藤本健のDigital Audio Laboratory

第1056回

Android 17で標準対応したBluetoothコーデック「LHDC」を試す。Pixel 7aでは48kHz止まり?

2026年6月にリリースされたAndroid 17で、Bluetoothオーディオコーデック「LHDC」の最新版であるLHDC V5が標準でサポートされた。これまでLHDCは一部の中国系メーカーのスマートフォンでしか使えなかったこともあり、「LHDCって何?」という人も少なくないと思う。しかしLHDCがOSレベルで対応したことで、多くのAndroid端末でLHDCが使える形となり、一気にメジャーオーディオコーデックへとなった形だ。

とはいえ、LHDCとはいったいどんなものなのか、既存のaptX AdaptiveやLDACといったオーディオコーデックと比較してメリットはあるのか、など気になる人も少なくないはず。

筆者自身も名前は知っていたけれど、いまいちよく分からなかったので、Amazonで見つけたもっとも安いLHDC対応のイヤフォンを入手するとともに、Google Pixelを用いてLHDC接続テストをしてみたり、本来LHDC非対応のiPhoneでも動作を確認してみた。

LHDCとは何か

LHDC(Low Latency and High-Definition Audio Codec)は、台湾のSavitech(盛微先進科技)が開発したBluetoothオーディオコーデックだ。

ソニーのLDACやQualcommのaptX Adaptiveなどと同様、SBCやAACより高いビットレートで音声を伝送することを目的としたもので、日本オーディオ協会の「Hi-Res Audio Wireless」認定も取得している。

Savitechは現在、LHDCを用途別に4つのグレードに分けて案内している。

LHDCのグレード
グレードフォーマットビットレート位置づけ
LHDC-48K16bit/48kHz約400kbpsCD品質
LHDC-96K24bit/96kHz約1,000kbpsハイレゾ品質
LHDC-192K24bit/192kHz約1,000kbps最上位のハイレゾ
LHDC-RAW24bit/96kHz約4,600kbpsビットパーフェクト(ロスレス)

出典:Savitech公式サイトより(https://lhdc.co/en/about)

ここで注意しておきたいのは、「24bit/192kHz対応」が、24bit/192kHzのPCMをそのまま送っているという意味ではない点だ。

ステレオの24bit/192kHzのPCMは、24×192,000×2で約9.2Mbpsになる。これを約1Mbpsで送っているわけだから、LHDC-192Kは約9分の1に圧縮した“非可逆圧縮”での伝送ということになる。これはLDACの24bit/96kHz・990kbpsなども同じで、「ハイレゾ対応」と「ロスレス伝送」は別の話として考える必要がある。

その意味で気になるのがLHDC-RAWだ。Savitechはこれを、エンコーダーからデコーダーまで、すべてのビットが同一に保たれるビットパーフェクト伝送だと説明している。

24bit/96kHzのステレオPCMは約4.6Mbpsなので、計算上は確かに非圧縮で送れる数字だ。ただ、従来のBluetooth(Classic)のEDRは最大3Mbpsであり、4.6Mbpsをどのような伝送方式で実現しているのかは、公式サイトを見ても明らかにされていない。

Android 17で何が変わったのか

実は、LHDCとAndroidの関係はAndroid 17で始まったわけではない。Android 10の時点で、LHDCとその低遅延版であるLLACを識別するための定数はAOSP(Android Open Source Project)に含まれていた。

ただし、実際にLHDCで音を送るためのエンコーダーは、スマートフォンメーカーが個別に組み込む必要があり、XiaomiやOPPO、vivoといった一部メーカーの端末でしか使えなかった。GoogleのPixelやSamsungのGalaxyでは、LHDC対応のイヤフォンを持っていても、SBCやAACでしか接続できなかったのだ。

冒頭でも触れた通り、Android 17ではLHDC V5がOSにネイティブに組み込まれた。Savitechは3月の時点でAndroid 17がLHDCにネイティブ対応すると予告していたが、メーカー・機種にかかわらず、Android 17にアップデートできる端末であればどれでもLHDC v5が使えるようになっている。

同じくソニーのLDACも、送信側のエンコーダーはAOSPに提供され、Android 8.0以降で標準的に使えるようになっている。つまりLHDCは、LDACの後を追う形で、Androidの標準的な送信側コーデックの仲間入りをしたと言える。

ただし、OSに搭載されたことと、規格が誰でも自由に使えるオープンなものになったこととは別の話だ。受信側であるイヤフォンやヘッドフォンへの実装には、引き続きSavitechとのパートナー契約や認証が必要となる。

OTOTEN 2026でもPixel対応をアピール

今年6月に開催されたオーディオイベント「OTOTEN 2026」には、Savitechも出展していた。その展示台には「Google Pixel Phone LHDC Enabled」と書かれたPixelと、「LHDC Enabled Pad」と書かれたタブレットが並べられ、ヘッドフォンでLHDCの音を試聴できるようになっていた。

展示台にはHi-Res Audio Wirelessのロゴとともに、Windows 11とAndroidのロゴも描かれ、「Defining Cross-Platform Wireless Audio」というキャッチコピーが掲げられていた。Android 17の正式リリースから間もないタイミングで、Pixelでの対応を前面に押し出していたわけだ。

タブレットで流れていた紹介映像では、「最高24bit/192kHzのハイレゾ音源に対応」という点が強調されていた。

また、展示台上部のパネルには、LHDCに対応するBluetoothチップのベンダーとして、AIROHA、BES、MEDIATEK、Qualcomm、Realtekのロゴが並んでいた。後述するREDMI Buds 8が採用しているのはBES(Bestechnic)のチップ、QCC Dongle Pro 2が採用しているのはQualcommのチップだ。

Pixel 7aをAndroid 17にアップデート

では、実際に試してみよう。用意したのは、先日、新古品で入手したGoogle Pixel 7aだ。

届いた時点ではAndroid 16(ビルド番号BP3A.251105.015、セキュリティアップデート2025年11月5日)だったため、まずAndroid 17へのアップデートを行なった。更新サイズは3.16GBで、完了後はビルド番号CP2A.260705.006、セキュリティアップデート2026年7月5日の状態となった。

LHDC対応イヤフォンなのに、LHDCが出てこない

組み合わせるイヤフォンは、Xiaomiが2026年6月に国内発売したREDMI Buds 8だ。実売5,980円という低価格ながら、最大50dBのアクティブノイズキャンセリングとLHDC対応をうたい、Hi-Res Audio Wirelessのロゴも取得している。チップセットには中国Bestechnic(恒玄科技)のBES2710IHCが採用されている。

Xiaomiの完全ワイヤレス「REDMI Buds 8」

Pixel 7aとペアリングし、音が出ることを確認したうえで、コーデックを確認してみた。

Android 17では、開発者向けオプションのBluetooth関連の設定が整理されており、「開発者向けオプション」→「ネットワーク」→「Bluetooth」と進んだ先の「Audio」の項目にコーデックの設定がある。以前のAndroidでは開発者向けオプションの一覧に直接並んでいたので、戸惑う人もいるかもしれない。

ところが、「Bluetoothオーディオコーデック」を開いてみると、選択肢はSBCとAACの2つだけで、LHDCが出てこない。このときの接続状態はAAC、44.1kHz、16bitだった。

原因はイヤフォン側にあった。REDMI Buds 8を管理するには、Xiaomi製スマートフォンであれば本体のBluetooth設定から行なえるが、Pixelなどほかのスマートフォンでは専用アプリ「Xiaomi Earbuds」をインストールする必要がある。

アプリを起動するとREDMI Buds 8が認識され、ファームウェアのアップデートが案内された。ただし、アップデートを行なうにはXiaomiアカウントでのサインインが求められる。アカウントを持っていなければ、ここで新規作成することになる。

サインイン後に表示されたアップデートの案内を見ると、ファームウェアを5.0.3.6から5.2.0.2に更新するもので、その内容は「Added support for LHDC HD Bluetooth audio codec.」の一行のみ。つまり、出荷時のファームウェアはそもそもLHDCに対応しておらず、このアップデートで初めてLHDCが使えるようになるものだったのだ。

アップデートは、イヤフォンを充電ケースに入れてフタを開けた状態で行なう。進行中はアプリを閉じたりイヤフォンを使ったりしないよう指示があり、3分ほどで完了した。

LHDCv5で接続できたが、48kHz止まり

改めて開発者向けオプションのBluetoothオーディオコーデックを開くと、SBC、AACに加えて「LHDCv5」が選択肢に現れた。ファームウェア更新後は、自動的にLHDCv5で接続されていた。

なお、同じ画面にある「HDオーディオ」のスイッチをオフにすると、選択肢はSBCのみになった。LHDCv5だけでなく、AACも消えてしまうのは少し意外な挙動だ。

ここで気になったのが、接続時のフォーマット。LHDCv5で接続中の状態を見ると、サンプリングレートは48.0kHz、ビット深度は24bitとなっていた。

AAC接続時の44.1kHz/16bitからビット深度は上がったものの、サンプリングレートはハイレゾの領域には入っていない。OTOTENでSavitechがアピールしていた192kHzはもちろん、96kHzにもなっていないのだ。

また、LDACであれば開発者向けオプションに「再生音質」の項目があり、990kbps/660kbps/330kbpsといったビットレートを選択できるが、LHDCv5にはそれに相当する項目がない。ユーザーがビットレートを指定する手段は用意されていないことになる。

この48kHzという値が、Pixel側の実装によるものなのか、REDMI Buds 8側の対応範囲によるものなのか、あるいはAndroidの内部オーディオ処理によるものなのかは、今回の検証では切り分けられなかった。

海外の報道でも、PixelでのLHDC利用について96kHzでの伝送に言及しているものがあり、少なくとも現時点で192kHzでの伝送を確認したという情報は見当たらない。

iPhoneでもLHDCを使う方法

LHDCは、もちろんiPhoneでは使えない。iPhoneが対応するBluetoothコーデックはSBCとAACのみで、LDACもaptXも使えないのは周知のとおりだ。

ただ、詳細は前回の記事でも触れたとおり、iPhoneのUSB-C端子に挿して使うBluetoothトランスミッターを利用すれば、この制約を回避できる。その1つが、Questyleが2026年6月に発売したQCC Dongle Pro 2だ。

QualcommのSnapdragon Soundを搭載したトランスミッターで、従来モデルのQCC Dongle Proが対応していたLDACやaptX Adaptive、aptX Losslessに加えて、新たにLHDCとLE Audio(Auracast)に対応した。Apple MFi認証を取得しており、iPhoneで問題なく使える。実売価格は12,100円前後だ。

今回、Pixel 7aとの接続を切ったうえで、QCC Dongle Pro 2をiPhoneに挿し、専用のQuestyleアプリからREDMI Buds 8とペアリングしてみた。すると、オーディオコーデックの欄に「LHDC」と表示され、問題なくLHDCで接続できた。

なお、QCC Dongle Pro 2本体のLEDはLHDC接続時に赤く点灯するが、LDACやaptX Adaptive、aptX Losslessでも同じ赤なので、コーデックの確認はアプリで行なうのが確実だ。

興味深いのは、アプリのコーデック選択画面の説明文。LDACについては「最大990kbpsのビットレートに対応し、24bit/96kHzのハイレゾ音源の伝送が可能」と書かれているのに対し、LHDCについては「900kbpsのビットレートに対応」とあるだけで、サンプリングレートについての記述がなかった。

アプリ上ではリアルタイムのサンプリングレートは表示されないため、実際に何kHzで伝送されているかは確認できなかったが、海外メディアでは、QCC Dongle Pro 2のLHDCは24bit/48kHz、最大900kbpsでの伝送と報じられている。これが正しければ、Pixel直結の場合と同じく48kHzでの接続ということになる。

なお、この画面でLDACとLE Audioがグレーアウトしているのは、REDMI Buds 8がこれらに対応していないためだ。接続したイヤフォンの対応コーデックに合わせて、選択肢が絞り込まれる仕組みになっている。

今回の2つの接続方法で確認できた内容を整理すると以下のようになる。

今回の検証結果
項目Pixel 7a(Android 17)直結iPhone+QCC Dongle Pro 2
イヤフォンREDMI Buds 8(ファームウェア5.2.0.2)REDMI Buds 8(ファームウェア5.2.0.2)
コーデック表示LHDCv5LHDC
サンプリングレート48.0kHz(開発者向けオプションの表示)表示なし(海外報道では48kHz)
ビット深度24bit(開発者向けオプションの表示)表示なし(海外報道では24bit)
ビットレート表示・設定項目なしアプリ上の説明は900kbps
ビットレートの選択不可不可
参考:ファーム更新前AAC、44.1kHz/16bit―

筆者による2026年9月の検証結果。送信機ファームウェアはv3.71

192kHzの壁と、LHDCのこれから

今回の検証で確認できたのは、Android 17によってPixelでもLHDCが使えるようになったこと、そしてiPhoneでもトランスミッターを使えばLHDCで接続できることだ。送信側の壁が低くなったという意味で、Android 17でのLHDC標準対応は確かに大きな一歩と言える。

一方、Savitech自身がOTOTENでも大きくアピールしていた24bit/192kHzについては、PixelとREDMI Buds 8の組み合わせでも、iPhoneとQCC Dongle Pro 2の組み合わせでも、実現していないと見られる。

規格上の最大値と、実際の製品で使える値は別物であり、スマートフォン、トランスミッター、イヤフォンのどこかがボトルネックになれば、そこで上限が決まってしまう。今回はそのボトルネックがどこにあるのかまでは特定できなかったが、LHDCに限らず、Bluetoothオーディオのスペックを見る際には、この点を意識しておく必要があるだろう。

Bluetooth SIGが標準化を進めるLE Audioの高ビットレート化と、LDACやLHDCといった独自コーデックの広がりが今後どう交わっていくのか。192kHzやLHDC-RAWのビットパーフェクト伝送が実際の製品でどう実現されていくのかも含め、引き続き注目していきたい。

藤本健

リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto。