藤本健のDigital Audio Laboratory

第637回:約2万円ですぐレコーディングできる注目インターフェイス。ヤマハ「UR242」の実力

第637回:約2万円ですぐレコーディングできる注目インターフェイス。ヤマハ「UR242」の実力

 いまオーディオインターフェイスとして絶対的な人気を誇っているのがSteinbergのURシリーズ。安くて、高性能で、高機能と三拍子揃っているのと同時に、実売1万円前後で購入できるUR12からフラグシップモデルのUR824まで6ラインナップも用意されているのも人気の理由になっているようだ。そのURシリーズとして3月に発売されて話題になっているのが「UR242」という機種。実売2万円前後と手ごろな価格でありながら、4IN/2OUTを備えるとともに、強力なDSPも搭載しているというスーパーマシン。音質性能やレイテンシーなどを含めテストした。

UR242

Cubaseと相性のいいURシリーズの注目モデル

 オーディオリスニング系の人にとっては、やや馴染みが薄いかもしれないが、SteinbergはCubaseやNuendoといったDAW=Digital Audio Workstationを開発するドイツのソフトメーカー。国内のDAWシェアではダントツのトップを行くメーカーであるが、「なんでソフトメーカーがオーディオインターフェイスを? 」と疑問に思う方も少なくないだろう。Steinbergは30年以上の歴史を持つ老舗ソフトメーカーだが、2005年にヤマハに買収されて、現在はヤマハの100%子会社という位置づけだ。

 現在でも、ドイツに会社があるとともに、ヤマハ側がSteinbergの独自性を重んじた運営をしているだけに、今もあまりヤマハ色に染まることなく開発が続けられている。そうした中、ヤマハとのコラボ製品として誕生したのがURシリーズなのだ。SteinbergもCubaseと相性よく動くようにソフトウェア側の開発は担当しているようだが、基本的にはSteinbergブランドをつけたヤマハ製のオーディオインターフェイスと考えていいだろう。ドイツブランドではあるが、日本で開発された製品なわけだ。

 6種類あるURシリーズの中で、一番古く登場したUR28Mだけが96kHz/24bit対応だが、それ以外は一番下位モデルであるUR12を含め192kHz/24bit対応。オーディオインターフェイスであるためにDSDネイティブ対応こそないものの、ハイレゾ再生用機材としても使えるわけだ。

 その中で、今回紹介するUR242は4IN/2OUTなので、再生用というよりは録音をメインにした機材。なぜ242という名前なのかというと、2マイクプリアンプ、4入力、2出力を意味しているそうだ。フロントにはマイク入力、ライン入力が可能なコンボジャックが2つあり、左の1chはギター入力用のHi-Zモードも用意されている。いずれもヤマハ自慢のD-PREというマイクプリアンプが搭載されており、中央にある2つのツマミでゲインを調整するのだ。また右側にはヘッドフォン出力がある。これはメイン出力と同じ信号が出るが、メイン出力とは独立してヘッドフォンだけで音量調整できるようになっている。

4IN/2OUTの「UR242」

 リアを見てみると右側に4つのPHONEジャックが並んでおり、上2つが3ch、4chのライン入力、下2つがメイン出力。いずれもバランスのTRS入出力となっている。ほかにMIDI入出力があり、左側にはUSB端子とACアダプタ入力がある。下位機種のUR12とUR22はUSBバスパワーで駆動するが、UR242はDSPでパワー消費するからなのか、ACアダプタが必須となっている。

背面にバランスのTRS入出力やMIDI入出力、USBを装備

 さて、このUR242を活用するにあたっては、USB接続する前に、Yamaha Steinberg USB DriverというURシリーズ共通のドライバをインストールするとともに、TOOLS for UR242という拡張ソフトをインストールしておく必要がある。単にオーディオインターフェイスとして使うだけであればドライバだけでも動くが、DSPを活用するなどフル機能を発揮させるにはTOOLS for UR242が必要になるのだ。

Yamaha Steinberg USB Driver
TOOLS for UR242

 また、CCモード(クラスコンプライアント)対応となっているため、Macの場合はドライバを入れなくても使える。ただし、バッファサイズを小さくしてレイテンシーを詰めたり、TOOLS for UR242を使うためにもドライバのインストールが必要となっている。これによってWindowsならASIO、WASAPI、WDM、MacならCoreAudioドライバとして機能するようになる。

Cubaseでの設定画面
foober2000での設定画面
URシリーズのラインナップ。UR242は中核的な位置付け

dspMixFxで様々な機能が簡単に利用可能。Cubase AIもバンドル

 実際に接続してみると、まずはシンプルなオーディオインターフェイスとして特に複雑なこともなく機能してくれる。ここで、TOOLS for UR242でインストールされたソフトの一つ、dspMixFxを起動させてみると、結構複雑なことができることが見えてくる。UR242を4つの入力とPCからの出力を合わせた、計6chのミキサーコンソールとしてみることができるようになっているのだ。

dspMixFx

 ここでは、フェーダーを動かしたり、ミュート、PANといったものを動かせるところにとどまらない。マイクプリアンプ内蔵の1chおよび2chについては+48Vのファンタム電源を入れたり、ローカットするハイパスフィルターのON/OFF、逆位相にするためのフェーズスイッチのON/OFFがあるほか、「INS.FX」というものを使えるのが最大の特徴。これは各チャンネルに挿入するエフェクトで、Ch.Strip、Clean、Crunch、Lead、Driveから選択できるようになっている。Ch.StripはコンプレッサとEQを組み合わせたもので、初めてのユーザーでもすぐに快適な音を作ることができるエフェクト、Cleanほか4種類はそれぞれ異なる機器をモデリングしたギターアンプシミュレータとなっている。つまりギターを接続して、これらギターアンプシミュレータをオンにすれば、それだけで気持ちいいギター演奏、レコーディングができてしまうわけなのだ。

Ch.Strip
Cleanなど4種類のギターアンプシミュレータ

 また水色のノブを回すことで、内蔵リバーブへデータを送ることができるのも特徴。このリバーブはREV-Xというヤマハのプロオーディオ機器にも搭載されているリバーブで、非常に高品位な音づくりができるエフェクトだ。これに各入力チャンネルからの信号を送ることができるようになっているわけだ。

リバーブは「REV-X」を採用

 ご覧のとおり、ここまでの操作ではまったくDAWを使っておらず、本体とdspMixFxだけで、これだけ使えてしまうのは嬉しいポイントだ。しかも、ここでの操作はPCを使っているものの、処理自体はすべてUR242側で行なってくれるため、PCにはまったく負荷がかからないというのも大きなポイントだ。

 このdspMixFxを利用しながら、DAWを起動させてレコーディングに活用するというのも手だが、UR242はSteinbergブランドのオーディオインターフェイスであるだけにSteinbergのCubaseとの相性がいいのはいうまでもない。しかも、UR242にはCubase AI 8というDAWが標準でバンドルされているため、これを購入すれば、即、音楽制作ができてしまうDTMパック製品でもあるのだ。

Cubase AI 8がバンドルされている

 さっそくCubase AI 8を起動した上で、Cubaseのミキサー画面であるMixConsoleを起動してみると、普通にミキサー画面が表示されるが、ここにはURシリーズを取り付けないと出てこないHARDWAREという項目が出てくる。ここを開いてみると、まさにMixConsoleがUR242のミキサー機能であるdspMixFxと統合された形になっており、ここから位相やハイパスの設定から各種エフェクトを設定までできるようになっているのだ。しかも、Cubaseにレコーディングする信号をエフェクトなしのドライ信号で録るか、エフェクトをかけた状態のウェット信号を録るかの設定も可能なので、Cubaseを使う上では非常に便利に使えるのだ。もちろん、これは付属のCubase AI 8に限らず、市販ソフトとして販売されているCubase Pro 8また、旧バージョンであるCubase 7シリーズでも同じように使えるようになっている。

Cubase AIのMixConsole
MixConsoleがUR242のdspMixFxと統合された表示に

低価格ながら十分な実力。iPad接続でミキサーとしての利用も

 では、ここでいつものように入力と出力をループさせてそのオーディオ特性を測定してみよう。UR242では44.1kHzから192kHzまでをサポートしているので、それぞれのモードを測定した結果が以下のものだ。

 これを見ると、超ハイファイというわけではないが、まずまずの結果が出ていることがわかる。ただ、フロントの1ch、2chを使っているため、音づくりをするマイクプリアンプが何らかの影響を及ぼしている可能性もありそう。そこで、試しにと思って、リアの3ch、4chに接続し直しても試してみた。その結果が以下のもののだ。

44.1kHz/24bit
44.1kHz/24bit(3/4ch接続時)
48kHz/24bit
48kHz/24bit(3/4ch接続時)
96kHz/24bit
96kHz/24bit(3/4ch接続時)
192kHz/24bit
192kHz/24bit(3/4ch接続時)

 やはり予想通り、こちらのほうがいい結果となった。オーディオ再生性能を見るのであれば、こちらのデータを見たほうが他の比較しやすいだろう。

 ではレイテンシーのほうはどうなのだろうか? これもいつものように、入出力をループさせた状態で測定ツールを使って実際の時間を計ってみた。各サンプリングレートで試してみたが、入出力の往復で8msec程度となっている。極めて小さいとはいえないものの、これだけの数字が出ていれば何ら支障なく使うことができるレベル。

64 samples/44.1kHz
128 samples/44.1kHz
64 samples/48kHz
128 samples/96kHz
256 samples/192kHz

 クラスコンプライアント対応機材ということで、若干レイテンシーが犠牲になっている面はありそうだが、その分、iPadやiPhoneでもLightning-USBカメラアダプタを介して接続して使えるのはメリット。ちなみに、iPad用には「dspMixFx」が無料アプリとしてリリースされているため、まさにミキサーとして使うといった利用法もありそうだ。

iPad用無料アプリの「dspMixFx」
Amazonで購入

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto