レビュー

ヤマハ、10年ぶり新デザインAVアンプは“中も別物”。ゲームも最高な新世代機

「お、なんか今までと違う」と感じたアナタ、AVアンプに詳しいですね。「ピュアオーディオのアンプみたい」と思ったアナタ、マニアですな。何かというと、ヤマハから10月中旬に登場する7.2ch AVアンプ「RX-V6A」のデザインの話。なんと、10年ぶりとなる外観一新だ。“顔が変わっただけ”ならさほど面白くない。だが、顔どころか、中身も音も激変している。「AVアンプっぽくないな」という予感が良い意味で的中する、音楽配信から最新ゲーム機まで対応する“新時代アンプ”に進化した。それでいて価格は65,000円という、要注目モデルだ。

10年ぶりのデザイン変更、極限までシンプルに

「中身も音も激変」なのだが、まずは外観からチェック。なんといっても目を惹くのは、ボタンやツマミが全然なく、シンプルで美しい黒い鏡面仕上げの前面パネル。ヤマハのフラッグシップスピーカーや、ピアノを連想させるような“艶っぽい黒さ”で、シンプルゆえに奥深いデザインになっている。

中央に大きなボリュームノブ

AVアンプというと、どうしてもボタンやツマミがズラッと並び、「ドルビーなんとかかんとか」とか「バーチャルうんたらかんたら」みたいなロゴがいっぱい並んで、マニアは「高機能っぽくてグッとくる」けど、AV機器に詳しくない人は「どこを触っていいかわからない」と戸惑うデザインが一般的だった。それとは真逆の、かなり挑戦的なデザインだ。

角にはRがついている

「ピュアオーディオのアンプみたい」と感じるのは、大きなボリュームノブが中央に配置されているからだ。このデザインは、2chのピュアオーディオアンプに多い。オーディオマニア的に“グッとくる配置”と言えるだろう。

デザインが大幅に変更された理由は、AVアンプを設置する環境や、使い方が変化したためだ。現在、テレビのまわりにあるインテリアのデザインはシンプル志向になっており、そうした空間に“ゴテゴテ”したAVアンプは似合わないというわけだ。

また、ネットワーク再生など、スマホやタブレットを使ってアンプを操作するスタイルが一般化。以前よりも、AVアンプ本体に触れてあれこれ操作する事が少なくなった。これも、本体からボタンが消え、シンプルなデザインになった理由の1つだ。

一方で、進化したところがある。ボリュームノブの向かって右側にあるディスプレイだ。これが、高解像度なフルドット液晶になり、日本語表示にも対応した。例えば、ネットワーク再生で音楽を流すと、曲名やアーティスト名がしっかり日本語で流れる。また、表示の自由度が高いため、ボリューム操作をしたり、入力切替をすると、ボリューム値や入力端子名の文字が大きく見やすく表示され、しばらくすると元に戻る。わかりやすく、かつ安心して操作できるようになった。

ディスプレイは高解像度なフルドット液晶になり、日本語表示にも対応

それにしても、前面や天面は驚くほどシンプル。社名や型番などは書かれているが、対応フォーマットのロゴなどはまったく無い。いろんな角度から見たところ、背後にHDMIのロゴは入っていたが、本当にそのくらいだ。考えてみると、ロゴマークは“売り場で目立つ”とか“機能がわかる”意味はあるだろうが、購入後は別になくても構わない。とはいえ、ここまで割り切ったデザインにするのは勇気が必要だったことだろう。

細部を見てもロゴがない
背面にまわったらようやくHDMIロゴを発見

4K/120p映像や次世代ゲーム機も見据えた性能

HDMI端子は7入力1出力を搭載している。注目は、HDMI 2.1をサポートし、ファームウェアのアップデート後の対応となるが、4K/120p映像もパススルーできる事。

HDMI端子部分

つまり、PlayStation 5のような次世代ゲーム機が登場した場合でも、その高解像度+ハイフレームレートな映像に対応できるわけだ。ゲーム機とテレビの間に挟むように接続するAVアンプは、仕様が古いと、そこがボトルネックになり、ソース機器(ここではゲーム機)の映像をそのまま表示できないわけだ。

「まだPS5持ってないし」と言われそうだが、仕様的に“すぐチープ”にならないというのがポイントだ。末永く使うためにも、最新のフォーマットに対応したRX-V6Aのようなアンプを選ぶといい。

解像度とフレームレートだけでなく、HDR映像も、ファームウェアのアップデートによりダイナミックHDRのHDR10+をサポート予定。ロスレス音声やオブジェクトオーディオも伝送できるeARCにも対応している。こうした部分も最新仕様だ。

