レビュー
Spotifyがついに日本でスタート! 世界最大の音楽配信サービスの実力は?
2016年9月30日 07:00
ストリーミング音楽配信サービスの大本命と言える「Spotify」が、29日、ついに日本に上陸した。2008年からスウェーデンでスタートし、数年前から日本でも始まるだろうという噂はあったものの、その間にAWA、Apple Music、LINE MUSIC、Google Play Musicと新たなサービスが次々に日本で開始され(あるいは終了したものもあり)、定額制のストリーミング音楽配信も目新しさは薄れてきた。そのタイミングでのSpotifyサービス開始である。
しかし、Spotifyは遅きに失したのか、というと、そうではないかもしれない。なにより、日本で初めて“無料”での広告付きストリーミング音楽配信を実現したのだから、この点は他のサービスとは大きな違いといえるだろう。
筆者は運良くSpotify日本版のテスターとして参加する機会に恵まれ、しばらくSpotifyを使ってみたが、好きな楽曲はもちろん、自分の知らない音楽に出会うための仕組みが多数設けられ、独自性の高い試みもあって、使っていて飽きがこない。毎日新しい発見があり、常に新鮮な気持ちで音楽に接することができるのは、世界中に多くのユーザーを抱え、時間をかけてブラッシュアップされてきたおかげだろう。
今回はそんな魅力あふれるSpotifyのさわり部分を、スマートフォン版を中心に紹介しよう。なお、レビュー内容やスクリーンショットは、正式リリース前のものも含まれているため、一部の画面やコンテンツが正式版と異なる可能性があることをご了承いただきたい。また、現在は試せるのは有料のプレミアムプランのみ。無料で広告付きのフリープランについては試せていない。
SpotifyはiOS/Androidアプリが提供されるほか、Windows、Mac OS X、PlayStation 3/4に対応する。利用プランは一部機能が制限された無料のフリープラン(広告あり)と、プレミアムプラン(月額980円)の2つのコースが用意される。
選びきれないほど多彩なプレイリストと、検索手段を用意
Spotifyは、他の定額制音楽配信でも採用されているプレイリスト型のサービスとなっている。といっても、世界的にはSpotifyが他の多くのサービスより先にスタートしていたことを考えれば、他のサービスがSpotifyのプレイリスト型のスタイルを踏襲したとも言える。楽曲がテーマやジャンルでまとめられ、それを“フォロー”しておくことでいつでもすぐに聞き始めたり、楽曲の追加・変更に合わせて最新の状態のプレイリストを聞くことができるというものだ。
Spotifyのプレイリストは、収録している楽曲から運営側がチョイスして公開しているものと、ユーザーが作成して公開しているものの主に2パターンに分かれる。定額音楽配信サービスでは、このプレイリストの質やバリエーションが肝であり、差別化ポイントともなるわけだが、Spotifyでは(質は個人の好みに左右されるところもあるので別として)、少なくともバリエーションの面では充実度が非常に高いと感じる。
まず、人気のある(フォローユーザーの多い)プレイリストを一覧する「人気プレイリスト」、アーティストごとの新着楽曲を聞ける「ニューリリース」のほか、全世界や各国で聞かれているトップ50の楽曲をまとめた「チャート」、ユーザーの聞いた履歴などから分析したおすすめアルバムを表示する「ディスカバー」などの機能がある。
さらに、ポップ、ロック、カントリー、ゲーム、キッズといった音楽ジャンルごとに分類されたプレイリストに加え、ムード、ロマンス、ディナー、ランニングなど、その場の雰囲気やシチュエーションに合わせて選べるプレイリストカテゴリーが30種類以上も用意されている。
プレイリストはそのまま再生してもいいし、シャッフルしたり、プレイリストに含まれる楽曲のうち気になるもの1つを選んで再生してもOK。再生待ち状態にあるプレイリストの楽曲再生順を、自ら編集してしまうこともできる。指定した楽曲が含まれるアルバムへジャンプしたり、そのアーティストの他作品を一覧できる画面にも一発でアクセスできるので、どんどん深掘りしていって好みの曲やアーティストを見つけることも可能だ。
もう1つの面白いプレイリスト検索機能が、スマートフォンに搭載されている「ランニング」機能だ。ランニング専用のプレイリストが用意されており、最初にそのなかからタイミングや気分に合うものを選び、端末を持って走り出すことで、走行リズムを自動検出し、そのリズムに合う楽曲を自動で検索してくれる。
あくまでも特定のリズム(1分間当たり140~190歩の範囲)に合う楽曲を提示するもので、その後のランニングのペースを自動で検出しながら再生楽曲を変える、といったような機能はないが、日常のあらゆる場面で音楽と付き合っていける工夫の1つと言えるだろう。
その他、キーワード検索で直接アーティストやアルバム、楽曲を探し出して聞くこともでき、見つけたアルバム、楽曲は自分で作成したプレイリストに登録していつでも呼び出せる。このプレイリストは他のユーザーにも公開することができ、選曲によってはたくさんのフォローが集まる人気プレイリストになる可能性もあるだろう。また、「コラボ」設定を行ない、他のユーザーが自分のプレイリストの編集に参加できるよう設定しておくことも可能だ。
ちなみに、日本のユーザーにとっては重要性の高い邦楽、アニソンなどは、プレイリストのカテゴリーとして目立つところに出てくることは少ないものの、キーワード検索すればかなりの確率でヒットした。他の定額音楽配信サービスと同等かそれ以上に邦楽をしっかり用意してきていると感じた。
オフライン再生はSDカード保存にも対応
スマートフォンのSpotifyアプリでは、ストリーミング再生だけでなく、ローカルにダウンロードすることによるオフライン再生にも対応する。気に入ったプレイリストやアルバムを見つけたら、サブメニューから「ダウンロード」を選べば即座にダウンロードが開始し、楽曲単体はいったんサブメニューから「保存」するか自分のプレイリストに追加して、その後メインメニューにある「My Music」の楽曲一覧画面で「ダウンロード」スイッチをオンにするだけでダウンロードがスタートする。
一覧にある楽曲は全て一括でダウンロードするため、1曲ずつ手間をかけてダウンロードを指示する必要はない。また、「ダウンロード」スイッチをオンにしたままであれば、その後楽曲単体を「保存」した瞬間にダウンロードが始まる。自宅のWi-Fi環境でストリーミング再生していて、その後すぐに出かけたい、といった場面でも、端末にすばやくダウンロードして外出中はオフラインで楽しむ、という使い方が簡単にできるだろう。
なお、音質はストリーミング、ダウンロードともに「標準音質・高音質・最高音質」の3段階から選択でき、保存先は内蔵メモリとSDカード(Android版のみ)のいずれかを指定可能。
端末に保存される楽曲ファイルは容易に取り出せないよう分割されるようで、正確なビットレートは分からなかったが、参考までにパケットキャプチャしてダウンロードサイズから推測したところでは、標準音質が60kbps前後、高音質が160kbps前後、最高音質が400kbps前後(最高音質のビットレートは320kbpsとアナウンスされている)だった。他の通信データも含まれている可能性があるため、大きめの数字になっているかもしれない点、ご注意いただきたい。
SpotifyがPCとスマートフォンのさまざまな環境に対応していることは冒頭で触れたが、それらの端末間で相互に連携可能になっているのもポイント。同じLAN内に接続している状態であれば、「デバイスに接続」機能を利用することで、他の端末での再生状況を確認できるほか、楽曲を別の環境で再生するように指示できる。
例えばPCで楽曲再生中に外出しなければならなくなった時、PCアプリケーション側もしくはスマートフォンアプリ側から、スマートフォンで再生を引き継げる。その後外出先から帰宅したら、逆にスマートフォンからPCに再生を引き継ぐことができる。もしくは自宅で、就寝前にリビングで聞いていた音楽をそのまま寝室へ移行するといった使い方もできそうだ。
一般的になった音楽配信に新しい風を吹き込めるか
PCもスマートフォンも、Spotifyアプリではローカルの音楽ファイルの取り込みも可能で、購入した既存の楽曲をSpotifyの配信楽曲と混在させるような形で再生、管理することもできる。
数多く用意されたプレイリストの検索手段や、ランニングペースから楽曲を検索する機能、ダウンロード再生への対応、端末間の相互連携など、こうしたさまざまな機能を見てみると、Spotifyはやはり日常からそうでない場面まで、あらゆる生活の範囲内に音楽を持ち込んで、ひたすら音楽と付き合える、といったようなコンセプトを実現させようとしているのではないかと感じる。
Spotifyが海外でリリースされ日本に上陸するまでにかなりの間が空き、その間に競合サービスが増えたこともあり、“目新しさ”を感じない人もいるかもしれない。しかし、Spotifyを使ってみると、音楽に新しい風を吹き込み、かき回す、新鮮さや面白さが実感できる。