レビュー

まさかのHDMI搭載、デノン山内氏がガチで作ったネットワークプレーヤー「DNP-2000NE」

DNP-2000NE

「CDで聴いてた曲を音楽配信で聴くと印象が違う」という経験はないだろうか。再生する機器によって音も違うのだが、個人的にピュアオーディオのネットワークプレーヤーや、AVアンプのネットワーク再生機能で聴くと、どうも音楽に“ノレない”事が多く、結局CDを引っ張り出して聴く……みたいな事もあった。

そんな折、デノンから「新しいネットワークプレーヤーを発売する」という情報が。AV Watch読者にはもうお馴染み、サウンドマスターの山内慎一氏が気合を入れて開発したモデルだという。これは気になる。さっそくデノンの試聴室に行ってみた。

結論から先に言うと、「気になる」どころか、今までに聴いたことがない音のネットワークプレーヤー「DNP-2000NE」(275,000円/6月中旬発売)がそこにあった。そしてこのDNP-2000NE、音が良いだけでなく、“ピュアオーディオとAVの融合”や“オーディオシステムを家族で使えるようにする”という面でも、かなり革新的な製品だった。

グラファイトシルバーを用意した理由

山内氏の肩書き“サウンドマスター”は、アンプやプレーヤー、イヤフォンなど、様々な製品の開発段階から関わり、その音をチェックし、チューニングし、クオリティを高めていく役割。最終的に山内氏が「これでOK」と太鼓判を押した製品しか世に出てこない。簡単に言えばデノンの“音の門番”だ。

サウンドマスターの山内慎一氏

そんな山内氏はもともと、レコードを精密にトレースしていくターンテーブルの美しさを見て、オーディオに興味を持ったという。また、デノン入社後はHi-Fi製品のなかでも、主にプレーヤーを手がけており、プレーヤーに対する想いは人一倍強い。そんな山内氏が単品のネットワークプレーヤーとして作り込んだのが、DNP-2000NEというわけだ。

このDNP-2000NEには、大きく3つの特徴がある。

1つ目は“音へのこだわり”、2つ目は“グラファイトシルバーモデルがある”、3つ目は“HDMIの搭載”だ。

DNP-2000NEプレミアムシルバー
DNP-2000NEグラファイトシルバー

「グラファイトシルバーって、単にカラーバリエーションがあるだけでしょ?」と思われるかもしれないが、このグラファイトシルバーには特別な意味がある。現在のデノンHi-Fi機器のカラーは基本的にプレミアムシルバーのみで、DNP-2000NEにもプレミアムシルバーモデルがある。

グラファイト・シルバーを採用しているのは2020年に登場した創立110周年記念モデルのプリメインアンプ「PMA-A110」(393,800円)、SACDプレーヤー「DCD-A110」(336,600円)、AVアンプ「AVC-A110」(748,000円)だけだ。

110周年記念モデルのプリメインアンプ「PMA-A110」もグラファイトシルバー

110周年記念モデルは、いずれも音質・機能の両方でかなり気合が入ったモデルだが、ラインナップにネットワークプレーヤーは存在しなかった。ただ、デノンとしても、ストリーミングサービスは、次世代のオーディオソースとして重要なものと考えていたため、2年以上の月日をかけて今回のDNP-2000NEを開発。110周年モデルではないものの、“110周年モデルの橋渡しにもなるように”と、グラファイトシルバーが用意された。つまり、30万円以上するA110シリーズと組み合わせても“見劣りしないプレーヤー”として、DNP-2000NEが作られたというわけだ。

HDMI入力でテレビと連携

3つ目の特徴は“HDMIを搭載している事”だ。DNP-2000NEはネットワークプレーヤーとしてAmazon Music HDやAWA、Spotifyなどが再生できるほか、PCとUSB接続して、USB DACとしても使える。さらに、デノンHi-Fiオーディオコンポとしては初めてHDMI端子を装備し、HDMI ARCに対応している。

背面。HDMI ARC端子を備えている

つまり、対応するテレビとHDMIケーブルで接続すると、テレビ放送の音声をDNP-2000NEから再生できる。テレビがHDMI CECに対応していれば、テレビとの電源連動、入力ソースの自動切り替えも可能。

