レビュー

激戦! 20万円以上のHDMI搭載2chアンプ。Technics/マランツ/ヤマハ3機種を聴く

ヤマハ「R-N2000A」

20万円以上のHDMI(ARC)入力付プリメインアンプをチェック

前回は10万円以下のHDMI(ARC)入力付プリメインアンプ3モデル、すなわちデノン「DRA-900H」、マランツ「STEREO 70s」、ヤマハ「R-N1000A」をレビューした。

「サウンドバーもAVアンプもいらない。しかしリビングルームの2チャンネル・システムで、オーディオもAVももっと良い音で楽しみたい」という方にとって、これらの製品はまさに時宜を得た恰好の存在だということがよくわかった。映像機器の音声出力がHDMI端子のみになりつつある現在、リビングオーディオにおいてその対応は必要不可欠だからだ。

今回は、20万円以上の高級プリメインアンプ3モデルのレビューに加え、HDMI(ARC)端子を設けたアンプ以外のコンポーネントについてご紹介したいと思う。

Technics「SU-GX70」(22万円)

Technics「SU-GX70」

20万円台アンプで最初にご紹介するのは、Technics「SU-GX70」である。Technics/パナソニックは、HDMI規格を立ち上げた7社の中心メンバー、HDMIそのものを作ったメーカーだ。

しかしながら、TechnicsはHDMI(ARC)端子付アンプの開発で遅れをとっていて、今年満を持して本機を発表したわけだ。

そんなわけで、本機のHDMI ARC対応には「HDMIを知り尽くした」テクニクスならではの工夫が施されている。

本機からテレビのHDMI ARC端子へは、音質面でもっとも有利とされる480p/Y:Cb:Cr色差信号を送出し、そのリターン信号の音声データは本機のHDMI LSIをジャンプし、ダイレクトにDIR(Digital Interface Receiver)に伝送する仕組み。この処理によって、ノイズの抑制とジッター(デジタルデータの揺らぎ)が低減できるわけだ。

本機はフォノ(MM型専用)入力を備えているほか、Amazon MusicやSpotify、Deezer、TIDAL(日本未上陸)などの音楽ストリーミングサービスに対応している。

しかしながら残念なのは、Amazon Musicがロッシー音源のみの対応になる点。ハイレゾ音源はおろかCDスペックのロスレス音源も聴くことができない。ファームウェアのアップデートによる対応が予定されているとのことだが、一日も早い実現を期待したい。

本機はプリ部とパワー部それぞれにローノイズ化を図った専用スイッチング電源を充て、同社が「JENO Engine」と呼ぶデジタル増幅方式でスピーカーを駆動するTechnics・アンプお馴染みの手法が採られている。

また興味深いのが「LAPC(Load Adaptive Phase Calibrtion)」機能で、これはスピーカーを接続した状態でテストトーンを発生させてアンプ出力の周波数振幅位相を測定、デジタル信号処理で理想的なインパルス・レスポンスへと更生するものだ。

LAPCのテストトーンを発生させて測定し、その後オン/オフによる音の違いを確認してみた。

モニターオーディオの高級スピーカーを用いたが、その効果は明らか。オンにするとヴェールを1枚はがしたかのように澄明なサウンドステージが出現した。とくに低域の明瞭度の向上が印象深い。これは常時オンで使うべきだろう。

音色はウォームというよりはクールな質感。暗騒音をよく拾う印象で情報量がきわめて多い。ハイレゾの魅力を余さず伝えてくれる。また、フォノ入力の音質もよく磨かれている。ややハイバランスながら高域のクリスプな輝きが好ましく、シンバルの音の粒子が空中を漂うような生々しいサウンドが体験できる。

注目のHDMI ARCの音だが、さすがにこれは他社製品とは一線を画す見事な音を聴くことができた。サウンドステージが広くローレベルのリニアリティに優れていて、音の消え際の描写が精妙だ。映画のダイアローグの真に迫った表現力にもおおいに感心させられた。

現状での弱点は、Amazon Musicがロッシー音源のみの対応になることだけ。いち早いファームウェアアップデート対応を願いたい。

マランツ「MODEL 40n」(28万6,000円)

マランツ「MODEL 40n」

マランツの新デザインをまとったプリメインアンプ。まずこのデザインのすばらしさに心惹かれる。

フロントパネル中央に有機ELを用いた円形の表示部、その下にシンメトリーに配置されたノブが配され、左右両サイドに金型成形によるディンプル(窪み)パターンがあしらわれている。フロントパネル左上の40nのタイプグラフィも洒落ていて、本機のデザインは昨今のオーディオ機器の中でも高い洗練度を誇っている。

仕上げはブラックとシルバーの2色だが、このデザインがフィットするのは断然黒だと思う。

「MODEL 40n」ブラック

アンプとしてはきわめてオーソドックスなつくりで、アナログ・リニア電源回路を搭載したAB級増幅回路方式が採られている。出力は70W+70W(8Ω)。

高音質設計に抜かりはなく、マランツ独自のディスクリート構成高速アンプモジュール“HDAM”をプリ部に採用、出力段はフルディスクリートのパラレル・プッシュプル構成だ。

内蔵されたDAC素子は32bitタイプのES9016で、同社独自のネットワーク機能「HEOS」とBluetooth受信機能を持ち、MM型専用フォノ入力も備えている。

注目のHDMI ARC対応については、独自の高音質対策が採られている。ARC接続時の音声信号リターン時に、音声信号とCEC(Consumer Electronics Control)信号を分離し、音声信号のみ直接DIR(Digital Interface Receiver)に入力する仕様。こうすることでノイズ抑制とジッター(デジタルデータの揺らぎ)が低減でき、高音質化が期待できる。

音声信号とCEC信号を分離し、音声信号のみ直接DIRに入力し、ノイズやジッターを低減している

先述のように、本機はHEOSを積んでいるので、高音質音楽配信サービスAmazon Music UnlimitedのFLAC形式のハイレゾファイルを簡単に聴くことができる。このサブスクのハイレゾ音源が聴ける機能を積んだプリメインアンプは案外少なく、これは本機の大きなアドバンテージだろう。

Amazon Music Unlimitedのハイレゾファイルを聴いてみたが、音調はウォームでスムーズ、帯域バランスがよく整っていて、音楽ジャンルによる得手不得手を感じさせない。音場表現もじつにワイドだ。

本機の上位機種に「MODEL 30」(32万7,800円)というプリメインアンプがある。これはネットワークオーディオ機能にもHDMI ARC端子にも対応していないクラスD増幅のピュア・アンプだ。情報量の多さや音場表現などで本機を上回る印象だが、音色は寒色系で、ぼくの好みは本機のほうである。

MODEL 30

HDMI ARC端子にテレビから戻ってくる音声信号は、テレビの音声処理回路の限界によって96kHz、192kHz/24bitの信号は48kHz/16bitにダウンコンバートされてしまうのが残念だが、映画のダイアローグなど声に十分な肉が付き、緻密で聴きごたえがある。

フォノ入力の音も聴いてみたが、これも予想以上に良質なサウンド。アナログらしい確かな音像の実在感がある。この音ならアナログ入門層に十分アピールすることだろう。

テクニクスSU-GX70と並ぶ20万円台のお値打ちアンプとしてお勧めしたい。

ヤマハ「R-N2000A」(42万9,000円)

ヤマハ「R-N2000A」

前回ご紹介したヤマハR-N1000Aの上位機としてR-N2000Aが用意されている。値段が2倍以上だが、実際に本機の音を聴いてみると、その価格差が十分にうなずけるハイレベルな音を聴くことができた。

音質と並んでデザインがすばらしい。仕上げはブラックのみ。サイドパネルは上質なピアノ塗装で、ヘアライン仕上げのフロントパネル中央にはVU/ピーク切替レベルメーターが装備され、その下にはBASS/TREBLE等の調整ツマミや入力切替/音量調整ノブが、その下には有機ELを用いた視認性のよい表示窓が配置されている。

1970年代から連綿と続くヤマハHi-Fiオーディオ伝統の洗練された上質なデザインが好ましい。

フロントパネル中央にはVU/ピーク切替レベルメーター
下には有機ELを用いた視認性のよい表示窓

回路は、ヤマハHi-Fiメソッドに則ったオーソドックスな設計。AB級増幅回路と大容量トロイダルトランスを積んだアナログ・リニア電源回路を採用し、同社独自の「メカニカルグラウンド・コンセプト」を基本に機構設計にも意を注いでいる。

MOS-FETを用いた出力段の、L/Rチャンネルそれぞれのプラス側とマイナス側4組の電力増幅回路をフローティング、出力段のプッシュプル動作の完全対称化を実現するとともに、全回路をグラウンドから独立させることで、外来ノイズの影響を排除している。

採用されたDAC素子は電流出力型の8chタイプのES9016PROで、この素子をL/Rそれぞれに2基採用している。

本機は、同社独自のネットワークオーディオ機能「Music Cast」に対応していて、Amazon Music UnlimitedのFLAC形式のハイレゾファイルを簡単に聴くことができる。これも大きな注目ポイントだろう。

専用アプリ「MusicCast CONTROLLER」でソースを選択しているところ

また機能面で注目したいのは、同社製AVアンプでお馴染みの自動音場補正機能「YPAO(Yamaha Parametric room Acoustic Optimizer)」の搭載だ。部屋の音響特性に合わせてスピーカーからの出音を更生することで、より好ましい音を創成してくれる機能である。

実際に付属のマイクロフォンを用いてYPAO測定し、そのオン/オフの音の違いを確認してみた。

モニターオーディオの高級スピーカーを用いたが、YPAOをオンにすると、音の整いが良くなり、サウンドステージ全体が澄明になる効果が得られたが、音の勢いとか力感は削がれる印象。優れた音響特性の部屋ではオフで聴くほうが好ましいかもしれない。低域の伝送特性にクセが生じがちな狭小空間でこそ、YPAOは威力を発揮するはずだ。

Amazon Music Unlimitedのハイレゾファイルを聴いて驚かされたのは、そのスケールの大きな再生音。弟機のR-N1000Aに比べて、音場は幅も奥行きも高さもよりワイドに広がり、低音はより厚く深く澄明だ。高域のヌケもいっそう良好に感じられる。

本機にはMM専用フォノ入力がある。凝った回路が採用されているわけではないだろうが、そのアナログ・サウンドもS/N感に優れ、けっして悪くない。上質な昇圧トランスと組み合わせてMC型カートリッジを使うのも面白い。総じて50~100万円クラスのピュア・プリメインアンプと十分に戦える音質に仕上がっていると確信させられた次第。

HDMI ARC接続時の音質改善策として注目したいのは、DAC前段にシーラスロジック社のジッターリダクションが搭載されていることだろう。音像定位に優れたキレのよい音で、映画のダイアローグも聴きごたえ十分。音楽や効果音などもワイドに広がり、5.1ch/ドルビーアトモス収録音源を聴いても、この2ch再生で何の問題もないのでは? と思わせる見事な音を聴かせた。

他にもある! HDMI(ARC)搭載のオーディオ機器

HDMI(ARC)端子を備えた製品はなにもプリメインアンプに限るわけではない。

その音を聴いて好ましいと思った製品として挙げたいのが、デノンのネットワークオーディオプレーヤーの「DNP-2000NE」(27万5,000円)とラックスマンのネットワークトランスポート「NT-07」(59万4,000円)だ。

デノン「DNP-2000NE」

サブスクの音楽ストリーミングサービスを大型テレビが置かれたリビングルームで楽しみたいという方が増えている現状を考えると、ネットワークオーディオ機器にHDMI(ARC)端子を設けることで、テレビに接続される映像機器の音もハイクオリティに楽しめることを訴求することは、じつに理にかなったことに思える。

DNP-2000NEは、D&Mグループのネットワークオーディオ機能HEOS対応機で、Amazon Music Unlimitedのハイレゾファイルを聴いてみたが、充実したアナログ・リニア電源回路の恩恵を実感させる力感に満ちたサウンドで、聴きごたえがある。HDMI ARC接続の音もとてもすばらしい。

ラックスマン「NT-07」

NT-07はD/Aコンバーターを内蔵していないネットワークトランスポート。現状ではAmazon Music Unlimitedには対応していないが、Spotifyや日本でのサービスが間もなく始まるQobus、TIDAL(日本未上陸)などの各種ストリーミングサービスに対応する。

HDMI端子は2系統用意されていて、一つはテレビとの接続を前提としたHDMI ARC端子でもう一つは(UHD)ブルーレイプレーヤー&レコーダーと接続できるHDMI入力端子だ。

マランツMODEL40nのレビューでも述べたが、HDMI ARC端子にテレビから戻ってくる音声信号は、テレビの音声処理回路の限界によって96kHz、192kHz/24bitの信号は48kHz/16bitにダウンコンバートされてしまうのだが、HDMI入力ならばブルーレイなどに収録されたハイレゾのPCM音声をそのまま受けることができる。これは大きなアドバンテージだ。

実際に192kHz/24bit収録されたブルーレイ『坂本龍一/PLaying the Orchestra 2014』でダウンコンバートされるHDMI ARC端子とされないHDMI端子の音を比較してみたが、明らかな音質差があった。

ブルーレイプレーヤーとダイレクト接続したHDMI入力のほうが、オーケストラのスケール感で大きく上回り、立体的なサウンドステージが実感でき、個々の楽器の音色も正確に伝わってくる印象だ。

(UHD)ブルーレイプレーヤーやレコーダーをオーディオラックに置いて、本機NT-07とHDMIダイレクト接続して2chシステムに組み込めば、プロジェクターを用いた大画面再生にも活用できるわけで、本機はオーディオ&ホームシアター・マニアには恰好の存在だろう。

そのほか安価なHDMI(ARC)端子付コンポーネントとして挙げておきたいのが、ティアックのプリメインアンプ「AI-303」(オープン/実売8万円台)。本機はネットワークオーディオ機能には対応していないが、タイプC端子のUSB入力を備えており、ハイレゾファイルに対応する。Hypex社製のクラスD増幅モジュールNcoreを採用していて、キレのよい俊敏なサウンドを聴かせる。

ティアックのプリメインアンプ「AI-303」

カナダから日本上陸を果たしたネットワークプレーヤー「NODE」、プリメインアンプ「POWERNODE」にはeARC端子が装備されている。ジュエリーボックスを思わせる瀟洒なデザインと併せてリビングルーム・オーディオにピッタリな存在だ。

POWERNODE(N330)

昨今注目モデルが目白押しのアクティブスピーカーの中でHDMI ARC端子を備えたモデルとして注目したいのが、独エラックの「DCB-41」(94,600円)。本機はフォノ入力も備えていて、まさにマルチパーパスなモデル。音色はウォームで穏やか。さまざまな音源にしなやかに対応する。

エラックの「DCB-41」

そのほか高級機では英KEFの「LS60 Wireless」や「LS50 Wireless、LSX」などもHDMI ARC対応モデルとして注目しておきたい。

KEFの「LS60 Wireless」

以上見てきたように国産モデルだけでなく、世界中でHDMI(ARC)端子を備えてリビングルーム・オーディオにしなやかに対応していこうというムーブメントはとどまることを知らないようだ。来年もこの動きを注視したいと思う。

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。