大河原克行のデジタル家電 -最前線-

パナソニック西口本部長に下期の国内AVC事業戦略を聞く

~来年度に向け液晶テレビの3D化/大画面化も検討開始へ~


パナソニックのデジタルAVCマーケティング本部長 西口史郎氏

 「“スマートAVライフ”とは果たしてどんなものなのか、デジタル機器によって『くらし』がどう変化するのか。こうした切り口から、パナソニックは、新たな提案を進めていきたい」――。パナソニックのデジタルAVCマーケティング本部長の西口史郎役員は、2011年度下期の同社国内AVC戦略をこう位置づける。

 上期は東日本大震災の影響を受ける一方、7月24日のアナログ停波といった動きもあり、需要変化が掴みにくい時期でもあった。パナソニックはそのなかでも市場全体を上回る成長を遂げるとともに、アナログ停波以降の新たな提案にも着手。この実績を加速させ、下期に向けてはテレビやレコーダを核にした連動提案を進めていく考えだ。

 一方で、今年前半に発表したインチ別戦略の撤廃の行方や、新サービス「ビエラ・コネクト」への取り組みにも注目が集まる。パナソニックの西口本部長に、同社の国内AVC事業への取り組みについて聞いた。



■ 市場を上回る実績となった2011年度上期の取り組み

―2011年度上期(2011年4~9月)におけるパナソニックのAVC事業は、どんな成果がありましたか。

西口:2011年上期は、今年3月の東日本大震災の影響や、7月24日のアナログ停波など、まさにこれまでに経験をしたことがない出来事が相次いだ半年となりました。震災影響もあり、テレビの買い換え需要が、最終コーナーとなる7月に予想よりも失速したのは業界の各種データからも明らかで、需要のアップダウンが極めて激しい半年間であったといえます。

 しかし、当社のビジネスをみると、業界全体の数字よりも上振れしていますし、アナログ停波後に向けた仕掛けを前もって行なってきたことも功を奏している。上期は途中段階において、薄型テレビも、レコーダも供給が追いつかなくなり、お客様、販売店にご迷惑をおかけしました。その点は大いに反省しています。

―アナログ停波後に向けた仕掛けとはどんなものですか。

CEATECブースでの「お部屋ジャンプリンク」の説明

西口:例えば、薄型テレビでは大型化や3Dといったこれまでの提案に加えて、液晶低インチの製品においても、全モデルでLED化を進め、低消費電力という観点からも訴求しました。アナログ停波後には2台目以降の需要が増加し、低インチの薄型テレビを購入するというケースが増加。さらに省エネ、節電意識の高まりもこれを後押しすることになりました。

 一方で、レコーダに関しては、VHSからの買い換えや、アナログチューナー搭載DVDレコーダからの買い換えといった「アナ=デジ」買い換えだけでなく、パナソニックならではの新たな利用提案によって、「デジ=デジ」買い換えも促進できた。お部屋ジャンプリンクの機能がその最たるもので、レコーダをホームサーバー化して利用するという目的から、最新の製品へ買い換えるという動きも出ています。こうした付加価値機能を切り口にした購入が出始めているのは、上期における大きな収穫だといえます。お部屋ジャンプリンクを活用して、お風呂でテレビを視聴したり、キッチンでテレビを視聴したりといったことが簡単にできるようになった。こうした提案活動は、下期も「フルスイング」で取り組んでいくつもりです。

 また、デジタルカメラでは、業界全体の動きとして、震災以降のコンパクトデジカメの需要低迷、低価格化が進むという課題がありますが、その一方で、ミラーレス一眼カメラが注目を集め、業界全体がその方向へと動こうとしています。ミラーレス一眼カメラで先行した当社は、7月に新製品として「GF3」を投入し、第2四半期全体では、販売金額の半分近くをミラーレス一眼カメラが占めるという水準にまで到達しています。週次ベースでは、半分を超えた週もあるのではないでしょうか。


“お風呂テレビ”の「SV-ME970」“キッチンテレビ”の「DMP-HV200」

―上期のビジネスにおいては、どんなところにこだわりましたか。

西口:やはりビジネスですから、評価の尺度のひとつはシェアになります。需要変化が激しい半年間でしたが、シェアにはこだわり続けました。目指したのはAVC全製品のなかで、トップシェアを取ることです。専門店を含めて25%以上、量販店でも20%以上のシェアを獲得することを目指し、それを達成することができた。上期もトップシェアを維持しています。

パナソニックは、3Dに関する訴求を徹底していますが、外から見ると、これが購買促進の切り札になっている感じがしないのですが。

西口:もはや大型テレビにおいては、3Dが標準機能になっていますから、そうした感じを受けるのかもしれませんね。実際、今年の年末商戦向けにラインアップした当社のプラズマテレビは、すべてのモデルにおいて、3D機能を標準で搭載しています。大画面薄型テレビにおける3Dはもはや定着したといってもいいでしょう。また、レコーダにおいても、3D機能がかなり浸透しています。

 しかしその一方で、コンテンツという点ではまだまだ広げていく必要がある。ここでは映画などの3Dコンテンツによるソフトウェアの広がり、テレビ放送による3Dコンテンツの広がり、そして、パーソナルコンテンツとしての3Dの広がりがある。映画のビッグタイトルの3D化はかなり進みつつあるが、放送ではまだBS放送の一部で放映されているだけでまだまだ拡大する必要がある。

 来年はロンドンオリンピックの年ですから、そこで3Dによる放送を一気に広げていくチャンスが訪れると考えています。また、パーソナルコンテンツでは、もっと手軽に3D撮影ができるビデオカメラやデジタルカメラを投入しなくてはならない。3D撮影のためのアダプタなどを不要にした機器を増やしていきたいですね。

 また、先頃発表したセミプロ向けの「HDC-Z10000」も高い評価を得ており、ここで実現した機能を徐々に普及モデルへと広げていくことになります。パナソニックが優位性を発揮できる分野のひとつとして、これからも3Dによる提案は継続していくつもりです。

―先日、CEATECでは3D撮影が可能なコンパクトデジカメを参考展示していましたね。

西口:具体的な商品化時期については言及できませんが、来年以降の「お楽しみ」ということになりますね(笑)。



■ なぜビエラ・コネクトの日本でのサービス開始が遅れたのか?

―欧米で先行していた「ビエラ・コネクト」のサービスを、日本でも10月4日から開始しました。日本でのサービスが遅れた理由はなんですか。

西口:ビエラ・コネクトは、クラウド型のテレビ向けインターネットサービスであり、これまで行なってきた「テレビでネット」機能に比べて、つながることができるコンテンツが大幅に増え、独自の魅力的なコンテンツも提供できるようになりました。いわば、これからの時代の「スマートAV」を体験していただくことができるサービスだといえます。

 日本でのサービス開始が遅れた理由をあげるとすれば、年末商戦向けの新製品導入のタイミングにあわせて提案したかったこと、そして魅力的なコンテンツを揃えたかった、という点があげられます。結果としては、日本で開催される国際的イベント「CEATEC」の初日にサービスを開始し、さらに、米メジャーリーグの試合を視聴できるという独自のコンテンツも用意しました。

 まだ、このサービスの魅力がわかりにくい、エンドユーザーに伝わりにくいという反省はあります。これから、わかりやすい言葉で、ビエラ・コネクトの魅力を伝えていく必要があると考えています。

ビエラ・コネクト年度内にTSUTAYA TVやTBSゴルフ動画検索といったコンテンツが追加される予定


■ 「2ランクアップ」の提案を行なう薄型テレビ

―2011年度下期におけるパナソニックのAVC事業におけるキーワードは何になりますか。

最新テレビへの買い替えで「2ランクアップできる」とする

西口:国内の販売、マーケティングを預かる立場からいえば、高付加価値化と単価向上ということになります。高付加価値という観点では、各製品ごとに明確な訴求を行なっていきたい。例えば、薄型テレビにおいては、BDドライブ内蔵、ハードディスク内蔵といった特徴のほか、節電、省エネという点も大きな付加価値になる。

 2003年に発売した42型のプラズマテレビと、現在発売している50型のプラズマテレビを比較すると、インチ数が大きくなっているのにも関わらず、消費電力は7割も削減できる。それでいて、3DやフルHD、DLNAといった新たな機能も利用できる。ついでながら、当時は42型で70万円程度していたものが、20万円程度で購入できる(笑)。すでに所有している薄型テレビを、最新の薄型テレビに買い換えるメリットを訴求していきたいですね。これは1ランクアップの買い換えではなく、「2ランクアップ」の大型化といえる買い換え。これを提案したい。また、レコーダに関しても、高付加価値であることのメリットを訴求したいと考えています。

―レコーダではどんな提案をしていきますか。

西口:実は2011年7月末時点で、6割のユーザーがレコーダをデジタル化していないのです。理由はいろいろとあるのですが、なかには多チャンネル化したことで録画をしなくなったという声もありますし、一方で操作が難しくなったというお叱りの声もいただいている。そうしたなかで、パナソニックが提案するのが、レコーダは録画するタイムシフトのためだけの用途ではないという訴求です。切り口を変えた提案が必要であり、それらを容易に実現できることを訴えたい。

 例えば、写真や映像をアルバムとして保存したり、お部屋ジャンプリンクによって録画したコンテンツを他の機器で視聴したり、モバイル端末に持ち出したりといったように、ホームサーバーとしての用途もある。もちろん、ここでは使い勝手の良さが連動しなてくはなりませんし、3波+スカパーといった用途の広がり、お部屋ジャンプリンク使用時には録画機能が使えないといった同時動作制限の解除などの面でも進化を果たしている。

 さらに、インターネットと連動させた新たなサービスを利用するための中核的な役割をレコーダが担うようになる。ここでは、薄型テレビはそのままに、レコーダを買い換えれば最新の機能が利用できるという点も訴求したいですね。実は、今年秋の商品では、すべてのレコーダにお部屋ジャンプリンク機能を標準搭載しました。リンクによる新たな使い方提案が、レコーダにおける重要な切り口となります。



■ インチ戦略の見直しは来年度以降に

―一方で、パナソニックでは、液晶テレビは42型以下、プラズマテレビは42型以上というインチ別戦略を撤廃すると発表しました。まだ具体的な取り組みはありませんが、日本では、今後どうなっていきますか。

西口:パナソニックには、プラズマパネルと液晶パネルの両方の自社生産拠点を持っているという強みがあります。これを最大限に生かして、お客様の選択肢をより広げていこうというのが基本的な考え方です。プラズマテレビは、自発光であることや高いコントラストの実現によって、映画コンテンツの視聴には最適であるという特徴があり、それに対する評価も高い。

 一方、液晶パネルは、IPSパネルとLEDとの組み合わせによって、省エネ性能に対する評価が高い。それぞれの特徴を生かした形で展開していくことになります。ただ、具体的な形でラインアップを再編するのは来年度以降になるでしょう。いまはまさに検討段階ですから、製品ラインアップについては言及できません。ひとついえるのは、42型を超えるところにも液晶テレビを展開していったとしても、プラズマテレビを超大型テレビだけに固定することは考えていません。つまり、プラズマテレビのラインアップは42型以上という、これまでの展開を踏襲することになります。

 また、液晶テレビも大画面モデルは3Dを標準搭載していくことになるでしょう。30型台の液晶テレビの3D機能については、他社の動きを捉えながら検討していきたいと思いますが、顧客のニーズが高いと判断していますから、前向きに検討していきたいですね。

―もうひとつ気になるのは、今年1月に発表したビエラ・タブレットですが、その後はどうなっていますか?

西口:パナソニックらしいタブレット端末はどういったもの。これを改めて考えています。いま、ビエラ・タブレットを市場投入しても、iPadとはどこが異なるのかという議論にしかならないでしょう。AV連携、くらし連携という提案が明確に行なえるタブレット端末に仕上げなくては、パナソニックがタブレット端末を投入する意味がありません。その点での検討を行なっています。



■ CETAECではなぜ4K2Kの展示を見送ったのか

―4K2Kの次世代テレビが各社から技術発表されています。CEATECでも数社がこれを展示しましたが、パナソニックでは4K2Kの展示はありませんでしたね。

CEATEC同社ブースのステージ

西口:すでに製品化している152型のプラズマディスプレイが4K2Kの解像度となっていますが、確かに今回のCEATECでは、新たな4K2Kのディスプレイは展示しませんでした。フルHDの次の解像度として、4K2Kは自然な流れだと感じますが、まだコンテンツがないのが実状であり、商品化、実用化という段階ではありません。CEATECでこれを展示しても、技術をお見せするだけに留ってしまうということになります。

 パナソニックとしては、当然のことながら、4K2Kの技術には積極的に取り組んでおり、他社に遅れをとるということはありません。ただ、今回のCEATECの展示という観点からすれば、パナソニックが提案したのは、次の技術をお見せするということではなく、もっと身近な「スマートAVライフ」とはどんなものかということに焦点を当て、いまのテレビはこんな使い方ができるという提案でした。テレビとレコーダだけがつながるのではなく、様々なデジタル機器とつながることで、どんな風に生活が変わるのかがこれからの提案では大切になってくる。

 ハードウェアの技術進歩や、ここが良くなりましたという機能提案では、時代の流れにあわなくなっている。「くらし」がどう変化するのかという形に提案を変えていかなくてはなりません。そして、こんなことができるということに気がついてもらえる提案を行ないたい。これがデジタル時代の商品提案です。この提案を加速するのがこれからのパナソニックのAVC商品の姿だといえます。年末商戦では、売り場でもその一端をお見せしていくことになります。これを2011年度下期の重点課題のひとつに掲げていきます。

様々な機器同士が“つながる”ことを提案

(2011年 10月 21日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など