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“スマホ+ガチなUSB DAC”でDAP並の高音質、楽彼「W2」が凄い
- 提供:
- サイラス
2021年7月9日 08:00
ロスレスやハイレゾでの楽曲配信を開始したApple Music、その動きに呼応するようにハイレゾ配信を値下げしたAmazon Music HDなど、高音質な音楽配信が話題だ。すでにスマホでそれらのサービスを楽しんでいる人も多いだろう。だが、せっかく音楽は高音質なロスレス/ハイレゾで配信されているのに、「伝送時に情報が欠落するBluetoothイヤフォンばかり使っている」とか「有線イヤフォン使いたいけど、スマホにイヤフォン出力がそもそも無い」なんて人も多いだろう。
解決策としては、スマホを買い替えたり、音楽配信サービスも利用できる専用のポータブルオーディオプレーヤーを使う……なんて手があるが、そのためにわざわざスマホを変えたり、高価で大きいプレーヤーを持ち歩くのもハードルが高いというのも事実。
そんな人への救世主として注目なのが、スマホに接続するスティック型のUSB DACアンプだ。ポータブルプレーヤーよりも小さく持ち運びやすく、スマホの手軽さを阻害せずに有線イヤフォンが使えるようになる。「でもあれって安いし、ポータブルプレーヤーほど音が良くないんじゃない?」と思ったアナタ、実は、そんなスティック型USB DAC界に、ちょっと見逃せない製品が登場している。LUXURY & PRECISIONの「W2」というモデルだ。
「W2」が注目の理由はその価格だ。小さいのに39,600円と、けっこう“いいお値段”なのだ。「……てことは、中身が凄いのでは!?」と思った人は鋭い。この「W2」、なんとシーラス・ロジックの最上位DACチップを2基搭載し、SN比は131dBと、高級ポータブルプレーヤーと比べても引けを取らない驚きのスペックを実現している。要するに“小さいのにガチなスティック型USB DACアンプ”なのだ。
そもそもLUXURY & PRECISIONとは
ポータブルオーディオ歴が長い人には説明不要かもしれないが、今から10年以上前の2010年に、Colorflyというメーカーから、いちはやく192kHz/24bitまでの再生に対応したハイレゾプレーヤーとして「COLORFLY C4」が発売された。音質だけでなく、筐体に木製ケーシングを採用するなど、デザインの面でも話題となったモデルだ。
LUXURY & PRECISIONは、そんなC4の開発者達が独立・設立したメーカーだ。ポータブルオーディオ黎明期から活躍している人達が、「精密機器レベルの性能向上、忠実な音の再現、美しい音質と質感の追求」をテーマに開発しており、ブランド名の「LUXURY(豪華)」「PRECISION(精密)」も、そんなテーマを踏まえたもの。中国のメーカーで、中国語では“楽彼(ルー・ビー)”と書く。
非常に高い技術力を持っており、手掛ける高級プレーヤーに汎用DACチップを使わず、プログラマブルなICである高速なFPGAを搭載し、驚くようなハイエンド・サウンドを実現している。そんな“ガチな”ポータブルオーディオメーカーが、「音の良いスティック型USB DACアンプを作ろう」と頑張ったのが「W2」というわけだ。
小さいのにデュアルDAC搭載
特徴を見ていこう。外形寸法は60×22×12.5mm(縦×横×厚さ)とコンパクト、重量も22gと軽量だ。動作や情報などを表示する0.91インチの単色OLED液晶を備えている。
前述の通り、据置型のDACに使われるシーラス・ロジックのハイエンドDACチップ「CS43198」を、2基搭載している。SN比は131dBだ。
DACだけで音の善し悪しは決まらない。アンプの駆動力も重要だが、W2では高出力なオペアンプを2基内蔵している。出力端子は3.5mmのアンバランスに加え、4.4mmのバランス出力も搭載。出力は3.5mmで125mW(32Ω)、4.4mmで230mW(32Ω)と強力だ。4.4mmポートはPentaconnジャックを採用。2段階のゲイン切り替えもできる。
出力としては、3.5mm端子はSPDIF出力も兼ねており、同軸デジタル入力を備えたアンプなどとも接続可能。
イコライザー処理用にFPGAも搭載。クラシック/ジャズ/ロック/ポップス/BASS/ムービー/ゲームのモードが切り替えられる。さらに、フィルターもFAST/SLOW/NOS/LL FAST/LL SLOWから選択可能。
これとは別に、チューニングモードも「01」と「02」で選択でき、「01」は「リラックス、ポップスやボーカル向き」、「02」は「繊細で、情報量の多さを感じられる、オーケストラ向き」な音になるという。
実はW1というモデルもある
先程から「W2」のスペックを紹介しているが、実は弟分にあたる「W1」というモデルもラインナップされている。価格は29,700円と、W2よりも1万円ほど安い。
外形寸法60×22×12.5mm、重量22gと、サイズや重さはW2と同じだ。外観的にはW2がブラックなのに対して、W1はシルバーになっている。
外観的にはよく似た2機種だが、最大の違いはDACチップだ。「CS43198」を採用しているのは同じだが、W2が2基搭載しているのに対して、W1は1基となる。また、4.4mmの出力も、W2が230mW(32Ω)なのに対して、W1は220mW(32Ω)となっている。
音を聴いてみる
W2、W1、それぞれ音を聴いてみよう。対応OSはiOS/Androidに加え、Windowsでも利用可能。端末やPCとの接続用端子としてUSB-Cを備えている。
メーカーからのプレゼントとして、W2にはUSB-C - USB-Cケーブル、USB-C - Lightningケーブルが付属。さらに、USB-CコネクタをUSB-Aに変換するプラグも同梱。他にケーブルを買わなくても、iPhoneやAndroidスマホ、Windows PCに接続できるようになっている。ただし、プレゼント品という位置付けなので、メーカー側の意向で付属しなくなる可能性もあるそうだ。W2が気になっている人は、はやめにゲットする方が良いだろう。
Androidスマホの「Google Pixel 3 XL」を用意し、USB-C - USB-Cケーブルを用いて、まずは「W1」を接続してみる。再生アプリはAmazon Music HDや、オンキヨーのHF Playerを使用。イヤフォンはfinal「B1」やFitEarの「TG334」を使用した。なお、先日ロスレス配信がスタートしたApple Musicでもハイレゾ再生を試してみたが、問題なく出力できた。
「大橋トリオ/アンジュリア」(96kHz/24bit)を再生。ゆったりとした空気感が心地良い楽曲なのだが、完全ワイヤレスイヤフォンなどで聴くと、音圧が足らず、音の波を全身に受けるような気持ちよさが不足しがちになる楽曲だ。
だが、W1から出力して聴くと、不満感が一気に解消される。ベースの低域が「ズーン」と肉厚でパワフルに前へと飛び出してくる。馬力のあるアンプでしっかりイヤフォンがドライブされているため、中低域がとにかく気持ちがいい。低い音もしっかりと沈み混むため、ドッシリと、音楽全体に安定感が出る。
低音が沈むだけでなく、その低い音の中にある情報も細かく聴き取れる。ハイレゾ楽曲の情報量をしっかり聴き取るためには、DACの性能の良さだけでなく、全体のSN比の良さ、アンプのドライブ力の高さも揃っていないといけない。その事実を、改めて実感できる音だ。
「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」(96kHz/24bit)を聴いたが、1分過ぎから入ってくるアコースティックベースの低音が「ズズーン」と沈み込み、頭蓋骨を揺さぶられるような迫力が気持ちいい。このドッシリとした本格的な低音は、スマホではなく、ポータブルプレーヤーで聴いている時の音に近い。
「イーグルス/ホテルカリフォルニア」(192kHz/24bit)も、うねるようなベースの熱気がしっかりと伝わり、パワフルな中低域が押し寄せる中にあっても、ドン・ヘンリーの清々しいボーカルの解像度は低下せず、見通し良く描写される。彼の声が音場に広がり、空間に消えていく様子も聴き取れる。
弟分のW1でもこのサウンドなので、W2はどんな音がするのだろうか。
先程と同じ「Best of My Love」を再生すると、アコースティックベースの低音がさらに深く沈み、「ズゴーン!!」と、まるで地の底から響いてくるような“重い音”に進化する。W1が「頭蓋骨を揺さぶる低音」だとすると、W2は「頭蓋骨を貫通するような低音」だ。スマホにぶら下がっている、こんな小さな箱から、よくこんな低い音が出てくるなと改めてW2をマジマジと見てしまう。
「イーグルス/ホテルカリフォルニア」の音もスゴイ。低音がさらに深く沈み、それでいて中高域の抜けも良いため、上下の空間も広がったように聴こえる。音場が左右や奥に広がるプレーヤーは多いが、高さも感じられるのは見事だ。
これだけパワフルなベースが「グォーン」と押し寄せているのに、ギターのメロディがそこに埋もれず、非常に細かく、弦が震える様子が見えるくらいシャープに描写される。重い音のカタマリのように感じられる低音も、じっくり聴くとシッカリと芯があり、その芯のまわりに響きがまとわりついている様子がわかる。
安定感のある音が広大に広がるので、ロックやポップス、JAZZのライブ録音などにマッチする。オーケストラのように、空間が広く、音数が多い楽曲もW2が得意とするところだ。
