藤本健のDigital Audio Laboratory
第552回:iPhone接続も可能なAvidのUSBオーディオを試す
第552回:iPhone接続も可能なAvidのUSBオーディオを試す
ProTools Express同梱の「Fast Track」エントリー機
(2013/5/27 13:28)
先日、Avid Technologyから、Fast Track Duo(実売31,080円前後)とFast Track Solo(実売18,585円前後)という2つのUSBオーディオインターフェイスが発売された。Windows/Macで利用できるとともに、iPhone/iPadでも利用可能という多目的なオーディオインターフェイスであり、Windows/Macで動作するDAW、ProTools Expressもバンドルされている。これがどんな製品なのか試してみた。
Fast Trackブランドのこれまで
ご存じの方も多いと思うが、Fast TrackはM-AudioのUSBオーディオインターフェイスとして培われてきたブランドで、このシリーズの製品を持っているという人も少なくないだろう。筆者の手元にも、ズバリ「Fast Track」という製品がある。そのM-Audioは、もともとMidimanという社名でMIDIインターフェイスのメーカーとして1998年に誕生した会社。その後、DeltaシリーズなどのオーディオインターフェイスをリリースするとともにM-Audioと社名変更し、Evolution Electronics傘下を経て、2004年にAvid Technlogyに買収され、Digidesignとの兄弟ブランドとしての一部門になったという経緯がある。しかし、昨年M-AudioはinMusicへと売却された。いまやinMusicは傘下にAKAI Professional、ALESIS、ION、air、Numarkなどを持つDTM界のコンツェルンのような存在。そこにM-Audioが加わったのだ。
ところが今回、AvidからFast Track Duo、Fast Track Soloという製品が新たに登場したので、おや? と思ったのだが、実はFast TrackシリーズのみはAvidの手元に残してあったのだ。これまでのFast Track C400/C600などもAvidでのサポートとなっているが、現行製品はFast Track DuoおよびSoloの2製品のみとなっている。
ここでもう一つ頭が混乱してしまったのが、Fast TrackシリーズとMboxシリーズの関係だ。いずれもオーディオインターフェイスとDAWであるProToolsとのセット製品となっており、何がどう違うのかがよくわからなくなっていた。とくにエントリー版のMbox miniなどは今回登場したFast Track Duoあたりとは完全にバッティングしてしまいそうだ……。その辺について、Avidに確認をしてみたところ、実はMbox miniはひっそりと廃版となり、現行のMboxシリーズは最上位のMbox Proと標準モデルのMboxの2種類になっていて、その下の位置づけとしてFast Track DuoさらにFast Track Soloがあるのだそうだ。またバンドルされているソフトは、Mbox ProのみがProToolsで、Mbox以下の3製品はProTools Expressになっているとのこと。いっそのことブランドを統合してしまえば……とも思うのだが、その辺はいろいろなマーケティング戦略があるのだろう。
iPad/iPhoneの両方に対応。Windows用ドライバも用意
背景説明が長くなってしまったが、改めて紹介すると、今回取り上げるFast Track DuoおよびFast Track Soloは、AvidのDTMセット製品のエントリーモデル。USB 1.1接続のオーディオインターフェイスとProTools Expressのセットとなっており、最高で24bit/48kHz、最大同時入出力は2IN/2OUTだ。2製品を並べてみるとわかるがDuoのほうが横幅が少し長く、入出力の構成が少し異なる。
Duoはフロントに2つのコンボジャックとヘッドフォン出力、リアにTRSフォンのステレオの入出力が用意されており、入力についてはボタンでフロントとリアを切り替える形になっている。一方のSoloはXLRのキャノンジャック入力とギターなどに接続可能なTSフォン入力が1つずつ、それにヘッドフォン出力という構成で、リアにはRCAのステレオ出力となっているのだ。いずれもファンタム電源を装備しているので、コンデンサマイクの利用も可能だ。
特筆すべきはこれらがともに、iPhone、iPadと直接接続可能であるという点だ。リアにはやや特殊な平べったい端子が用意されており、そこに接続するケーブルがバンドルされている。そのケーブルの反対側は30ピンDock端子となっているので、Camera Connection KitやUSBカメラアダプタなどなしに、そのまま接続できるのだ。また、30ピン-LigitningアダプタがあればiPhone 5などのLigitning端子のデバイスにでも問題なく接続することができた。
これまでも、何度か紹介してきたとおり、iPad miniも含めiPadであれば、Camera Connection Kitなどを経由して、USBクラスコンプライアントとのオーディオデバイスと接続して利用することができる。しかし、端子は同じでもiPhoneではこのワザは使えない。そのため、iPhoneで使えるオーディオインターフェイスというのは極めて少なく、ギター入力用としてLine6のMobileInやApogee Jamなどがあったほか、汎用的な製品としてはTASCAMのiU2があったくらいだ。しかしiU2は製品としては生産完了になってしまったため、流通在庫を入手するしかないというのが実情。今回Fast Track DuoおよびSoloが登場したことで、ようやくiPhoneでオーディオインターフェイスが利用できるようになったのだ。
ちなみに、iPadと接続する際、いつも問題になる電源供給についてもうまく解決されている。Fast Track DuoおよびSoloは、Dock端子から電源を得るのではなく、USB端子で電源供給を受ける形になっているのだ。つまり、ACアダプタからUSBケーブル経由で電源を供給し、iOSデバイス側には負荷をかけないようになっており、電源供給機能付のUSBハブを用意する……などという面倒なことも不要。iPhone 5に接続して、GarageBandやMulitTrack DAWなどで使ってみたが、入出力ともにまったく問題なく利用することができた。
ではPCとの接続はどうなのか? 前述のとおり、2機種ともに最高24bit/48kHz、2IN/2OUTのUSBクラスコンプライアント(USB Class Audio 1.0)の製品であるため、WindowsでもMacでも接続すれば、ドライバもいらず、すぐに使うことができる。この場合は、PCからのUSB電源供給で動作する形だ。
Macの場合は、もうこれだけでOKだが、Windowsの場合、ちょっと問題もある。そう、これではMMEドライバは使えてもASIOドライバがないため、ProToolsを含む各種DAWで利用することができないのだ。そこで、AvidのWebサイトを探しに行くと、Fast Track Duo用、Solo用それぞれのWindows用オーディオドライバがあるので、これをダウンロードしてインストールしてみた。すると、ASIOドライバが利用可能になり、バッファサイズの調整もできる。このように、とりあえず接続するだけで使うことができ、ドライバを入れると性能が向上するというのは、なかなかいい使い勝手であるという印象だった。
ProTools Expressのプロテクトは……
そしてもうひとつ、Fast Track DuoおよびSoloの目玉機能として挙げられるのは、やはりProTools Expressがバンドルされていることだろう。バンドルとはいえ、DVD-ROMが入っているわけではなく、Avidサイトからダウンロードして使う形となる。また、USBドングルであるiLokが製品にいっしょに入っているというのも興味深いところ。これについてもちょっと試してみた。特に、どんなプロテクトになっているのか、という点についてだ。
従来のMboxの場合、Mbox本体=オーディオインターフェイスがドングルになっており、PCにMboxを接続しないとProTools Expressを起動することができなかったが、iLokが入っているということは、別のオーディオインターフェイスで利用することもできそうだ。まずはユーザー登録を行ない、iLokにライセンスキーをダウンロードした上で、Fast Trackを接続しないでPro Tools Expressを起動させてみた。すると、「iLok=あり」、「Fast Track=なし」の場合、オーディオデバイスがないという旨の表示がされ、起動することができなかった。また、「iLok=なし」、「Fast Track=あり」の場合もiLokを挿入しろというメッセージで起動することができない。つまり、両方を接続しないと動作させることができないという、強力なプロテクトになっていたのだ。
ちなみにカタログなどを見てもProTools Expressのバージョン番号は書かれておらず、時間経過とともにバージョンアップしていく形になっているとのこと。現行バージョンは10.2.4で、ProTools 10をベースにしたものとなっている。実際ぱっと見はProToolsと変わらないが、Track数が16までだったり、ソフトシンセのバンドル数が4つまでなど、制限はいろいろとあるようだ。
では、最後にいつものように、RMAA Proを用いての音質テストを行なってみよう。Fast Track Soloのほうは、入力が左右チャンネルで異なるために、テストがしづらいため、ここではDuoのみでテストを行なった。その結果は以下のとおり。44.1kHz、48kHzともになかなかいい成績がでている。ただし、Frequency response、いわゆるf特はVery goodとワンランク下の成績であるため気になってグラフを見ると、18kHz以上が急速に落ちているようだった。本来RMAA Proのテストでは15kHz以上は測定対象外ではあるものの、よりフラットにグラフ表示されているものも多いので、ウィークポイントとはいえそうだ。
一方、レイテンシーテストのほうは44.1kHz、48kHzともに、バッファサイズを一番小さく64Samplesに設定した状態で12~16msec程度。普通にDTM用途でレコーディングをしている場合、特段困ることはないと思うが、やや大きめな感じだ。この2つのテスト結果を以前に行なったMbox ProおよびMboxの結果と比較すると、やはりグレードの違いはハッキリと見えてくる。この辺の性能差も考えつつ、製品選びをするとよさそうだ。
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