さらに、アナログ出力に可変出力と固定出力の2種類を備えているので、可変出力の音量をテレビのリモコンから操作できる。さらに、デノンのIRコントロールにも対応しているので、デノンの対応アンプとIRケーブルで接続しておけば、固定出力の接続でもアンプの電源連携が可能だ。

アナログ出力に、可変出力と固定出力の2種類がある
テレビのリモコンから、DNP-2000NEの可変出力を調整できる
PMA-A110とIRケーブルでも接続しておけば……
テレビの電源を入れるとDNP-2000NEが起動し、PMA-A110も起動、入力もDNP-2000NEに切り替わる

単に、“ピュアオーディオのシステムで、テレビの音も楽しめるようになる”というメリットに加え、“簡単な操作であればテレビのリモコンから可能になる”というのも大きなポイントだ。

例えばリビングにピュアオーディオシステムを設置している場合、「操作が難しいので、お父さんがいない時はオーディオ機器の電源はOFFで、家族はテレビ内蔵スピーカーの音を聞いている」なんてパターンはよくある。しかし、テレビとDNP-2000NE、オーディオシステムが連携すれば、家族がテレビのリモコンだけで、気軽にオーディオシステムからのハイクオリティな音を楽しめるようになる。つまり、オーディオ機器の使用頻度を飛躍的に向上させる可能性もあるわけだ。

SX1 LIMITED譲りのカスタムパーツをふんだんに搭載

音質に関する部分を見ていこう。

ネットワークプレーヤーなので、デジタル信号処理が肝となるが、そこにデノンのアナログ波形再現技術の最上位バージョンの「Ultra AL32 Processing」を搭載している。

内部基板
Ultra AL32 Processing

これは、入力したPCM信号を、独自のビット拡張、データ補間アルゴリズムを使い、最大1.536MHzへアップサンプリング、ビット深度も32bitへと拡張するもの。これにより、デジタル信号から、“本来そうだったであろうアナログ波形”を再現している。

Ultra AL32 Processingで拡張・補間したデジタルデータをアナログ変換するDAC部分には、110周年のディスクプレーヤーである「DCD-A110」と同様、4基のDACチップを使った“Quad-DAC”構成を採用。

ESSの32bitDAC「ES9018K2M」を、左右チャンネルにそれぞれ2基(4ch)ずつ、計4基(8ch)使っている。Ultra AL32 Processingでアップサンプリングされた1.536MHzの信号を、半分の768kHzに分割し、2基の差動電流出力型DACに入力。片チャンネルあたり4chのDACを用いる並列構成で、4倍の電流出力が得られ、6dBものSN比向上を実現。エネルギッシュなサウンドになるという。

片チャンネルあたり4chのDACを用いる並列構成で、SN比を高めている

さらに、DACチップ後のI/V変換部分には、OPアンプを使わず、山内氏が厳選した高音質パーツやSX1 LIMITED EDITION譲りのカスタムパーツをふんだんに採用したフルディスクリート回路を使っている。実際に基板内部を見ると、山内氏がパーツメーカーと共同で作り上げたコンデンサーなどが沢山配置されているのが見える。上級機専用だった最高級のPPSC-Xコンデンサーもアナログオーディオ出力回路に使っているそうだ。

DACチップ後のI/V変換部分はディスクリート構成
肌色の細長いパーツ(PPSC-X)など、SX1 LIMITED EDITION譲りのカスタムパーツがふんだんに使われている
DCD-SX1 LIMITED(891,000円)

さらに、定電流ノイズで電子性能が高いMELF抵抗を、オーディオ回路やオーディオ用電源回路、ポストフィルターなどの重要な回路に採用している。

また、回路の動作基準となるクロック信号の精度を最優先するために、DACの近傍にクロック発振器を配置する「DACマスタークロックデザイン」を設計に採用。DACをマスター、周辺回路をスレーブとしてクロック供給を行なうことで、D/A変換の精度を高めている。もちろん、44.1kHz系と48kHz系で個別の超低位相雑音クロック発振器を採用。ジッターリデューサーで、ジッターも抑制している。

PCやテレビとも接続するプレーヤーなので、そこからノイズが流入しないように、デジタル・アイソレーターも搭載。デジタル回路とアナログ回路の電気的な結合を遮断する事で、ノイズを含まないクリーンな音声信号のみを伝送するようになっている。

