レビュー
さらなる高音質へ。オンキヨー「CR-N765」で始める“オトナ”のハイレゾ入門
(2014/12/5 09:30)
“ハイレゾ”の定義が日本オーディオ協会やJEITAといった業界団体によって明確化され、従来のオーディオ機器だけでなく、スマートフォンでもドコモの2014年冬~2015年春モデルをはじめとする多数の機種が一気にハイレゾ対応するなど、ハイレゾ普及の流れが本格化してきた。
もちろん、オーディオの本流でもある据え置き型コンポも、ハイレゾ対応を充実させている。今まで「ハイレゾとはなんぞや?」と疑問に思いつつ、あまり積極的に購入しようと考えてこなかった人にとっても、新しいコンポを買えば自然とハイレゾの世界に踏み入れられる状況だ。
そこで今回は、本格的なハイレゾ対応製品としては比較的入手しやすい価格帯のコンポ、オンキヨー「CR-N765」(実売価格5万円台)と、スピーカー「D-112EXT」(実売価格3万円前後)を中心に、NASによるネットワーク再生やUSB再生などを活用して、ハイレゾの簡単な始め方、楽しみ方を紹介したい。
ハイエンドに迫るハイレゾ対応を実現した「CR-N765」
まずは今回のハイレゾ再生環境の軸となるメインユニット「CR-N765」について軽く解説していこう。
CR-N765は、ステレオアンプと、CDプレーヤー、ネットワークオーディオ機能を小型のボディに詰め込んだ“ネットワークCDレシーバー”と称されるユニットだ。この1台さえあれば、あとはスピーカーを用意するだけでコンポとして成立し、音楽再生の準備がほぼ整う。
本体で再生できるメディア・フォーマットは、音楽CDとCD-R/RWメディアに記録したMP3/WMAファイル。そして、前面と背面のUSB端子に接続したUSBストレージ内にあるMP3/WAV/FLAC/Apple Lossless/DSD形式などのファイルだ。
AM/FMラジオチューナも搭載されているが、インターネットに接続することで、居住地域のラジオ放送をストリーミング再生する「radiko.jp」と、全世界のラジオ放送などを聞ける「TuneIn」の音楽配信サービスを利用できる。
CR-N765単体とスピーカー(ヘッドフォン)だけで、とりあえず自宅にある音楽CDも、ファイルとして保管している音源データもひと通り再生でき、ラジオもより一層便利に聞けるというわけだ。
肝心のハイレゾについては192kHz/24bitまでのWAV/FLAC、2.8/5.6MHzのDSD(DSF)などに対応する。同等の価格帯の製品では、これまではほとんど96kHz/24bitまでの対応で、DSDには非対応というものが多かったが、最近はCR-N765のように、より高い周波数のハイレゾ音源やDSDに対応し始めている。特に、5.6MHzまでのDSD対応という点では、CR-N765はかなり“高性能”な製品と言えるだろう。実際のところ、5.6MHzのDSDで配信されている音源はまだ少ないが、将来性としては◎だ。
これに組み合わせるスピーカーは、CRシリーズに最適な「D-112EXT」。CR-N765の本体サイズやデザインにマッチした比較的小型のスピーカーではあるが、オンキヨー独自開発のN-OMF振動板を採用した直径10cmのウーファーに、ドイツWIMA社製のフィルムコンデンサーを採用したという3cmのツイーターを追加した2ウェイ・バスレフ型とし、周波数特性は60Hz~100kHz。オーディオ協会がハイレゾと定義する40kHzをゆうに超える高音域までしっかり対応している。
最もシンプルなUSBストレージによるハイレゾ再生
CR-N765で手っ取り早くハイレゾを楽しむのであれば、USBストレージを使うのが近道。ハイレゾ音源は「e-onkyo music」などで配信されており、コンテンツも日々充実してきている。
対応ファイルを購入・ダウンロード後、USBストレージにコピーし、本体前面か背面のUSBポートに差し込めば準備完了で、あとはリモコンでUSBボタンを押し、本体前面のディスプレイを見ながら上下キーとENTERキーで保管フォルダやファイルをたどっていけば再生が始まる。
ただし、CR-N765の場合、背面USBポートでは176.4kHz以上のWAVや5.6MHzのDSDに対応しない。これに限らず、他の製品でもUSBポートの位置によって対応フォーマットが異なる場合があるので、DSD音源をUSB再生する際には注意が必要だ。
と、USB再生はこのように簡単・シンプルにハイレゾ再生できるわけだが、通常はe-onkyo musicのようなネット配信サイトから購入するハイレゾ音源をコピーするために、USBストレージの取り付け・取り外しをいちいち繰り返すのはちょっと面倒だ。また、リモコンで前面のディスプレイを見ながら選曲という操作も、スマートフォンなどの操作に慣れた人にとっては億劫だろう。
管理・運用効率を考えたNASによるネットワーク再生
そんな時に活用したいのが「NAS」と呼ばれるネットワークHDD。家庭内ネットワークにNASを接続し、そこに購入したハイレゾ音源を転送しておいて、CR-N765のネットワーク再生機能を利用してアクセスするという方法だ。
これであればメディアの抜き差しをする必要はないし、PCのHDDなど内蔵ストレージで管理しているハイレゾ音源をNASに追い出して、PCのHDDなどの有効活用もできるようになる。特にハイレゾはファイルサイズが大きく、アルバム1枚で1GBを越えるものも少なくないので、NASを使うことで、ハイレゾ音源の整理もしやすくなるはずだ。
ここではアイ・オー・データ機器のNAS「RockDiskNext」を例に取って解説したい。RockDiskNextは、PCやスマートフォン、タブレットなどからLAN経由(もしくはインターネット経由)でアクセスできるネットワークHDDで、単なるファイル保管だけでなく、NFS/FTPなど多数のサーバー機能も備える製品だ。iTunesで楽曲管理を集約できるiTunesサーバー機能のほか、動画・音楽などをLAN内でストリーミング配信するDLNA機能も搭載している。
CR-N765からも、もちろんRockDiskNextに直接アクセスできる。DLNA経由でも一部のハイレゾ音源を再生できるが、ここではDLNAではなく、RockDiskNextをネットワークストレージとして利用することをおすすめしたい。そうした方がDSDファイルを安定して再生できるためだ。
CR-N765をRockDiskNextと同じネットワークに接続したら、リモコンで[NET]ボタンを押し、上下ボタンで“Home Media”を選ぼう。すると、RockDiskNextの共有フォルダが表示されるので、ハイレゾ音源を保管しているフォルダに移動してファイルを選択すれば良い。再生がスタートするまで数秒待つ場合もあるが、違和感のないスムーズな使い勝手で楽しめるはず。
ただ、ハイレゾを含むNASの中の大量の楽曲を検索するのに便利なのは、スマートフォン/タブレット用アプリの「Onkyo Remote」だ。iOS端末向けの「Onkyo Remote 3」と、Android版の「Onkyo Remote」を用意している。利用準備も簡単で、CR-N765とスマートフォンを同じネットワークに接続するだけ。アプリ起動時に自動でネットワーク内のCR-N765を検索し、連携するようになっている。
Onkyo Remoteでは、なんといっても標準のリモコン+本体ディスプレイでは得られないファイル閲覧性の高さが魅力。USBストレージやNASの中から再生したい楽曲を容易に選んで再生できる。
“Home Media”機能でネットワーク再生する場合、フォルダをたどって一覧していくシンプルな使い方なので、基本的にPCでファイル管理するNASとは閲覧性の面で相性がいいし、慣れやすい。楽曲を選べば、わずかな読み込み処理の後に再生が始まり、その後の楽曲も連続再生される。難しく考えることなくすぐに使えるのがうれしいところだ。
DSDを扱わないのであれば、“Home Media”ではなくDLNA機能を使うのも便利。アルバムやアーティスト名、ジャンル、プレイリストなど多彩な分類方法で一覧して楽曲を選べるのは、大量の楽曲ファイルを保管している人にとっては重要だろう。
また、radiko.jpやTuneInといったネットラジオの選局が一覧から簡単に行なえるほか、CR-N765の電源オン/オフ、ボリュームやTrebleとBassの調整、入力ソースの切り替えといったほとんどの操作がアプリ上から行なえる。
付属のリモコンは一般的な赤外線を使うもののため、操作時には本体の赤外線受光部に信号が届くようリモコンを向け、CR-N765本体の前に障害物を置かないようにする必要があるわけだが、スマートフォンで操作する場合は無線LANの電波さえきちんと届いていれば、どんな向きでも、どんな体勢でも確実に操作できるのが大きなメリットだ。
また、本体側のボタン類が必要最小限に絞られ、シンプルなデザインになってはいるものの、実際には機能自体は以前より明らかに多くなってきている。そんな複雑な操作に気を取られてしまうと、音楽を聞くことに集中できないことにもなりかねない。多彩な機能をスムーズに使いこなすには、大量の情報が画面にわかりやすく表示され、的確に操作できるスマートフォンアプリは欠かせない。
ネットワーク再生で気を付けておきたいのは、できるだけ有線LANで接続すること。ルーターやハブから離れた場所だとLANケーブルで接続するのは難しいかもしれないが、場合によっては動画並みの帯域を占有するハイレゾ音源の再生を安定して行なうには、無線LANでは厳しいことがある。
