レビュー

驚愕の超ハイエンドプレーヤー「AK380」を聴く。DLNA遠隔操作が便利

 iriver Astell&Kernのハイレゾプレーヤー「AKシリーズ」と言えば、ハイレゾ対応ポータブルプレーヤーの定番シリーズの1つだ。最上位の「AK240」は約30万円、そのステンレスモデルに至っては約38万円と、驚くようなハイエンドモデルが存在する一方で、10万円台のAK120II、AK100IIもラインナップ。今年はさらに、エントリーモデルの「AK Jr」(直販69,800円/税込)も登場。ラインナップの幅が広がっている。

Astell&Kernの新ハイエンドプレーヤー「AK380」

 そんな中、衝撃的と言っていいプレーヤー「AK380」が発表された。型番の数字からもわかるように、ハイエンドプレーヤー「AK240」の“さらに上”のモデルだ。AK240のキーワードが「BE THE ULTIMATE」だったので、これが最上位だと思っていたが、それを超える超ハイエンドプレーヤーの登場だ。価格はまだ未定だが、海外では3,499ドル(税抜)とアナウンスされており、編集部の想像だが、日本では40万円を超えるだろう。

 いったいどのような音なのか? 発売日もまだ決まっておらず、まさに開発が進められている最中だが、試作機を数日借りる事ができたため、特徴的な機能と音質の簡単なインプレッションをお届けしたい。なお、試作機であるため実際の製品版とは異なる可能性もあるのでご承知いただきたい。

AKシリーズ歴代モデルから代表的な機種をピックアップ。左からAK100、AK120、AK100II、AK120II、AK240、AK380

再生機能がパワーアップ

 詳細は既報の通りだが、軽く仕様をおさらいしよう。内蔵メモリは256GB、128GBまでのカードが使えるmicroSD/SDHC/SDXCスロットも備えている。このあたりはAK240と同じだ。

 ディスプレイは4型で、解像度は480×800ドット。AK240は3.31型なので一回り大きくなった。ディスプレイの発色はAK240より良くなっており、コントラストもアップ。サイズが大きくなった以上に、ディスプレイの存在感が増したように感じる。静電容量式のタッチスクリーンは同じだ。

左がAK240、右が「AK380」。ディスプレイも含め、一回り大きくなった

 異なるのはホームボタンで、AK240はディスプレイの外側、黒い額縁部分にセンサーが搭載されていたが、AK380は金属筐体部分にセンサーが埋まっており、「メタルタッチ」と名付けられている。使い方は同じだが、AK240はセンサー部分に指を触れるとすぐにホームに戻ったが、AK380は一拍おいて戻るタイムラグが感じられる。もっとも、このあたりは試作機だからというのもあるだろう。

AK240。写真ではよく見えないが、ディスプレイの下部、黒い額縁部分に丸いセンサーがある
AK380は金属筐体部分にセンサーが埋まった、メタルタッチ仕様になった

 メニューデザインは新しくなっているが、基本的な構成はAK240と変わっていない。アルバムのタイル表示がAK240が横2枚に対し、AK380は3枚になるなど、画面が大きくなった事で一覧性は増した。OS自体は従来と同じAndroidベースのようで、ホーム画面にある「アーティスト」や「プレイリスト」といった機能パネルを長押しして、好きな場所にドロップして配置を変えたり、上から下へのスワイプで機能のショートカットを表示することも可能だ。

 再生能力的面の違いも見ていこう。AK240はPCMの192kHz/32bitまでをサポートし、32bitのfloat/Integerは、24bitにダウンコンバートしながらの再生だった。AK380は、最大384kHz/32bitまでのデータを、全てネイティブで再生できる。DSDも5.6MHzまでネイティブ再生可能だ。再生対応ファイル形式はWAV、FLAC、WMA、MP3、OGG、APE、AAC、Apple Lossless、AIFF、DFF、DSF。

AK380で192kHz/32bitの楽曲を再生しているところ

 DACも異なる。AK240は、定番と言って良いシーラス・ロジックの「CS4398」をデュアルで、AK380は旭化成エレクトロニクスの最新DAC「AK4490」をデュアルで採用している。旭化成エレクトロニクスのDACは、最近各社製品への採用が著しい。さらに、VCXO Clock(電圧制御水晶発振器/フェムトクロック)も搭載し、超低ジッタ0.2Psを実現したというのもAK380の特徴だ。

 音質調整用に20バンド/0.1dBのパラメトリックイコライザも搭載した。音を非常に細かくカスタマイズできる。こうした点から、「プロフェッショナルの使用環境におけるニーズにも応える」プロ向けモデルとしても訴求している。

 筐体に航空機グレードのアルミ(ジュラルミン)を使っているのはAK240と同じ。背面にカーボンプレートやゴリラガラスを配しているのも共通だ。背面右上にネジ穴があるが、これはオプションとして発売予定のジャケット型アンプ装着時にネジで両者と固定するためのものだ。

AK380の上部。ヘッドフォン出力はステレオミニ、2.5mm 4極バランスを装備。この点はAK240と同じだ
側面にはハードウェアボタン
時計の竜頭のようなボリュームボタンは右側面に

 拡張機能まわりでは、底部にUSB端子を備えるほか、4つの丸い端子が横一列に並んでいる。これはアナログ音声のバランス出力端子で、前述のジャケット型アンプやクレードルと接続し、音声のバランス伝送を行なうためのものだそうだ。

底部。USB端子の左側にある4つの丸い端子が、アナログバランス出力
「春のヘッドフォン祭 2015」で参考展示された、AK380用のジャケット型アンプを装着したところ
ジャケット型アンプ
このようにAK380の背後に装着する
AK380とアンプを固定するためのネジも

 外形寸法は112.4×79.8×17.5mm(縦×横×厚さ)、重量は約218g。AK240の107×66×17.5mm(同)、約185gと比べると一回り大きく、重くなっている。ただ、実際に持ち比べてみると、さほど大きくなった気はしない。ディスプレイ周囲の筐体が薄く仕上げられているため、手に触れる部分が薄く、持ちやすいためだろう。

 薄い筐体部分がAK380と比べると、AK240の方が少ないため、並べてみるとAK240の方が分厚く、AK380の方が平たく見えるのが面白い。横幅も大きくなってはいるが、ワイシャツの胸ポケットにスッポリ収まる。大型化はしたが、取り回しづらくなったとは感じはしない。

薄さの比較。左がAK240、右がAK380

DLNAで操作

 AK240と同様に、USB DACとして動作したり、無線LAN(IEEE 802.11 b/g/n/2.4GHz)Bluetoothに対応していたりと機能は豊富。一方で、AK380ならではの新機能として見逃せないのがDLNAに対応している点だ。つまり“ネットワークプレーヤーとしても使えるポータブル機”なのだ。

 AK240にも同様の機能は搭載されていたが、PCに専用のサーバーソフトをインストールし、その中にAK240からアクセスして再生したり、音楽ファイルをダウンロードするといった使い方だった。

 AK380は“AKシリーズのネットワーク”ではなく、DLNAという汎用的な規格に対応する事で、ネットワークプレーヤーとしての使い勝手を向上させている。具体的には、DLNA対応のDMP(プレーヤー)、DMR(レンダラー)、DMS(サーバー)に対応している。

操作用アプリ、「AK Connect」

 操作用アプリとして、iOS/Android向けに「AK Connect」を用意(現在はAndroid版のβが公開されている)。AK Connectをインストールしたスマホと、AK380を同じ無線LANに接続すると、AK Connectの画面からAK380が見えるようになる。

 この状態で、アプリ・AK Connectの音楽ライブラリとしてAK380内の音楽フォルダを指定、再生するスピーカーとしてスマホを選ぶと、AK380内の音楽がワイヤレス伝送され、スマホのスピーカーから流れ出す。逆の指定をすれば、スマホ内の音楽をAK380から再生することも可能だ。

音楽ライブラリの指定画面
再生するスピーカーを選択する場面
AK380内の音楽ライブラリをアプリから見ているところ
ライブラリ、再生機器のどちらもAK380を選べば、アプリがリモコンになる

 ライブラリとスピーカーの両方でAK380を指定すれば、アプリはAK380のリモコンとして動作する。ポータブルプレーヤーにリモコンが必要なのかという話もあるが、例えばAK380をカバンやポケットの中に入れっぱなしにして、イヤフォンだけを外に出してリスニング。スマホでネットサーフィンなどをしながら、曲を変えたい時にはアプリから操作。AK380には手を触れないまま、自由に音楽を楽しむ事も可能だ。

 再生制御だけでなく、アプリからAK380のボリュームも制御できた。外出先で同じLANに接続するためにはモバイルルータが必要となるが、使ってみるとかなり便利だ。もちろんDLNAに準拠しているので、PlugPlayerなど、他のアプリでも基本的な制御は同じようにできるはずだ。

モバイルルータを介してスマホのアプリからAK380を制御
ボリュームもアプリから調整できる

 外出先だけでなく、家でも活用できる。AK380とスマホを家のLANに接続してしまえば、AK380に触れずに再生制御ができるため、例えばAK380を据置型プレーヤーのように扱い、大きなアンプやスピーカーに接続。自分はゆったりソファにでも座って、スマホをタッチして操作できる。小さなプレーヤーだが、据置型ネットワークプレーヤーと同等の事ができるというのは驚きだ。

 “ポータブルプレーヤーだが、据え置き機としても使える”というDLNA対応は、超高級プレーヤーでもあるAK380の使用頻度を増加させる事にも繋がる。オマケっぽく見えるが、実は費用対効果の面では非常に重要な意味を持つ機能と言っていいだろう。

AK380でCDをリッピングするための外部ドライブ、バランス出力も備えたクレードルなども今後登場予定だ

“凄まじい”音質

 音質チェック用には、いつものe☆イヤホンのオリジナルブランドヘッドフォン「SW-HP11」に加え、Jerry Harvey AudioとAKのコラボイヤフォン「Layla(レイラ) Universal Fit」と「Angie(アンジー) Universal Fit」も用意した。

Layla(レイラ) Universal Fit。搭載BAは低域×4、中域×4、高域×4の12ドライバ構成だ

 3.5mm ステレオミニのアンバランスから聴くのがセオリーだが、いきなりAK380の“本気の音”から聴いてみたいと、Layla/Angieに2.5mm 4極のバランス接続ケーブルを装着。バランス接続サウンドから聴いてみることにした。このプレーヤーを買う人はおそらく、アンバランスよりもバランス接続の方が利用頻度は高いだろう。

 AK380の前に、AK240とバランス接続。「茅原実里/この世界は僕らを待っていた」(96kHz/24bit)を再生した。AK240は毎日使っているので音は良く知っているが、分解能が高く、バランスが整っていると同時に、アンプの駆動力も高くて低域の迫力や量感もしっかり感じられる。モニターライクな素直さと、躍動感のある描写を兼ね備えた、ポータブルプレーヤーの1つの到達点と言って良いクオリティだ。個人的には、解像度だけを追い求めたカリカリしたサウンドではなく、中高域に独特の艶っぽさが漂う“美音”な部分もハイエンド機らしい個性が感じられ、気に入っている。

 「この音からどれだけレベルアップするのか?」、「そもそもレベルアップできるのか?」と半信半疑な状態でAK380に付け替えると、絶句。そして勝手に顔が半笑いになってしまう。恐ろしい事に、「これが終着点でいいのでは」と思っていたAK240から大幅に音質がアップしている。

 まず感じるのは音場の広さ。AK240も十二分に広いが、そこからさらに1.5倍くらい横に広がる印象。さらに奥行きは呆れるほど深くなり、ライブハウスから体育館かコンサートホールに移動したような感覚を覚える。その広い音場に、ボーカルやベースなどの楽器が、キッチリと間隔を開けて、明確に定位する。狭い空間に詰め込まれることの多いポータブルのサウンドとは次元の違う世界が展開する。

 次に驚くのは低域。一聴するとAK240よりも大人しく感じるのだが、それは中低域の張り出しが減ったためで、沈み込みの深さはAK240のそれを凌駕。ベースラインのゴリゴリとしたサウンドが、地の底から響いてくるような深さだ。同時に、音像は非常にタイト。分解能は呆れるほど高く、ベースラインが本当に細かく聴きとれる。

 そんな低域の上にヴォーカルが定位するのだが、その2つがゴチャッとくっつかず、キッチリとベースと声の音が分離、間に音が無い空間が見える。この傾向は、イヤフォンよりもヘッドフォンで聴くとわかりやすいが、カナル型のイヤフォンのLayla/Angieでもハッキリとわかる。ポータブルのサウンドは、音がギチギチに詰め込まれて、頭内定位もキツくて苦手だという人は、AK380を聴くと気に入るだろう。バーチャルサラウンド的な機能を使わなくても、こんな音が聴けるものかと驚くほどだ。

 付帯音は一切感じられず、バランスも良好。低域が高解像度だと書いたが、中高域の分解能もAK240を超えている。それでいて、カリカリシャープな、神経質な描写ではなく、極めて自然な表現が維持されている。AK240で言うところの“美音的なキャラクター”は無いが、もはや美音がどうこういう次元を超えており、「これが、このハイレゾファイルの本当の音か」と納得してしまう、謎の説得力に溢れている。

 「展覧会の絵」(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)から「バーバ・ヤーガの小屋」のような、音数が多く、迫力のあるクラシックを聴くと、音場の広さや高解像度、アンプの低域駆動力の高さが相乗効果を産み、ポータブル環境とは思えないスペクタクル感が味わえる。

 逆に、ヴォーカルとピアノがメインのシンプルな「手嶌葵/光」のような楽曲では、音場が広くなった事で、音の余韻が消える際のかすかな描写や、ヴォーカルの定位の明瞭さから来る立体感が増す。文字通り、歌手がすぐ近くにいるような気配さえ感じさせる描写力だ。

 こうした音場の広さ、チャンネルセパレーションの良さから来る立体感、低域の解像度アップなどは、アンバランス接続にするとやや減退する。ただ、基本的な音のバランスや付帯音の少なさなどはアンバランスでも十分楽しめる。しかし、AK380をじっくり聴くならば、文句なくバランス接続がオススメだ。

Angie(アンジー) Universal Fit。低域×2、中域×2、高域×4の8ドライバ構成

 ヘッドフォンで聴いていると、頭蓋骨にズズんと響くような重い低音が出て驚かされる。さらに驚くべきは、このプレーヤーのオプションとして今後、ジャケット型の外部アンプまで予定されている事だ。このアンプが幾らになるかわからないが、「外部アンプいらないんじゃないの?」という気もするが、ここからさらに進化するのであれば一度聴いてみたいのは確かだ。

 このAK380、16日と17日に開催された「春のヘッドフォン祭 2015」で日本初披露され、試聴も可能だったので、既に聴いたという人もいるだろう。イベント会場で各社ブースを取材していると、「もう聞きました?」と、自然とAK380の話になる事も多く、中には「あれはホントに凄いから、(欲しくなると高価で財布に痛いから)むしろ聴かない方が良いかもしれない(笑)」と言っていたメーカーもあった。

 日本での価格はまだわからないが、恐らく40万円、50万円という価格を覚悟しておいた方が良いだろう。紛失した時用に保険でもかけたくなるような値段で、もはやポータブルという枠を完全に逸脱している。ただ、一度聴いてしまうと、「数十万円の据置型プレーヤーを買うのであれば、AK380を買って、家の中でも外でも使うという選択肢はありかも……」という気持ちが頭をもたげてくる、ある意味で危険なプレーヤーだ。

 買う買わないは別にしても、一聴の価値があるのは間違いない。今後のヘッドフォン系イベントや、店舗などで試聴機を見かけたら、愛用のイヤフォン/ヘッドフォンを繋いで、ぜひ聴いてみて欲しい。

山崎健太郎