レビュー

Amazon Musicも激変、約13万円の小型ネットワークトランスポート、SFORZATO「DST-Lacerta」導入記

スフォルツァートの新型USBブリッジ「DST-Lacerta」

ハイレゾを、PCレスかつスピーカーで楽しめるネットワークオーディオは、1つのソースとしてオーディオファンに定番のものとなった。今ではAVアンプにも内蔵されていて、CDプレーヤーにネットワーク機能が付いている製品も存在する。

そのネットワークプレーヤーからデジタルアナログ変換の機能を省いたのが「ネットワークトランスポート」と呼ばれている製品カテゴリーだ。今回は、日本製ハイエンドネットワークプレーヤーの雄。SFORZATO(スフォルツァート)の新型USBブリッジ「DST-Lacerta」を導入したので、そのインプレッションをお届けしたい。

DST-Lacertaとは何をするものか?

DST-Lacertaは、昨年10月1日に発売されたUSBブリッジの新製品だ。SFORZATOは「他の音より強く」を意味するsfzと表記される音楽記号のこと。2009年に設立されたネットワークオーディオ専業メーカーである。代表の小俣氏が製品開発から回路設計、組み立てまで全て行なっており、その音質は世界のオーディオショウでも高く評価される。これまでネットワークプレーヤーはもちろん、トランスポートやDAC、マスタークロック製品などを発表してきた。

既にUSB-DACを持っている人は、ネットワークプレーヤーを購入せず、お気に入りのDACをそのままネットワークオーディオのシステムで役立てたいと考えるケースも少なくない。そんなときに最適なのがネットワークトランスポートだ。お気に入りのDACとネットワークトランスポートを接続することで、ネットワークプレーヤーとして活用できる。

DST-Lacertaの概要を見てみよう。入力はLAN RJ45ポート、出力はUSB-Aとごくごくシンプルだ。UPnP(DLNA、OpenHome)再生やDirettaの他、Amazon Music Unlimited、TIDAL、Qobuzにも対応する。Roonは認証が取れ次第、アップデートで対応する予定だという。TIDALは国内未サービス、Qobuzは昨年12月のサービス開始が延期されたので、現時点では対応を待つ段階だ。

対応フォーマットは、PCMが768kHz/32bitまで、DSD 512(22.5MHz)まで。接続するUSB-DACがMQAに対応していれば、MQAを楽しむことも可能だ。

サイズは非常にコンパクト

サイズは、108×123×79mm(幅×奥行き×高さ)と小型。フットは3点支持のソフトスパイク。先端が丸みを帯びているので、スパイク受けは使用せずそのまま設置できる。質量は実測で604gと非常に軽量。電源はACアダプター式。DC5V/4AのACアダプターが付属する。ACコードとAC/DC変換部が分離できるタイプのアダプターだ。製品価格は136,000円(税別)。

DST-Lacertaの背面端子

裏面を見ると、いくつかUSBポートが並んでいる。横向きのUSB-Aポートは、USB-DAC接続用だ。縦向きのUSBポートは、CPUモジュールのソフトウェアアップデート用。USBメモリを差し込んで行なう。真上の緑ボタンはアップデートのときに使用。Mini USB-Bポートは、サブマイコンのソフトウェアアップデート用となっている。

“USBブリッジ”と謳っているが、機能的にはネットワークトランスポートと言って差し支えないと思う。トランスポートと呼称するそもそもの起源は、ハイエンドオーディオでお馴染み「CDトランスポート」という製品カテゴリーが元になっていると考えられるが、CDトランスポートは内部にCDという音源が存在している。

しかし、ネットワークトランスポートにとっての音源は、NASやストリーミングサービスのクラウドサーバーなので、「NASトランスポート」とか「クラウドトランスポート」という名称が一瞬思い浮かぶが、さすがに違和感がある。そもそも一般的にネットワークトランスポートとNASは一体ではない。だからなのかは分からないが、「ネットワークブリッジ」という呼び方もある。海外では、ストリーミングサービスとの連携も踏まえて「ネットワークストリーマー」と呼ぶ場合もある。

