レビュー
「スマホと2台持ち」の不満は解消? 「ウォークマンM」を試す
Bluetoothでスマホ連携するNW-M505の実力とは
(2013/12/12 09:30)
スマホとミュージックプレーヤーの「2台持ち」の不満を解消
ソニーのウォークマン新シリーズとなる「ウォークマンM(NW-M505)」は、ミュージックプレーヤーとしての機能に加え、Bluetoothヘッドセットとしても利用できる製品だ。発売は12月7日で、価格はオープンプライス、店頭予想価格は18,000円程度。カラーバリエーションはブラック、シルバー、バイオレット、ピンクの4色が用意される。
本製品のコンセプトは、スマートフォンとミュージックプレーヤーを持ち歩く「2台持ち」の不満解消。ソニーによれば、音楽をスマートフォンで聴いているユーザーの80%が「スマホ以外のポータブル機器を持ち運びたくない」というアンケート結果が得られたとし、2台持ちが苦にならない携帯性と操作性を実現したのがこのウォークマンMだという。
本体は16GBのメモリを内蔵しているため、通常はウォークマンMで音楽を楽しみつつ、スマートフォンでYouTubeなどの動画を楽しみたくなったらBluetoothヘッドセットモードに切り替えてスマートフォンの音をウォークマンMでそのまま楽しめる。マイクも内蔵しているため、スマートフォンの着信をウォークマンMで通知し、そのまま電話を受けることもできる、というのが本機の利用スタイルだ。
普段はスマートフォンで音楽を聴いている筆者はまさにこの「2台持ちをしたくない」ユーザーの1人だ。いや、実際にはフィーチャーフォンにAndroidスマートフォンにiPhoneにAndroidタブレットと2台どころか4台も持ち歩いているのだが、持ち歩く台数が多いからこそこれ以上端末を増やせない、という思いで専用プレーヤーになかなか手を出せない。これまでのウォークマンにも音質や操作性などであこがれはあったものの、「またAndroidが増えるのか……。しかも3GやLTEなどの通信機能もないし……。」という思いで購入には至らずにいた。
こうした理由から普段はAndroidスマートフォンにソニーのBluetoothヘッドセット「DRC-BTN40」をペアリングして音楽を聴いている筆者にとって、ウォークマンMのコンセプトはまさにうってつけ。現状は自分にとって最適だと感じているBluetoothヘッドセットとスマートフォンの組み合わせに対し、新たな答えを提供してくれるのか、という期待を抱きながらウォークマンMを試用した。
3行表示のディスプレイを搭載。本体横のシャトルスイッチで楽曲を操作
まずはウォークマンMの仕様と操作方法から確認しよう。内蔵メモリは前述の通り16GBで、音楽は本体側面にあるmicroUSBポートを経由してPCから転送する仕組み。
転送には専用ソフト「Media Go」が必要だが、Media Goは本体メモリに収録されており、別途メディアやダウンロードの手間なくUSB経由でインストール可能。Macの場合はiTunes経由で楽曲を転送できる「Content Transfer for Mac」を同様に本体からインストールできる。Media Goの対応OSはWindows XP/Vista/7/8、Content Transfer for Macの対応OSはMac OS X v10.6以降。
ノイズキャンセリング機能を搭載したカナル型イヤフォンやクリップ、PC接続用のmicroUSBケーブルを同梱。背面には別売のストラップを装着できるストラップホールが用意されているほか、同梱のクリップを装着して鞄や衣服に取り付けることもできる。クリップはかなりサイズが大きく、クリップの可動部分だけを見れば本体の奥行きが倍近くなってしまう。Bluetoothヘッドセットをクリップで固定している筆者としてはもう一回り小さいクリップが欲しいと感じた。
本体前面には3行表示の有機ELディスプレイを搭載しており、再生中には楽曲名とアーティスト名、再生状況とバッテリ残量が表示される。ディスプレイ右の再生/一時停止ボタンは電源ボタンの役割も兼ねており、長押しすることで電源をオンオフできる。
また、一見するとわからないがディスプレイ左のSONYロゴにはマイクが内蔵されており、スマートフォン連携時にはこのマイクを使って通話することが可能だ。
本体右のシャトルスイッチは上方向にひねると曲送り、下方向で曲戻しで、ひねり続けるとそれぞれ早送り/早戻しになる。また、シャトルスイッチを右側に引き出すとフォルダー切り替えモードになり、シャトルスイッチの回転でアルバムやアーティストを切り替えることができる。任意のアーティストやアルバムを見つけたら、シャトルスイッチを元の位置に戻すと、該当の楽曲が再生可能だ。
本体下部にはホールドスイッチ、音量ボタン、HOME・BACKボタンを搭載。HOME・BACKボタンは短押しで戻る、長押しでホーム表示が割り当てられており、メニュー操作に利用する。ホーム画面は「ミュージック」「Bluetooth」「FMラジオ」「各種設定」の4項目があり、シャトルスイッチの回転で切り替えつつ再生/一時停止ボタンで決定、メニューを戻る時はHOME・BACKボタンを短押しする、という流れだ。
Bluetoothペアリングでスマホを操作。音声通話や動画操作も可能
スマートフォンとのBluetooth接続は、ホームの「各種設定」からペアリングが可能なほか、ディスプレイ背面にNFCを装備し、NFCを使ったペアリングにも対応する。
今回は富士通製のARROWS NX「F-01F」で試したが、NFC対応スマートフォンであれば、ウォークマンの背面にスマートフォンのNFC部分をかざすと、ウォークマン側のディスプレイに「タッチしたままお待ちください」と表示され、スマートフォン側にはウォークマンと接続するかどうかを確認するポップアップを表示、あとは接続機器を確認した上で接続を選択すればペアリングは完了する。Bluetoothの手動接続もさほど難しくはないが、NFCの手軽さに慣れてしまうともう戻れないほどの便利さだ。
Bluetooth接続したスマートフォンへの切り替えは、HOME・BACKボタン長押しでホームを表示、「Bluetooth」から接続済みの機器を選択して切り替えられる。また、Bluetoothでペアリングしている状態であれば、ウォークマンMで音楽を聴いている時にスマートフォンに着信があると着信音をウォークマンで再生。ウォークマンの内蔵マイクを利用して音声通話が可能だ。なお、音声通話を受けるために、一度Bluetoothで接続したスマートフォンとは、ウォークマンMで楽曲再生中もスマートフォンとのBluetoothペアリングが継続されることになる。
Bluetooth操作は音楽だけでなく動画再生時にも有効だ。ソニーのAndroidスマートフォンであるXperia Z1では「ムービー(Xperia標準のビデオ再生アプリ)」で再生/停止、スキップなどの操作が行なえた。また、富士通製のARROWS NX F-01Fでも、YouTubeアプリや「動画プレーヤー」で動作を再生している場合はウォークマンMから再生や一時停止、早送り/早戻しという操作が可能だった。なお、ARROWS NX F-01Fでの動画操作はAndroid標準の動画プレーヤーのみで、ドコモのAndroidスマートフォンにプリインストールされている「メディアプレーヤー」では動画の操作はできなかった。
S-Master MXやデジタルノイズキャンセリングで高音質を実現
音質面では、音声信号をフルデジタル処理するアンプ「S-Master MX」を搭載し、音質劣化、変換時に生じるノイズのレベルを抑制、小音量でも高い解像度の音質を維持し、繊細な音まで原音を忠実に再生するという。また、周囲の騒音を約98%カットするというデジタルノイズキャンセリングや、本体のデジタル信号処理によって付属ヘッドホンの音響特性を補正して楽曲やボーカル音を際立たせる「クリアフェーズ」といった高音質機能を搭載する。これら機能のうち、クリアフェーズ以外のS-Master MXとデジタルノイズキャンセリングはBluetoothヘッドセットとして利用時にも有効だ。
対応音楽フォーマットはMP3、AAC、WMA、リニアPCM、ATRAC。ソニーはこの秋冬で24bit/96kHzを超える「ハイレゾ」対応をウォークマンでも強化したが、このNW-M505は、ハイレゾ楽曲には対応しない。
実際に聴いてみると、音質に関してはさすがの専用機と感じた。もともと音質より利便性を重視してBluetoothヘッドセットにしていたこともあり、音質へのこだわりはそこまでないが、それでもウォークマンMで再生する音楽は圧倒的な臨場感。普段は主にMoraで購入した320kbpsのAACを、ソニーのBluetoothヘッドセット「DRC-BTN40」経由で再生しているが、今まではわからなかったギターやドラムの残響音などがウォークマンMならはっきりと伝わる。数年前に128kbpsでCDからエンコードしたMP3音源も、BluetoothヘッドセットとウォークマンMでは雲泥の差だ。
ノイズキャンセリング効果は、イヤフォンがそもそも密閉型のカナル型のため十分に騒音は遮断できるものの、電車に乗っている間にノイズキャンセリングをオンにすると、オフ時に比べて電車の走行音が遮断され、小さなボリュームでもしっかりと楽曲を楽しめた。混雑した車内では他人の音漏れも気になるため、こうしたノイズキャンセリングが活躍するだろう。
なにより嬉しいのは、音楽以外の音は一切聞こえないこと。スマートフォンで音楽を再生していると、メールやFacebookなどの新着通知があるたびに通知音がなったり、音楽が無音になって遮断されるため、音楽を楽しんでいるときも邪魔されてしまう。お気に入りの楽曲がサビの部分に入り気分も高まっているときに「ピロン」という無機質な通知音に邪魔されると非常に切ない気持ちになるが、ウォークマンMであればそうした心配も無い。
また、個人的な好みではあるものの、カナル型やノイズキャンセリングは後ろから来る車の音や電車内のアナウンスなどが聞こえにくくなるため、普段はオープンエアー型のアップル製「EarPods」を使用しているのだが、ウォークマンMを付属のイヤフォンではなくEarPodsで使った際も、十分に高音質な音が楽しめた。もちろん付属イヤフォンでなければデジタルノイズキャンセリングの恩恵にも預かれないのだが、ほどよく周囲の音も耳に入りつつウォークマンMの音を堪能できた。
ウォークマンの高音質は本体の楽曲だけでなくBluetoothヘッドセットとして利用する際も同様だ。前述の通りBluetoothヘッドセット利用時もS-Master MXやデジタルノイズキャンセリングは利用できるため、これまで使っていたBluetoothよりも高音質でYouTubeなどの動画を楽しめる。Bluetoothのコーデックも、高音質なaptXに対応しているのは嬉しいポイントだ。
操作性はスマホに比べると今一歩。ディスプレイを確認しながらの操作が必要
音質に関してはさすがのウォークマン。今まで愛用していたスマートフォンとBluetoothヘッドセットの組み合わせとは天地ほどの差があることは十分に実感したが、問題は音楽再生やスマートフォン連携時の操作感だ。音質がいいのはわかっていても、2台持ちの不便さや操作性の難を天秤にかけて利便性を取ったBluetoothヘッドセットユーザーとしては、外出中や移動中などにどれだけスムーズに本体を操作できるかが最も気になるポイントだ。
まずはBluetoothヘッドセットではなく、ウォークマンMで音楽を再生した場合の操作感だが、ウォークマンMのボタン配置は音量が側面右側、再生/一時停止が前面、早送り/早戻しがシャトルスイッチとそれぞれ操作位置が異なるため、操作によって本体を持ち変える操作が地味に面倒だ。
側面のシャトルスイッチを引くとアルバム選択できるのは前述の通りだが、この画面ではアルバムやアーティスト、プレイリストなどを1画面に1つしか表示できないため、アルバムやアーティストをたくさん保存している場合には検索が面倒。検索方法は、全曲/アルバム/アーティスト/ジャンル/リリース年/プレイリスト/フォルダーから選択できる。
ただ、シャトルで選択できるのはアルバム同士やアーティスト同士など同カテゴリのみで、「アルバムを聴いていたけど次はアーティストで聴きたい」という時はメニューから選び直す必要がある。
HOME・BACKボタン長押しでホームを表示し、「ミュージック」から選択するとアルバムやアーティスト名を3つ同時に表示できるためこちらのほうが検索しやすい。とはいえ、どちらにしてもスマートフォンのように大量の楽曲情報をまとめて確認できるインターフェイスに慣れていると、若干の不便を感じてしまう。
再生中の楽曲名も確認できるのはウォークマンMの有機ELディスプレイのみのため、今再生している楽曲の名前が知りたい時はそのたびにウォークマンを手にとって確認する必要がある。楽曲を再生しているのがウォークマン側だから仕方のない部分ではあるものの、スマートフォンから簡単に楽曲名を確認し、早送りや早戻し操作ができる手軽さに慣れていると、やはり手間に感じてしまう。
ウォークマンM最大の特徴とも言えるスマートフォン接続への切り替え操作は、前述の通り本体のHOME・BACKボタンを長押しし、ホーム画面に戻った上でシャトルスイッチを回転して「Bluetooth」に切り替え、さらにディスプレイ横の再生ボタンで接続するスマートフォンを決定するという操作が必要になる。Bluetoothから音楽に戻る際も同様の操作が必要だ。
この操作をディスプレイを見ることなく操作するのは不可能とまでは言わないもののかなりの慣れが必要。ホーム画面の並びも、ミュージックからBluetoothへの切り替えはシャトルを下に、Bluetoothからミュージックへの切り替えはシャトルを上にと回転方向も異なるため、どちらからどちらかに切り替えるかを把握していなければ画面を見ずに操作するのは難しい。
また、前述の通りウォークマンMとスマートフォンをBluetoothでペアリングしている場合、ウォークマンMで音楽を聴いている最中であってもBluetoothのペアリングは継続され、通常よりもバッテリ消費が発生する。せっかくBluetoothで常時ペアリングしているのであれば、スマートフォンのアプリからウォークマンMの楽曲名を確認したり、早送り/早戻し操作をできるといった逆方向の連携も欲しいと感じた。
なお、iPhone 4SやXperia Z1では問題なく動作したが、ARROWS NX F-01FとウォークマンMの組み合わせでは少々問題が発生した。というのも、ウォークマンMで音楽を聞きながら曲送りなどの操作をすると、ARROWSのミュージックプレーヤーが起動/再生してしまうことがあるのだ。ARROWS NX F-01Fとの組み合わせにおける固有の問題と思われるが、ARROWSユーザーは注意が必要だ。できれば動作確認済み機器のリストなども公開して欲しい。
NW-M505は、Bluetoothヘッドセットではなく、あくまでウォークマンなのだから、Bluetoothヘッドセットと直接比べることがおかしいのかもしれない。とはいえ、2台持ちをしたくないがゆえにスマートフォンで音楽を聴いていたユーザーからすると、操作性の細かなところでスマートフォンよりも不便に感じる部分はある。ウォークマンMの本質的な問題というより、配置やアプリで改善できると思えるだけに、手元を見ずとも操作できるようなボタン配置や操作体系、さらにはスマートフォンから操作できるアプリなどのリリースにも期待したい。
音質や音楽への没入が魅力。Bluetooth連携は細かな改善に期待
「2台持ちが苦にならない携帯性と操作性」というコンセプトの元に展開されたウォークマンM。そのコンセプトは非常に共感し、また期待したが、細かな操作性では、Bluetoothヘッドセットとスマートフォンの組み合わせに及ばない部分も多い。身につけることで接触機会も多くなるミュージックプレーヤーの操作は、そうした細かな点が気になってしまった。
一方で、ウォークマンならではの音質の良さや、スマートフォンの着信音に邪魔されず音楽を楽しめるのは大きな魅力。16GBという容量も、スマートフォンのストレージ容量を16GBぶん節約できると思えば十分な容量だ。操作性は好みによる部分は多いが、ウォークマンのディスプレイを確認しながら操作するのが気にならなければ、問題は無いだろう。頻繁に選曲操作を行なう人には物足りないかもしれないが、決まったアルバムやプレイリストを再生する機会が多かったり、シャッフル再生が中心という人に向いていると思う。
単体の小型オーディオプレーヤーとしては音質も含めて満足度は高い。スマートフォンとヘッドセットの組み合わせに慣れている人が、ヘッドセット相当の操作感を期待すると不満を感じる部分は残っているが、代わりに得られる音質や音楽への没入感を魅力と思うかどうかが本機を選ぶ際のポイントだ。価格も2万円を切っており、同容量のiPod touchが22,800円、iPod nanoは14,800円だが別途Bluetoothヘッドセット購入が必要と考えれば、価格的なメリットは感じられる。Bluetoothスマートフォンで音楽を聴いていたユーザーにとって1つの興味深い選択肢の登場と言えるだろう。
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