藤本健のDigital Audio Laboratory

第567回:実売10万円のDSDレコーダ「DA-3000」を試す

第567回:実売10万円のDSDレコーダ「DA-3000」を試す

簡単に“モニター音質”録音。ADC/DACとしての利用も

DA-3000

 4月、ドイツのMusikmesseで発表されたTASCAMのDSD対応の1Uラックマウント型のレコーダ「DA-3000」。当初6~7月の発売とされていたが、少し遅れて8月末に発売になった。ただ、初期出荷数はかなり少なかったようで、9月中旬に入ってようやく数も出てきたようだ。これは2chのレコーダだが、複数台をカスケード接続可能というユニークな仕様になっている。試しに2台を借りて使ってみたので、どんな機材なのかレポートしてみよう。

実売10万円で入出力も豊富なマスターレコーダ

 DA-3000はリニアPCM、DSDに対応した2chのデジタルレコーダ。レコーディングエンジニアが使う業務用マスターレコーダとして開発されたものだが、価格が実売で10万円前後と、業務用機材としては比較的手ごろな価格でもあり、一般ユーザーにも手が届くものだ。似た機材としては、コルグのMR-2000Sがあるが、登場から5年近く経過していることもあり、DA-3000のほうが、かなり高機能になっているという印象だ。まずは、スペック面から紹介していこう。

 MR-2000Sが内蔵HDDにレコーディングしていく機材であったのに対し、DA-3000はSD/SDHCカードまたはコンパクトフラッシュにレコーディングしていくものとなっている。筆者自身は、最近コンパクトフラッシュを使うケースはほとんどなくなったが、やはり業務用ということでコンパクトフラッシュに対応しているのだろう。

カードスロット部

 メディアはフロントパネルを空けたところにあるスロットに挿す形となっており、両方同時に入れてもOK。どちらを使うかは、メニュー画面で設定する。またUSBメモリを挿すためのUSBポートも用意されており、USBメモリー内のデータを再生することができる。ただし、ここに直接レコーディングすることはできないため、SD/SDHCカードやコンパクトフラッシュからコピーして使う形となっている。なお、DA-3000をパソコンと接続してUSB DACとして使うことはできない。

 DA-3000では、PCMとDSDの双方のレコーディング、プレイバックが可能となっており、対応しているフォーマットはPCMの場合、WAV(BWF)で16bit/24bit、44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz。またDSDの場合はDSDIFFとDSFの2つのフォーマットに対応し、2.8224/5.6448MHzのいずれかを選択できる。

背面の入出力端子

 入出力端子はヘッドフォン端子以外すべてリアにあり、アナログもデジタルも揃っている。ただしマスターレコーダ用の機材というだけに、オーディオインターフェイスとはちょっと仕様が異なる。順番に見ていくと、まず一番左の2つはアナログのXLRバランス入力。デフォルトでは+4dBuとなっているほか+6dBuの設定も可能。その右はアンバランスのRCAピンジャックによるライン入力で、これは民生用の-10dBVに固定となっている。その隣も同じアンバランスRCAピンジャックのライン出力で、やはり-10dBV固定だ。さらに、その右はXLRバランスのアナログ出力となっており、ここまでがアナログの入出力だ。その次はS/PDIFの同軸デジタル入出力およびカスケード接続用の入出力。カスケード接続については、後ほど紹介する。

 さらにその右の2つのXLRバランス端子はAES/EBUのデジタル入力と出力。その次のBNCジャック4つがDSD専用デジタルオーディオ入出力端子で、SDIF-3(DSD-raw)フォーマットの端子となっている。この辺は完全に業務用という感じだろうか……。一番右の2つがワードクロックの入出力となっている。民生用機器でもプロ用機器でも、ほとんどの機器と接続できるようになっているが、直接楽器やマイクに接続してレコーディングするものではないようだ。

入力の切り替えなどに利用できるジョグダイヤル

 アナログでもデジタルでも入力可能なわけだが、どれを取り込むかはフロントの液晶パネルを利用して操作して決める。その操作はプッシュボタン付きのジョグダイヤルで行なえ、メニュー階層も浅いので、ほとんど戸惑うことなく操作できそうだ。なお、この操作は付属のリモコンでも行なえるようになっており、離れた位置からコントロールできるというのは、なかなか便利だ。

 では、その操作可能なメニューについても簡単に紹介しておこう。これは大きく8つのメニュー項目からできている。具体的には、下記の8つの設定が行なえる。

  • GENERAL:一般機能設定
  • REC FILE:録音ファイル形式の設定
  • I/O SETTING:入出力に関する設定
  • REC FUNC:録音機能の設定
  • PLAY FUNC:再生の設定
  • MEDIA:メディアの操作
  • TRACK EDIT:カレントトラックの編集
  • UTILITY:環境設定など
一般機能設定
録音ファイル形式の設定
入出力に関する設定
録音機能の設定
再生の設定
メディアの操作
カレントトラックの編集
環境設定など

 REC FILEで、WAV-16/WAV-24/DSDIFF/DSFといったファイル形式を設定したり、サンプリングレートの設定を行ない、I/O SETTINGで先ほどのような多岐に渡る入力端子のどれを入れるかを選択するのだ。なお、I/O SETTINGにはADDA DIRECTというメニューが用意されているが、これはA/D、D/Aを直接行なうためのもの。つまりレコーディングしているかどうかに限らず、アナログで入ってきた信号をデジタルに、デジタルで入ってきた信号をアナログにリアルタイムに変換してくれるという機能。ADコンバータ(ADC)はTI/バーバーブラウンの「PCM4202」を使用しており、DAコンバータ(DAC)は「PCM1795」を左右チャンネルに各1基搭載。内部回路は入力から出力まで全段フルバランス構成とするなど高音質を追求しており、ADC/DACとしてだけでも利用する価値がありそうだ。

シンプル操作で“モニターサウンド”の録音が可能

録音フォーマット設定

 では、さっそくレコーディングをしてみよう。といっても操作はいたって簡単。あらかじめレコーディングするフォーマットを設定し、入力端子をどれにするかを選択しておけば、あとはRECORDINGボタンを押して録音準備状態にし、続けてPLAYボタンを押せばいいだけ。ただし、デジタル端子からの入力を録音する場合、サンプリングレートが合っていないとエラー表示が起こる。また、DSDでのレコーディングの場合は、アナログかS-DIF3に限られるため、同軸デジタル(S/PDIF)などを選択するとエラーとなってしまうので注意が必要だ。

入力端子の選択
RECORDINGボタンで録音準備状態に
PLAYボタンを押すと録音開始
レベルメーターの表示

 録音準備状態になって以降、入力信号は左側のレベルメーターに表示され、オーバーロードになっていないか、適切な音量で入っているかを確認できる。必要に応じて入力レベルを調整することは可能だが、基本的にはデフォルトの0.0dBにしておくものだろう。

 レコーディングが終わると、その音はSD/SDHCカードまたはコンパクトフラッシュに記録されているので、再生ボタンを押して正しくレコーディングされているかを確認してみる。とくに測定などはしていないが、聴いた感じ、まさに入ってきた音がそのまま記録されている。また、DSDでのレコーディングはもちろんだが、44.1kHzで録った音でも非常にクリアで驚いてしまうほど。ちょっと聴いただけでは、簡単には判別できないくらいだ。

録音したSDカード内のフォルダ構成

 このDA-3000自体にはPCと接続する機能はないので、レコーディングされたSDカードをPCで確認してみたところ、ルートディレクトリに録音したファイルが単純に並んでいるという構造になっていた。そこで手元にあるWAVファイルをSDカードにコピーし、DA-3000に挿入してみたところ、問題なく再生することができた。これを聴いても非常にスッキリとしたキレイな音。いわゆるオーディオ機器で味付けをしたサウンドではなく、オーディオインターフェイスで出すモニターサウンドであるのが個人的には気に入ったところだ。WAVファイルだけでなく、以前ダウンロード購入したDSFのファイルをコピーしてみたところ、こちらも同様に再生することができる。この再生をする上では、WAVもDSDも区別なく、同様に行なえる。また必要に応じてプレイリストも作ることができる。

 またファイル名をDA-3000上でリネームすることができるのだが、本体のJOGダイヤルやリモコンで操作するだけでなく、PCのUSBキーボードを接続して操作することができるのもユニークなところ。フロントパネルの一番左側にKEYBOARDと書かれたUSB端子があるが、ここにキーボードを接続すればいいのだ。ジョグダイヤルなどで文字を選択して入力していくのと比較して圧倒的に操作が速く便利。試しにワイヤレス接続のキーボードを接続してみたが、これでもまったく問題なく使うことができた。

USB端子にキーボードを接続可能
ワイヤレスのUSBキーボードと接続したところ

複数台を同期させてマルチチャンネル録音可能

複数台接続時のイメージ図

 さて、このDA-3000が非常によくできているのは、複数のDA-3000をカスケード接続し、それぞれを同期させて動かすことができるという点。DA-3000が1台の場合は2chのレコーダだが、2台なら4chとなる。また数珠つなぎで並べていくことで、いくらでも繋ぐことができ、6ch、8ch、10ch……と機材さえあれば、好きなだけチャンネル数を増やすことができるのだ。

 接続方法は、同軸デジタル入出力と兼用のカスケード端子を直列に接続していくだけ。よりしっかりした同期をとるために、それに加えてワードクロック端子も直列に繋いでいくといいようだ。ここではDA-3000を2台借りることができたので、これらを接続してみた。

2台を接続して録音してみた
背面

 実際に同期させるには、ケーブルで接続すると同時に、メニュー画面での設定も必要。1台をMASTERに、もう1台をSLAVEに設定し、クロックがDINかWORD CLOCKかの設定をすれば完了。MASTERに設定したほうのRECORDボタン、PLAYボタンを押せば、それに追従する形でもう1台もまったく同じように動作する。

 ただし、この2台でやりとりしているのは、あくまでも同期信号であり、オーディオ信号自体が流れるわけではない。そのため、記録するメディアは双方にそれぞれ挿入し、別々にレコーディングしていくことになる。レコーディング終了後、PLAYボタンを押せば双方が再生され、まるで1台のマシンにレコーディングしていたかのように録れていたことが確認できた。

1台をMASTERに、もう1台をSLAVEに設定
クロックを、DINかWORD CLOCKのどちらかに設定

 このマルチトラックでのレコーディング機能をどう使うかはユーザー次第だと思うが、3台をカスケード接続して5.1chのサラウンドを録るというのもいいだろうし、ライブ会場などに持ち込んで、録っていくというのもよさそうだ。WAVで録っておけば、あとでDAWに読み込ませて編集することもできるわけだ。

 以上、DA-3000についてレポートしてみたがいかがだっただろうか? 業務用機器を想定しているけれど、一般ユーザーが使ってもかなり便利に利用できる機器だと感じた。また業務用だからこそなのか、使い勝手もよく、失敗なく確実に録れるというのも嬉しい点だ。単純にDSDのプレーヤーとして利用するのも悪くないかもしれない。

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藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto