ケーブルを耳に掛ける、通称“Shure掛け”をしてみても装着できなくはないが、前述のsound tunnelsはハウジングから前方へ少し角度が付いている(上から見ると“く”の字のようになっている)ので、上下逆にするとハウジングやケーブルが耳たぶに少し当たる形になる。大きな支障はないが、見た目はメーカー推奨の装着の方が無難と言えそうだ。

L側のイヤフォンを下から見たところ。手触りで左右が分かるように、L側には突起が付いている
イヤーピースを外したところ
装着例

 筆者は最近、主にバランスド・アーマチュア型/3ウェイの「ATH-IM03」(オーディオテクニカ)を使っていることもあり、MOMENTUM In-Earを聴いた第一印象は「ダイナミックらしいしっかりした低域を基本に、高音のシャープさも負けずに出ている。それに比べるとボーカルなど中域はやや後ろに引いている」と感じた。

ウォークマンNW-F887に接続して聴いた

 様々なジャンルの曲を聴いてみて、最初にぴったりだと感じたのはDaft Punkの「Get Lucky feat.Pharrell Williams」。思わず体でリズムを取りたくなる、この懐かしくて新しいサウンドが、MOMENTUM In-Earだとさらに気持ち良い響きで聴くことができた。

 例えば前述のATH-IM03は、低/中/高域のバランスがフラットな音質だと思うが、Get Lucky~を同じような音量で掛けると、ボーカルの方が前に出過ぎて、“音を浴びるような感覚”から少し遠ざかってしまった。わずかな差ではあるが、この曲が好きな人にとっては印象が変わりそうな違いはある。収録アルバム「Random Access Memories」の他の曲を聴いてもやはりこのイヤフォンにぴったりだと感じられ、MOMENTUM In-Earのような音質のヘッドフォンやスピーカーでベストに聴こえるように制作されているのかもしれないと想像してしまうほど。他にも、KraftwerkやOrbital、Underworldなどの楽曲も、ボリュームを上げ気味で聴き続けたくなった。

 それ以外のジャンルでも同様のことを感じたが、同じアーティストの曲でも、静かに聴かせるバラードやアコースティックな音源よりは、アップテンポだったり、EDMっぽい方がぴったりだと感じる。アニメ・キルラキルのエンディング曲、さよならポニーテールの「新世界交響曲」なども、フラットな音質のヘッドフォンで聴くより楽しさが味わえた曲だ。また、ロックでも特にライブ盤だと残響がより豊かに感じられ、“ライブ感”が味わえた。

上から見ると、小さなポートのようなものが見える。これが低音強化に効果があるのかもしれない

 全体的に低音が強めに聴こえるため、例えば繊細な女性ボーカル曲などは、ベースやドラムの音に対して声がやや隠れてしまうような部分もあった。この低域に量感だけでなくタイトさも欲しいところではあるが、この価格以上の性能は確実に持っている。スマートフォン向けのイヤフォンなので、例えばアンプなどが弱い機種などでも物足りなく感じず聴こえるように配慮したのかもしれない。

 大まかにまとめると、ヘッドフォンのMOMENTUMと大まかには似た傾向の音質と言える。ただ、単に「低音が強いイヤフォン」と分類されるのではなく、音の迫力を増しながらも極力バランスを崩さず、音楽に没頭する気持ち良さを再発見させてくれるモデルだ。

 イヤーピースは4サイズで、半透明の素材。一般的な黒いシリコンイヤーピースよりもやや反発が強めで、耳穴に密着するため遮音性が高いと感じる。イヤーピースの音道部分は中央の仕切りで2つに分割されており、これはゴミなどが入るのを防ぐためか、あるいはデフューザーのような役割をしているかもしれない。仕切りの無い一般的なイヤーピースに替えると、高音が少し刺さるようにも感じたので、付属のイヤーピースを使うほうが聴き疲れしないだろう。

イヤーピースは4サイズ。中央の仕切りで分割されている。
イヤーピースを外したところ
パッケージ

 ケーブルには音楽再生などの操作に使えるリモコンが付いているので、この操作も試した。プラグは4極ミニで、パッケージには「Samsung GALAXY、LG、HTC、SONYや他のスマートフォン/タブレット用」と書かれており、Xperia Z1では再生/一時停止や曲送り/戻し、ボリュームのどれも問題無く使えたが、Android搭載ウォークマンのNW-F887ではいずれのボタンも使えなかった。一方、対応機種ではないがiPhone 5sで試すと、ボリュームは使えなかったが、再生/一時停止や曲送り/戻しはできた。MOMENTUM In-EarはiOS用のモデルも用意されるので、おそらくそちらではフル機能が利用できるだろう。ケーブルはやや長めの1.3m。

リモコンの背面にはマイクを備える
プラグ部は4極でL型

 その他の仕様についても簡単に説明しておくと、再生周波数帯域は15Hz~22kHz、音圧感度は118dB、インピーダンスは18Ω。ケーブルを除く重量は16g。ハウジングの見た目はメタリックな質感だが実際は軽量で、歩いてもズレたりすることは無かった。

 日本での発売についてまだ正式なアナウンスは無いが、欧州と同じくらいの価格だとすると、高過ぎず安過ぎず、ライバルが多そうなラインだ。ゼンハイザーのイヤフォンは、全体的にブラックのモデルが多いと思うが、新モデルのMOMENTUM In-Earが、ヘッドフォンのMOMENTUMのように同社イヤフォンのイメージを大きく変える製品になるかもしれない。

中林暁