なんだかややこしくなってきたが、筆者としては好きに呼んでいいと思う。ネットワークブリッジも、ネットワークストリーマーも今回紹介するDST-Lacertaにとって正しい呼称ではないだろうか。本稿においては、最も一般的と思われる「ネットワークトランスポート」として捉えることにする。

なぜDST-Lacertaを導入したのか

筆者がネットワークオーディオを意識したのは、OTOTENが富士ソフトアキバプラザで開催されていた頃まで遡る。LINNの何百万円もするネットワークプレーヤーで再生される192kHz/24bitの音は、未来な予感がビリビリしたし、これからはハイレゾを聴くしかない! と強く思った。

筆者でも購入できるネットワークプレーヤーが発売されたのはパイオニアが普及価格帯の製品をリリースした頃で、2012年に「N-50」というプレーヤーを購入した。2014年には「BDP-103DJP」に買い換えし、2018年には今も愛用しているSSD版の「Soundgenic」に落ち着いた。Soundgenicはオーディオ用のNASであるが、ネットワークトランスポートとしての機能も持っている。USB-DACを接続することで、Soundgenicがネットワークプレーヤーとして活用できるのだ。

SSD版の「Soundgenic」

ぶっちゃけ、Soundgenicがあれば、ネットワークオーディオ生活に不満はなかった。再生できないファイルはないし、挙動や安定性の面でも支障は感じない。ただ、音質を今以上に向上させるには、どうすればいいかは度々考えていた。

「Soundgenic」の背面

ネットワークオーディオは、PC向けのネットワークの規格やハードウェアを使っているため、環境的にネックとなる側面は確実にある。プレーヤーやトランスポート、DACがガチのオーディオ機器だとしても、ネットワーク機器はPC向けであることが珍しくない。だからこそ、音質のための各種の対策やアイテムは効果的で、やればやるほど音質が変わっていく奥深い世界だ。

オーディオの基本的な音質改善の手法である、ノイズ対策や振動対策はもちろん効果的。電源ノイズの対策や、信号系統のノイズ対策、ネットワーク機器の振動対策も確実に音に影響する。デジタルで信号をやりとりしているネットワークオーディオの世界も、ノイズや振動にはとても敏感であり、その音の違いは「前の音には戻れないほど」の劇的な変化となることは決して珍しくない。

個人的には、電源ケーブルやアナログのラインケーブル並み、もしくはそれ以上の変化を実感できると思っている。デジタルなのに嘘みたいだと思う方は実際にやってみると、その音の変化に驚くことだろう。最初は分かりにくかった音の違いが、各種対策を積み重ねていくことで、システム全体が洗練され、より違いが見えやすくなるという体験もしてきた。

ノイズや振動と並んで、ここ数年注目されてきた音質対策は、「役割分担」と「負荷軽減」だ。これらは相互に作用しており、ほぼセットと言ってもいいかもしれない。結果として、ノイズ対策にもなっている。

例を1つ挙げると、NASとネットワークプレーヤーはWi-Fiルーターに直接接続しない。Wi-Fiルーターにネットワークスイッチ(できれば金属製)を接続し、そのスイッチにNASとネットワークプレーヤーを接続すると音質が改善する。

Wi-Fiルーターは、ルーター機能の他にWi-Fiの電波も飛ばしており、処理負荷も大きくノイズの影響もオーディオにとっては無視できない。ネットワークスイッチにNASとネットワークオーディオ機器を接続することで、Wi-Fiルーターの役割を分担させ、ノイズの悪影響も軽減する取り組みだ。

筆者はまだネットワークスイッチを持っていなかった頃、使わなくなったWi-FiルーターをAPモードにしてスイッチ代わりに使用していた。そのWi-Fiルーターの使っていないWi-Fi機能を無効にしても音質が改善したので、これも負荷軽減による効果だったともいえる。

