レビュー

イヤモニの老舗Westoneが放つ、UM Pro/W 2つの新展開

個性派UM Pro10、4ドライバのW40など7機を一気に聴く

 Westoneと聞くと、AV Watchの読者であれば人気モデル「Westone 3」などを連想する人が多いだろう。BA(バランスド・アーマチュア)イヤフォンに以前から積極的に取り組んでいる米国のメーカーだ。

 今回はそんなWestoneの新シリーズとして、9月から順次発売が開始されている「UM Pro 10/20/30」の3機種と、12月5日から順次発売を開始している「W10/20/30/40」の4機種、合計6モデルを聴いていく。

UM Proシリーズ
Wシリーズ

そもそもWestoneって?

 製品自体は有名だが、意外にどんなメーカーなのか知らない人が多いかもしれない。Westoneはアメリカ、コロラド州にあるイヤフォンメーカー。創業はなんと1959年、50年以上の歴史を持つ、老舗メーカーだ。

 創業者のモルガン夫妻が最初に作っていたのはカスタムイヤフォン。ミュージシャン向けはもちろんの事、コンサート会場での大音量から耳を保護しながら連絡をとる場内スタッフ向けイヤフォンや、飛行機のパイロットが騒音を防ぎ、管制塔からの指令を的確に聞き取るためのイヤフォンなどもオーダーで作っていたそうだ。当初の製作場所は自宅のキッチン(!)というから、カスタムイヤフォンのパイオニア的メーカーらしいエピソードだ。

 その経験を活かし、Shure初のイヤフォン「E1」や「E5」を共同開発。さらに、Ultimate Earsのカスタムイヤフォンも、初期は製造はWestoneが担当していたという。カスタムイヤモニ黎明期を支えた、“縁の下の力持ち”的なメーカーだったわけだ。

 一方、カスタムイヤフォンだけでなく、コンシューマ向けイヤフォンや補聴器などの製造・販売も実施。当初は小さな家族経営のメーカーだったが成長し、現在では補聴器やヒアリングケアの分野では技術的にも規格的にも、先駆者的な立ち位置にある。そのため、耳の構造や耳に関する知識が豊富なスタッフが集まっているそうだ。

初のカスタムが作成されたというログキャビン
創業者のロン・モルガン氏
現在のWestoneオフィスと社員

 イヤフォンに関して言えば、Westone 3のようなユニバーサルモデル(市販モデル)の印象が日本では強いが、そもそもカスタムイヤフォンからスタートしたメーカーであり、現在もカスタムイヤフォンを豊富にラインナップ。BA(バランスド・アーマチュア)ドライバを片側に5基搭載した「ES5」を頂点にしたESシリーズを展開している。長年のノウハウと技術力を兼ね備えたメーカーと言えそうだ。

 そして日本市場に新モデルとして順次投入されているのが、今回紹介する「UM Pro」シリーズと「W」シリーズだ。

搭載ユニットが違うUM ProとWシリーズ

 「UM Pro」シリーズと「W」シリーズは、価格帯的に重なる製品もあるが、コンセプトや採用しているユニットなどに違いがある。

UM Proシリーズのハウジング
Wシリーズ

 UM Proシリーズは、ロングセラーモデル「UM」シリーズの後継機種。ステージ上で使うミュージシャンのために作られたイヤフォンで、生音に近い再生音を追求しながら、現場で聴き取りやすいような音に仕上げられているという。また、搭載しているBAドライバは、前述のカスタムイヤフォンのESシリーズと同じドライバが使われているのがミソだ。“カスタムイヤフォンのサウンドを手軽に体験できるようにしたモデル”と言えるかもしれない。

 「W」シリーズはコンシューマ向けと位置付けられたシリーズで、メインの音がクリアに聴こえるように作られているのが特徴。これに合わせ、UM Proやカスタムイヤフォンに搭載されているのとは異なるBAドライバが使われている。

 もちろんドライバだけでなく、ハウジングの形状やデザイン、カラーリングも2シリーズで微妙に異なっている。各モデルを細かく見ていこう。価格は全てオープンプライスだ。

型番ドライバ発売日店頭予想価格
UM Pro101基発売中14,800円前後
UM Pro202基
(低域×1、高域×1)
29,800円前後
UM Pro303基
(低域×1、中域×1、高域×1)
39,800円前後
W101基12月5日19,800円前後
W202基
(低域×1、高域×1)
29,800円前後
W303基
(低域×1、中域×1、高域×1)
12月下旬39,800円前後
W404基
(低域×2、中域×1、高域×1)
12月5日49,800円前後

 【UM Proシリーズ】

UM Proシリーズのパッケージ

 UM Pro10は、UM Proシリーズの入門的なモデル。搭載ユニットはフルレンジ1基のシングル構成だ。実売は14,800円前後。カラーリングはクリア、レッド、ブルーを用意する。小ぶりのハウジングで、非常に軽量だ。

UM Pro10のクリアモデル
小柄なハウジングが特徴だ

 UM Pro20は、2基のユニットを搭載。実売29,800円前後。UM Pro10と並べてみると、ハウジングの形状は似ているが、サイズが少し大きくなっているのがわかる。カラーはクリアタイプのみだ。

UM Pro20
左がUM Pro10、右がUM Pro20。よく似ているが、Pro20の方がハウジングが一回り大きい

 UM Pro30は、低域、中域、高域用の3ドライバを搭載した3ウェイモデル。実売は39,800円前後だ。10万円を超えるカスタムイヤフォン「ES3X」と同じ技術を投入したモデルで、低域から高域までの繋がりの良さを重視。カラーはクリアとスモークの2種類。ハウジングのサイズは20とほぼ同じだ。

UM Pro30のスモークモデル
左がUM Pro30、右がUM Pro20。ハウジングのサイズは同じだ
左がUM Pro20、右がUM Pro10

 これら3機種に共通する特徴は、ケーブルの着脱が可能な事。端子には、採用ケーブルが多いMMCXを使っているので、様々なケーブルへの交換が気軽に楽しめるのが嬉しいポイントだ。

UM Pro30のケーブルを取り外したところ。MMCX端子を採用している

 いずれもハウジングの素材はプラスチックなので、金属製のイヤフォンなどと比べると、触れた時の質感はさほど高くはない。ただ、半透明で内部パーツが透けて見えるので、見た目の高級感やカッコよさはある。

 3モデルともハウジングは小ぶりなので、スッと装着できる。根元に向かって膨らんだ“梨”のようなフォルムが特徴的だが、耳掛けで装着すると、耳穴入り口近くのくぼみに、ハウジング全体がスッポリ収まる。頭を振ったり、小走りに走ってもズレにくく、安定感は抜群。自重が軽いのも効いている。耳穴のサイズにマッチするイヤーピースを選べば、重さで勝手に抜け落ちるといった事も少ないだろう。このあたりの装着感の良さは、長年のカスタムイヤフォンを手がけてきた経験を感じさせる部分だ。

 【Wシリーズ】

Wシリーズのパッケージ

 UM Proシリーズと一目でわかる違いは、ハウジングのカラーだ。Wシリーズは4機種あるが、全てブラックカラーを基調としている。全部真っ黒なのかというとそうではなく、ハウジングにはめ込まれたフェイスプレートが着脱でき、異なる色のプレートに着せ替えできるのだ。

 写真を見るとブラック、レッド、ブルーの3色があるように見えるが、製品としては1種類しかない。つまり、3色のフェイスプレートが付属し、自由に付け替えられるというわけだ。気分に合わせて色を変えたりできるほか、例えば右のイヤフォンに赤いプレート、左に青などを装着すれば、装着時の左右確認が素早くできて便利だ。モニターヘッドフォンのような雰囲気も出るのでマニア受けもしそうだ。

製品出荷時はブラックプレートが装着されており、レッドとブルーのプレートがケースが入っている
クリーニングツールに加え、ドライバも付属している
ハウジングにあるネジを回すとプレートが外れる

