レビュー
ヘッドフォンアンプなのに8ch DAC×2基。バランス/音質設定も楽しいパイオニア「U-05」を聴く
(2014/11/18 08:00)
パイオニアから発売された「U-05」(105,000円/実売約9万円)。初めて見たとき、これぞポータブルオーディオファンにとっての理想型なのでは、と、ややオーバーながらもそう感じた。そう思えるくらい「U-05」には、イマドキのヘッドフォンファンが“絶対欲しい”機能性が、てんこ盛りに備わっている。
メーカーからは据置型のUSB DACにカテゴライズされている「U-05」だが、スペックを見ていくと、高性能ヘッドフォンアンプであり、同時にデジタルプリアンプとしての機能も盛り込まれた“デスクトップセンター”と呼ぶべき製品に作り上げられていることが分かる。
豊富な接続端子とこだわりの操作性
たとえば入力系は、デジタルオンリーながらも、384kHz/32bitまでのリニアPCMと、5.6MHzまでのDSDファイルに対応するUSB端子に加えて、2系統ずつの同軸/光デジタル、1系統のAES/EBU入力(こちらは192kHz/24bitまでの対応)と、豊富なバリエーションと数を用意。
パソコンによるハイレゾ再生はもちろん、ゲーム機やテレビ、CDプレーヤーなど、様々な機器をひとまとめに接続することが可能となっていている。外形寸法も296×271×101mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクトで、重量は6.3kgだ。一方、ライン出力も一般的なRCAのほかに、XLRバランス出力も搭載。こちらは、接続機器に合わせてピンアサインを切り替えられるようになっている。
そして、肝心のヘッドフォン出力はというと、一般的な6.3mmステレオ端子に加え、XLR4極、XLR3極×2という、2系統のバランス出力を用意。現在、バランス出力にはこれといった統一規格がないため、ヘッドフォンアンプに合わせてリケーブル製品をいちいち購入しなければならないことが多く、結構なコスト負担になってしまうが、「U-05」では据置型ヘッドフォンアンプの中で比較的メジャーなバランス出力コネクタ2タイプを採用してくれているため、いままでの資産が活かせるようになっている。これはありがたい。
操作性に関しても、かなりのこだわりが見られる。フロントパネルには、入力切り替え、出力切り替え、ボリュームコントロールを装備。このうちボリュームコントロールは、大型のメインボリュームの斜め下に、小さな「FINE ADJUST」ボリュームも用意していて、より微細な音量調整を行なうことができるようになっている。
ディスプレイはホワイト文字のスマート&シンプルな表示だが、再生している楽曲のビット深度まで表示する。サンプリング周波数のみの製品が多い中、なかなかに充実した内容となっている。リモコンも用意されており、試聴位置から手軽にすべての操作が行なえるのも、とても便利だ。
8ch DACを2基搭載
多機能さに気を取られがちだが、「U-05」最大のアピールポイントといえば、やはりそのサウンドクォリティだろう。大型の電源トランスを搭載、ディスプレイやデジタル部の電源を別に用意するなど、随所に音質に関するこだわりが投入されている。
音質の要となるDACには、ESS社製の8ch DAC「ES9016」を2基搭載している。AVアンプなどで十分なノウハウを持つDACを8chパラレル駆動するという、贅沢な使いこなしをしている。これにより、低ノイズ化と高SNを実現。情報量の多い、厚みのある上質なサウンドを実現しているという。
音質に関しては、様々な調整機能や設定が用意されている点にも注目だ。中でも最大のポイントとなっているのが、「LOCK RANGE ADJUST」だ。これは、DACが同期する際のロックレンジ精度を調整することでジッタを軽減し、ノイズ感のないピュアなサウンドを実現しようというもの。
ノーマルモードとプロモードが用意され、プロモードでは7段階の調整ができる。利用する環境によってベストな位置が変わってくるため、ユーザー自身が細かく調整できるようになっている。ロックが外れると音ギレが発生するので、発生しないギリギリのところまで設定を追い込める。なかなかに使い甲斐のある、興味深い機能だ。
また、高域ノイズをカットするためのデジタルフィルターは、「SHARP」「SLOW」「SHORT」の3モードを用意。このうち「SHORT」は、パイオニア独自のパラメーターとなっていて、「U-05」用にチューニングされたものだという。どれをチョイスするかは好み次第だが、特性の異なるデジタルフィルタを選択できるようにしてくれているのは、ありがたい限りだ。
もうひとつ、オーディオスケーラー機能、いわゆるアップコンバート機能も搭載されている。独自のビット拡張技術「Hi-bit32 Audio Processing」により、ハイレゾでない音楽ファイルも含めて、最大PCM 384kHzまでアップスケーリング。ハイレゾリューション音源化することで、よりハイクォリティなサウンドを楽しむことができる。こういったアップコンバートは、CD音源や圧縮音源などで効果的な場合があるため、好みに合えば積極的に活用するのもいいだろう。
バランス出力をメインに据えていることもあるのだろう、回路設計に関しても、結構なこだわりが垣間見られる。DACからヘッドフォン出力まで、左右独立させた完全シンメトリーのフルバランス回路を搭載。外乱ノイズの影響を排除することで、ハイクオリティ伝送を実現しているという。
定番&話題のヘッドフォンで音質チェック
スペックを見ただけで機能性とサウンドにこだわり抜いたことがわかる「U-05」だが、実際のサウンドはどうだろう。バランス出力のクォリティを中心にチェックしてみた。
最初に使用したヘッドフォンはShure「SRH1540」。こちらに、サエク製のバランスケーブルを接続し、MacBookAirから様々なハイレゾ音源を再生してみた。
一聴して感心したのは、ダイナミックレンジの広さだ。例えばフルオーケストラ演奏を聴くと、絶対的な音数の多さが生み出すスケールの大きさが、しっかりと伝わってくる。また、「LOCK RANGE ADJUST」を活用することで、どんどん音がピュアになり、楽器ひとつひとつの演奏が細部まで伝わってくるのも素晴らしい。まるでコンサートホールにいるかのようなリアルさも味わえるのだ。
ただ、前述の通り「LOCK RANGE ADJUST」は、シビアに設定すると音が途切れるようになってしまうため、ある程度の調整が必要だ。ちなみに、筆者の環境ではプロモードの3あたりがベストだった。環境や楽曲によっては、もうひとつふたつ詰められるかもしれない。
ゼンハイザーの「HD800」に替えてみる。ヘッドフォンアンプに多大な駆動力を要求する“鳴りにくい”ヘッドフォンの代表例といえる存在だが、純正ヘッドフォンアンプほどのベストマッチとはいわないまでも、十分な鳴りっぷりを示してくれる。何よりも、透明感のあるストレートなサウンドキャラクターがいい。
おかげで、グルーブ感の良好な、ノリのよいジャズやハードロックも楽しめる。ゼンハイザー純正のXLR 4極バランスケーブルもそのまま使用可能だ。まだバランス駆動ヘッドフォンアンプを導入していないHD800ユーザーにとっては、有力な選択肢となるはずだ。
さらに、平面振動板を採用したOPPOの「PM-1」も試してみた。こちらも、純正バランスケーブルがXLR 4極であるため、U-05でもそのまま活用することができる。
聴いてみると、OPPOのヘッドフォンアンプ「HA-1」でドライブした時と比べ、U-05ではよりストレートな表現が味わえる。ヴォーカルやメイン楽器などにフォーカスした印象で、幾分力のこもった演奏に聴こえる。
チップ自体は異なるが、同じESS製DAC(ES9018)を採用する両製品。しかし、聴き比べるとかなりキャラクターの違いが感じられてとても興味深い。抜けの良さと高解像度が印象的な「HA-1」と、ピュアでストレートなサウンドを信条とする「U-05」……といったイメージだろうか。
解像感の高さなどは「HA-1」に軍配が上がるが、価格差(HA-1:実売16万円前後/U-05:実売約9万円)を考えると優劣は付けがたい。U-05はそれに加えて、2タイプのバランスヘッドフォン出力を用意していたり、LOCK RANGE ADJUSTなどのカスタム機能が充実するなど、独自の魅力を多々備えているところがポイントだ。
ヘッドフォンのバランス駆動を楽しみたい人、DAC/プリアンプとして時々はスピーカーでも音楽を楽しみたい人にとっては、ベストな選択肢といえる。ここまで徹底してヘッドフォンファンのニーズを考えてくれた製品の登場を、大いに歓迎したい。
パイオニア U-05 |
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