今回のDST-Lacerta導入は、この“役割分担と負荷軽減”を目的としたもの。SoundgenicにUSB-DACを直結していた頃は、SoundgenicがNASおよびメディアサーバー機能と、レンダラー機能(コントロールアプリの指令を受けて再生する)を兼務していた。

DST-Lacertaをシステムに加えることで、Soundgenicをレンダラー機能から解放し、トランスポートに分担させ、結果としてSoundgenicの負荷軽減に繋がる。仕事がメディアサーバー機能に絞られたSoundgenicは処理負荷が減り、動作の安定化やノイズの低減などに繋がると予想。

SoundgenicからUSB-DACに直結する場合に比べて、ネットワークを介してオーディオデータがやりとりされるため、その経路の機材やアクセサリーのグレードにも音質は左右されるが、ネットワークトランスポートによる音質の向上幅が大きいため、筆者の環境でもメリットは見込めると考えたのだ。

DST-Lacertaを接続する

防音スタジオに設置したところ。小さいのでほとんど目立たない

防音スタジオには、リビングのWi-Fiルーター親機と接続した中継機が設置してある。中継機の「WNR-5400XE6」には、TP-Linkのネットワークスイッチ「TL-SG505」を接続してSoundgenicとDST-Lacertaをぶら下げている。DST-Lacertaには、USB-DACのNEO iDSDをUSBケーブルで接続した。

NEO iDSD

電源ノイズ対策として、TL-SG505にはFX-AUDIO-の「Petit Susie」最新版をACアダプターと本体の間に挿入。Soundgenic(SSD版)には、iFi audioの「iPower II 12V」に「Petit Tank Limited Edition」(以下Petit Tank LE)を連結して、DCプラグをEIAJ4へ変換してから接続している。なお、純正ACアダプターを変更したり、間に何かを挟んでしまうと、メーカー保証の対象外になる。あくまで自己責任だ。

FX-AUDIO-の「Petit Susie」と「Petit Tank Limited Edition」

まず、DST-Lacertaを素の状態で聴いてみる。比較対象は、SoundgenicとNEO iDSDの直結だ。NEO iDSDには付属のiPower II 5Vをそのまま使用している。USBケーブルは、アコースティックリバイブの「USB-1.0PLS」。コントロールアプリは、慣れ親しんだLINNアプリで行なった。音源はSoundgenic内のハイレゾソースを視聴している。DST-LacertaとSoundgenicのUSB/LAN/DC電源の各種ノイズ対策は全て取り外している。

LINNアプリを使っているところ

SoundgenicとUSB-DAC直結。常設のアクセサリーの類いを外しているせいで、気になる所はあるにはあるが、いったん脳内をリセットするつもりで慣れ親しんだ楽曲を聴いてみた。NAS単体でネットワークトランスポートとしての機能を包括したSoundgenicは、本当に便利で手軽。この利便性が最大のメリットだと思う。

続いて、DST-Lacertaを追加して、NEO iDSDはDST-LacertaとUSB接続する。DST-Lacertaには電源スイッチがない。本体下部に緑色のLEDを搭載しており、ACアダプターが挿し込まれている間はずっと点灯している。ただ、実際にネットワーク上で製品が認識されるのは、USB-DACが起動している最中のみ。LINNのアプリに端末が出てくるのもNEO iDSDの電源を投入した後になる。

同じ楽曲を聴いてみたが、別次元の出音に驚愕した。音楽が生き生きとしている。Soundgenic直結時に気になっていた高域の耳障りな歪み感が大幅に軽減。トランジェントが劇的に改善し、楽器音の周りのモヤが減少した。

