麻倉怜士の大閻魔帳

第57回

メーカー間のレベルに広がり。ミニLEDも進化してきた'24年TVチェック

LG「OLED G4」の77型「OLED77G4PJB」

2024年も各社から有機ELテレビ、液晶テレビの最新モデルが出揃った。今年も全最新モデルをチェックした麻倉怜士氏が、各モデルの気になったポイントを独自の目線で解説する。

――今年も各社のテレビ新モデルが出揃いました。まずは全体的な印象はどうでしたか?

LGがCES 2024で発表したMETA Technology 2.0

麻倉:有機ELテレビは去年から画質がどう変わっているかがポイントですが、今年なによりも特徴的だなと感じたのは、各社の個性が出てきたことです。

LG製の白色有機ELパネルは、これまで各社とも同世代のパネルを使っていましたが、今年はeXパネル(2022年発表)、METAパネル(2023年発表)、そして今年発表のMETA Technology 2.0(META 2)パネルと種類が豊富になりました。またサムスンのQD-OLEDパネルも第3世代が登場し、第2世代も含めて、こちらもラインナップが増えています。

各社が採用しているパネルを紹介しておくと、ソニーは白色有機EL(XR80シリーズ)がeXパネルで、QD-OLED(A95Lシリーズ)は第2世代。同じくQD-OLEDを採用しているシャープ(GS1シリーズ)は第3世代のものを使っています。またMETAパネルでは、パナソニック(Z95Aシリーズ)とLG(G4シリーズ)、レグザ(X9900Nシリーズ)がMETA 2パネルを使っています。

【お詫びと訂正】記事初出時、“レグザ(X9900Nシリーズ)が第1世代のMETAパネルを使っている”と記載しておりましたがMETA 2パネルの誤りでした。お詫びして訂正します。(9月24日10時)

パネルが多様化してきて、そこに各社独自の映像エンジンが加わるので、やはり非常に個性が出てきたなと思います。

また有機ELテレビとミニLEDテレビという区分で言えば、これまで最上位モデルとして推されていたのは有機ELテレビで、その下にミニLEDテレビ、さらにその下に通常の液晶テレビがあるという構造でした。

“4Kブラビア史上最高輝度”を実現したソニーのミニLED液晶テレビ「BRAVIA 9(XR90)」

しかし、今年はそういったピラミッド構造を変えてきたメーカーもあり、例えばソニーではミニLEDテレビの「BRAVIA 9」が最上位で、その下にQD-OLEDを採用した「A95L」がいるという位置づけです。

こういった流れも踏まえると、やはりミニLEDの性能向上が、ここに来て非常に顕著に出てきているというのが、この夏のトレンドではないでしょうか。

LG以外で最新パネルをいち早く投入したパナソニック

――具体的に各メーカーの印象を聞いていきます。まずはパナソニックから。最上位モデルは第二世代マイクロレンズ有機EL、つまりMETA 2パネルを採用した「Z95A」シリーズです。

Z95Aシリーズの65型「TV-65Z95A」

麻倉:今年のパナソニック製テレビでもっとも大きな話題といえばOSにFire TVを採用したことですが、画質という点に関しては、やはり王者の貫禄を感じますね。

どの時代においても、パナソニックは“画質の頂点”と言えるポジションをずっとキープしています。映像表現の仕方、映画をしっかり“映画らしく楽しむ”という点では、極端に誇張されている部分も、不足している部分もなく、ど真ん中の王道を行っているなという印象で、本当に揺るぎがありません。

パナソニックはパネル供給元であるLG Displayとの関係が良く、一昨年のeXパネル、去年のMETAパネル、そして今年のMETA 2パネルと、最新世代パネルをいち早く採用しています。

LG Displayには直系の“家族”としてLG電子がありますが、そうした“家族”以外、つまりグループ外の“他人”として、最新パネルをいち早く使っているのがパナソニックなのです。

また、あとで紹介しますが、同じMETA 2パネルを使っているLG電子の最新モデルは、映像がものすごく明るい。これはMETA 2パネルが持っているピーク輝度や平均輝度の高さが向上したという特徴を上手く利用して、その輝度パワーを画作りに活用しているから。

それに対して、パナソニックの画作りは、そういった形ではありません。もちろん明るさも活用していていますが、それと同時に階調もしっかりあるのです。ビット数で言えば、明るさが向上すると一階調あたりの数値は下がっていくので、その分歪みが出てしまうものです。

ところが、パナソニックはそのあたりの画作りが上手でダイナミックレンジも広げつつ、ひとつひとつの階調も緻密です。昨年モデルの「MZ2500」でも優秀だった暗部の階調感もさらに良くなっていて、暗部の中のうごめきや色の出方のバラエティなど、階調に関わる部分が、とても良くなっていました。

55型「TV-55Z95A」

画質をチェックをする際、私は映画「マリアンヌ」を視聴します。チャプター2の冒頭はカサブランカが舞台の夜のシーンで、画面奥にRIVORIというホテルのネオンが光っていて、その手前に丸いフォルムをしたクリーム色の車や、ブラッド・ピットが乗る黒い車などが映ります。

この場面では、実は地面が重要。ここはアスファルトで舗装されておらず、土がむき出しの地面なのです。土というのは、ある程度暗い階調で表現されますが、テレビの機種によっては、ベタっとした印象になったり、とても明るく表示されたりと、極端に表現されるものもありますが、Z95Aではそうではなく、すごく中庸で情報量も多く、土の雰囲気がうまく表現されます。

またホテルのネオンについても、例えばミニLED液晶テレビで高い評価を得ているモデルでも、フレアの処理がどうしても難しい。明るいところ、特に自発光している被写体を映すと、ミニLEDテレビではその周囲にどうしてもフレアが出てしまいます。

ミニLEDも画面を1,000以上のエリアに細かく分割する分割駆動などを駆使していますが、有機ELはサブピクセル単位で制御しているため、極端に言えば2,400万以上のブロックで制御しているわけです。なので、自発光している被写体のクリアさ、キレの良さは有機ELのほうが遥かに上手です。

またパナソニックで感心したのは、車体の反射表現。このチャプター2の冒頭シーンでは通り沿いに街灯があったり、ホテルのネオン、ホテルの中から漏れる明かりがあったりと、発光しているものが複数あって、それが複雑に絡み合って車体が反射しているわけですが、その反射の表現に得も言われぬ艶っぽさがありました。

やはり表現力というのが、パナソニックの有機ELテレビの基本的なキーワードですが、今年のモデルは表現力の豊穣さがさらに増してきています。また、先程も述べたように決して極端な表現には走りません。ものすごく黒を沈めたり、白を飛ばしたりせず、いい意味での“ミドル・オブ・ザ・ロード”みたいなところを走っている。貫禄というか、「どんなパネルでも使いこなしてみせるぞ」という懐の深さを感じました。

第3世代QD-OLEDで攻勢かけるシャープ

――続いてはシャープ。最上位モデル「GS1」では最新世代となる第3世代QD-OLEDパネルを国内初投入してきました。

「GS1」シリーズの65型「4T-C65GS1」

麻倉:シャープは、去年QD-OLEDパネルを初めて採用しました。この連載でも言及したと思いますが、その試作機はものすごい“ベタベタ感”でした。どのメーカーも新方式を採り入れると、その良さを前面に押し出そうとします。それまで採用していた白色有機ELパネルは色がなかなか乗らないと言われていましたが、QD-OLEDパネルはRGB発光なので、“どこまでも行けるぞ”と取り組んでいて、試作機の段階はものすごく色が濃く、赤かった。「確かに個性的だけど、ひどい個性だな」と思いましたね(笑)。

最終的な市販モデルではバランスが良くなりましたが、それでもQDらしさというか、どちらかというと色にも重みがあって、色をリッチに出していて、場合によっては「ちょっとリッチすぎるんじゃないかな」と思うところもありました。

それが今年のモデルでは格段に良くなりました。バランスが取れてきて、これまではかなり色に重心を置いていて「とにかく色を出します」「彩度を強くします」「特に印象的な原色を強くします」といった雰囲気だったのに対し、2024年モデルは“いい色”になってきたのです。つまり、有機ELが持っている黒の沈み、白の伸びなどをうまく活用して、画作りするようになってきたなという印象です。

なかでも特に注目は、映像のクッキリさ。特に白側、中間階調から上の部分をすごく伸ばしているのです。採用している第3世代のQD-OLEDパネルは、LGのMETA 2パネルと同じで、ピーク輝度が3,000nitsまで上がっていますし、平均輝度も伸びているので、そういった特徴を活用して、よりダイナミックな画になりました。“店頭での印象感”といったものがついてきましたね。

こういった鮮鋭感やクッキリ感は、特に放送系のコンテンツで効果を発揮すると思います。地デジはもともと解像感が弱いわけですが、この「GS1」で観るとかなりしっかりと解像感が感じられる。

一般に黒の力というのはとても強く、同じものを描写しても黒が浮いているものと、しっかり沈み込んでいるものとでは、解像度が同じでも解像力がまったく違って見えるもの。そういった意味でも有機ELらしい黒の沈み込みを活かしています。

シャープネス、つまり輪郭強調をガンガン強めているというわけではなく、コントラストのパワーをフォーカスに転嫁しているような画作りです。意図しているかは分かりませんが、地デジであっても、かなりパワーがあって、スッキリとしていて、伸びがいい映像を楽しめます。

映画「マリアンヌ」についても、有機ELらしい表現で楽しめますが、こちらも先程の地デジのようにピーク輝度を活かして、画に印象をつけようという試みを感じています。例えばチャプター2冒頭、先程も述べたように街灯など光源が至るところにある場面ですが、シャープの場合、その光源の明るさ、ピークパワーをひじょうに強く感じます。

これがパナソニックの画作りと違うところですね。2社が使っているパネルは違うものですが、ピーク輝度は3,000nitsで同じです。パナソニックはその輝度の高さをうまくオブラートに包んで、トータルでうまく見せている印象です。

それに対して、シャープはもともと持っているリソースを活用して、よりインプレッシブな映像を作ろうとしています。これは放送系、映画系、両方のコンテンツで共通しているので、このあたりがひとつの個性かなと感じますね。

ですので、パナソニックは「個性がないのが個性」だと感じますが、シャープは「これがシャープだ」というところがあって、ピーク輝度が高いという特徴を全面に活かしている。このあたりはシャープらしいなと感じました。

“ピラミッド”再編のソニー

――ソニーの有機ELテレビは、第2世代のQD-OLEDパネルを使った「A95L」とLG製パネルを使った「BRAVIA 8/XR80」の2ラインナップとなりました。

「A95L」の65型「XRJ-65A95L」

麻倉:ソニーは今年、3種類の有機ELパネルを使い分けています。このうち2モデルはLGのeXパネルを使ったものです。昨年からの継続モデルとなる「A90K」シリーズと、今年登場した「BRAVIA 8」はどちらもMETAパネルではありません。そして、もう1機種はQD-OLEDパネル採用モデルです。

ただ、そのQD-OLEDを採用した「A95L」も欧米市場で2023年に発売していたモデルで、パネル自体は第2世代のもの。つまり、パネルとしては一昨年に発表されたものを使っていることになります。

今年、ソニーはミニLEDテレビを最上位モデルとして打ち出していて、リソースもミニLEDテレビに割いているものと思われます。またシャープの第3世代(QD-OLED)パネルの使いこなし方などを見てみると、まだ少し荒い部分もありますが、パネル自体も改良されていて、その改良点をうまく活用できています。

そういったことを踏まえると、ソニーはすごく力が抜けているなと感じました。力が抜けているのは経営的な側面だけでなく、画質にも言えることで、淡いというか、力がないなと感じる画なのです。

QD-OLEDパネルを採用していた一昨年モデル「XRJ-65A95K」もそういったような画作りで、パネル製造元であるサムスンの「QD-OLEDはすごいんですよ!」という宣伝を見てからチェックすると「あんまりすごくないなぁ」と感じてしまった(笑)。それくらい普通の画でした。

先ほども述べましたが、シャープは試作機の段階でパネルの強みを目一杯活用しようとしていて「画面が全部真っ赤」みたいなところもありましたが、ソニーはそういったところはなく“大人の態度”がありました。特にQD-OLEDパネルは“外光反射により赤くなる”など、いろいろな問題があったので、そのあたりを抑えようとしていたのかもしれませんが、あまり力がなかった。

今年のモデルも悪くはありませんが、よく言えば“しっとり”している感じで強調感は強くありません。悪く言えばパワーがなさすぎて、アクセント感が足りないというか、フックがないというか。例えるなら“さっぱりしたお茶漬け系”の印象でした。

QDも有機ELなので、映画のコントラストは良いのですが、階調で魅せる、色で魅せるといった“小技”があまり効いていないなと思います。一方で、リソースを割いているミニLEDは小技が効いていて感心しました。

やはりその意味では、QD-OLEDを採用した「A95L」についてはフラットで、温厚で、「うまく丸めましたね」という印象です。「ソニーは有機ELの力を抜いているな」というところが画質にも表れていました。

官能的なツヤ感があるTVS REGZA

――TVS REGZAはマイクロレンズ有機EL、META 2パネルを使った「X9900N」シリーズを発表しました。

「X9900N」シリーズ。右側が65型の「65X9900N」

麻倉:65型の「65X9900N」をチェックしましたが、なかなか良い画でした。

レグザはミニLEDもかなり頑張っていて、有機ELもミニLEDも、どちらにも偏重せずに力を入れて両立させている印象があります。先ほどのソニーは今年明らかに“ミニLED偏重”ですし、逆にパナソニックは“有機EL偏重”です。

今年のX9900Nシリーズは、META 2パネルを使っています。明るくなって、全体の明瞭度も上がりました。ディテールがしっかり出ています。有機ELは微細信号における微細コントラストをうまくつけられるので、その特徴をうまく使っている。

また、レグザの場合はパワーがあって明るいだけでなく、ツヤツヤしている印象がありますね。これは前から感じていました。パナソニックはツヤ感を感じなくても“パナらしさ”がありましたが、レグザの画から出くるツヤ感というか、ピカピカ感というのは、なかなか官能的です。

これはレグザのひとつの特徴なのかなと思います。画作りのときにそういうことを考えているかは分かりませんが、少なくとも私が見る限り、そういったツヤ感を感じます。

この違いをオーディオ機器で例えるとマランツとデノンの音作りに似ていますね。マランツは、とても真面目な音で、すごく素直でフラットなバランスというところがパナソニックに似ている。それに対して、デノンのサウンドは昔から妙に艶っぽいところや色気があって、そういったアナロジーがレグザの有機ELにもあるのです。

そういった意味で、レグザの有機ELは表現力が非常に多彩で、明るい画でも暗い画でも放送でも、特に放送系のW超解像はアップコンバートもしっかり効きますし、なかなか優れているなと思いますね。

世界で受ける画作りのLG

――続いては白色有機ELパネルを手掛けるLG。もちろんフラッグシップモデル「OLED G4」ではMETA 2パネルを採用しています。

「OLED G4」シリーズの65型「OLED65G4PJB」

麻倉:LGは面白い。ともかく「パッキリ、クッキリ、ドッキリ、シャッキリ」といったような、「どうだ参ったか! これで参らないやつはいないだろう!」とでも言いたげな強烈な画でした。この明るさを見よ、このコントラストを見よ、このフォーカスを見よ、この鮮鋭感を見よと、あらゆる画質パラメーターがプラスに向いている日本では作れない画だと思います。

パナソニックのように、ちょっとしとやかで繊細で、ハイコントラストだけで細かいところもちゃんと優しく出ますよ、というのが日本的な感性だと思いますが、それに対してLGは韓国や世界で受ける画作りだと言えますね。

つまり、すごく一般的で、もっともジェネラルスピーキングで、どの国でも、どの民族でも「これは良い」と思うような映像になっている。これは流石だと思います。

もうひとつ特徴的な点があって、これはシャープも若干近いところがあるのですが、シャープはQD-OLEDパネルの特性を活かして、そのなかでピークを伸ばすような画作りをしていました。

LGもそういうところがあって、もともと「パッキリ、クッキリ、ドッキリ、シャッキリ」な画作りをしてきた会社で、そこにプラスしてパネルがMETA 2になり、平均輝度が100nits、ピーク輝度が1,000nits上がったことを利用して、もともとあった自分のストーリーをさらにベースアップさせています。

そういう画なので、残念ながらいろいろなところに問題も出てきます。例えば映画「マリアンヌ」のチャプター11、イギリスの空襲シーンです。夜のシーンでブラッド・ピットが居て、その隣に家があって、そのシャドーが出ていたり、その奥にはバラが咲いていたりする場面です。

このシーンをOLED G4の65型「OLED65G4PJB」で見ると、夜間空襲の場面なのに「これじゃあ昼のシーンじゃないか」と言いたくなるくらい、画面全体がものすごく明るいのです(笑)。同じパネルを使っていても、パナソニックでは絶対にこうはなりません。夜の中の階調感などをしっかり表現できる。でも、LGは昼間っぽくなってしまう。

そういうところもありますが、こういった作品を観るときはテレビの輝度を下げるとか、FILMMAKER MODEにするとか、そういった調整をすれば問題はありません。

77型「OLED77G4PJB」

逆に言えば、(画質パラメーターをプラス側にする)そういった演出が入っているのです。演色、演出、演輝度とでも言った感じでしょうか。この“演じている”部分は、LGのエンジニアがそういう方向に仕上げているので、ハードとしては懐が深く、調整範囲が広いので、うまく調整できます。

またもうひとつ面白いと思ったのは、前から“最低最悪”と言い続けてきたマジックリモコンです。なぜ最低最悪なのかと言えば、目的のカーソルを必ず行きすぎるから。ゲームのように目的のポイントでピタリと止めるなんてこと、基本的にはできませんから一度オーバーシュートして元に戻すという操作になっていました。

この操作方法については“日本方式”を選べるようになりました。まったくマジックではありませんが、次を選べば次の項目に行くという動作を選択できるようになった。これについて、私は3年くらいに渡って最低最悪と言い続けてきたので、それがようやく聞き入れられたのかなと思っています(笑)。

ミニLEDと有機ELの両輪が好循環するTVS REGZA。ソニーはミニLED推しも……

――ここまで有機ELテレビについて伺いましたが、ミニLEDテレビはどうでしょう?

「BRAVIA 9(XR90)」シリーズの85型「K-85XR90」

麻倉:ミニLEDに関して言うと、ふたつのポイントがあります。そのひとつは、やはりソニーです。今年の最上位モデル「BRAVIA 9(XR90)」とマスターモニター「BVM-HX3110」、他社製有機ELテレビを見比べる機会があって、そこで太陽を撮影した映像を見比べました。マスターモニターとBRAVIA 9では太陽の輪郭がしっかり確認できましたが、他社製の有機ELテレビでは見えませんでした。

そういう意味で中間階調から上のほう、広域の階調性はかなり良いと思います。中間調から上を強めているので、輪郭的にもピーク感があります。性能的に、なかなかこれまで出なかった階調感が出ているのは、プラスだと思います。

他社は有機ELが上、ミニLEDが下というヒエラルキーを取っているのに対し、ソニーの逆ポジションは、有機ELに比べてミニLEDはコストが安く、独自の画づくりができる可能性が大きいことが理由として挙げられると思います。

後者については、パネル段階で画質の基本がほぼ決まってしまう有機ELに比べ、液晶はテレビセットメーカーが手を入れられる余地が多い。その一例が、BRAVIA 9のLED駆動技術です。

バックライトの基板
指先にあるのがソニーセミコンダクタと共同開発した超小型LEDドライバー

今回新たに、ソニーセミコンダクタと共同開発した独自の超小型LEDドライバーを開発し、実装。新駆動回路では何と22ビット精度で駆動させています。

その成果としてピーク輝度を格段に上げることに成功していて、ソニーは具体的な数値は発表していませんが、“4Kブラビア史上最高輝度”と謳っていることから3,000nitsを超えていると思われます。

太陽を直接撮影したという、これほど極端な高輝度映像でなくても、そもそも平均輝度も高いので地デジでも、くっきりと白が伸び、明るさのパワーが強い。フォーカスもしっかりと締まり、メリハリが効いた描写性が得られます。例えば人物の顔に光が当たっている場面では、一面に平均的に光が反射するのではなく、顔の部位によって異なる反射光の表情が細やかに、尖鋭に再現されます。

ただ映画「マリアンヌ」に関して言えば、全体的に明るすぎで質感が不足しているところがありますね。

――今年、ソニーはプロモーションのキャッチフレーズや、サウンドバーとの組み合わせも含め“映画訴求”を強めていますが……。

麻倉:映画だったら、もっと「黒」を出さないといけません。映画に太陽を映す場面なんて、そんなにありません。映画はだいたい暗いんですから(笑)。

暗いなかでもしっかり階調を持って、暗い中でもちゃんと色が出るという、有機ELが得意としている分野というのが、ミニLED、というより液晶の特性として出にくい部分があります。だから、そういったところをもう少しうまくやってくれないと「BRAVIA Theatre」と言われても、ちょっとどうなのかな? と思ってしまいますね。

ソニーはなかなかポジションが難しいですね。有機ELには力が入っていないし、力を入れているミニLEDにしても黒が出ていない。ソニーはテレビ部門の経営が苦しいので、おそらくミニLEDを上位に据えているのは、まだQD-OLEDのパネル価格が高いことも関係しているのではないかなと推測しています。

やはりここで踏ん張って、往年のトリニトロン時代を、世界を席巻した時代を取り戻すところまで頑張ってほしいなと思いますね。

TVS REGZAのミニLEDテレビ「Z970N」。画像は75型の「75Z970N」

また今年は、レグザのミニLEDがものすごくいい。実は去年から良いんですよ。今年の「Z970N」は「非常に明晰で明瞭、液晶とは思えないコントラストが出ている」と評価しました。すごくビビットだし、バランスも良い上にコントラストも良い。とくにコントラストはミニLEDにしては驚異的に良かったですね。

「ミニLEDは直下型の液晶テレビよりは良い、だけど有機ELとは“ぜんぜん違う”」というのがこれまでの評価でしたが、今年のZ970Nは“ぜん”がひとつ取れるくらい。有機ELの画質に結構近づいてきた印象があります。

難しい映画「マリアンヌ」も、しっかり表現できています。チャプター2もちゃんと沈むべきところは沈んで、伸ばすべきところは伸びています。また驚いたのが夜間空襲の場面であるチャプター11が“ちゃんと視聴できる”のです。

これまでチャプター11は「絶対観てはいけない」というのが液晶設計者の言い分でした。それがZ970では、しっかりとした沈み込みが表現できていて、有機ELと並べてもパっと見ただけは見分けがつかないくらい。これはなかなか凄いことだと思います。

液晶というのは、平均輝度が高いとコントラストが出ますが、平均輝度が低いとまったくコントラストが出ません。しかし、このZ970Nは平均輝度が高くても低くてもコントラストが出るのです。

ただし、発光部のフレアが出てしまうのは“液晶らしい”ウィークポント。光っているところの周りにフレアのようなものが出てしまいます。これは有機ELにはまったくないポイントですが、そういったところを除けば黒の階調も出るし、白の階調も出ています。

先程の太陽ほど明るくはありませんが、マリアンヌのチャプター2には、吊るされているシャンデリアが映る場面があります。つまり自発光している物体を映しているわけですが、そういったシーンでもシャンデリアの中の電球にちゃんと輪郭を確認できました。

「メーカー間のレベルが開いてきた」2024年。ソニーには苦言も

――あらためて統括すると、今年のテレビ市場はいかがですか?

麻倉:有機ELにもバラエティが出てきて、ミニLEDも良くなってきましたが、逆に言うとメーカーの力、メーカー間のレベルが結構開いてきたなという印象も受けました。

そのなかで有機ELもミニLEDも両方頑張っているレグザは、いい成績を上げているなと思います。有機ELにおける表現力も向上していますし、ミニLEDも有機ELに迫るコントラストを実現してきたことを踏まえると、レグザ自体の画力が上がってきているのではないかなと思います。有機ELで培ったものを、ミニLEDに活用したり、その逆もやっていたり。

今のテレビ市場はどちらかの方式が市場を独占しているのではなく、有機ELとミニLEDがいい状態で共存しています。車の両輪のような存在です。これまでは「高くて高性能な有機EL」「安いけど性能はそれなりなミニLED」というイメージでしたが、ミニLEDも高性能になってきましたし、有機ELもいろいろな選択肢が出てきたので、よりこういった形が進むと良いなと思います。

LGのMETA 2はパワーがあって、LGはその力を最大限活用しています。パナソニックはその力を自分なりの形にうまく“翻訳”して使いこなしているところがあるので、この次の世代のパネルをどう使ってくるのかも楽しみです。

ただQD-OLEDは力があるようでない状態。シャープはすごくしっかり頑張っているけれど、ソニーはフラフラしているというか。QD-OLEDをうまく活用して欲しいですね。

――ソニーがレグザくらい頑張ってくれれば、ミニLEDを上位に据えるのも分かりますが、上位に据えるには物足りなさがある印象でしょうか。

麻倉:マーケティング的な観点を優先している印象は受けますね。業績も厳しそうですが、ソニーが頑張らなくてどうするんだ! と言いたくなります。ソニーには「クリエイターにばかりお金を出しているけれど、もっと端末にも出しなさい」と言っています。

クリエイターは、コンテンツを観る人が感動するようにソニーのカメラなどを使うわけで、そうして作られたコンテンツを観る人が感動できる装置を作らなくてどうするんだと。観る人が感動できるようなテレビを作らなければいけないんじゃないの? と思うわけです。

なおHiVi秋号(9月16日発売)でのテレビ大特集でも最新テレビ画質を執筆しています。ぜひHiViもご覧下さい。

最近入手したハーフサイズ・コンパクトフィルムカメラ「PENTAX 17」での撮影を楽しむ麻倉氏
麻倉怜士

オーディオ・ビジュアル評論家/津田塾大学・早稲田大学エクステンションセンター講師(音楽)/UAレコード副代表