レビュー
Re:デスクトップで始めるオーディオ生活:前編。大きなアルテック「DIG」が届いてしまった
2026年1月16日 08:00
「年も明けたし、いい音で音楽を愉しみたいからオーディオを買おうかな。けれど部屋が狭いんだよね」「欲しいけれど、お金が……」。そんな貴方にオススメなのが、ブックシェルフを核とするコンパクトなシステムです。
そこで、今回と次回の2回に分けて、筆者が25年ぶりにスピーカーを手に入れ、少し変わっているかもしれませんが、オススメの活用法をご紹介したいと思います。
筆者はパラゴンというスピーカーを使っている元ステレオサウンド編集部員です
名乗るのを忘れていました。筆者こと栗原はオーディオ好きが昂じてステレオサウンド誌の門を叩いた元編集者。現在AV Watchでも健筆を振るわれている小野寺編集長の元で働いていた者です。
情報誌の編集者を経た後、現在は自動車に関する物書きと撮影をする傍ら、オーディオ専門媒体に寄稿をしたり、「ヨーロピアンカーサウンドコンテスト」の審査員などをしています。
愛用しているスピーカーはJBLの「パラゴン」。ステレオサウンド社に入る前の27歳の頃、頭金ゼロの60回払いでお迎えしました。部屋にやってきた時は、あまりの酷い音に窓から捨てようかと思いましたが、お金がないこと、他に代わるスピーカーがないこと、なにより大きすぎて部屋から出せないことから諦めて使うことに。気づけば約四半世紀、共に暮らしてきました。
それどころか身も心も金も生き方といった“自分が持っているもの全て”をオーディオとパラゴンに捧げたため、結婚はおろか彼女もおらず、「自分はパラゴンと結婚したんだ」と思うことにしています。ちなみにステレオサウンド230号に拙宅の様子が掲載されていますので、ご興味がある方はご一読ください。
当然、在宅時はパラゴンで音楽を愉しんでいるわけですが、大がかりなオーディオシステムゆえか聴く時は気合いが必要ですし、夜はご近所迷惑の観点から音を出すことができません。
それゆえステレオサウンド社を退職した約10年前から「晩酌をしながら、まったりと音楽を愉しみたい」「時間を気にせずに音楽が愉しめる小さなサブシステムを手に入れたい」と考えるようになりました。いわゆる倦怠期です。
ですがパラゴンだけで手いっぱいなのに、もうひとつシステムを手に入れてしまったら、それこそ生活が立ち行かなくなります。一夫多妻制ではない日本において、不倫や浮気は許されない行為であると自分に言い聞かせながら、ここ数年パラゴンと過ごしていました。
パワーアンプ内蔵ネットワークプレーヤーとスピーカーだけで高品位なオーディオが愉しめる時代が来ました
話は変わり、今やオーディオはQubuzやAmazon Music Unlimitedに代表されるサブスクリプションサービスを利用してハイレゾ音源を愉しむ時代。筆者もLINNのデジタルファイルプレーヤーであるMAJIK DSM/4をパラゴンにつなげ、Qubuzで色々な音楽を愉しんでいます。
このMAJIK DSM/4が良く出来た機械で、ネットワークオーディオ機能に加えプリメインアンプ機能を搭載しているのです。つまりスピーカーとネットをつなげれば、高品位なオーディオシステムが完結できるというわけ。別途NASを必要としない時代が来てしまったのです。
このLINN MAJIK DSM/4(現行製品はMAJIK DSM/5)に限らず、マランツの「MODEL M1」やEverolo Play「PLAY CD Edition」など、ネットワークプレーヤー機能を搭載したプリメインアンプは各社から登場しており、その進化は著しく思っています。
併せてAurender「A1000」やLUMIN「P1 MINI」といった音量調整機能付きネットワークプレーヤーも注目すべきコンポーネントで、これらとパワードスピーカーを繋げるのも楽しいでしょう。
単機能オーディオコンポーネントに手が届きづらくなってきているからこそ、このミニマムなシステム案は、大がかりなシステムを持っているオーディオファイルはもちろんのこと、再びオーディオを愉しみたいという方にも魅力的に映るのではないでしょうか。筆者は、今後ミニマムでシンプルなコンポーネントがオーディオの主流になるのでは、と思っています。
「MAJIK DSM/4があるので、スピーカーを買えばコンパクトで高品位なサブシステムが手に入る」と考えた途端、浮気だ不倫だという考えはどこかへ……。こうして約25年ぶりにスピーカーを迎えての新オーディオ生活、名付けて「Re:コンパクトに始めるオーディオ生活」の幕があがろうとしていました。
「オーディオはロクハンに始まりロクハンに終わる」と偉い人が言っていた時代がありました
オーディオに限らず、専門媒体やお店に足を運んで「〇〇ってどうなんだろう?」などと考える時期は、とても楽しいものです。久々にそういう感覚を愉しんでいたのですが、なかなか予算との折り合いがつかないのも事実……。
そこで思いついたのが、ユニット口径が16.5cmや20cmのフルレンジ機です。先人の教えによると「オーディオはロクハン(16.5cmフルレンジ)に始まりロクハンに終わる」のだそう。筆者も学生時代はお年玉やお小遣いを握りしめ、秋葉原でJBLの「LE8T-H」やダイヤトーンの「P-610MB」などのフルレンジユニットを買い求め、自作箱に入れて愉しんでいました。
さっそくネットで探してみたのですが、イマドキはマークオーディオとフォステクスくらいしかフルレンジユニットは売っていない模様。ならばとヤフーオークションやメルカリなどを見ると、当時親しんでいたユニット達が比較的安価で取引されているではありませんか。
それどころか、これらのユニットをメーカー製の箱に入れたスピーカー、たとえばダイヤトーン KB-610M、JBL SP-LE8Tがペア10万円位で手に入るではありませんか。これなら箱を作らずとも済みます。
そんな折にオークションで好物件を見つけました。アルテックの409Bと、それを納めたスピーカーシステム「DIG」です
アルテックDIGは、オーディオ評論家の故・篠田寛一先生が手掛けられた隠れた名機なんです
読者諸兄の中には、アルテックの名を聞いたことがない方もいらっしゃるかも。そこでDIGの話の前に、アルテックについてご紹介しましょう。
アルテックは1941年に米国の大手通信会社AT&Tの製造部門だったウェスタンエレクトリックの音響部門が独立(厳密には違うけれど)した会社。なんで通信機会社が音響部門を持っているの? というと、電話機にスピーカーがあるから。
一説によると、世界初のスピーカーは電話機についていたものと言われています。電気的に音が出る方式が見つかれば、あとは映画館や、コンサートホール、ホームオーディオに技術転用するのは想像に難しくなく。つまり私達のスピーカーの大本を辿ると、ウェスタンエレクトリックにたどり着くというわけです。
ウェスタンエレクトリックから独立した会社は、当初アルテック・サービス・カンパニーという名前でした。ですが設立同年にエンジニアのジェームス・バロー・ランシングさんの会社を買収、技術副社長と迎えてアルテック・ランシングという名前になりました。
ちなみにランシングさんは、1946年に独立して「ジェームス・バロー・ランシング・サウンド」、今のJBLを興します。ですが債務が膨らみ1949年9月24日、工場裏のアボカドの木にロープをかけました。享年47。
話をアルテック・ランシングに戻しましょう。1950年代から1970年代まで、同社は劇場用スピーカーやスタジオモニタースピーカー、アンプの分野で圧倒的なシェアを誇っていました。ですが「盛者必衰の理をあらはす」とはよくいったもの。1970年代後半から販売は低迷。様々な会社に買収され、売られ、買収され……。現在はヘッドフォンやBluetoothスピーカーを製造・販売しているようです。
続いてアルテック 409Bというユニットについて。409Bは、1960年代後半に登場した主に公共施設の呼び出し放送やBGMなどのPA向けに作られた同軸型のフルレンジユニット。20cmコーン型ウーファーの前にブリッジを介して7cmコーン型ツイーターを同軸配置しています。
そのためか指向特性が120度にわたり均一だそうで、広くて不特定多数の人にアナウンスを届けなければならない公共施設の呼び出しに適しているのは勿論のこと、自宅で使う場合、どこにいてもいい音が聴こえるというメリットにつながると思われます。
ユニットを裏返すとフレームにはアルテック・グリーンが塗られており、筆者にはエメラルドよりも美しく輝いて見えます。古い資料によると磁気回路はツイーター側がアルニコ、ウーファー側がセラミック(フェライト)マグネットとアナウンスされていましたが、筆者の個体はツイーターもフェライトマグネットのようでした
クロスオーバー周波数は2kHzで、ネットワーク回路(コンデンサー)はブリッジ部分に取り付けられています。コイルの姿が見当たらないので、遮断特性はおそらく-6dB/octと思われます。公表されている周波数特性は、ハイレゾオーディオロゴとは無縁の50Hz~14kHz。驚くべきは出力音圧レベルで、なんと106.5dB/W/1.2mという高能率。これなら2A3など真空管を使った小出力シングルアンプでも楽しめそうです
その409Bを当時アルテックの日本輸入代理店であったエレクトリが、自社開発したエンクロージュアにインストールし1971年8月に発売したスピーカーがDIGです。エンクロージュアを設計されたのは、当時エレクトリの社員で、後にオーディオ評論家として健筆を揮るわれた篠田寛一さんです。
筆者とDIGの出会いは、ステレオサウンド誌の取材で篠田先生のお宅にお伺いした時のこと。先生とは会社で何度もお会いしていましたが、ご自宅へ伺うのは初めて。心を躍らせながら先生宅へ向かったのは言うまでもありません。
玄関を入り左手のリスニングルームに招かれると、眼前にはビクトローラ クレデンザというアコースティック蓄音機を中央に、B&Wの「802D」とアルテックの劇場用スピーカー「A7-500」が対照的に配置されていました。
篠田先生のA7-500は、先生のお人柄そのものといった、陽性で大らかで耳あたりのよい優しい音色。特に歌声が素晴らしく、勝手に「ズルい!」と思ったものです。
順調に仕事が終えた頃、リスニングルームの入口付近にDIGが向かい合わせで置かれるのを発見しました。わざとらしく「このスピーカーは何ですか?」と尋ねると、先生は照れた表情を浮かべながら「コレ、俺が昔作って売ったスピーカーの試作品なんだけどさぁ」と、DIGを部屋の中央に置いてアキュフェーズのプリメインアンプとつなげられるではありませんか。その音は、A7-500の魅力を凝縮したかのよう。
「どうかな?」という篠田先生に「これでアガリじゃないですか」と素直に答えたところ、「そうか、ありがと」と再び照れた表情を浮かべながら、引きちぎるかのようにスピーカーケーブルを外し、そそくさと元の位置に置かれました。帰り道、「いつか、あのDIGを手に入れたいなぁ」などと思ったのは言うまでもありません。
以来、先生とお会いする度にDIGの話を伺おうと試みましたが、照れられて多くを語ってくださりませんでした。そして筆者がステレオサウンドを去った数年後、篠田先生は2019年10月に鬼籍に入られました。
ただの箱にも創意工夫が凝らされていると篠田先生から教えて頂いた気がしました
ヤフーオークションでDIGを落札。支払い金額はなんとペアで7万円弱! 誰かと争うことなく、一発落札でした。
数日後に届いたのですが、荷受けした時「こんなに大きかったの?」と絶句。さらに梱包状態で30kgという重さに腰がピキッ!
なんとか開梱してスリーサイズを計測したところ、375×275×640mm(幅×奥行き×高さ)と、JBL 4312やタンノイ IIILZあたりと似た大きさ。「買い物はキチンと下調べをしてから」と改めて思いました
やや濃いウォールナット仕上げに、織り目の粗いサランネットが実によい風合いで、モダンリビングはもちろん和室にも似合いそう。サランネットの取り外しはできないようです。バスレスポートは左右チャンネルともフロントバッフルの右側にあり、ポートは単なる紙筒で切りっぱなし。イマドキ当たり前のフレアポート形状ではありません。
スピーカーターミナルは懐かしいプッシュ式です。使えるスピーカーケーブルが限られますし、孔に通すのに一苦労しますが、今様の高級スピ―カーターミナルよりもプッシュ式の方が外れにくかったりします。
折角なので裏蓋を取り外して中を見てみましょう。エンクロージャーの素材はパーチクルボードでバッフルは18mm厚、その他の部分は15mm厚。20cmユニットにしては側板の板厚が薄いですが、篠田先生によると低音を出すため、試行錯誤の末に決められたとのこと。それゆえ補強桟などもありません。
本来は吸音材の類はないようですが、前に使われていた方が施行されたと思われるフェルトの吸音材が貼られていました。オリジナル機に吸音材がついていたのかが不明なので、とりあえず貼ったまま蓋を閉じました。
心地よいDIGのプレイバックにゾクゾクしてしまいました
とりあえずパラゴンの上に設置。MAJIK DSM/4とつなげてみました。どんなに上手な歌手でも寝起き直後は声が出ないように、スピーカーも置いた瞬間はイイ音が出ないもの。DIGもその例に漏れずで、最初は「なんだコレ?」と目がテン。とりあえず小さな音を出したまま家を空けること数時間。帰宅しドアを開けると、いい感じの音が鳴っていました。
50年以上前に販売されていたスピーカーですから、イマドキのスピーカーとは鳴りが大きく異なります。中高域が張り出した、上も下も出ないナローレンジサウンドで、大きな音を出すと箱鳴りやポートノイズも聴き取れます。
篠田先生によると、当時評論家の方から「じゃじゃ馬だ」とか「クラシックは聴けない」と酷評を受けたのだとか。先生、大変失礼な事は承知で申し上げますが、おっしゃられた方の気持ち、分からなくもないです……。
ですが現代スピーカーでは耳にすることが少なくなった、気持ちが高揚する魅力的な音を奏でるのも事実。全ての音が活き活きとした主観的な表現は、聴いていて愉しくて愉しくて。フルレンジ型ゆえか前後左右の定位がとても良く、特に奥行き表現が印象的。カラッとした音と相まって、とても気持ちのよいプレイバックです。
篠田先生はアナログプレーヤーの試聴取材の時、必ずオスカー・ピーターソン・トリオの銘アルバム「We Get Requests(邦題:プリーズ・リクエスト)」のB面1曲目「You Look Good to Me」に針を降ろされていました。レイ・ブラウン(b)の弓弾きで、アナログプレーヤーのピッチ安定度をチェックされるのがお約束でした。
オスカー・ピーターソン(p)のまろやかで優しいピアノタッチ、エド・シグペン(ds)のリズミカルなブラシワークが陽性の色を帯びた乾いた優しい風となって部屋を包み込みます。アルテックで聴くジャズ、実にイイんですよ。
ジャズもイイですが、公共施設の呼び出し放送用ということもあって声の再現が逸品!
篠田先生はオーディオ評論家だけでなく、戦前・戦後の歌謡曲、昭和流行歌史に深い造詣をお持ちでした。新製品取材で先生が昭和歌謡をかけることはありませんでしたが、常にオーディオで重要なのは人の歌声であると仰っていました。
昭和の時代から活動すること45年。「ラブソングの王様」で知られる鈴木雅之の歌声と姿は、時を超えて男性が惚れる男の理想像といえるでしょう。YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」の5周年を記念した生配信「REAL TIME THE FIRST TAKE」で披露した、ラッツ&スターの代表曲「め組のひと」は、大人の色気と張り詰めた緊張感、そして長い活動歴からくる息の合ったプレイが聴きどころ。
DIGはそれらを綺麗に表出させて、実に楽しい演奏としてリスナーに届けてくれます。肝心の歌声も、鈴木雅之の魅力である、甘くて太い歌声と、佐藤善雄のセクシーなバスボーカルが重なりも綺麗かつセクシーで思わずゾクゾク。時折マイクを離れて合いの手も、これまた綺麗。彼らのエバーグリーンな魅力をDIGは教えてくれました。
次回はDIGを「普通ではない」鳴らし方をします!
DIGには「掘る」から転じて、「発見する」「のめり込む」という意味もあるのだそう。篠田先生が名付け親なのかは分かりませんが、聴いているうちに「このスピーカーでオーディオと音楽にのめり込んで欲しい」という願いが込められているような気がしてきました。
オーディオ機器が高くなってしまい、手が出しづらい時代だからこそ、古いスピーカーから始めてみるのはいかがでしょうか。現代の製品には、解像度や音場などの面で秀でている部分が多々あります。ですが、「故(ふる)きを温(たず)ね、新しきを知る」という『論語』の言葉のとおり、先人の知恵や歴史を学んでから、現在や未来を創造するのは、趣味の世界を拡げてくれると思います。そうした知識欲が満たせるのも、オーディオという趣味のよいところだと思います。
古いスピーカーだから古式ゆかしい音がする、ということはありません。よいスピーカーは時代を超えるのです。もちろん現代の製品には、現代機でしか出せない魅力もあります。古いから、新しいから、という考えはいったん置いて、今年、読者諸兄が心から音楽が愉しめる、のめり込めるスピーカーと出会えることを祈ってやみません。




