筆者が総合プロデュースを担当する音楽ユニットBeagle Kickの「NEW ERA」と「UTAKATA」を聴く。ピアノをメインとしたジャズロックと同編成によるバラード。192kHz/24bitのハイレゾ音源を、実に立体的かつ躍動感溢れる音で気持ちよく聴かせてくれる。ベーゼンドルファーのピアノはエレガントな音色が魅力だが、その美しい発音一つ一つがシャープでクリア。リバーブの余韻も淀みが改善した。

「ゼノブレイド3」のOSTから「Where We Belong」ハイレゾ版を再生する。バンドセクションとストリングスのバラードだ。透明感のある女性ボーカルはハイレゾとの相性抜群。まず各楽器の分離が格段によくなった。直結の際は、前後がぎゅーっと締まって、べちゃっと楽器同士が押し付けられた感じ。全体的に混濁していて、例えばストリングスとドラムなどの描き分けが十分でない。96kHz録音のメリットでもある空間の広さはもちろん、ミックスの良質な音源であるエンジニアリングの巧みさもDST-Lacertaで再生するとはっきりと実感できた。

Amazon Music Unlimited

Amazon Music Unlimited(旧Amazon Music HD)のレスポンスと音質もチェックしてみよう。

スフォルツァートの製品がAmazon Musicに対応可能となったのは、ITF-NET AUDIOを採用しているからだ。ITF-NET AUDIOはインターフェース株式会社が提供しているネットワークに対応したハイレゾ再生機器を開発するためのソリューションである。ネットワークオーディオ再生に必要なハードとコントロールアプリ「Taktina」のセットとなり、ITF-NET AUDIOを採用したネットワークオーディオ製品は、Amazon Music、TIDAL、Qobuzに対応する。併せてRoon Readyにも対応するので、Roonユーザーも安心だ。DST-Lacertaは認証が取れ次第、アップデートで対応するとのこと。

Amazon Musicといえば、これまでは対応するピュアオーディオが少なく、筆者がパッと思いつく製品はYAMAHAのMusicCast対応機の一部や、デノンやマランツのHEOS対応機くらいだ。それがITF-NET AUDIOが登場したことで、Amazon Music対応機器が増えることが期待されている。現在は、スフォルツァート以外に、SOULNOTEの製品が採用しているそうだ。

Amazon Music Unlimitedの利用は、汎用のコントロールアプリではなく、ITF-NET AUDIO純正のTaktinaを使う。Taktinaは、Amazon Music、Tidal、Qobuzのような対応ストリーミングサービスを操作するリモコンとして機能する。あくまでリモコンであって、音源データはDST-Lacertaがインターネットから直接取得している。

Taktina上でAmazon Musicをタップし、Amazonアカウントでログインすると自分のスマホやPCで作っておいたライブラリを参照できる。自分のライブラリを「楽曲一覧」から参照して、目的のアーティストやアルバムを選んで再生したり、プレイリストからの再生も可能だ。楽曲のブラウジングや、アプリ操作のレンスポンスは、筆者が体験したAmazon Music 対応機器の中でも良好な部類だと感じる。超サクサクという程でもないが、タップして画面が移り変わるまでのテンポにストレスを感じるほどではない。

楽曲再生までのラグも許容範囲と感じた。例えば、192kHzの楽曲をタップすると、筆者の環境では6秒ほどで再生が開始。一度でも途中まで再生した音源なら別の曲を再生中にもう一度タップすると、3秒程度で再生が始まった。サンプリングレートが高いから時間が掛かるのかと思ったので、44.1kHzのHD音源を再生する。やはり初めて再生するときはタップしてから6秒程度待ちが発生した。

ただ、HD品質のアルバムは、一曲でも再生すると、他の楽曲をタップしても2秒程度で再生される。これは快適だ。筆者の環境は無線中継機経由なので、親機に有線で繋がっていれば、もっと早いかもしれない。

音質については、これまで体験したことのない別次元、これが本当にAmazon Music Unlimitedなのかと疑ってしまうほど素晴らしい。ITF-NET AUDIOは、ビットパーフェクト再生には徹底してこだわったとのことで、これが相当に効いているのだろう。筆者は、各種対応機器やPCアプリ、スマートフォンからのデジタル接続など複数の方法で聴いてきたが、そのどれもが霞むほどだ。音の濁りや滲みが大幅に解消されており、地に足の付いた実在感のある音が楽しめる。

先ほどNASから再生した「NEW ERA」や「UTAKATA」を再生したところ、確かにNAS音源の方がいいけれど、Amazon Music独特のガッカリ感がほとんど無い。チャンネルセパレーションがやや甘くなるのは、時間軸精度が下がるからだろうか。クロストークが発生するとは考えにくい。楽器音の立体感や音場の奥行きも、NASのデータを再生した方がより良質ではある。ただ、その他の基本的なステータスは実にハイレゾらしく、従来までの体験でいう「ロッシー配信よりはマシだけど……」というネガティブな評価ではなく、「音楽を心から没頭して楽しめる」レベルに到達していると感じた。高音質再生で他サービスを圧倒していた“mora qualitasとの音質比較”を今となってはできないことが残念に感じるほどだ。

CD音源も比較してみた。Beagle Kickでお世話になっているチェリスト・ギタリストの伊藤ハルトシ氏が参加するフュージョンバンドFab Bond and Jun Kajiwara のTime Treeより「Tears」等を再生。

チェロの深みのある胴鳴り、厚みのある中音域の艶、ストリーミングでも十分に堪能できるクオリティ。エレキギターの音の粒立ちもシャープで、淀みがほとんど感じられない。ドラムの金物系は、リッピングよりも明瞭かもしれないと一瞬焦ったほどだ。よくよく聴き比べると、CDリッピングした音源の方が総合的なクオリティは高いが、「比べればこっちがいいね」という程度の差。Amazonで聴く音が致命的に悪いということはない。

かつて聴いたことのないAmazon Musicの音に気を良くした筆者は、手元にダウンロード版がないハイレゾ音源も再生してみた。絶賛放送中のTVアニメ『葬送のフリーレン』オリジナルサウンドトラック~Pre-release~より、「Journey of a Lifetime ~ Frieren Main Theme」や「Zoltraak」を再生。48kHz/24bit配信だ。

正直、何も言わなければNAS音源と勘違いしてしまうと思う。従来のAmazon Musicは音がイマイチという定評を根底から覆す、耳を疑うような音楽体験。中低域の厚みや密度、オーケストラの質感、楽器音のディテール表現力など、本当にこれがストリーミングサービスの音なのかと、多幸感に打ち震えた。

それにしてもZoltraakはカッコよすぎる。音質の善し悪しのチェックを忘れて音楽の中身に浸れる。魔物を相手にゾルトラークをぶちかますフリーレン様の活躍を思い起こす。それは良いオーディオ再生の証明でもあった。冗談抜きで、「俺たちの聴きたかったAmazon Musicの音はここにあった!」と言いふらしたいくらいだ。

なお、Amazon Music Unlimitedは、Amazon側で仕様が変更されることがあるらしく、急な動作不具合が起きることもある。筆者も、購入初期に一度だけまったくアクセスできない症状に見舞われた。スフォルツァートに問い合わせたところ、Amazon側の要因を案内された。しばらくすると解消されるので、落ち着いて待ってみてもいいだろう。

Qobuzの国内サービスインは残念ながら延期されているが、試しにTaktinaからQobuzをクリックすると、ログインへのリンクが表示されたのでタップした。インターネットブラウザが立ち上がり、一瞬ログイン画面になったのだが、すぐにご覧のような画面に移行した。日本からの接続ではログインをさせてもらえないようだ。