 製品に小さなドライバが同梱されており、これでハウジングにあるネジを回すと、プレートが取り外せる。プレートやネジは小さいので、「ネジを抜いた後、無くしてしまいそうだ」と息を止めながら作業していたが、取り外してみたところ、プレートからネジは抜け切らない機構になっており、無くす心配は無かった。イヤフォンまわりのパーツは紛失しがちなので、この配慮は嬉しい。

実際に外したところ
プレートはネジから抜け切らない機構になっている。小さなネジを無くす心配はなさそうだ
ブラックとブルーのプレートを装着したところ
左右で違う色のプレートを装着するのも楽しい

 カスタムイヤフォンでは、オーダー時にカラーを注文したり、自分で用意したイラストなどをフェイスプレートに印刷してもらい、オリジナルデザインのイヤフォンを作る事ができるが、そうしたカスタマイズする楽しみが、ユニバーサルモデルでも倒しめるのが心憎いポイントだ。今のところ、付属の3色以外にプレートは無いようだが、他のデザインのプレートだけを単品販売するなどの展開も欲しいところだ。

 フルレンジのBAを1基搭載した「W10」は、実売19,800円前後。1基のみだが、「ディテールの繊細さと透明感が持ち味」だという。

フルレンジのBAを1基搭載した「W10」

 「W20」は、低域と高域の2基のユニットを搭載し、クロスオーバーネットワークも内蔵。ハウジングのサイズはW10とほぼ同じ。フェイスプレートの交換も可能だ。実売は29,800円前後。

低域と高域の2基を内蔵した「W20」

 「W30」は低域、中域、高域で計3基のユニットを搭載した3ウェイタイプ。ハウジングがW10/20と比べてやや大きくなっているが、このモデルもフェイスプレート交換が可能。実売は39,800円前後。

低域、中域、高域で計3基のユニットを搭載した「W30」

 UM Proシリーズは3基・3ウェイのモデルまでだったが、Wシリーズには4基のユニットを採用した「W40」が用意されている。ネットワーク的には3ウェイで、構成としては低域×2、中域×1、高域×1という構成。実売は49,800円前後。ハウジングサイズはW30とほぼ同じで、こちらもフェイスプレート交換が可能だ。

低域×2、中域×1、高域×1の「W40」

 UM Proシリーズと比べると、ハウジング全体のサイズにはさほど違いはない。形状的には、UM Proシリーズが根元に向かって膨らむ“梨”のような形をしているのに対し、Wシリーズは全体的に丸っこい、“豆”のような形だ。W10/20が小ぶり、W30/40がやや大きめのハウジングとなる。

左はW30、右はUM Pro20
左はUM Pro30、右はW40

 装着感も良好。W30/40はハウジングが大きめなので「耳穴に物体がハマっている感」は強いが、キッチリ耳穴に固定されているので、むしろ安定感・安心感に繋がっている。表面はつるつるとした質感で、プレート部分が光に当たると光沢を放つ。ブラックプレートでは主張しない、控えめなデザインなので、目立たせたい時は他のカラーのプレートを使うと良いだろう。

 なお、Wシリーズも全モデルケーブル着脱が可能で、MMCX端子を採用している。一番低価格なモデルでもキッチリ交換ができるのは嬉しいポイントだ。

 また、いずれのイヤフォンにも豊富なイヤーピースが付属するのが特徴。シリコン製のものと、フカフカした感触で耳穴の中で元の形状に戻るフォームタイプの2種類で、各5サイズ、合計10種類付属している。単にサイズの違いだけでなく、長さや太さにもバリエーションがあり、どのピースが一番マッチするか選ぶだけでも楽しい。なお、イヤーピースなどの付属品は、メーカーの都合で変更になる場合もあるという。

Wシリーズもケーブル交換が可能
付属のイヤーピースは種類とサイズが豊富だ

 また、いずれのモデルにも「モニターヴォルトケース」と呼ばれるキャリングケースを付属。耐衝撃性の高いポリマー素材を使ったもので、オレンジ色の発色が鮮やかだ。カスタムイヤフォンでは、強固なケースが付属する製品が多いが、こんな所からも、Westoneがカスタムイヤフォンのメーカーなのだとわかって面白い。

 なお、Wシリーズにはマイク付きリモコンを備えたケーブルと、それらが無い通常ケーブルの2本を同梱している。今回の試聴は、いずれもマイクリモコンが無いケーブルを使っている。

Wシリーズのケースを開けたところ
モニターヴォルトケース
Wシリーズに付属しているマイク付きリモコンケーブル
マイクリモコンの無いケーブルも同梱

音を聴いてみる

 ハイレゾ再生対応プレーヤー「AK120」を使い、 「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」や、スキマスイッチの「Hello Especially」(アニメ銀の匙のエンディング)、ランティスのハイレゾ・アニソンから、ラブライブ!の楽曲、JAZZのKenny Barron Trio「The Moment」 から「Fragile」などを再生した。

UM Proシリーズ

【UM Pro10】
UM Pro10

 シングルBAらしい、すっきりしたサウンドだ。低域が膨らむタイプではないので、繊細な高域描写が良く見える。分解能が高く、細かな音を繊細に描写していく姿勢はカスタムイヤモニターを彷彿とさせる。

 かといって、高域寄りで低音が無い、スカスカしたサウンドかと言うとそうではなく、低域のベースラインはシッカリと主張する。高域の爽やかさが目立つバランスではあるが、全体としてのまとまりの良さが持ち味だ。

 特筆すべきは、抜けが良く、精密な高域描写をしつつも、エッジが立った、カリカリした、BAにありがちな“荒れた描写”になっていない点だ。女性ヴォーカルのサ行もキツくなく、シンバルの高域にも質感が伴っている。かつて「Westone 3」を初めて聴いた時も、高域のまとめ方が上手いなと感心した事を思い出した。

 一方、ハウジングが小さいためか、音の拡がりはそれほどでもない。低域は余分な響きや膨らみを削ぎ落したようなタイトな描写で、迫力を追求するタイプではない。だが、端正な低音にはゾクゾクするような独特の気持ち良さがある。シンプルなモデルではあるが、マルチウェイの高級イヤフォンをいろいろと聴いた後で、一周してふとこの音に戻りたくなる瞬間がある。精進料理のような、低価格だが玄人好みなサウンドだ。

【 UM Pro20 】
UM Pro20

 UM Pro20に切り替えると、低域がグッとアップ。ベースラインのラインだけでなく、ベースの音像そのものに厚みが生まれ、押し出しが強く、吹き寄せるような量感がプラスされる。ドッシリとした安定感のあるサウンドが心地良い。ハウジングが大きくなり、音場も広く、響きの拡がりも豊かだ。

 にも関わらず、高域の明瞭さはさほど低下せず、ハイスピードを維持している。低域も膨らみがちではあるが、ハイスピードな高域についていくトランジェントの良さは保持されている。ベースがそれほど主張しない楽曲であれば、上から下までキビキビとした、明瞭で小気味良いサウンドが楽しめるだろう。

 UM Pro10と比べると、若干高域にキツさがあり、女性ヴォーカルのサ行が耳につく部分もあるが、おそらく長時間使っていくうちにこなれてくるところだろう。また、このカリカリ感が好きだという人もいるはずだ。

 低域のパワフルさ、アタックの強さが持ち味だ。個人的にはちょっと低域が膨らみがちかなと感じるが、ライヴ録音の熱気などは良く伝わってくる。音楽がアグレッシブに楽しめるイヤフォンで、バックコーラスやベースのうねりなどで「こんな音が入っていたのか」と発見が多い。

 そんな低域に引っ張られるカタチで、高域の絶対的な抜けの良さはUM Pro10よりはやや後退する。だが、付帯音があるわけではないので、音が“コモル”とまでは言えない。全体として低音が印象に残る、パワフルなサウンドだ。

【 UM Pro30 】
UM Pro30

 3ウェイ3ドライバのUM Pro30に交換すると、上下のレンジが拡大するだけでなく、UM Pro20では低域に隠れがちだった中高域の張り出しがグッとアップ。豊富な低域に負けない中高域が得られ、全体としてウェルバランスになる。

 シリーズの最上位モデルとして、バランスの良さが光る。だが、ユニークなのはおだやかで優等生的な、悪く言うと無難なサウンドに収まっていない事だ。低域から高域までバランス良く再生するという基本能力をクリアするだけでなく、そこから細かな音を掘り起こし、良い意味で“むき出し”にするようなモニターライクなシャープさが加わる。音像が近くなり、今まで聴こえなかった音を掘り起こす生々しさがある。低域も量感は豊かだが、締まりが良くてBAらしいキリッとした描写。分解能の高い中高域を邪魔していない。

 こう書くと、普段使いにマッチしないのではと思われそうだが、情報量は多いに越したことはない。逆にこれを長時間聴いた後で、ダイナミック型イヤフォンを聴くと「なんだこのモヤモヤした眠い音は」と驚く。好みにはよるが“BAらしい音”、“BAの得意とする描写”を突き詰めたようなサウンドで、このモデルならではの魅力が間違いなくある。ステージの上でモニターイヤフォンとして使った場合でも、この音ならば音楽の重要な部分がキッチリ聴き取れそうだ。

Wシリーズ

【W10】
W10

 シングルBAならではの、まとまりの良いサウンドが持ち味だ。同じシングルBAの「UM Pro10」と比べると、W10の方が低域の量感が豊富で、ベースのラインだけでなく、ズシンと響く量感が頭蓋骨に伝わってくる。マニア向けだったUM Pro10に対し、確かにWシリーズがコンシューマ向けの音作りになっていると頷けるサウンドだ。

 高域は付帯音が少なく、抜けも良好。UM Proシリーズと比べると、カリカリさ、シャープさを追い求めるというよりも、全体のバランスを重視していると感じる。また、ヴォーカルの中域がキッチリと持ち上げられており、聞き取りやすく、音楽の“美味しい部分”がたっぷりと味わえる。モニターライクなUM Proに対して、誰にでもオススメしやすいWシリーズという、きちんと棲み分けができている。

 UM Pro10のしなやかさのある高域が気に入ったが、W10の高域はより好みにマッチする。BAらしい分解能の高さがあるのだが、質感を丁寧に描写するシットリ感が同居しており、「Best OF My Love」のヴォーカルに色気がある。アコースティックな楽曲を再生すると、ギターやベースの響きが硬くないため、ダイナミック型イヤフォンのようなゆったり感が出る。シングルBAのエントリーなので、ともすると軽く見られがちなモデルかもしれないが、なかなかどうして、完成度の高さは上位モデルに負けていない。

【W20】
W20

 W20のユニット構成は高域×1、低域×1の2ウェイだ。W10の印象が残った状態で交換すると、「おわっ」と驚くほどシャープで繊細な高域が耳に飛び込んで来る。W10は質感を感じさせる、しなやかな高域描写だが、W20は一転してカリカリシャープなBAらしい高域。細かい音もむき出しに描写するようなUM Proシリーズに近いフィーリングになる。

 だが、低域のゆったり感はWシリーズのそれであり、UM Proシリーズの特徴とWシリーズの特徴が同居したような面白いサウンドだ。意外に打ち込み形の楽曲を再生すると、メリハリが聴いて躍動感のある再生になる。

 このシャープな高域を、“目の覚めるような気持ちよさ”と感じるか“ちょっとキツい”と感じるかにより、評価が分かれるモデルだろう。個人的にはもう少し抑えて欲しいと感じるが、エージングが進めば、しなやかさが出てきそうな予感はある。

【W30】
W30

 W30にチェンジ。ユニットは高/中/低域×各1の3ウェイだ。切り替えた瞬間、ハウジングが大きくなったためか、音場がグッと広くなり、ケニー・バロンのピアノの響きが遠くまで広がっているのがわかるようになる。上位モデルらしい、余裕のあるサウンドが心地良い。

 先程キツめと書いた「W20」の高域と比べると、解像度の高さ、分析的な描写を維持しながらも、W10のような質感描写も実現。聴きやすい高域になっている。低域も、Wシリーズの下位モデルと比べて、シッカリと下まで沈み込みつつ、不必要に膨らまない。

 実売39,800円前後と、高級イヤフォンの激戦区に投入されるモデルだけあり、楽曲を選ばないオールラウンドな再生能力を持っている。完成度は高いが、1点気になるところを挙げるとすれば、シャープな高域と低域の主張に対し、中域がわずかに引っ込んで聴こえる事。特にスキマスイッチの「Hello Especially」では、ヴォーカルの音像が他の楽器と比べて一歩引いたように感じる。

【W40】
W40

 いよいよ最上位「W40」だ。高域×1、中域×1、低域×2の3ウェイ4ドライバ。音が出た瞬間「あーこれだ」と思わず声が出る。W30で気になった中域の引っ込みが、W40ではしっかりと前に出て、低域、中域、高域の足並みが揃う。低域がダブルドライバになっているので、もっと低音寄りなバランスかと予想したが、良い意味で予想を裏切り、不必要な膨らみは皆無。タイトさが維持されており、瞬間的な沈み込みの深さや、音圧のアップに留めている節度のある音作りにセンスを感じる。

 そして特筆すべきは高域のナチュラルさ。W10も質感のある描写だったが、W40はしなやかを通り越して、むしろ穏やかに感じるほど。かといってフォーカスが甘い音ではない。ギターの温かい伴奏をまったりと楽しむ事もできるつ、意識を集中すれば、弦がジャラジャラと奏でる和音を分解して聴く事ができる。

 「e-onkyo music」で配信している、ランティスのラブライブ! ハイレゾ「もぎゅっと"love"で接近中!」の冒頭も、奥行き豊かな立体的な描写で展開しながら、コーラスの声の1つ1つがクリアに良く聴こえる。同時に、音が重なる部分でも、キャラクターの声と打ち込みの電子音がゴッチャにならず、質感の違いが丁寧に描写されている。今回試聴した7モデルの中で、価格面で一番上なので当然ではあるが、音のクオリティはW40が最も高い。

モニターライクなUM Pro、バランス重視なWシリーズ

 カスタムイヤフォンと同じBAドライバを搭載した「UM Pro」シリーズは、3モデルによって違いはあるものの、全体としては高域の繊細な描写を得意とするモデルが多い。その特徴を持ちながら、バランスのとれた再生を行なう「UM Pro30」や、繊細な描写の魅力がシンプルに楽しめる「UM Pro10」が個人的には強く印象に残る。モニターライクな再生音を好む、どちらかというとマニアな人にマッチしそうなシリーズだ。

 一方、Wシリーズはいずれのモデルも低域が豊かで、バランスのとれた再生を追求している。それゆえ、多くの人にオススメしやすい。その上で、各モデルの個性が明確なのがユニークなポイントだ。個人的な好みはやはり「W40」だが、エントリーのW10やW30もバランスが良く、気になるモデルだ。

 また、全モデル共通して、装着感が良好で豊富なイヤーピースを用意。かつリケーブル対応と、昨今のイヤフォンのトレンドをキッチリ取り入れているのも見逃せないポイントだ。

 2シリーズで持ち味が異なり、そのシリーズの中でも各モデルに個性があるため、選ぶ楽しみがある。同時に、「こんな音が欲しいんだ」と言う、理想の音をしっかりと持ちながら試聴すれば、自分にピッタリマッチするモデルが見つかりやすいラインナップだ。モニターライクから、ノリノリに楽しめるパワフルサウンドまで、懐の広い新ラインナップが揃えられている。

 (協力:テックウインド)

山崎健太郎