第382回:レコーディングソフト「Record」を試す【前編】
~エフェクトも用意。Line6のGUITAR AMPも使用可能~
9月9日、DTMの世界に久しぶりにまったく新しいアプリケーションが登場する。スウェーデンのソフトメーカー、Propellerhead Softwareが開発した「Record」というソフトだ。Propellerhead Softwareはこれまでも、「Reason」や「ReCycle!」、「ReBirth」など斬新なアプリケーションを開発してきたほか、DAWとVocaloid2などを同期させることを可能としたReWire規格を策定したメーカーだ。
Recordは、まさにその名の通り、レコーディングするソフトだが、DAWとは一線を画すこの「Record」、どんなソフトなのか今回と次回の2回に分けて紹介していこう。
■ 「Reason」のコンセプトを維持し、録音機能を搭載
DTM、DAW関連のソフトウェアは成熟してきた感があり、1、2年に1度のバージョンアップを行なっても、それほど新鮮味がなくなってきている。そんな中、登場するPropellerheadのRecordはなかなか斬新なソフトだ。
国内代理店であるエムアイセブンジャパンは今月8日より先行予約販売を開始しており、価格は29,800円と手ごろ。Propellerheadが「Recordはエンジニアのためのソフトではなく、プレーヤーのソフトである」と言い切るだけあって、これまでのDAWとは、明らかに異なるジャンルのソフトで、使い方も特異。思い立ったらすぐレコーディングできる使い勝手のいいソフトなのだ。
Reasonをご存知の方なら、Recordを一目見ただけで、ある程度想像が付くかもしれない。RecordはReasonのオーディオ版ともいえるソフトで、見た目や使い勝手もReasonを踏襲している。
ソフトシンセ「Reason」 |
Reasonをご存じない方のために簡単に紹介しておくと、ラックマウントタイプのシンセサイザやエフェクトを仮想的にソフトウェアで実現するソフトで、数多くのシンセサイザやエフェクトを自由にラックに組み込んで、音色を作ったり演奏したり、それをMIDIシーケンサでコントロールできるソフトだ。
各モジュール間は、ホンモノの音源などと同様にオーディオやMIDIのケーブルで接続されており、その接続にしたがって音が鳴る仕組みになっている。登場当時は、あまりの斬新さで、多くの人を驚かせたが、バージョン4となった現在でも独自色は色あせていない。
ただ、Reasonを使って感じていた大きな弱点がオーディオを扱えないこと。確かにサンプリングデータを扱ったり、シンセサイザから出てきたオーディオ信号にエフェクトをかけて加工することはできるのだが、DAWのようにボーカルをレコーディングしたり、ギターをレコーディングするといったことはできない。だからこそ、オーディオが扱えるDAWとReasonをReWireで接続することで、お互いが補間し合い、シナジー効果が生まれたのだ。
そこに登場したRecordは、まさにReasonのコンセプトは維持しつつ、Reasonにできなかったオーディオのレコーディング機能を搭載し、オーディオに特化したソフト。Reasonとの関係は次回詳しく紹介するが、ReasonはMIDIソフトでRecordはオーディオソフトというように理解するのが簡単だろう。
■ エフェクトも用意
では、そのRecordについてもう少し具体的に見ていこう。Recordはシーケンサ、ラック、ミキサーの3部構成になっており、3つ同時に表示させることも、それぞれ単体で表示させることもできる。
シーケンサ | ラック |
ミキサー | 同時表示も、単体での表示も可能 |
トラックに波形が表示 |
まず空の状態でRecordを起動させた後に、オーディオトラックを1つ作り、RECボタンを押せばすぐにレコーディングが開始される。この際、シーケンサの画面を見ると、トラックにはリアルタイムに波形が表示されていく。
さらにもう一つオーディオトラックを追加すれば、いまレコーディングしたトラックをモニターしながらの重ね録りが可能で、DAWと比較すると確かに機動性は高い。
もちろん、レコーディングの際にクリックを鳴らすことはできるし、モニタリングもできる。必要あれば、シーケンサ上のトラックに用意されているチューナ機能で、ギターのチューニングもできる。さらにボリュームやパン、またエフェクトセンド量などのオートメーションに関する記録・編集も可能だ。
レコーディングしたオーディオデータについては、シーケンサのエディットモードを使うことで、さらに細かくチェックすることができる。ただし、DAW的な細かなエディットを行なうためのツールではないので、基本は録った音をそのまま使うと考えておいたほうがいいかもしれない。
音量やパン、エフェクトセンドなどの編集も可能 | エディットモードでさらに詳しくチェック |
これだけならば軽い動作のDAWといったところだが、Recordの面白いのはここから。ラックを表示させると、オーディオトラックを追加した時点で、AUDIO TRACKというオーディオの入力を表すラックが追加され、これを拡張表示させるとINSERT FXというエフェクトの設定画面が現れる。
AUDIO TRACKというラック | 拡張表示で「INSERT FX」画面 |
ここで、ブラウザを開くとディレイ系、ダイナミックス系、モジュレーション系……と、さまざまのエフェクトのプリセットの中から気に入ったものを選択できる。これを選ぶと、AUDIO TRACK内にエフェクトが展開されるのだ。
プリセットの中から選択可能 | AUDIO TRACK内にエフェクトが展開 |
実際、マイクやギターをつないでレコーディングを行なうと、モニターからはエフェクトのかかった音が返ってくる。ただし、掛け録りではないため、シーケンサには素の音がレコーディングされており、エフェクトの設定を変更すれば、異なる音に変化する。
ケーブルの結線画面 |
この画面、まさにReasonソックリであるが、その仕組みもソックリ。TABキーを押してラックをひっくり返すとケーブルの結線画面が現れるのだが、ここでケーブルを抜き差しすることで、オーディオ信号の流れを自在に変えられる。
また、先ほどは複数のエフェクトを組み合わせたプリセットを選択したが、エフェクトの設定をすべて自分で行なうこともできる。ツールウィンドウからデバイスを選択して組み込むか、ラック上で右クリックして表示されるポップアップメニューから選択していく。
デバイスを選択して組み込む方法 | ポップアップメニューから選択していく方法 |
具体的にはリバーブ、ディストーション、コーラス/フランジャー、ディレイといったエフェクトのほか、MClass Mastering Suiteといわれる4種類(イコライザー、ステレオイメージャー、コンプレッサ、マキシマイザー)のマスタリング用のエフェクトもある。いずれもReasonに搭載されていたエフェクトと同じものである。
ただし、Reasonにあったエフェクトのすべてがここに搭載されているわけではなく、単機能のコンプレッサーやディストーションなどは搭載されていないようだ。
■ Line6のギターアンプシミュレータも搭載
一方、Reasonには搭載されていなかった強力なギター用、ベース用のエフェクトが2つ搭載された。それがLine6のギターアンプシミュレータ(GUITAR AMP)とベースアンプシミュレータ(BASS AMP)。
ギターアンプシミュレータ(GUITAR AMP) | ベースアンプシミュレータ(BASS AMP) |
そう、あのPODがRecordに搭載されているのだ。多くのギタリスト、ベーシストにとって、この存在だけでも十分“買い”の製品といえるのではないだろうか?
GUITAR AMP、BASS AMPとも基本は同じで、アンプとキャビネットの2つのモジュールから構成されている。それぞれアンプには、
- 1964 Blackface 'Lux(ギターアンプ)
- 1968 Plexi Lead 100(ギターアンプ)
- 2001 Treadplate Dual(ギターアンプ)
- 1974 Rock Classic(ベースアンプ)
- 1968 Flip Top(ベースアンプ)
が。キャビネットには、
- 1×12 1968 Blackfface 'Lux(ギターキャビネット)
- 4×12 1968 Green 25s(ギターキャビネット)
- 4×12 2001 Treadplate(ギターキャビネット)
- 1×15 Flip Top(ベースキャビネット)
- 8×10 Classic(ベースキャビネット)
が用意されている。GUITAR AMPにベースアンプやベースキャビネットを組み込むといった使い方もできるが、それ以外のパラメータは少し異なっている。
アンプとキャビネットの2つのモジュールから構成される |
GUITAR AMPにはDRIVE、BASS、MIDDLE、TREBLE、PRESENCE、VOLUMEの5つのツマミが、BASS AMPにはDRIVE、BASS、LO MID、HI MID、TREBLE、VOLUMEの5つのツマミが用意されており、それぞれの調整が可能。またGUITAR AMPにはボリュームペダルとワウペダルが接続可能となっている一方、BASS AMPにはコンプレッサが搭載されているという構成だ。
実際ギターをつないで弾いてみると、いかにもPODという感じで簡単に操作ができ、音もかなりいい感じ。ほかの機能を使わなくても、このPODだけで1日遊べてしまうほどだ。
先ほどのオーディオトラックのインサーションエフェクトのプリセットには、このGUITAR AMP、BASS AMPを中心にディレイやリバーブなどのエフェクトを組み合わせたものも用意されているため、レコーディング用にはもちろんだが、ライブなどでも即実戦に挑めそうだ。
■ 「ID8」というMIDI音源も
このようにRecordの面白さはやはりオーディオ入力に、さまざまなエフェクトを掛けることができ、しかもその信号を自由にルーティングできることにある。前述のとおり、オーディオに特化したツールではあるのだが、Reasonと同様にMIDIも使えるようになっている。
RecordのMIDI音源モジュールとして用意されているのはID8という計32音色が入ったPCM音源。ピアノ、ギター、ストリングス、ドラムなど、一通りの音色はそろっているから、とりあえず使うには不便はないが、動かせるパラメータは1音色につき2つだけのようなので、あまり派手な音色エディットなどもできない。ただし、エフェクトと同様にID8のインストゥルメント・パッチというものが用意されており、これを選ぶとより多くのバリエーションの音色が利用可能になる。
といっても、使っている音源はあくまでもID8であり、これを複数並べて音を厚くしたり、エフェクトと組み合わせて音色を変化させているのであって、異なるPCMの波形が用意されているというわけではない。
「ID8」がMIDI音源モジュールとして入っている | インストゥルメント・パッチと選ぶとより多くの音色が利用可能 | ただし、異なるPCMの波形を用意しているわけではない |
MIDIによるリアルタイムレコーディングなどが可能 |
Reasonのように、音色作りそのものを楽しむツールではないが、RecordでもMIDIによるリアルタイムレコーディングや打ち込みは可能。MIDIの編集もクォンタイズやベロシティ、ピッチ、ノート長の調整など一通りのものがそろっているので、バックパートはMIDIで作り、リードギターとボーカルのみオーディオでレコーディングしていくといった使い方も可能である。
なお、Reasonにはなかった、MIDIの入力手段として画面上に表示される鍵盤をマウスで鳴らしたり、PCのキーボードを鍵盤代わりに演奏するという方法が用意された。まあ、あくまでも簡易的な機能ではあるが、ちょっと音を確認したい場合などには便利に使える。
次回はRecordのもうひとつの顔であるミキサーコンソール機能、またReasonやほかのDAWとの連携などについてみていく。