レビュー
PS Vita TVの実力は? 圧巻の操作性と画質の物足りなさ
nasne連携を中心にAV機能を試す。小型PSがTVを拡張
(2013/11/15 18:16)
最小のプレイステーションこと「PlayStaton Vita TV(PS Vita TV)」が11月14日に発売開始された。PlayStation Vitaのゲームやビデオ、音楽再生機能などはそのままに、HDMIでテレビに接続して利用できるようにしたというユニークな製品。PlayStation Storeや、niconico、Hulu、TSUTAYA TV、DMM.com、スカパー! オンデマンドなど、ビデオ配信サービスにも対応、さらに、SCEのネットワークレコーダ兼NASの「nasne」の番組視聴や操作が行なえるアプリ「torne PlayStation Vita TV」(torne PS Vita TV)も提供開始された。
つまり、PS Vitaがディスプレイ無しで小型化され、テレビという大きなスクリーンに活用の幅を拡げ、STB的なサービスや機能が追加されたものといえる。今回はAV機能、特にnasne連携を中心にPS Vita TVをテストしてみよう。
PS Vita TVの価格は9,954円(VTE-1000 AB01)。また、PS Vita TVとDUALSHOCK 3、HDMIケーブル、8GBメモリーカードをセットにしたバリューパック(VT-1000 AA01)も発売され、価格は14,994円。
インパクトある小ささ。シンプルな設置性
概要を改めて確認してみよう。「VTE-1000 AB01」はPS Vita TVとACアダプタなどを同梱したシンプルなもの。今回の使用しているバリューパック「VT-1000 AA01」は、本体とACアダプタのほか、コントローラの「DUALSHOCK 3」や8GBのPS Vita用メモリーカードをセットにしたものになっている。
本体は「歴代最小のPlayStation」という通り、65×105×13.6mm(幅×奥行き×高さ)という小型さ。やや小さく厚めのスマートフォンくらいのサイズで、PS Vita相当のゲーム機と考えるとインパクトがある。もっとも、最近のスマートフォンはディスプレイ付きでPS Vitaより演算能力的にはパフォーマンスが高かったりするが……。
とはいえ、編集部のテレビ周りに設置したところ「ちっちゃい!」という驚きの声を通り過ぎる多くのスタッフが口にしていた。スペックだけでない、製品の外装全体が醸し出す“小ささ”は確かに評価に値する。本体のPSマークなどもなかなか高級感がある。
この小型ボディにPS Vitaのチップセットやシステムソフトを内蔵し、HDMI出力端子を装備。本体内蔵メモリは1GB。IEEE 802.11b/g/nの無線LANやBluetooth 2.1+EDRにも対応する。重量は約110g。電源はACアダプタを利用する。テレビと組み合わせる製品、という点では、テレビ周りの余っているUSB端子などを使いたいところだが、USB給電には対応していない。
テレビとの接続端子はHDMIのみ。PS Vita TVの操作には、PlayStation 3用のコントローラ「DUALSHOCK 3」を利用するが、DUALSHOCK 3は別売(バリューパックに付属)。PS3を持っていればそのコントローラをそのまま利用できる。
テレビ出力解像度は、自動と720p/1080i/480pが選択できるが、PS Vita TVのメニューやアイコンは720pを想定して作られているので、自動にするとほとんどの環境で720p出力される。詳しくは後述するが、PS Vita TVは基本的に720pで利用する製品といえる。ネットワーク系のサービスやデバイス連携のために、インターネット接続環境が必要となる。なお、無線LANはWPSやAOSSなどの自動登録機能も備えている。
電源を接続すると、前面のランプが点灯。コントローラのPSボタンを押すとペアリングが行なわれる。あとは、画面の指示に従って操作するだけで、初期設定が行なえる。なお、初回起動時にはシステムソフトウェアをVer.3.00へのアップデートを促される。アプリのダウンロードなどには、Sony Network Entertainment(SEN)のアカウントが必要だ。
Vita TVの主な機能は、「ビデオサービス」、「ゲームプレイ」、ブラウザなど「ネットワークサービス」だが、AV機能として重要なのが専用アプリ「torne PS Vita TV」によるネットワークレコーダ兼NAS「nasne」との連携だ。
まずはPS Vita TVの基本操作を見ていこう。10月の体験会の記事でも触れているので、簡単に紹介するにとどめておくが、操作感としては、ほぼ「テレビ出力したPS Vita」だ。そのため、PS Vitaのユーザーには馴染み深いUIで、コントローラ左のカーソルボタンで、上下左右のアイコンを選んで、○ボタンで決定して、LiveAreaとよぶゲート画面に移動して、再度○ボタンでアプリが立ち上がる。戻る時はPSボタンでLiveAreaに戻り、Xボタン長押しでLiveAreaを閉じる。
PS Vitaのユーザーでなくても、コントローラを使ったゲームコンソールをプレイしたことがあれば、基本的な操作は直感的にわかると思う。少し戸惑ったのは、PS Vitaはタッチパネル液晶を備えているため、タッチ操作で右上のページがめくれたような部分をなぞってLiveAreaを閉じることができるが、PS Vita TV/DUALSHOCK 3ではタッチパネルは無いので、Xボタン長押しに気づくまで、閉じ方が分からなかったことぐらい。
PS Vita TVでも、L3ボタンでタッチスクリーン操作を代用したり、R3ボタンで背面タッチパッド操作を代用する機能を用意しており、PS Vita用のタッチパネルを使った操作の一部も、ゲームやアプリケーションによっては対応可能という。ただし、ホーム画面やLiveAreaでは効かないので、AV機能を使う限りは、あまり利用機会は無さそうだ。
初回起動時のホーム画面は、ブラウザや電源、トロフィー、グループメッセージング、パーティ、フレンド、PS Store、ビデオ、ミュージック、フォトなどのアイコンがあるのみ。基本的にはゲームプラットフォームなので、購入したゲームと同様に、ビデオなどの機能もアプリやゲームタイトルのようにどんどん追加していく、というイメージだ。
そのため、torne PS Vita TVやHuluやスカパーオンデマンド、niconicoといった動画配信サービスのアプリもPS Storeからダウンロードする。
圧倒的なレスポンスは健在。使ってみてわかった課題とは?
AV機能の注目は、torne PS Vita TVを使ったnasne連携によるテレビや録画番組視聴だ。別途nasneが必要なほか、テレビアプリケーション「torne PS Vita TV」が必要。価格は800円だが、11月14日から2014年1月15日までの期間限定で、torne PS Vita TVを無料で配信するキャンペーンを実施している。
torneアプリをダウンロードすると、メインメニューにtorneのアイコンが登録される。「torne」の名称のとおり、基本的な機能は、PlayStation 3(PS3)やポータブルゲーム機のPS Vitaのnasne視聴/操作アプリの「torne」と同じだ。テレビのライブ視聴や録画番組視聴、番組表からnasneへの録画予約、番組検索、人気番組(CHART)の確認などが行なえる。簡単にいえばVita TVをnasneの映像ビューワ兼リモコンとして利用可能にするアプリがtorne PS Vita TVだ。
起動してしまえば、PS VitaやPS3でtorneを使っている感覚とほとんどかわらない。「レスポンスの良さ」というPS3やVitaにおけるtorneアプリの特徴は、Vita TVでも同様で、DUALSHOCK 3の操作にすぐに追従し、メインメニューの回転や番組表の拡大/縮小、ジャンルやスポーツ種類などでの検索/ソートなどは圧倒的に高速だ。テレビや録画番組を見ているのに、ある種ゲームプレイ感覚が味わえるというtorneならではの体験がきっちりと実現されている。nasneからネットワーク経由で映像を引き出しているとは思えないほどの高速なレスポンスだ。
また、録画番組の再生時には、DUALSHOCK 3を使って、ビジュアルシーンサーチや最高120倍速の早送り/戻しなどが行なえる。
Vita版とVita TV版torneの大きな違いは、Vita TVではタッチ操作に対応しないことと、「おでかけ転送」などのnasne録画番組の書き出し機能を備えていないこと。
と、ここまでは10月の体験レポートで触れたこととほぼ同じ。「わかっていたこと」だ。実機を使ってみて気づいたのは、画質や録画モードについては、Vita TVならではの制限や制約があるということだ。
720pの画質は悪くないが、DRモード録画に注意
その制約とは「画質」と「録画モードの使いこなし」だ。この2点でややクセがあるのだ。
まず録画モードについて。nasneの録画モードは、放送をそのままMPEG-2 TSで記録する「DRモード」と、MPEG-4 AVC/H.264にエンコードして長時間録画する「3倍モード」が用意されている。
PS Vita TVでもこの2モードは選択できるのだが、番組表で番組を選んでDRモードで録画予約を行おうとすると「DRモード警告」が出て、「torne PS Vita TVでは、DRモードでの録画は推奨されていません」というメッセージが現れる。Vita TVではDRモード録画は推奨されない=3倍モードが推奨されているということだ。
予約時にはその理由がよくわからなかったが、実際の録画映像を見て納得した。というのも、DRモード録画番組のほうが明らかに画質が悪いのだ。常識的に考えれば、放送波をそのまま録画したDRモードが最高画質のはずなのに……。Vita TVから再生したDRモード画質は、「720p表示だから」というのではなく、そもそも解像度がHDに足りていない印象で、特にテロップや字幕周りのノイズ感や輪郭がぼやっとしている点が気になってしまう。色は比較的しっかりしているので不快な映像ではないが、40型テレビで見ると「引き伸ばした」印象が残る。
その点「3倍モード」で録画した番組は、HD精細感がきちんと感じられる。表示は720pになっているものの、DRモード(で録画した番組のPS Vita TV再生)と比べると、明らかに高画質だ。
この理由は主にVita TVのハードウェアの制限によるものだ。SCEによれば、「PS Vita TVは、MPEG-2デコーダを搭載していないため、nasneでDR録画されたコンテンツは、モバイル向けに録画しているモバイル用ストリーム(720x480/30p)を、1,280×720/60pにアップコンバートして表示している」とのこと。一方で、3倍モードで録画されたコンテンツは、1,440x1,080/60i(AVC)もしくは1,920×1,080/60i (AVC)を、1280x720/60pにコンバートして表示している」。
そのためSCEでは、PS Vita TVでは3倍モードを推奨している。この仕様は、「各機器からnasneに録画された全てのコンテンツをPS Vita TVのユーザーの皆さまに視聴頂くため」とのことだ。
つまり、nasneのDRモード録画番組をVita TVで再生する場合、再生元の解像度はSDになり、それを720pにアップコンバートして表示。一方、3倍モードの場合は1,080iの映像を720pに変換して表示するため、Vita TVでは「3倍モードのほうが高画質」なのだ。Vita TV+nasneの組み合わせで使う場合は、3倍モード固定で運用したほうがいいだろう。
運用でカバーできるとはいえ、この仕様はやや残念だ。PS Vita TVだけあれば、3倍モード録画でいいが、PS3やDTCP-IP対応テレビからは、nasneに録画したDRモードの録画番組も見られるので、Vita TVの画質を取るか、それとも他の機器での画質を優先するか、判断が迫られる。PS Vita TVを前提とすると、他の機器での最高画質に影響が出る、というのは寂しい。Vita TVの操作感が素晴らしいだけに物足りなさを感じる。
なお、nasneは放送中の番組をそのままMPEG-4 AVC/H.264トランスコードして伝送する「ライブチューナ」に対応しており、Vita TVでも利用可能となっている。編集部で確認したところ、ライブチューナ利用時は720pで伝送されているようにみえた。SCEに確認したところ「Vita TV向けにライブ視聴ストリームとして新たに追加したHD向けストリーム「1,440x1,080/60i(AVC) or 1,920x1,080/60i(AVC)を、1,280x720/60pにコンバートして表示している」とのことだ。
PCCディスプレイとVita TVを繋いだり、nasneをアンテナ出力の近くにおいて、離れた場所でVita TVとテレビをつないでいる場合などには、ライブチューナ機能は重宝するだろう。画質も3倍モードと同じく、しっかりとHD感が感じられる。
また、体験会のレポートでも触れたが、tonre PS Vita TVだけでなく、PS Vita TV自体が基本的に720pを前提としており、メニュー画面なども720pを想定して作られている。そのため、40型テレビとの組み合わせでは、メニュー表示などでは解像度不足を感じることもある。例えばトップメニューの円形のアイコンのその輪郭線に段差が見えてしまうほか、斜め線が階段状に見えたりする。また、アイコンの機能解説用テキストの漢字がややボケてみえるなど、少し解像度の不足を感じさせる場面はある。
画質にこだわりを持つ人でなければ、それほど気にならないのかもしれない。ただ、スマートフォン/タブレットなどが高精細化してきており、その流れは加速している。“こだわらない”という人でも、それらと見比べると映像体験として見劣りしてしまうことにあるかもしれない。やはり1080pには対応して欲しいところ。
nasne+Vita TVの画質については、「録画モード3倍での運用」と、「使用ディスプレイのサイズ」のバランスが、満足度を左右しそうだ。
各種ビデオサービスが初日から対応
また、数多くのVODサービスへの対応も発表されている。予告されていたのは、niconico、Hulu、TSUTAYA TV、DMM.com、U-NEXT、スカパー! オンデマンド、テレビドガッチ、TBS世界遺産コレクションなどだが、このうち14日に公開されたのは、TSUTAYA TV、DMM.ccm、niconico、テレビドガッチ、スカパー! オンデマンド、TBS世界遺産の6つだ。
「PS Vita TV」のカテゴリに、各アプリやコンテンツが用意されている。面白いのは、niconicoと世界遺産を除く4つのアプリは「PS Vita TV専用」のサブカテゴリからダウンロード、niconico/世界遺産は「PS Vita TV対応」からダウンロードする。別扱いとなっているのは、Vita用のアプリと共通化されているためと思われる。ただし、niconicoアプリでは、Vita TVでは生放送の配信には対応しない。
niconicoを使ってみたところ、ニコ動/ニコ生の視聴や検索ランキング表示やタイムシフト視聴に対応し、マイリスト登録も可能。プレミアム会員向けの高画質視聴にも対応しているという。また、感心したのは既存のPS Vitaユーザーなどが簡単に利用可能になっていること。というのも、すでにPS3やPS VitaでniconioのアカウントをPSNと紐付けている場合、niconicoのログインが必要なく、SENにログインしてアプリをダウンロードした時点で、niconicoアカウントが登録がなされていた。このあたりは良くできている。
TSUTAYA TVなど各サービスとも、自分のアカウントを入力して利用可能。一部機能制限があるものもあるが、DUALSHOCK 3でサクサク操作でき、レスポンスも良好だ。Huluなどまだサービス開始していないものについても早期のスタートを希望したい。
音楽関連では、ソニーの定額制音楽配信「Music Unlimited」とカラオケの「JOYSOUND」、「radiko.jp」などに対応。Twitterのタイムラインを確認できる「LiveTweet for PlayStation Vita」やソニーの電子書籍サービス「Reader」などが用意されている。
なお、ゲームプレイ端末としての評価はGAME Watchでレポート予定なので、そちらを参照して欲しい。
最上級の操作体験と画質の物足りなさ。クセを把握して使いこなそう
体験会のレポートでも触れたが、動作レスポンスやUIの分かりやすさなどは、際立って優れており、素晴らしいユーザー体験を実現している。Vitaやプレイステーションユーザーへの親しみやすさやわかりやすさという点でも優れているのは疑いない。約15,000円のnasneと1万円弱のVita TV(コントローラがなければ15,000円)の2.5~3万円で、これだけ優れたレコーダ+NAS+VOD STBが入手でき、なおかつPS Vitaゲームプレイや電子書籍の閲覧などに利用できるというのは魅力的だ。操作性や価格面での不満はない。
しかし、AV製品として考えると「画質」はやはり気になる。メニュー表示や出力解像度が基本的に720pなので、フルHDや4Kの大型テレビ/ディスプレイと組み合わせるのは荷が重いと言わざるをえない、それゆえ、どんな環境にもフィットする製品、とは言い難い。
ただし、使った時の気持よさ、使い勝手の満足度はとても高い。その満足度を損なわないために、「クセ」を認識して使いこなす必要があるといえるだろう。
具体的には
・画質にこだわるならば、40型オーバーの大画面テレビは避ける
・nasne連携/torne PS Vita TVを使うなら録画モードは3倍で
ということだ。
PS Vita TV本体にも、nasne連携にも高いポテンシャルを感じるし、多くの人に体験して欲しいサービス/製品になっている。PS Vitaゲームを、同じ操作性で大画面というだけでも魅力的という人も多いだろう。ただ、画質という観点では、これから進化していきそうという期待は感じられない。それ故か、万人向けというより、ちょっと「通好み」という印象を覚えた。機能面の強化はもちろんだが、画質面でもこうした印象を払しょくするような進化を望みたい。
PlayStation Vita TV | PS Vita TV バリューパック | nasne |
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