藤本健のDigital Audio Laboratory
第1024回
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iPhoneでaptX/LDACが使える、アップル認証Bluetoothトランスミッターが出た!?
2025年2月10日 13:00
中国・深センのオーディオメーカー「Questyle Audio Engineering」から非常にユニークで画期的ともいえる、とても小さな機材が「冬のヘッドフォン祭 mini 2025」で発表された。
「QCC Dongle Pro」(発売は3月下旬予定。価格は税込10,000円程度の見込み)というUSB Type-C接続のBluetoothオーディオ・トランスミッターで、QualcommのSnapdragon S5に対応しつつ、AppleのMade for iPhone/iPad(MFi)認証を取得している。
従来、iPhoneで使えるBluetoothオーディオコーデックは「SBC」と「AAC」の2種類のみで、最新の高音質コーデックに対応できていなかったのがオーディオファンにとって残念なところだったが、QCC Dongle Proを使うことでそうした問題を解決できる。
つまりaptX AdaptiveやaptX HD、LDAC、LE Audio(LC-3)、AAC、SBCが利用可能となり、より高音質に、低レイテンシーでワイヤレスオーディオを楽しむことができるようになるわけだ。
まだ量産前のものだが、実物を借りて試してみたので、これがどんなものなのか紹介していこう。
深センのオーディオメーカーQuestyleとは
実は、このQCC Dongle Proに関する情報をはじめて知ったのは半年ほど前。
たまたま知人の紹介で、来日していたQuestyleの王豊碩(ワン・フォンシュオ)社長と都内で会い、日本のオーディオ界隈の状況などを伝えたことがあったのだが、その際、QCC Dongle Proなるものを開発していることを聞くとともに、プロトタイプを見せてもらっていたのだ。そして、改めて日本市場にQuestyle製品を投入していく、という話を聞いたのである。
ご存じの方も多いと思うが、Questyleは以前Fineleを通じていくつかの製品の輸入販売が行なったり、その後、代理店・地球世界を通じて細々と製品を販売していた経歴を持つ。
しかし、それもすでに終了し、国内での流通がなくなってしまっていた。そこに、改めてQuestyle Japanの設立を準備するとともに(現在はその前身となる会社、マギウェイが日本総代理店という形で運営している)、今回のQCC Dongle Proから国内展開を新たにスタートすることになったという。
その発表の場を冬のヘッドフォン祭 miniにする、と聞き、筆者も今回ちょっぴりだけ、ブースの手伝いをさせてもらった。
当日には、王社長も来日して、ブースで説明を行なっていたが、筆者が動作するQCC Dongle Proそのものを見たのは、この時が初めて。想像していた以上に小さく、軽量であったのに驚いたが、それとともに、とてもうまく設計された機材でもあった。
QCC Dongleは2種類。上位モデルのみ「LDAC」「AAC」サポート
では、もう少し具体的に見ていこう。
まず、今回発表されたのは「QCC Dongle Pro」と「QCC Dongle」の2種類で、そのスペックの違いは下表のとおり。
仕様 | QCC Dongle Pro | QCC Dongle |
---|---|---|
SoC | Snapdragon S5 | Snapdragon S3 |
素材 | ABS樹脂 | ABS樹脂 |
Bluetooth | Bluetooth 5.4 | Bluetooth 5.4 |
通信距離 | 10m以上 | 10m以上 |
対応コーデック | SBC、LE Audio(LC3)、aptX、aptX HD、aptX Adaptive、AAC、LDAC | SBC、LE Audio(LC3)、aptX、aptX HD、aptX Adaptive |
サイズ | 25.2×10×15.25mm | 25.2×10×15.25mm |
重量 | 3g | 3g |
つまり、QCC Dongle ProはLDACとAACにも対応しているのに対し、QCC DongleのほうはaptX Adaptive、aptX HD、LE Audio、SBCとなっている。そのため実際のところLDACが不要なのであれば下位モデルのQCC Dongleで十分ともいえる。見た目はQCC Dongle Proがダークシルバーなのに対し、QCC Dongleはシルバー。大きさや形はまったく同じだ。
金属っぽい見た目ではあるが、実際にはABS樹脂にメタリック色の塗装をしたものであるため、3gと非常に軽い。USB端子に取り付けてもまったく気づかないレベル。またオーディオ再生時の最大使用電力が12mWと極小なため、バッテリーのスタミナにもほぼ影響がないレベルという。
デザイン的にユニークなのは、USB端子が若干長めであること。そのため、iPhoneにケースを取り付けた状態でも、ピッタリな感じで挿すことができる。もちろん充電時には取り外す必要があるが、MagSafeで充電をするのであれば、接続しっぱなしでOKだ。
使い方はいたって簡単。USB端子にQCC Dongle Proを挿入するとともに、手持ちのヘッドフォン・イヤフォンをBluetoothペアリングモードにすれば、すぐに接続されるので、あとは再生するだけ。再生していないときは、すぐにスリープモードに入るため、そうした点でも低消費電力な機材となっている。
ペアリングした際、使用するコーデックはaptX Adaptive>aptX HD>aptX>LE Audioの優先順位になっているそうだが、どのコーデックでつながったのかはQCC Dongle Proに搭載されているLEDの色で確認できるようになっている。
とはいえ、せっかくならLDACを使いたいとか、LE Audioで繋ぎたいといった要望もあるはず。そこに対しては、iPhone用、Android用にリリースされるアプリを使うことで明示的に設定して使うことができるようになっている。この辺こそが、MFi認証を取っていることの大きなメリットとなってくるのだ。
読者の中には「これまでも似たものとして、FIIOが『BT11』という製品を出していたじゃないか」と指摘する方もいると思う。確かにスペック的には似ているし、同じQualcommのSnapdragonチップを使っているのだが、QCC Dongle Proの場合、MFi認証をとっているから、iOSアプリがあり、これで細かな設定も可能なのだ。
これまでiPhoneとSnapdragonは相いれないもの……と思い込んでいたが、しっかりiOSアプリで操作できるようになっている。よくAppleが承認したな……と感心してしまうところだが、王社長は、「これまで長年Appleとパートナーシップを組んで歩んできたからこそ、実現できているのです」とのこと。
そのアプリ、まだα版であり、使っているといろいろ不具合もあったのだが、しっかり日本語もサポートしており、それなりに使えるようになっている。
これを使うことで、明示的に接続するBluetoothのヘッドフォンやイヤフォンを選択できるようになるし、使用するコーデックも指定できる。また接続したヘッドフォン、イヤフォンによって選べるコーデックの選択肢もしっかり変わってくるのもよくできている、と感心するところだ。
会場に展示されていた新製品、USB DAC「M18i」
ちなみに、この連載では詳細にまでは触れないが、ヘッドフォン祭会場において、もうひとつ新製品ということでUSB DAC「M18i」という製品もお披露目していた。
このUSB-DACがユニークなのは、ここにもSnapdragon S5のチップが搭載されており、Bluetoothモードに設定すると、Bluetoothのレシーバーとして機能するようになっている。つまり、手持ちの有線のヘッドフォン、イヤフォンをBluetooth対応のものに変身させる機材ともいえるのだ。
また、このM18iには現在使用中のコーデックやサンプリングレート、サンプリングビット数がOLEDディスプレイに表示されるのもユニークな点。そこで、先ほどのアプリを使いながら、QCC Dongle Proで使用するコーデックを切り替えていくと、それにしたがってM18iのディスプレイに表示されるコーデックも切り替わっていくのが確認できた。
ここで気になったのが、“最大96kHz/24bitに対応しているというaptX Adaptiveが本当にしっかり動作しているのか?”という点だ。
まず、iOS標準のミュージック機能を使ってAACの48kHz/24bitのオーディオを流したところ、確かにM18iのディスプレイには48kHz/24bitと表示された。
さらに、ハイレゾ対応のプレイヤーに切り替えて96kHz/24bitのハイレゾ音源を流してみると……確かに96kHz/24bitに切り替わる。
その音の違いを筆者が認識できるのか? というと残念ながら、あまり耳の感度がよくないので、なんとも分からない、というのが正直なところ。とはいえ、数字上しっかり動作しているので、気持ち的にはいい音に聴こえてくるような気もしてくる……。
LE Audioのレイテンシーは及第点。「なんとか弾けるレベル」
さらに実験をしてみたのが、コーデックを切り替えることでレイテンシーがどう変わるのかという点。
普通に音楽を再生しているだけなら、レイテンシーなんて大きくても小さくても、まったくどうでもいいところ。まあ、ビデオを見る際にリップシンクという意味ではレイテンシーが小さいに越したことはないのだが、ゲームで使うとかDTMで活用するとなると話は変わってくる。
もっとも、筆者はあまりゲームをしないので、気にしたことはないが、シンセサイザアプリを起動して、ディスプレイ上の鍵盤を弾いた際、通常のBluetoothイヤフォン、ヘッドフォンでモニターすると、レイテンシーが大きすぎて使い物にならなかった、というのが、これまでの感じてきたところだ。
そこで今回、QCC Dongleを用いてレイテンシーが小さいと言われるaptX AdaptiveやaptX HDを使ってみると、確かに従来のiPhone本体のBluetooth機能を用いてAACやSBCで接続するより、若干レイテンシーは縮まるようにも思える。
が、それでも50msec以上のレイテンシーを感じて、まともに使えるものではなかった。なんだ、aptX Adaptiveなんてそんなものかと、残念に思ったところだが、さらにレイテンシーが小さいといわれるLE Audioでも同様の実験をしてみた。
すると、これは次元の違うものだった。まあ、有線のヘッドフォンでモニターするのと比較すれば、若干のレイテンシーはある。感覚値ではあるけれど、20msec弱といったところだろうか。
レイテンシーがないとは言えないが、これならなんとか弾けるレベルにまではレイテンシーを縮めることができる。この辺は同じLE Audioといっても、機器によってレイテンシーは変わってくるようなので、必ずしもこれだけの低レイテンシーを実現できるわけではないのかもしれないが、これは可能性を大きく感じる部分ではあった。
iPhoneのオーディオに革命をもたらす小さなドングル。発売が楽しみ
ところで、このQCC Dongle ProおよびQCC Dongleは、USB Type-C対応のトランスミッターなので、iPhone/iPadに限らず、Android、Windows、Mac、Linuxなど何でも利用できる。
さらにいえば、Nintendo SwitchやソニーのPS5のほか、今年発売予定のSwitch 2も利用できる見込みという。USB Type-C端子であれば、そのまま接続できるがQCC Dongle ProおよびQCC DongleにはUSB Type Aに変換するアダプタも用意されているので、USB Type A端子の機器との接続もできる。
ちなみにiPhoneも含め、各機材からQCC DongleはUSBオーディオ機器として見えるというのも重要なポイント。
そう、Bluetoothデバイスとして見えるのではなく“オーディオデバイス”なので、前述のように96kHz/24bitをそのまま流すことができるようになっているのだ。
もちろん、QCC Dongle ProやQCC Dongleを使う上で、本体側のBluetooth機能は一切使わないから、BluetoothはオフにしておいてもOK。いろいろな意味で非常にユニークな機材となっている。
なお、王社長によると「このアプリが完成してからAppleの審査に出すが、許可が下りるまでおよそ6週間かかる」、また「アプリなしでもとりあえず使うことは可能だが、やはり万全を期してアプリがリリースできてから発売するので、発売は3月中旬から下旬になってしまう」とのことだった。
これはやはりiPhoneのオーディオに革命をもたらす小さなドングルなので、ぜひ正式リリースを楽しみに待ちたいところだ。