レビュー

TVでネット動画がここまで簡単に! 「Chromecast」を試す

シンプル&便利なHDMIステックに見るテレビの将来

 5月28日、Googleはテレビに接続してYouTube動画などが楽しめるスティック型デバイス「Chromecast(クロームキャスト)」を発売開始した。スマホ/タブレット連携を前提としたHDMIスティック端末でIEEE 802.11b/g/nの無線LANに対応、スマホで選んだ動画などのコンテンツを、Chromecastを経由してテレビ出力可能になる。価格は4,200円。

Chromecast
Chromecast本体。手のひらサイズのHDMIスティックだ

 これまでも似たような「HDMIスティック」製品は数多く発売されてきた。例えば、昨春にはNTTドコモの「dstick」、auの「Smart TV Stick」、ソフトバンクの「SoftBank SmartTV」などが発売されている。これら、ケータイキャリアが発売していたスティックは、端的に言えば「各社が展開するスマホ向け動画配信サービスを、テレビでも楽しもう」という狙いのものだ。

 Chromecastの狙いも基本的には同様で、「YouTube」や「Google Play映画/音楽」などのGoogleのサービスを、テレビに出力して楽しむためのもの。ただし、開発者向けにSDKを公開し、他社のサービスに向けてプラットフォームとして開放しており、日本参入にあわせて、NTTドコモの「dビデオ」やauの「ビデオパス」などの他社のサービスに対応した。これにより、テレビの大きなスクリーンを活かしたワイヤレス出力用デバイスとしての魅力を高めている。

 5月30日時点の対応アプリケーションは、YouTubeとGoogle Play、dビデオ。auビデオパスは、6月上旬に対応予定だ。

 機能としてはとてもシンプル。基本的にはスマートフォンなどからの再生指示を受け、ネットワーク経由で映像をストリーミングし、テレビで表示するだけの「ワイヤレスディスプレイアダプタ」だ。さっそく、Chromecastの使い勝手、実力を検証してみよう。

シンプルなハードウェア。USB給電に工夫も

パッケージ

 スクエアなパッケージには、Chromecast本体と、USBケーブル、ACアダプタ、HDMI延長ケーブルが同梱されている。本体の外形寸法は、72×35×12mm(縦×横×厚み)、重量は34gで、手のひらに収まる程度。電源はUSB経由で給電する。

 Androidの開発/提供元であるGoogleの製品だけに、Android端末だと誤解している人も多いようだが、非常に単純なハードウェアで、本体側には操作用のインターフェイスは一切ない。あくまで、スマートフォンなどからの指令を受け、ディスプレイに映像を表示するだけのデバイスだ。

 そのため操作には、スマートフォンやタブレット、パソコンなどが必要。対応OSはAndroid 2.3以降と、iOS 6以降、Windows 7以降、Mac OS X 10.7以降と、ChromeOS。操作のためには無線LAN環境が必須となるほか、インターネット経由で映像をストリーミング表示するため、標準画質で1.5Mbps以上、HDで3Mbps以上の回線環境が推奨されている。

本体前面
背面
USB経由で電源を供給
厚みは12mm
HDMI延長ケーブル。隣のHDMI端子と鑑賞するときなどに利用する
同梱品
空いているHDMIにChromecastを挿すだけ

 設置はシンプル。テレビにHDMIで接続し、コンセントから電源を取る。あとはテレビの入力を、Chromecastを接続したHDMI端子に切り替え、アプリの設定を行なうのみだ。

 今回は、東芝の42型液晶テレビREGZA「42Z8」と組み合わせて利用した。ACアダプタから給電し、HDMI端子に接続するだけ。電源はACアダプタを利用するが、42Z8のUSB端子から給電しても問題なく動作した。ただ、機種や端子にもよるが、テレビのUSB端子から給電している場合、USB端子から常時給電されないと、テレビのON/OFFに連動してChromecastの電源が落ちてしまう。

 一度電源が落ちると、Chromecastの起動に20秒ほどかかるので、頻繁にChromecastを使う場合は、ACアダプタやUSBハブなどから給電したほうがいい。

 また、ChromecastはHDMI CECに対応しており、Chromecastが待機状態になっていれば、スマートフォンからChromecastに映像出力指示を出すと同時にテレビも起動し、再生を開始してくれる。Chromecastに常時通電できる環境を整えた方が、使い勝手はいいはずだ。

HDMIでテレビに接続するとセットアップを促す

 セットアップもシンプル。iPhone 5sの場合、画面に表示された専用のウェブサイトにアクセスすると、設定アプリのダウンロードを促される。まず、設定アプリでChromecastとスマートフォンを無線LANで直接接続し、認証を行なう。

 その後は、Chromecastを利用する無線LAN環境(ルータなど)を選んで、パスワードを入れるだけだ。基本的にウィザードにしたがって操作すればそれほど難しいことはない。今回はiPhone 5sから行なったが、もちろんAndroidスマートフォンや、パソコンからもセットアップできる。

Chromecastセットアップ
Chromecastに直接接続
設定
コードが表示され、設定完了
ネットワークを選択
名前を設定
国を選択
SSIDと無線LANのパスワードを入力
セットアップ終了でファームウェア(?)アップデート

 WPSやAOSSのような無線LAN設定支援には対応していないので、こうした機能を使って無線LANを構築している人は、パスワードの入力がやや面倒かもしれない。ただし、一度設定が済んでしまえば、スマホやタブレットなどの操作デバイス側の設定は一切必要なく、同じLAN内のどのデバイスでも、対応アプリからChromecastへの出力が可能となる。

アプリから出力先を選ぶ“だけ”でテレビに出力

 操作も非常にシンプルだ。

 基本的には以下の3ステップで、コンテンツ選択からテレビ出力までが行なえる。

(1)スマートフォンの対応アプリからコンテンツを選択
(2)画面右上の[キャスト]アイコンをタップし、出力Chromecastを選択
(3)テレビに出力

YouTubeアプリの上部に[キャスト]アイコン

 対応アプリは、YouTubeとGoogle Play映画などのGoogle Playアプリ、dビデオ。また、MacとWindowsのChromeブラウザが、拡張機能によりベータ版として対応する。

 YouTubeについては、コンテンツを選択し、再生画面に入ると右上に[キャスト]ボタンが表示される。普通に再生すればiPhone上で再生開始するが、このキャストボタンから出力先のChromecastを選ぶと、テレビに出力される。

 YouTubeアプリで指定したコンテンツが、そのままテレビに表示される。画質モードの設定などは出来ないが、フルHDコンテンツもきちんとHDで表示されているように見える。

画面上部に[キャスト]ボタン
出力先としてChromecastを選択
Chromecast解除
YouTubeアプリがコントローラになり、テレビに画面が出力される

 テレビにChromecast出力している時は、YouTubeアプリ側はコントローラ(リモコン)として動作し、再生停止やタイムシークバーなどが表示される。シークバー操作のレスポンスもスマホ上でYouTubeを見ている時とほぼ同じだ。また、再生系の操作だけでなく、スマートフォンからテレビのボリューム操作も行なえる。

 Chromecastでできることは基本的にはこれだけ。

「スマートフォンのこなれたインターフェイスでコンテンツを選び、出力先は映像に没入できる大画面のテレビを指定する」ことに特化した製品だ。そのための操作性が、シンプルでわかりやすいという点が魅力といえる。

dビデオをChromecast

 「dビデオ」でも操作は同様だ。コンテンツを選んで、右上の[キャスト]ボタンから出力先にChromecastを選ぶだけ。タイムシークバーを使ったスキップやボリューム操作も行なえる。dビデオは、約2万本とコンテンツ数が多く、月額利用料も500円と安価だが、これまではテレビに出力できるデバイスは、ドコモの「dstick」(7,128円/税込)のみだった。

 Chromecast対応により、より安価かつシンプルに、dビデオを大画面で楽しめるようになるので、dビデオユーザーにとっては、非常に魅力的なデバイスの登場といえるだろう。

iPadでdビデオを操作。キャストボタンが上部に

Miracastと何が違う? niconico、Huluは?

 発表後にChromecastが少し誤解されていると感じたのは、スマートフォンの画面をそのまま出力する「Miracast」と同じものと認識している人が多いということ。Miracastの場合、例えばYouTubeを再生する際には、Miracast搭載スマホで再生しているYouTubeの画面をそのままテレビにワイヤレス伝送する。つまり「ミラーリング」だ。

 一方、Chromecastでは、YouTubeアプリはあくまで指示を行なうだけで、実際の映像データはYouTubeからChromecastに直接ストリーミングされるのだ。そのため、映像再生時などのスマートフォン側の負荷は殆ど無い。YouTube再生時のChromecastの動作をDLNAに例えると、サーバー(DMS)が「YouTube」、コントローラ(DMC)が「YouTubeアプリ」、レンダラー(DMR)がChromecastといったところだ。

 Chromecastで“イイ”と感じたのは、Googleアカウントなどに紐付けずに使えること。同一ネットワーク内に出力デバイスが検出されれば、対応アプリに[キャスト]ボタンが表示され、すぐに出力できる。スマホやタブレットなどの操作デバイス側の認証作業や設定が一切必要ないのだ。

 家族で使う場合、無線LANに入れれば登録作業は必要なく、単に最新のYouTubeやdビデオアプリが入っていればいい。あとは、アプリ上に表示されるキャストアイコンを選ぶだけだ。友人が家に遊びに来たときなども、無線LANに入れれば、友人のスマホでYouTubeのコンテンツをテレビにすぐに出力できる。

 すごく便利なChromecastだが、残念なのは「対応アプリが少ない」という点に尽きる。現状、YouTubeのほかは、Google Play映画などのGoogle系アプリ、あとはdビデオとauのビデオパスという定額制ビデオ配信サービスだけだ。とはいえ、dビデオやビデオパスの利用者で、これまでHDMIスティックを使っていなかった人にとっては、現時点でもとても魅力的なデバイスになっているのは間違いない。

 一方で、日本で動画サービスといえば、やはりニコニコ動画(niconico)への対応は外せない。Googleでは、SDKを提供済みで、基本的に各サービス事業者の対応にまかせているとのことだが、ドワンゴによれば「対応を検討中」とのこと。また、ゲームプラットフォームを中心に、すでに多くのテレビ対応デバイスを持つHuluも、「前向きに検討したい」と話していた。多くのサービスが対応することで、日本におけるChromecastの魅力は一層高まるだろう。

 ただし、これらのサービスも工夫次第ではChromecastで視聴可能だ。というのも、ベータ版ながら、WindowsとMacのChromeブラウザが対応しているためだ。

パソコンでもChormecast。一応niconicoも見られる

Google Castをインストール

 パソコンでの対応という点では、Chromeブラウザの拡張機能として、Chromeウェブストアに「Google Cast」が用意されている。このプラグインをインストールすることで、Chromeで開いている[タブ]をChromecastに出力できるようになる。

 拡張プラグインのインストールが終わると、Chromeの右上に[キャスト]ボタンが表示される。キャストボタンからChomecastへの出力を選択すれば、そのタブの表示部がテレビでも出力可能になる。画質は、最高(720p高ビットレート)/高(720p)/標準(480p)から選択できる。

Chromeの右上にキャストボタン
画質設定
ブラウザのGoogle MapをChromecast
niconicoをChrome拡張を使ってテレビ出力。遅延は少々気になる

 Windows 8.1のノートPCからniconicoで番組を選択して、[キャスト]してみたが、問題なく視聴が可能で、コメントなどもきちんと表示された。ただし、Chromeからの[キャスト]の場合は、画面をそのままミラーリング出力するためか、1~2秒程度の遅延が発生する。そのため、ライブ感が重要な生番組などでの利用にはストレスを感じるかもしれない。

 遅延さえ気にしなければ、ウェブアプリケーションを使ったプレゼンテーションなども行なえるので、小規模なオフィスなどでは、簡易的なプレゼンツールとして、用意してもいいかもしれない。また、テスト中という段階ではあるが、パソコンの全画面をChromecast出力する機能も用意されている

テレビがより便利に。将来はテレビ内蔵?

 Chromecastの機能はとてもシンプル。端的に言えば、YouTubeやGoogle Playといったネットサービスの魅力を向上するためのテレビ出力アダプタだ。そのアダプタが、オープンに各社に開放されることで、様々なサービスが乗り合うプラットフォームになりつつある、いった段階といえる。

 YouTubeは世界で最も多くの人に使われる動画サービスだが、テレビの大画面で見たいといった時に、MHLやHDMIからケーブルで出力するより、明らかにシンプルで、操作性はスマホそのもの、という環境が簡単に実現できる。これだけでもChromecastは魅力的なデバイスだ。

 もちろん、Google Play映画などの利用者にも便利だろうが、やはり日本投入のタイミングでdビデオに対応するのは重要なポイント。400万を超えるユーザー層を持つ、dビデオユーザーにとっては、非常に魅力的なデバイスの登場だ。同様にビデオパスのユーザーにも歓迎すべきことだ。

 特にテレビ対応が弱いVODサービス事業者にとっては、対応検討デバイスの最上位に加えるべきデバイスといえる。また、今後は、ユーザーがVODサービスを検討する際の選択基準の一つになっていきそうだ。

 安価でシンプルな操作性が魅力のChromecastだが、あえて課題を上げれば無線LAN設定などはややわかりにくい点だろうか。まず、Chromecastにダイレクトに無線LAN接続し、その後に家庭内の無線LANに接続させるというのは、初心者にはわかりにくいだろう。だれもが気軽に設定できる、という段階までには至っていない。

 また、HDMIの入力を1系統専有するというのも気になるところ。そうした意味では、Googleが目指しているのは、Chromecast機能のテレビ内蔵なのかもしれない。環境さえ整えば、わざわざHDMI端子を使わずに、ネットワークで直接入力し、テレビに表示したほうが、よりスマートだ。いまは“シンプルで便利なワイヤレスアダプタ”だが、将来的にはテレビ選びを左右する重要な機能になっていくかもしれない。

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臼田勤哉