W2の音をしばらく聴いていると、低音の安定感・ドッシリ具合が見事なので、つい“小さなスティック型DACアンプで聴いている”事を忘れてしまう。10万円、20万円するようなポータブルプレーヤーで聴いているような、ハイエンドオーディオの“余裕”みたいなものが感じられる。
4.4mmのバランス接続も利用すると、さらに世界が広がる。音場がより広くなるほか、中低域のパワフルさもアップする。アンバランス接続にも“まとまりの良さ”や“聴きやすさ”といった利点があるが、バランス接続ではさらなる音の高みが目指せる。今は3.5mmケーブルしか持っていないという人も、「4.4mmケーブルを買ったらどう変わるかな?」と気になった瞬間に、オーディオが面白くなるだろう。
また、筐体側面のモードボタンを押すと、イコライザーやゲイン設定、SPDIF出力のON/OFFなどが切り替えられる。イコライザーの「Game」を選ぶと、音が少し後ろに引っ込み、広さを強調したサウンドに。「MOVIE」では広さを出しつつ、低域を強めにといった変化が楽しめる。
さらに、DACフィルターの設定変更も可能なほか、ユニークな点として「チューニング設定」も「01」と「02」から選択できる。聴き比べたが、01の方が全体的に音のまとまりが良く、ゆったりと身を任せるようなサウンドになり、02では中央の音像がよりシャープに変化、音場は少し狭くなるが、自分がミュージシャンの方に一歩近づいたようなサウンドになる。
こうした細かな設定を自分好みに追い込んでいく事で、理想のサウンドを追求できる。このあたりのマニアックな機能も、このDACアンプが「ガチなオーディオ機器」と感じられるポイントだ。
LUXURY & PRECISIONへの入門機にもなる
最初は「このサイズで39,600円はちょっと高いな」と思っていたのに、W2をじっくり聴くと「むしろ39,600円でこの音が楽しめるなら安いな」と、まったく逆の評価になった。個人的には、非常にコストパフォーマンスの高い製品だと感じる。
同時に、「この値段とこのサイズでこんなに楽しめるなら、LUXURY & PRECISIONのもっと上位の、ポータブルプレーヤーはどんな音なんだろう?」と、ブランド自体に興味を持つキッカケになるかもしれない。
ちょうど、昨年末に発売された「P6PRO」というプレーヤーも手元にあるので、このサウンドも簡単にお伝えしよう。価格はオープンプライスだが、実売は約43万円と超ハイエンドなプレーヤー。見た目からもう普通ではなく、筐体には航空機グレードアルミニウム合金、そして背面には天然木を使うなど、触った瞬間に「こりゃハイエンドだわ」と感じてしまうカッコよさ。
このP6PROは、一般的なDACチップではなく、LUXURY & PRECISIONの代名詞とも言える、完全ディスクリート方式R-2Rラダー型のDAC回路を採用。驚異的なダイナミックレンジを実現しつつ、対応ヘッドフォンインピーダンス8~300Ωという強力なアンプも内蔵。SN比は125dBを実現している。
W2も高精細かつパワフルなサウンドだが、P6PROはその特徴をさらに推し進めたような音で、低域の深さ、音場の静けさや音の細かさといった部分で、さらに上の世界を見せてくれる。また、細かな音の1つ1つが、細かいだけでなく力強さを備えており、全ての音が容易に聴き取れる。ボリュームを上げていっても、音がまったくうるさく感じられず、ひたすら気持ちがいい。まるで自分の耳が高性能になったようなこの感覚は、超ハイエンドなポータブルプレーヤーならではの世界だ。
「やっぱハイエンドは凄い」とP6PROを堪能した一方で、「いや、やっぱりW2のコスパも凄くね?」という気もしてくる。ハイエンドモデルでしか味わえない世界は確かに存在するが、低域の力強さ、全体の分解能、SN比の良さ、音場の広さといった基本的な部分で、W2はかなり高いクオリティを発揮してくれる。多くの人が、聴けばすぐ「お、これは凄い」「スマホのイヤフォン出力とは次元が違う音だ」と感じるだろう。
試しに、W2 + 有線イヤフォンでAmazon Music HDのハイレゾ楽曲を満喫した後で、手持ちの完全ワイヤレスイヤフォンに切り替えると、低域の馬力不足や、音場の狭さなどを痛感してしまう。一度体験してしまうと“有線イヤフォンと本格DACアンプの偉大さ”を改めて実感する。
定額で、大量のハイレゾ楽曲が楽しめるAmazon Music HDのようなサービスは、音楽好き、オーディオ好きにとって夢のようなサービスだ。だが、それをロッシーなワイヤレスイヤフォンで再生すると、せっかくの豊富な情報量を満喫できず、“宝の持ち腐れ”状態になってしまう。
そう考えると、W2のような“コンパクトだが、音質はしっかりしたスティック型DACアンプ”は、非常にバランスの良い選択肢に思える。ある意味、スマホ+スティック型DACアンプこそが、“定額制ハイレゾ配信時代の新しいポータブルプレーヤーのカタチ”と言えるかもしれない。W2は、そんな“未来のプレーヤー”を先取りした存在と言えるだろう。