Qobuzはまだ利用できず

Roonについては、認証前なので使えない。Roonアプリのオーディオ設定でRoon Readyの一覧にDST-Lacertaが表示されているが、有効をクリックしても認証が完了していないというエラーが出る。認証を待たずにRoonで使いたいときは、Direttaを活用しよう。スフォルツァートのホームページからDiretta用のASIOドライバーをインストールすると、DST-Lacertaが「このPC」のオーディオデバイス一覧に出てくる。ASIOドライバーなのでWindowsのみ対応だ。

Roonについては、認証前なので使えない
Diretta用のASIOドライバーをインストールすると、DST-Lacertaが「このPC」のオーディオデバイス一覧に出てくる

しかし、筆者の環境では動作に支障があって、実用的とはいえなかった。スペック的には十分なPCを使っていたので、ネットワーク環境がネックだったと思われる。Diretta経由でRoonを使うなら、十分なスペックのPCで他の操作をせず、コントロールはRoon Remoteを活用することが望ましい。PCはRoon Coreの動作だけに専念させることがベターだろう。

試しにAudirvana 3.5.51からDLNA再生したら安定して動作した。逆にDirettaのドライバーを選択して再生すると、Roon利用時と同じで安定しなかった。具体的には、他アプリの操作を少しでもすると、再生が止まる。ネットワーク環境によって変わるかもしれないが、PCからのDiretta機能は、おまけのように捉えた方がよいと感じた。

筆者の環境では、RoonをインストールしているWindows PCから無線親機へWi-Fiで、親機から中継機へWi-Fiで、中継機からネットワークスイッチを介してDST-Lacertaと有線で繋がっている。Roonで再生する音源はPC内のファイルを使用した。厳しめの環境だが、Roon Readyに対応した製品であれば、正常動作することを以前より確認している。

次に、こっちの方が本筋と思われるNASを使ったDiretta再生を試してみる。SoundgenicのDiretta機能をONにしてNAS内のハイレゾを聴いてみたが、音質はあまり良くなかった。音が少し痩せて、鮮度が落ちてしまう。

SoundgenicのDiretta設定

画像では、「DST-Lacerta:MediaRenderer」という表示がUPnP(DLNA/OpenHome)であり、「SG-SSD-S1[DST-Lacerta]」という表示がDirettaによるLAN-DAC再生だ。SG-SSD-S1は筆者がSoundgenicに付けた独自の名前である。TaktinaではDiretta再生はできないので、fidataを使う。筆者の普段使っているLINNアプリでもそれぞれの切り替えや再生操作は問題なく利用できた。

UPnP(DLNA/OpenHome)

やはり、Direttaはその仕組み上、DAC内蔵でないと恩恵は受けにくいと思われる。何しろ、せっかくDiretta伝送で消費電力を平均化させてノイズを低減しているのに、最終的にはUSB伝送になってしまうので、メリットが有るのか無いのかよく分からない状況だ。USB伝送のデメリットを解消する上で、スフォルツァートはSOULNOTEと共同開発したZERO LINKに対応した上位機種を開発しているので、興味がある方はチェックしてみてはいかがだろう。ZERO LINKは、USBだけでなくS/PDIFなど従来の伝送方法の弱点を克服する画期的な技術である。

オーディオアクセサリーを活用してさらに上を目指す

オーディオアクセサリーでさらに音質向上!

DST-Lacertaの使い勝手をチェックしてみて、少しのストレスもなく、快適に使用できることが確かめられた。続いて、筆者としては恒例のオーディオアクセサリーによる音質対策を少し紹介しよう。

まずは振動対策から実施していく。ヒッコリーボードを使ったオーディオラックに直置きしているDST-Lacerta。スピーカーからの音でボードが振動し、それが機器本体に伝わっているのは好ましくない状況だ。ソフトスパイクの下にAETのVFE-4005を敷く。楽器の音の周りに纏わり付いていたわずかなモヤが減少。それぞれの分離も改善し、奥行きもより感じられるようになった。

ソフトスパイクの下にAETのVFE-4005を敷く

空きUSBポートには、USBターミネーターの「RUT-1」を適用。先ほどのVFE-4005は撤去した。以降の比較試聴は、全て単体での効果を確認している。音像がクッキリと見えやすくなる。気持ち音に芯が入って、安定したような印象もあった。本製品はノイズ対策の他に機器側基板の制振効果も期待できるのだが、そちらが特に効いているようだ。

LANケーブル経由で伝搬するノイズも対策する。SoundgenicのLANポートには、アコースティックリバイブのLANアイソレータ「RLI-1GB-TripleC」を使用しているが、DST-Lacertaにはギガビット非対応のRLI-1を使用した。サウンドステージが静かになり聴感上のSNが改善、リバーブの減衰は透明度を増した。ディテールも格段に解像度を増してリアルになった。

USBラインのノイズ対策も実施。NEO iDSDのUSBポートにiFi audioの「iPurifier 3」を加える。NEO iDSDのUSB入力はiFi audio独自の対策を既に施しているらしいので、効果はそれほど大きくなかった。iPurifier 3はノイズ減衰だけでなく、ジッターを除去し、DCオフセットが原因の歪みも対策できるそうだ。音の粒立ちが良いというか、トランジェントが改善している。弱音が他の楽器音に埋もれずに、スッと耳に入ってくるのが印象的だった。

続いて、DST-LacertaのDC電源ノイズ対策。付属のACアダプターは普通のACアダプターなので、Petit SusieとPetit Tank LEを組み合わせて試聴。後段のPetit Tank LEは、バルクキャパシターの効果で供給電源に余裕をもたせることができる。

FX-AUDIO-の「Petit Susie」と「Petit Tank Limited Edition」

また、音に有機的な質感を与えてくれるおまけ付き。ほんのわずかに感じていた中高域の雑味がほぼ消滅。楽器音に纏わり付くモヤも解消された。Petit Susie単体では、わずかに中低域が痩せてしまったのだが、Petit Tank LEを追加することで、ドラムのタムや、エレキベースの音が適度に太く、力強く鳴るように変わった。エネルギー感が素のACアダプターのときより向上し、余裕が生まれている。

そして「おまけ」の効果も見逃せない。ベーゼンドルファーのピアノのエレガントさ、エレキギターの味のある音色、タムの生っぽい質感など、デジタル録音の冷たさを感じさせない血の通った音へ変化している。ボーカルにも生命力が宿って生音のような滑らかさを感じさせる。なお、Petit Tank LEは、使い所によっては効きすぎてしまうので万能ではない。

最後にこれまでのアクセサリーを全て同時に適用してみた。

決して言い過ぎではないと前置きをしつつ、何も使ってない時と比べると「これ同じ音源か?」って思うほど音が変わる。実に音楽的で心から浸れるオーディオ体験が実現してしまった。どこまでもエモーショナルな音で、心を揺さぶってくる。仕事で厳しく音をチェックしてるのに途中でストップボタンを押せなくなる。ついでにもう何曲かキューに加えて再生してしまった。DST-Lacertaってこんなに素晴らしい音を聴かせてくれる製品なのだと改めて喜びに浸った時間であった。

やはり機材の性能を引き出すために、特にネットワークオーディオにおいては、アクセサリーの重要性はもっと注目されてほしい。

DST-Lacertaは、筆者のようなNASにUSB-DACを直結されている方のグレードアップはもちろん、普段はAVアンプでネットワークオーディオを楽しんでいて、別途お気に入りのUSB-DACを持っているという方にも適した製品といえる。また、小型軽量の本体を生かす設置例として、デスクトップでの使用もあり得るだろう。スフォルツァート製品の中でも、ちょっと頑張れば購入できる現実的な価格帯のネットワークトランスポートということで、ブランド知名度が高まることも期待できそうだ。ネットワークが有線のみなので、環境によっては中継機経由の接続となる点は許容してほしい。

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト