レビュー

もはやDAP不要!? 小さな最強DACアンプ、L&P「W4/W4EX」。デスクトップオーディオにも

左から楽彼(LUXURY&PRECISION)の「W4EX」と「W4」

ガチな小型DACアンプ登場

スティック型のUSB DACアンプが人気だ。一番の理由は、サブスク音楽配信サービスやYouTubeなど、スマホで楽しみやすいサービスが“メインの音楽ソース”になっている人が多いからだ。小型DACアンプはスマホの音を手軽に高音質化してくれるだけでなく、イヤフォン端子が消滅してしまったスマホでは、“有線イヤフォンを接続するためのアダプタ”にもなってくれる。

外で高音質を楽しむデバイスとしては、DAP(デジタルオーディオプレーヤー)も存在するが、外出先でネットに接続しにくく、配信サービスを楽しむ端末としては使いにくい。また、サイズも大きく、重いものが多いため、スマホと“2台持ち”するのが面倒になる。一方で小型DACアンプなら、スマホからぶら下げて使えるので持ち運びも苦にならない。

そんな“いいことづくめ”な小型DACアンプだが、弱点もある。それは“絶対的な音の良さではDAPに勝てない事”だ。しかし、その考えを改めるような製品が存在する。楽彼(LUXURY&PRECISION)ブランドの「W4」(74,800円)と「W4EX」(52,800円)だ。

左から「W4EX」と「W4」

「え、小型DACアンプなのに高くね? 普通2万円くらいじゃないの?」と思ったアナタ、まさにその通り。W4/W4EX最大のポイントは“高価な事”にある。そしてポータブルオーディオに詳しい人はLUXURY&PRECISION(L&P)と聞いてニヤリとするハズ。そう、完全ディスクリートのR-2Rラダー型DACを搭載した50万円オーバーのDAPも手掛けるL&Pが、その技術を投入して、“ガチで作った小型DACアンプ”だから高価なのだ。

つまりW4/W4EXは「そのへんのDAPを倒すために作られた小型DACアンプ」という、極めて挑戦的な製品なのだ。

独自開発のDACチップ搭載

ポータブルを含め、オーディオのプレーヤー機器では「どのメーカーの、どのDACチップを搭載しているのか」が話題になる事が多い。DACチップで音が全て決まるわけではないが、搭載しているDACのグレードやスペックで、それを採用している製品のグレードもなんとなく把握できるからだ。

一方で、そうした“ハイグレードDACチップ搭載競争”が激化した末に、最近では「既存のDACチップでは、自分達が理想とするサウンドを出せない」「DACチップ自体にも手を加えたい」と考えるメーカーも現れ、ピュアオーディオのハイエンドな据え置きプレーヤーや、超高価なDAPの一部機種に、自分達で作り上げたこだわりのディスクリートDACを搭載した製品が登場しはじめている。

当然ながら、それを実現するには高い技術力が必要で、「作りたいからすぐ作れる」わけではない。ディスクリートのR-2Rラダー型DACを搭載したDAPを作っているL&Pは、そんな高い技術力を持ったメーカーの1つ、というわけだ。

L&Pは歴史も古い。ポータブルオーディオ歴が長い人は覚えているかもしれないが、2010年にColorflyというメーカーから、当時としては先進的な192kHz/24bitまでの再生に対応したDAP「COLORFLY C4」が発売された。音質だけでなく、筐体に木製ケーシングを使うなど、デザインもカッコよくて人気になったモデルだ。

L&Pは、そんなC4の開発者達が独立・設立したメーカーだ。ポータブルオーディオ黎明期から活躍しているメンバー達が、「精密機器レベルの性能向上、忠実な音の再現、美しい音質と質感の追求」をテーマに開発しており、ブランド名の「LUXURY(豪華)」「PRECISION(精密)」も、そんなテーマを踏まえたものとなっている。

ここまでの話でピンと来た人も多いハズ。W4/W4EXが“高価でガチな小型DACアンプ”なのは、この小さな筐体の中に、独自開発のDACチップを搭載してしまったからなのだ。

小さくても中身はスゴイ

「W4EX」

2機種のサイズと重さは共通で、63×12.5×24mm(幅×奥行き×高さ)で、24gと、小型DACアンプの中でもコンパクトだ。アルミ筐体の質感は高く、斜めになったディスプレイ配置もカッコいい。背面はシックに、LUXURY&PRECISIONのロゴが描かれている。