準備のための知識や手順は必要だが、NASを利用したネットワーク再生は、それらを加味しても管理・運用面のメリットが勝る。できるだけ最初の手間を惜しまずにセッティングしたいところだ。
“お一人様”にもおすすめの「PC+USB DAC」による再生
NASの利点は分かった。でも、やっぱりセッティングは面倒そうだし、すでに扱い慣れているPCで音源管理を完結したい。というかPCから直接再生したい、と思っている人もいるかもしれない。
そうしたケースでは、USB DACを使うのも悪くない。PCとUSB接続して音声出力するUSB DACは、手軽に音声をデジタル出力でき、PCスピーカーやヘッドフォンで高音質に聞けるアイテムとして近年人気を集めている。最近ではハイレゾ対応のUSB DACも数多く発売されている。
今回は、DSD対応のUSB DAC/ポータブルヘッドフォンアンプiFI-Audio「nano iDSD」をCR-N765に組み合わせて使ってみた。
このnano iDSDをPCとUSB接続してヘッドフォンをつなぎ、PC上でハイレゾ対応プレーヤーソフトから再生するだけで、即座にハイレゾを楽しめる。ハイレゾ再生対応プレーヤーとしては、Windowsでは「foobar2000」が、Macでは「Audirvana Plus」などが有名だ。
プレーヤーを使いこなすための知識が少し必要だが、普段パソコンを使い慣れている人にはわかりやすい方法かもしれない。ヘッドフォンやPCスピーカーではなく、CR-N765でじっくり聞きたい時も、USB DACのライン出力やデジタル出力を使ってCR-N765とケーブル接続するだけと簡単だ。
その場合、「PC→USB DAC→CR-N765」といった接続方法になるので、(ケーブルを長く伸ばさない限り)必然的にCR-N765に近い位置から聞くスタイルになるだろう。リビングでゆったり音楽鑑賞するというよりも、自分のデスクにコンポを置いて、PCをいじりながら聞きたい人に向いた使い方かもしれない。
ハイレゾ体験で、ちょっとオトナに?
USBストレージで手っ取り早く聞く方法、NASを用意してネットワーク再生で効率的に聞く方法、USB DACを使ってPCでコントロールしながら聞く方法と、大まかに3パターンのハイレゾ再生の方法を解説したわけだが、自分に合いそうなリスニングスタイルはあっただろうか。
今回、主にCR-N765とD-112EXTを使ってリスニングしたところでは、とりわけDSD再生時の音の輪郭と音場の奥行き感にうならされた。たとえばクラシックでは、DSDマスタリングされた、ロンドン交響楽団、ヴァレリー・ゲルギエフ指揮による「マーラー:交響曲第3番」において、左奥の方でかすかに鳴らされたシンバルの高音域を、小さい音ながらもくっきり捉えられたかと思えば、トロンボーンなどのような比較的低域の輪郭もぼやけることなく、しかし不自然に強調されることなしに響いてきた。
独唱するアンナ・ラーションの繊細で伸びのあるボイスも、目を閉じれば、まるで中央にぽっかり浮かび上がったかのように“見える”。低中音域から高音域まで、全域に渡ってごくナチュラルに、心地よい広がり感と解像感で聞かせてくれた。
また、192kHz/24bitで配信されている「NEON GENESIS EVANGELION 【2013 HR Remaster Ver.】」を再生してみると、こちらは楽器・音源の個性(というか作曲者の鷺巣詩郎氏の個性)がダイレクトに伝わってくるようだ。テレビ番組などでも頻繁に使われていることの多い作品だが、改めてハイレゾで聞いてみると、インパクトのある曲調の中にも、その裏にあるきめ細かなこだわり、音の豊かなせめぎ合いみたいなものまで感じられる気がする。
高品位なコンポやスピーカーを使う利点は、“いい音”を味わえること。その点、CR-N765とD-112EXT+ハイレゾは、きっと満足のいく音質が得られるだろう。また、ボリュームを絞っていても、しっかりと音楽を楽しめるのは、良いオーディオ機器の魅力かもしれない。今回のレビューに当たって筆者の事務所で延々と曲を流していたのだが、かなりボリュームを絞った状態で、きちんと音楽が耳に届き、しかし全く耳障りに感じることなく、リラックスして仕事に集中できた。
細部に耳を傾けたくなるようなハイレゾ音源を味わうのに、「PC+USB DAC+ヘッドフォン」の組み合わせもいいのだが、せっかくCR-N765のようなコンポがあるのなら、リビングでのんびりくつろぎつつ、友人や家族とああだこうだと音や音楽について語らいながら楽しみたいとも思う。
自然な雰囲気を作り出すことができ、誰かと音について語り合いたくなるという意味では、ハイレゾやハイレゾ対応コンポというのは、コミュニケーションツールとしても使えて、ちょっとオトナな遊び方ができるアイテム、と言ってもいいのではないだろうか。
(協力:オンキヨー)