もう1つの注目は、HDMI 2.1の新機能である「ALLM(Auto Low Latency Mode)」、「VRR(Variable Refresh Rate)」、「QFT(Quick Frame Transport)」、「QMS(Quick Media Switching)」にも、ファームアップで対応する事。

ALLMは「自動遅延モード」で、理想的な遅延設定を自動で行なう機能。VRRは「可変リフレッシュレート」で、レイテンシーが重要となるシビアなゲーム向けに、ラグ、スタッター、フレームティアリングといった機能を低減、もしくはスルーする機能だ。「QMS」は、ソース機器の切替時などに映像がすぐ出力されるもので、これは多くの人が恩恵を受ける機能と言えるだろう。「QFT」も、遅延を軽減するものだが、VRゲームなどを想定したものだ。

これらは要するに、最新ゲーム機やVRなどと組み合わせた時に、画面のブラックアウトや表示の乱れを抑えたり、素早いコンテンツの切り替えを可能にしたり、レイテンシーの低減などを可能とする機能、というわけだ。

機能面でもう1つ、地味だが重要な部分がある。それはHDMI出力端子の、電源供給能力が従来の150mAから300mAへと強化された事。AV機器に詳しい人であれば、データ量の多い高解像度・ハイフレームレートな映像を、HDMIケーブルで長距離伝送すると、信号が減衰したり、うまく届かない問題が起きる事をご存知だろう。

そういった時は、信号を減衰させずに高速伝送できるアクティブケーブルの出番だ。そうしたケーブルは、外部からの電源供給が必要となるが、このAVアンプではHDMI出力からの電源供給能力を高める事で、そうした外部電源が不要になるというわけだ。

例えば、天井に設置したプロジェクターまで、10mなど、長いHDMIケーブルを使わなければいけない……といった時に、威力を発揮する。

内部もまったく新しく、音質面も大幅進化

音声面の仕様もチェックしよう。6万円台のリーズナブルなモデルだが、デコーダーとしてはオブジェクトオーディオのDolby Atmos、DTS:Xまで対応する。Dolby Atmos Height Virtualizerにもファームアップで対応予定で、ハイトスピーカーを設置していない環境でも、高さ方向を含めた没入感の高い音場を仮想的に再生できる。

ヤマハのAVアンプ最大の特徴と言える、独自の音場創生技術「シネマDSP」も、もちろん搭載している。映画や音楽、テレビ、ゲームなど、様々なソースに合わせて最適化した17種類のサラウンドプログラムが利用可能だ。このあたりは、従来のモデルから踏襲した魅力と言えるだろう。

シネマDSP、音場プログラムの「MOVIE」から「Drama」を選んだところ

なお、V6Aは7.2chアンプなので、内蔵パワーアンプの2ch分をフロントプレゼンススピーカー、もしくはサラウンドバックスピーカーに割り当てるアサイン機能を使い、実物のプレゼンススピーカーを使った「シネマDSP(3Dモード)」再生も可能だ。

外からは見えないが、内部の基板なども激変している。毎年新製品が登場するAVアンプは、前のモデルを改良し、改良しと、進化していくものだが、今回は電源部や内部ワイヤリング、プリント基板パターンなどの回路設計を全て刷新した。つまり“どこが変わった”、というレベルではなく、これまでのノウハウを用いながら、一から作り直し、“全部新しくなった”わけだ。

その際に、アンプ回路を再設計。従来モデルと比べ、スルーレートをなんと約2倍に改善している。これはフラッグシップのセパレートアンプ「MX-A5200」と同等のスルーレートだ。

ハイスルーレートになると、信号の追従性が高まり、特にハイレゾソースなどの高周波を含む音楽信号の再現性が向上する。しかし、一般的にハイスルーレートアンプでは信号伝送が不安定になる。RX-V6Aでは、新しい設計回路により、ハイスルーレートでも安定した信号伝送を実現したという。

DACは、ヤマハのHi-Fiプリメインアンプにも使われている2ch仕様のバーブラウン、384kHz/32bit DACを4基搭載したリッチな仕様だ。アナログ/デジタルを完全分離したパワーサプライの採用などにより、SN感に優れた空間表現が可能になった。

アプリまわりも整理された。初期設定用アプリとして「AV Setup Guide」を用意しており、機器の接続や機能設定などをガイドしてくれる。

普段使うのは、ネットワーク音楽再生の「MusicCast」アプリにまとめられた。今までは、再生する楽曲を選んだり再生操作するためのアプリで、AVアンプの設定変更は「AV CONTROLLER」を使っていたが、今回からはMusicCastアプリから、AVアンプの操作・設定変更もできるようになった。2つのアプリを使い分ける必要がなくなったのは、わかりやすくて便利だ。