「W4」
背面のロゴ

最初はデザインを重視してこの形状・ディスプレイ配置になっているのだと思っていたが、右手で本体を掴んでみると、使いやすさを重視してデザインされているのがわかる。手にすると親指に当たる位置に、ボリュームノブがあり、指がかからないエリアに沿うような形でディスプレイを配置しているから、斜めになっているのだ。手のひらにスッポリ収まった状態でも、情報が確認でき、操作性を損なわない。うまいデザインだ。

ちなみにボリュームノブはALPS製で、クリック感のある高品質なもの。筐体の質感の高さと組合わさり、クルクル回しているだけで気持ちが良い。こういうところは“オーディオ機器っぽい”魅力だ。

右上にボリュームノブ

なお、このボリュームは押し込む事もでき、長押しで各種設定メニューに入り、ノブを回して項目を移動し、押し込む事で選択を変えるUIになっている。

2機種の違いや特徴をおさらいしよう。

まず注意しなければならないのは、W4(74,800円)、W4EX(52,800円)の価格を見るとわかるように、“W4の方が上位モデル”だ。なんかお尻に“EX”がついている方が凄いようなイメージもあるが、W4がシリーズのフラグシップモデルだ。

下位のW4EXは、かつて39,600円で販売していた「W2」というモデル(DACはディスクリートではなくシーラスロジックのハイエンドDAC・CS43198×2基)の後継機種という位置づけだ。

「W2」

ただ、特徴となるディスクリートDACは、W4とW4EXの両方に搭載している。ただ、チップ自体は異なり、W4は「LP5108」、W4EXは「LP5108EX」というチップになっている。

これらはDACのみのチップではなく、SIP(Single In-line Package)という複数個のICなどを積層した大型のチップで、機能としてはDACとヘッドフォンアンプを一体化したものとなっている。下のイメージ画像を見ると、様々なICが内包されているのがわかる。

W4に搭載している「LP5108」のイメージ

さらに下の画像を見ると、このLP5108のサイズ感がわかる。筐体の横幅をほぼギリギリまで使っており、文字通りこの製品の“心臓部”と言えるスケールだ。

筐体の横幅ほぼギリギリを専有している「LP5108」

スペックは非常に優秀で、W4EXのSN比はアンバランスで129dB、バランスで132dB。全高調波歪率+ノイズはアンバランスで0.00035%@32Ω、0.00025%@300Ω。バランスで0.00018%@32Ω、0.00012%@300Ω。

W4はSN比がアンバランスで131dB、バランスで134dB。全高調波歪率+ノイズはアンバランスで0.0003%@32Ω、0.00025%@300Ω。バランスでは0.00013%@32Ω、0.0001%@300Ωとなっている。

ヘッドフォンの定格出力は、W4EXが110mW@32Ω(アンバランス)、220mW@32Ω(バランス)、W4が110mW@32Ω(アンバランス)、420mW@32Ω(バランス)と、ちょっとした据え置きヘッドフォンアンプレベルで強力。ゲイン切り替え機能も備えている。

こうした数字的なスペックを追求するだけでなく、独自にDACを内包した積層チップを開発できるため、スペースやコストの面で、より多くの回路リソースを、サウンドのチューニングに回す事が可能になり、これまでのノウハウを活かし、より理想とするサウンドに近づけるチューニングができたそうだ。

入力端子は、どちらのモデルもUSB-Cを採用。PCやiPhoneなどのiOS機器、Android端末、パソコンと接続可能。PCM 384kHz/32bit、DSD 256(11.2MHz)までの再生が可能だ。製品にはUSB-C to Cケーブル、USB-C to Lightningケーブル、さらにパソコンとの接続で使えるUSB-A to C変換アダプタも同梱する。

入力端子はUSB-C
同梱のケーブルと変換アダプタ

イヤフォン出力は3.5mmアンバランスと、4.4mmバランスの2系統搭載。このコンパクトな筐体に、よく両方搭載できるものだと感心する。

音を聴いてみる:前モデルのW2

音を聴いてみよう。ソースはスマートフォン、パソコンを使い、ハイレゾファイルやAmazon Music HDのハイレゾ配信楽曲などを再生した。イヤフォンは、Acoustune「HS1300SS」やfinalの「B1」、ヘッドフォンは、平⾯駆動型のRP振動板を採用したフォステクスの「RPKIT50」を使っている。

W4EXとW4を聴く前に、前モデルの「W2」から。前述の通り、このコンパクトさで、シーラスロジックのハイエンドDAC「CS43198」を2基も搭載している。

「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生すると、音が出た瞬間に、その本格的なサウンドに改めて驚く。SN比が良く、見通しの良い空間にクリアな音が広がる。音色にキャラクターは無くてニュートラル。非常に素直な音だ。

小型DACアンプは、どうしても音像が“薄く”、迫力が物足りない製品が多いのだが、W2は当てはまらない。デュアルDACを搭載した効果もあると思うが、ベースやピアノ、ボーカルの音圧が豊かで、ベースの低音が沈むだけでなく、音圧豊かにこちらに迫ってくるパワフルさがある。

音圧だけでなく、低域が“しっかり重い”のも特徴。低価格なDACアンプでは、どうしてもベースの音が「ブォーン」と膨らむだけで、柔らかく、重さが出ない製品が多いのだが、W2の低域には芯があり、「ズゴーン」と下から響いてくるような力強さがある。

このW2は、以前詳しくレビューしたので詳細はこちらも参照して欲しい。当時「こんなにドッシリとした音の小型DACアンプがあるのか」と驚いたが、そのインパクトはまったく薄れていない。

逆に言えば、W4EXとW4を聴く前に、自分の中のハードルはかなり上がってしまう。ぶっちゃけ「W2より良いんだけろうけど、W2の時点でこの音なんだから、あんまり違いはないんじゃないの?」とすら思っていた。

音を聴いてみる:W4EX

W4EX

しかし、W4EXを接続してヘッドフォンから音が出た瞬間に「ちょっと待ってください」と動揺して敬語になってしまう。

低音が、高音が、という細かな話の前に、音が広がる空間がW2よりもW4EXの方が圧倒的に広い。そして、その広大な空間に、ダイアナ・クラールの歌声が響いていくのが超鮮明に見渡せる。

「月とてもなく」では、彼女の歌声が全方位に均等に広がるのではなく、主に左方向へと広がっていくのだが、この遠くに広がり、反響している声の聴こえ方がW2とW4EXでまったく違う。W2では、声の響きだけがエコーとしてかすかに聴こえるだけなのだが、W4EXではその響いた声に、しっかりと輪郭が残っている事まで聴き取れてしまう。

歌声の直接音も、W4EXの方が圧倒的に高解像度で生々しい。W2でも、口の中を覗き込むようなリアルさはあるのだが、W4EXでは、さらに解像度が上がり、リアル過ぎて吐息が耳に入ってくるかのような錯覚に襲われる。

低域の重さや分解能もW4EXの方が格上だ。ベースの低域が「ズゴーン」と深く沈むのだが、その深さがW4EXの方が一段深い。描写も細かく、鋭い。ズゴーンという音圧豊かな低域の中に、ベースの弦がブルッと震えたり、それが当たった時の「ベチンッ」という硬い音が含まれているのが聴き取れる。

音色もナチュラルだ。「イーグルス/ホテルカリフォルニア」を聴くと、エレキギターの弦が動く金属質な鋭い音を、ベースの筐体で低域が増幅されるウォームな音の音色が、綺麗に描き分けられている。

音を聴いてみる:W4

W4

W4EXの音に驚いたので、W4も凄そうだ。交換してみると「これはフラッグシップだわ」と納得の音が出てくる。

W4EXも広大な音場に驚いたが、W4はさらに広い。「手嶌葵/明日への手紙」を聴くと、SNもバツグンで、広大かつ静粛な空間に、ピアノやボーカルの音がズバッと立ち上がるだけでなく、サッと消える。トランジェントが良く、キレの良いサウンドが気持ちいい。

さらに驚くのは低域だ。W4EXの低域も凄かったが、W4はそこからさらに深く、重い低音になる。「米津玄師/KICK BACK」や「tea/They Can't Take That Away From Me」のベースラインやドラムなどで聴き比べたが、低音が本当にタイトで重く、まるで振動が背骨に響くようだ。

フロア型スピーカーで重低音を聴くと、低音が音というよりも、お腹にビリビリと伝わってくる振動として感じられるが、W4の低音もそれに似ている。いや、イヤフォン/ヘッドフォンで聴いているので実際にお腹に振動が来ているわけではないのだが、耳から入る音が重く、鋭い低音なので、過去に聴いたスピーカーや生音の記憶が呼び起こされて、本当にお腹に低音が響いているのではないかと錯覚してしまう。“迫力”を通り越して、ちょっと“怖さ”すら感じる低域だ。

フォステクスのRPKIT50は、かなりパワフルなアンプでないと低域がしっかり出ないヘッドフォンで、小型DACアンプが苦手とする相手なのだが、ゲインをHIGHにすると、ボリューム値8割くらいでもう十分という低音が溢れ出る。DAPでもかなり高級なモデルでないと、この駆動力は真似できないだろう。

特筆すべきは、これだけ重く、パワフルな低域が出ているのに、中高域がそれに邪魔されず、抜けの良さ、クリアさを維持している事だ。分解能もW4EXを超えており、ボーカルが本当に耳元に存在しているかのような生々しさがある。

なお、W4とW4EXのどちらも、イコライザーとは別に、オリジナルチップとハードウェアを組み合わせた、2種類のチューニングを切り替えられる。「TUNE:01」は「より広がりのある音、主に人の声を特徴とする曲目に最適」。「TUNE:02」は「より精巧な音、主に交響曲など複雑な曲名に最適」だそうだ。

実際に聴き比べたが、確かに手嶌葵の楽曲など、ボーカル + 伴奏の比較的音の数が少なく、シンプルな楽曲はTUNE:01がハマる。音の余韻が広がる様子も見やすい。クラシックや映画音楽のサントラなどはTUNE:02の方がマッチするだろう。

2種類のチューニングを切り替えられる
イコライザーや、人気イヤフォン向けのチューニングプリセットも用意している

デスクトップオーディオでも活躍する

W4/W4EXのどちらも、超ワイドレンジでクリアなサウンドなので、しばらく聴いていると「これ、スピーカーで聴いても最高なんじゃないかな?」と思えてきた。

そこで、普段パソコンで使っているUSBスピーカーを用意。パソコンとW4をUSBで接続し、W4からのステレオミニ出力を、USBスピーカーのアナログ音声入力に接続してみた。

結果はまさにドンピシャ。音場の広大さはスピーカー再生でより実感でき、いつもの音場がさらに拡大し、机の上の空間自体が広くなったように感じる。低域の情報量もより増加し、低域自体が“ドッシリ”と再生されるので、スピーカーのサウンド自体に安定感が生まれる。スピーカーのグレードがアップしたような感覚だ。

中高域の描写も微細なので、ハイレゾファイルを再生する時も、その微細な表現や質感の豊かさが、W4を介した方が聴き取りやすい。

音の良さだけでなく、使い勝手も良い。W4/W4EXはボリュームノブを備えているので、スピーカーの音量を操作したい時に、W4/W4EXのボリュームノブをクルクル回すだけでいい。

アクティブスピーカーやモニタースピーカーは、「操作は全て付属のリモコンでやってね」とか「ボリュームノブあるけど背面です」みたいな製品が意外に多いのだが、それらと組み合わせてW4/W4EXを使うと、“机の上ですぐに手が届くボリューム”としても活躍するだろう。

スピーカーに手を伸ばすより、W4のボリュームの方が直感的に操作できる

ほんとDAPいらないかもしれない

個人的に、小型DACアンプを使うと「このサイズでこの音は凄い!」と感心するのだが、しばらく使っていると「やっぱりDAPの方がいいな」と、使わなくなってしまう事がある。これは、低域の迫力や、沈み込みの深さが原因で、本格的なDAPと比べると、小型DACアンプの音はやはり“軽く”聴こえてしまうためだ。

しかし、W4/W4EXには本格的なDAPのような“ドッシリ感”があり、聴いていて満足感が高い。それでいて、圧倒的な空間の広さや中高域のクリアさ、分解能の高さも兼ね備えているので、「これもうホントにDAPいらないな」という気分になる。こんな親指くらいのサイズの筐体の、どこからこんなスケールの音が出てくるのか、ちょっとした魔法のようだ。

スマホと完全ワイヤレスイヤフォンをペアリングして、サブスク音楽配信を聴いても、どうしても「音楽鑑賞」というより「移動中のながら聴き」になる事が多いのだが、W4/W4EXと有線イヤフォンをスマホに接続すれば、間違いなく“本格的な音楽鑑賞”になる。

W4(74,800円)、W4EX(52,800円)という価格は確かに小型DACアンプとしては高価だが、10万円以上が当たり前の単体DAPと比較すると安価であり、それらに匹敵するサウンドがこの小ささで得られると考えれば悪くないチョイスだ。「今日は荷物が多いから重いDAPは家においていこう」なんて経験がある人も、24gしかないW4/W4EXなら苦にならないはずだ。

また、前述の通りデスクトップオーディオの音質・使い勝手向上ツールとしても“アリ”だと感じる。外出中にイヤフォンで楽しみ、帰宅後は机の上でアクティブスピーカーと繋いで楽しめば、一日中活躍する。そう考えると、価格に対する感じ方も変わるハズ。音のクオリティが上がると、音楽だけでなく、パソコンで楽しむゲームやYouTube、Netflixの映画などもよりリッチな気分で楽しめる。小さいが、QOLを爆上げしてくれる、小さな相棒だ。

(協力:サイラス)

山崎健太郎