デジタル・アイソレーターでデジタル回路とアナログ回路の電気的な結合を遮断。ノイズの影響を抑えている

USB DACとしては、384kHz/32bitまでのPCMと、11.2MHzまでのDSDに対応。ジッターの多いPC側のクロックは使わず、DNP-2000NEの超低位相雑音クロック発振器を使うアシンクロナスモードにも対応。192kHz/24bitまでに対応する光デジタル入力×2系統、同軸デジタル入力×1系統、さらに光と同軸のデジタル出力も供えているので、単体DACとしても使用できる。

余談だが、内部を見るとヘッドフォンアンプの基板も大きく、高性能オペアンプやオーディオグレードのコンデンサー、MELF抵抗などが使われているのがわかる。ハインピーダンスなヘッドフォンも駆動できるよう、3段階のゲイン切り替えも備えている。スピーカーを使わず、ヘッドフォンメインで楽しみたいという人にもマッチするだろう。

ヘッドフォンアンプの基板も大きく、豪華なパーツが使われている

ネットワークプレーヤーでも“美味しい”音

では音を聴いてみよう。まずはNASに保存したハイレゾファイルを中心に、アンプは110周年モデルの「PMA-A110」、スピーカーはB&W「802 D3」を組み合わせている。

女性アーティストBiaの、ビートルズカバー「ゴールデン・スランバー」を再生。アコースティックギターとハーモニカのシンプルな伴奏でスタートし、Biaのボーカルが入って来るのだが、ギターの音が聴こえた瞬間に「おっほー」と謎の声が出て思わずニヤけてしまう。

音楽が展開する空間が広大で、そこに制約から解き放たれたように音が気持ちよく舞い踊る様子は、山内氏が目指す「Vivid&Spaciousなサウンド」でお馴染みのもの。その特徴が、ネットワークプレーヤーのDNP-2000NEでも存分に発揮されている。

だが、ニヤけてしまった理由はそれだけではない。ギターの筐体で増幅された分厚い中低域や、Biaの“お腹から出ている声の低い部分”が、グッと力強く、エネルギッシュにこちらに押し寄せてくる。

ストラヴィンスキーの「春の祭典 第1部:大地礼賛 2.春の兆しと乙女たちの踊り/アンドレア・バッティストーニ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団」を聴いても、目の前にオーケストラがブワッと出現し、部屋の壁が存在しないかのように音が広大に広がるのだが、それだけでなく、個々の楽器の音がパワフルに存在感を発揮し、聴いているこちらにグイグイと迫ってくる。

聴いていると、無意識に体が動いてしまう。音楽の美味しい部分が“しっかり美味しく味わえる”のだ。今までのネットワークプレーヤーは、情報量が多いが、どちらかというとサッパリとした音で、音場も立体感に乏しく、個々の音にも元気がなかった。そのため、「解像度は高くて、細かい音は良くわかるよね」と言いながら、あんまり聴いていて楽しくなかった。しかし、DNP-2000NEの音はまったく違う。厚みのある音にパンチを食らうような、オーディオ的な楽しさに満ちている。

山内氏も、「ディスクプレーヤーの、厚みや奥行きがある、ある意味“完成された音”に対して、ネットワークプレーヤーは奥行きが乏しく、平坦なサウンドだったという面はあると思います」という。それを打破するため、約2年をかけて、音質検討を10回以上繰り返し、完成させた。その過程には、ディスクプレーヤーで培ったノウハウも活用したという。

気になるのは、DACチップがデノンのHi-Fi機器でよく使われているTI製ではなく、ESSのDACになっている事。山内氏によれば、「開発当初はTIのPCM1795を使うつもりでしたが、入手性の問題などもあり、ESSのES9018K2Mに変更しました。途中での変更は大変なのですが、DACとしての個性はTIに近く、結果としては非常に使いやすいDACチップでした。後段のI/V変換はディスクリートで、独自のパーツもふんだんに使いました」とのこと。

その結果、ハイエンド機で使われている高音質なパーツが多数投入された。だが、そうした“物量”だけで終わらないのが山内氏のチューニングのユニークなところ。

黒い正方形のパーツがESSのES9018K2M。4基搭載されているのがわかる

例えば、筐体内にFFCケーブルという平べったいケーブルがあるのだが、そこに銅のテープが巻かれている。これはケーブルにノイズなどが入らないように、またノイズが外に出ないようにシールドしているそうだが、この素材や大きさにもこだわりがある。

様々な素材を試した結果、アルミよりも銅が良い結果になったが、良いからといって、銅テープを長くすると、逆に信号が流れにくくなったという。そこで、試聴を繰り返し、最適なサイズに調整したそうだ。

FFCケーブルに巻かれた銅テープ。この素材や長さも、試行錯誤の結果だ

筐体のカバーがスッキリしているのも音質を追求した結果。過去モデルの「DNP-2500NE」ではサイドに2本、トップに6本のネジがあり、それでカバーを押さえつけていたが、音を追求した結果、トップのネジを撤廃し、サイドだけにしたという。その結果、剛性が不足してしまうので、トップカバー自体にリブを追加し、剛性を高めたそうだ。

天面からネジが消えた。これも開放的なサウンドに寄与しているそうだ

ストリーミングサービスの音も聴いてみる

NASからの再生だけでなく、音楽配信サービスのAmazon Music HDも聴いてみよう。

「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生すると、冒頭のアコースティックベースの低音が、厚みのある熱気のカタマリのようにこちらに迫ってくる。中央に定位するボーカルの音像は極めてシャープだが、お腹から出る声の低い部分も“凄み”も表現されていて聴いていて実に気持ちがいい。

個々の音に、こうしたパワフルさ、肉厚さがありながら、それらが狭い空間に密集せず、音場の広大さも兼ね備えているのが山内氏の「Vivid&Spaciousなサウンド」。その特徴が、今まで「ノレないなぁ」と思っていたAmazon Music HDでもたっぷり味わえるのはさすがだ。膨大なクラウド上の音楽ライブラリーを、こんなに美味しい音で楽しめると考えただけで、うれしくなってしまう。

「米津玄師/KICK BACK」のような、細かな音が乱れ飛ぶような楽曲は、まさにデノンのDAC回路が得意とするところ。ベースの細かなラインや、コーラスの重なり、SEなど、微細な音が縦横無尽に飛び交い、その音に体を貫かれる快感。この曲は、質感描写が乏しいとガチャガチャしたうるさい曲に聴こえてしまうのだが、DNP-2000NEでは声やSEの質感がしっかり描写されるので、個々の音が気持ちよく聴き取れる。Ultra AL32 Processingによるアップサンプリング/ビット拡張や、8ch分のDACを使った変換などもの効果が発揮されているのだろう。

音楽配信をガチで楽しむ時が来た

DNP-2000NEの価格は275,000円なので、価格帯を考えると組み合わせるプリメインアンプは「PMA-2500NE」(278,300円)や「PMA-1700NE」(218,900円)となるが、今回聴いたように、PMA-A110(393,800円)と組み合わせてもまったく見劣りしない、それどころかベストマッチと言えるクオリティをDNP-2000NEは備えている。

入門~ミドルクラスのアンプだけでなく、30~50万円やハイエンドセパレートアンプと組み合わせてもDNP-2000NEは存分に魅力を発揮してくれるだろう。

前述のように可変出力も備えているので、最近オーディオでブームとなっているアクティブスピーカーと組み合わせて、低価格・省スペースで満足度の高いオーディオシステムに挑戦するというのも面白いかもしれない。

また、HDMI ARCも供えているので、「オーディオシステムは既に持っているが、AVアンプは持っていない」という人がDNP-2000NEを導入すれば、ネットワークプレーヤーの“ついで”に、薄型テレビの音を大幅にグレードアップできる。映画だけでなく、毎日見るテレビ番組も、次元の違う音で楽しめるはずだ。せっかくのオーディオ機器を、休日しか使っていないという人は、毎日活用するキッカケとしてDNP-2000NEを組み込むというのもアリだろう。

いずれにせよ、「音楽配信は音がイマイチ」とか「USB DACは音が淡白で……」と感じている人は、DNP-2000NEの音を一度聴いてみて欲しい。今までのイメージがガラッと変わるはずだ。

DNP-2000NEプレミアムシルバー

(協力:デノン)

山崎健太郎