ネットワーク音楽再生の「MusicCast」アプリから、AVアンプの設定変更などもできるようになった

音を聴いてみる

まずはベーシックに、2chの音をCDでチェックしてみよう。ヘルゲ・リエンのJAZZ「スパイラル・サークル」から「Take Five」を再生。

冒頭、ドラムが自由に乱舞するが、音が出た瞬間に感じるのは“キレの良さ”だ。こうしたハイスピードで、トランジェントが求められる曲は、アンプにとって鳴らしにくい相手だ。しかし、シンバルがバシャンと鮮烈に鳴り、スッと音が消える様子が、非常にスピーディーで、キレ良く、クッキリと描写してみせる。

低域も分解能が高く、ベースのうねりが、団子のようにかたまらず、しっかり描写として見える。細かな音まで聴き取りやすく、それでいて、輪郭を強調したような不自然さ、キツさは無く、高域には情感豊かな質感も感じられる。

音楽の美味しさが味わえつつ、情報量もしっかり耳に入る。聴いていて非常に気持ちの良い音だ。

映像ソフトのマルチチャンネルも聴いてみよう。ノラ・ジョーンズが、ロンドンの名門ジャズ・クラブ=ロニー・スコッツで行なったライヴを収録した「ライヴ・アット・ロニー・スコッツ」から、「キャリー・オン」を再生する。

このジャズ・クラブは空間としてそれほど広くないのだが、密度感のある、エネルギッシュな音がグワッと押し寄せる迫力が、RX-V6Aではしっかり再生できている。「意外に天井が低いんだな」と、実際のライブハウスに入ったようなリアルさがある。

それでいて、ピアノとその奥にあるベースの位置関係など、空間の描写には精密さもある。この音場のリアルな描き方、そこに定位する音像の安定感などは、上位機のAVENTAGEシリーズを彷彿とさせるクオリティだ。

続いてお馴染み、「グレイテスト・ショーマン」の冒頭。タップダンスの迫力、コーラスの盛り上がりなどが最高にカッコいいシーンだが、マルチチャンネルならではの周囲から押し寄せてくるような中低域の密度、そして分解能のある低域の迫力も確認できた。

AVアンプでゲームすると迫力がヤバい

外観的にも、内部的にも、RX-V6Aは新しい時代のAVアンプだ。音楽CDや映像メディアも良いが、ゲーム機への対応も強化されているので、PS4でゲームしてみたら、どんな感じだろうか? トップチャンネルに2つ加えた状態で、シネマDSPの「ENTERTAINMENT」から「Action Game」を選択。PS4の「Battlefield V」や「モンスターハンターワールド:アイスボーン」などをプレイしてみた。

最近のゲームは、本物と見紛うほどの映像クオリティだが、実は音も凄い。Battlefield Vなどは、ほとんどハリウッドの実写戦争映画を見ているようなものだ。AVアンプでサラウンド再生すると、周囲で突撃する兵士達の叫び声、遥か上空で炸裂する高射砲のドンドンという響き、一気に戦場へと放り出される。

壮大な戦闘空間が広がるのだが、それでいて、自分の足音や、すぐ近くで燃えている家の、木が「パチパチ」と爆ぜる小さな音などもリアルに聴き取れる。この“本物っぽさ”がヤバい。

耳をかすめて飛び交う銃弾、手榴弾が炸裂する音、遠くから聴こえる敵兵の断末魔など、リアルを通り越してもう“怖い”。テレビ内蔵スピーカーのしょぼい音なら、鼻歌まじりにプレイできるが、部屋が戦場にワープしたようなサラウンドだと、没入しすぎて戦うのが怖くなって物陰にかくれて体育座りしたくなる。まるで違うゲームをプレイしているかのようだ。

これを一度体験してしまうと、「同じお金払ってゲーム買ったのに、こりゃサラウンドでしっかり再生しないともったいない」と感じるようになる。

モンハンのような「狩りゲー」も面白い。屋外を走る時に、草原を吹き抜ける風の音、拠点に戻った時の足元の木の板の音、荷物を持ち上げるチェーンのキュラキュラという金属が、自分のキャラクター操作に従い、リアルに音場の中を移動していく。自分の操作と、音像の位置がリアルタイムに連動するので、ある意味、映画よりもリアルだ。

巨大モンスターとのバトルで、強烈な一撃を喰らい、半泣きで逃げる時も、背後からモンスターの叫び声や、足音が迫ってきて凄い。慣れてくると、音だけで“どの方向から来るのか”“どのくらいの距離があるのか”がわかる。そのため、モンスターの姿が見えていなくても、音だけを頼りに、攻撃を避けたりできるようになる。なんだか腕前も上がったような気がして楽しい。

背面にFire TV Sticを接続

イマドキのソースとして、映像配信サービスも体験しよう。アンプ背後のHDMI入力に、AmazonのFire TV Stickを挿し、Amazon Prime Videoから、オリジナル刑事ドラマの「ボッシュ」を再生してみた。

もともとサラウンドで作られた作品なので、広がるBGM、明瞭なセリフの定位など、音声クオリティは高い。連続ドラマだが、ほとんど映画クオリティだ。

カーチェイスや銃弾が乱れ飛ぶような派手な作品ではないが、重厚なBGMと緊迫したSEが、グッと胸に迫ってくる。声の響き方などで、そのシーンの部屋の広さがなんとなくわかる。ドラマの世界への没入感も高くなるので、一度体験すると、やはりサラウンドで再生しないともったいなく感じてしまう。

スポーツライブ配信のDAZNで、サッカーのチャンピオンズリーグも見てみた。映像は当然だが、音からも、スタジアムの広さや、吹き抜け構造によって音がスッと空に消えていくような感覚が伝わってくる。

現在は新型コロナウイルスの影響で無観客試合となっており、観客の声援も無い。しかし、盛り上げるための工夫として、ゴールした時などには、バーチャルの歓声が挿入されている。ただ、本物の観客の歓声と違い、「ワーッ!!」という声が空間いっぱいに広がらず、中央にカキワリっぽく定位するのがわかる。リアルな歓声の再現という面ではダメなのだが、「本物の歓声と、こう違うんだ」というのがバッチリわかって面白い。

また、リアルな歓声が存在せず、“静か”な事で、選手がボールを蹴った時の「ボッ」という音や、素晴らしいプレーが出た時に、スタッフらが「おぉ」と、どよめく小さな声が聴き取れるのも楽しい。

映像、音楽、ゲームまで網羅する新世代アンプ

AVアンプというと、どうしても「Blu-rayを再生してホームシアターでいっぱいのスピーカーをドライブして……」というイメージがあるが、RX-V6Aを使っていると「もう、そういうイメージは古いのかな」という気がしてくる。

トランジェントの良いサウンドは、2chアンプとしても高い実力があり、スピーカーが2chしかない環境で使っても満足度は高いはずだ。単体でネットワークミュージックプレーヤーとしても使え、HDMI入力も豊富に備えているので、「音楽をピュアオーディオのように再生しつつ、テレビや映像配信の音もリッチに楽しめる新しいアンプ」というのが、RX-V6Aの実像に近いだろう。

そこに、最新ゲーム機への対応という要素も追加される。いわゆる“巣ごもり”でゲームを楽しむ人も増えていると思うが、本格的なアンプ+2chスピーカーで遊ぶゲームの音は、テレビ内蔵スピーカーと次元を超える迫力で、これはぜひ一度体験して欲しい。さらにマルチチャンネルスピーカーがあれば、全身を包み込まれるサラウンドと、自分の操作で音像がグルグルと移動するリアルさで、ゲームの魅力が何倍にもアップする。「映画はあまり見ないけど、ゲームはサラウンドで毎日バリバリ楽しむ」なんて使い方をする人も、このアンプではアリだろう。

「気になるけどちょっと予算が……」という人は、10月下旬発売の5.2chモデル「RX-V4A」(45,000円)も検討しよう。オブジェクトオーディオのDolby Atmos、DTS:Xには非対応だが、新デザインや4K映像のパススルー、アンプのスルーレート大幅改善などの進化点はRX-V6Aと同じ。サウンドはV6Aが「広大な音場、ワイドレンジ」であるのに対し、V4Aは「エネルギッシュかつ聴き心地のよい音」という傾向だ。

5.2chモデル「RX-V4A」

どちらのモデルも、スマホやタブレットからの操作もわかりやすくなり、フロントデザインもシンプルになった。今までAVアンプに対して「とっつきにくいな」とか「なんか大げさだな」と感じていた人も、これを機に「家の中のエンタメを、まるごと集約してすごい音で楽しませてくれるアンプ」として注目して欲しい。外観から感じる“新しさ”を、音でもしっかりと体現した、頼れる新世代アンプだ。

 (協力:ヤマハ)

山崎健太郎