第479回:ついに登場したReWireの64bit対応版を検証
~SONAR、CUBASE、VOCALOID、Logicなどテスト ~
DAWとReasonやVOCALOID2、Ableton liveといった音源をPC内部でソフトウェア的に接続してMIDIとオーディオのやりとりを可能にする規格、ReWire。1998年に登場して以来、多くのDAWが対応してきた、64bit対応が遅れたため、いろいろなところで問題視されていたが、先日ついにReWireの64bit版がリリースされた。
ただ、まだ現状では手放しに喜べない状況でもあるので、いろいろなアプリケーションを組み合わせながら試すとともに、これからのReWireのあり方について考えてみたいと思う。
■ ReWireとは
マスター(DAW)とスレーブ(ソフトシンセ)の間で、MIDIやオーディオ信号を仮想的にやり取りでき、同期も可能 |
ReWireはスウェーデンのPropellerhead Softwareが1998年に同社初のアプリケーションであったReBirth RB-338をリリースした際にドイツのSteinbergが発売していたCubase VSTと接続するための規格として登場したもの。プラグインとして動くのではなく、あくまでも別々のアプリケーションとして動作するのだが、仮想的にMIDIやオーディオ信号をやりとりすることを実現させたのだ。
また、お互いのアプリケーション間で同期がとれるようになったのも大きな特徴。このReWireがないと、1つのPC上で複数のソフトを起動しても、一度オーディオインターフェイスやMIDIインターフェイスを介して物理的に接続しないとやりとりできなかったので、なかなか画期的なものだった。当初、ReWireは64chまでのオーディオデータをやり取りできる規格であったが、その後ReWire2にバージョンアップするとともに、最高で256chのオーディオ信号をリアルタイムにやりとりできるようになっている。同様にMIDIも全4,080chの信号のやりとりが可能となり、現在に至っている。
ReWireを使ってきた方ならよくご存知のとおり、これを使うにはちょっとした流儀がある。それはReWire接続するにおいて、マスターとスレーブ(またはホストとクライアントと呼ぶ場合もある)というものがあり、マスター同士やスレーブ同士での接続はできない。また先にマスターを起動し、後からスレーブを起動して接続するのが流れで、終了時は先にスレーブ側を終わらせてから、マスター側を終わらせないと、最悪システムがハングアップするという問題もある。しかし、ReWireの便利さは一度使うと止められないほどだ。
またこのReWireがすごいのは、初期バージョン当時からWindowsとMacのハイブリッドであったこと。そのため、WindowsでもMacでも標準規格として広まっていったのだ。
そのマスターとスレーブの関係だが、Cubase、SONAR、ProTools、Logic、DigitalPerformerといったDAWは基本的にマスター、Reason、VOCALOID2などのソフトシンセ側がスレーブとなっている。中にはAbleton liveやACID Proのようなユニークな存在もある。これらはマスターにもスレーブにもなるため、何とでも連携できる形になっていた。
■ DAWソフトの64bit OS対応の流れで、状況に変化
では、具体的にどんなところでよくReWireが使われているのか。よく聞くのはやはりDAWとReasonの連携で、あまり複雑なことをするというよりも、Reasonで組んだシーケンスをDAWと同期させるとともに、最終ミックスやエフェクト処理をDAW側で行なうことで、効率よく音楽制作するという方法。
また筆者の周りで一番多かったのは、やはりDAWとVOCALOID2との連携だ。VOCALOID2で打ち込んだ歌声をReWireを介してDAWに送って、ミックス処理するという使い方だ。膨大な数のMIDIとオーディオチャンネルで接続できるとはいえ、このVOCALOID2での利用はいたって単純で、MIDIは使わずVOCALOID2のトラック数だけオーディオでDAWに送るというものである。
こうすることで、プロジェクトのテンポを変更しても、そのまま使うことができる。VOCALOID2側で修正を行なっても、いちいちWAVファイルをエクスポートし、DAW側でインポートするといった手間がかからないので便利なのだ。
このようにソフトウェア同士を結びつける上で非常に重要な地位にあったReWireだが、ここ1、2年で問題が指摘されるようになっていた。それは64bitアプリケーション環境で利用できないという点だ。規格とはいえ、ReWire協議会のようなものがあるのではなく、Propellerheadがdllファイルなどのライブラリを作成し、それを各メーカーが組み込んで使う形になっており、すべてがPropellerhead任せとなっていた。
しかし、Propellerhead自体が大きな会社ではないためか、なかなかReWireの64bit版を出せないでいた。そのため、せっかくWindowsもMacもOSが64bit化し、Cubase、SONAR、Logicなど64bit版のDAWが登場しても、ReWireが利用できなかったのだ。もちろん、64bit OSであっても32bitアプリケーションを動かしている限りはReWireも問題なく動いたのだが、64bit OSで本領を発揮する64bit版では使えなかった。
たとえばSONAR X1の場合、64bit版にも32bit版と同様に「挿入」メニューの中に「ReWireデバイス」という項目が用意されている。しかし、実際には64bit版のReWireシステムが組み込まれていないために、これがアクティブにならないのだ。同じくCubaseも本来は使えるはずのReWire機能が64bit版では機能しない状態だったのだ。
そんな状況が続いていたせいなのか、DTMの世界にも変化がでてきてしまった。そう、10月21日に発売予定であるヤマハのVOCALOIDの新バージョン、VOCALOID3ではReWire機能をとりはずしてしまったのだ。もちろん、今後ReWire機能が復活するといった可能性も否定はできないが、すぐに搭載する予定はないようなので、ちょっと残念なところだ。
SONAR X1の画面 | VOCALOID3ではReWire機能が省かれた |
■ 64bit対応ReWireも、現状では多くの64bit DAWソフトで利用できず
Reason6は、32bit/64bitそれぞれの環境で動作するようになった |
しかし、そのVOCALOID3にReWireが搭載されないことが発表された直後、ついにPropellerheadが動き出したのだ。Reasonの新バージョンであるReason6のリリースとともに、これを32bit/64bitそれぞれの環境で動作するようにし、64bitの場合ReWireも64bitで動くようにするということだったのだ。ここではそのReason6について詳しくは紹介しないが、基本的にはReason5とレコーディングソフトのRecord1.5を1つに統合するとともに3種類のエフェクトを追加したというもの。もともと2つのソフトをインストールすればReason側に統合されるようになっていたので、機能的にはあまり大きな変化がない印象だが、やはり64bit対応は大きな目玉といっていいだろう。
筆者もこれをリリースされた翌日にオンラインでアップデートの形で購入するとともに、まずはWindows上でSONARとCubaseをインストールして使ってみたのだが、残念ながらまったく変化はなかった。すぐにローランドに確認してみたところ、SONAR側でReWireの64bit版を組み込んでいないため、このままでは使えないという状況だったのだ。このSONAR、年末にはSONAR X1シリーズ最上位となるSONAR X1 PRODUCTION SUITEというものがリリースされる。
10月15日に、東京・秋葉原でSONAR PREMIUM DAY 2011という毎年恒例のイベントが開催されたので、行ってみたところ、できあがったばかりのSONAR X1 PRODUCTION SUITEが動いていた。ただ、担当者に聞いてみたところ、年末にリリースされるこのバージョンでもReWireの64bit対応はしない見込みとのことだった。ぜひ近いアップデートで対応をお願いしたいところだ。
秋葉原で行なわれたSONAR PREMIUM DAY 2011 | SONAR X1 PRODUCTION SUITE |
Cubaseも同様であり、64bit版をインストールした上で、最新版のアップデータを適用して、6.04にしてみたが、やはり変化はなかった。一方、Ableton liveやACID Proなどはそもそも64bitアプリケーションが登場していないために、対象外。どうしようかと思っていたところ、聞こえてきたのがPreSonousのDAW、Studio One PROの64bit版がReWireの64bitに対応しているらしい、という噂。ちょうど、先日PreSonousの記者発表会にいった際に、まさにStudio One PROをもらっていたので、これをWindowsにインストールして試してみたのだ。
Cubaseの64bit版でも残念ながらReWireの64bitは利用できなかった | Studio One PRO |
以前にも紹介したことがあったが、非常に軽いアプリケーションであり、DAW本体だけならインストーラのサイズがたったの57.2MB。10秒程度でインストールも完了してしまうという軽いDAWなのだが、機能的には一通りのものが揃い、現行のバージョンでは日本語にもしっかりと対応している。実際に起動してみると、画面右側の「カテゴリー」タブを見ると「ReWire」という項目がある。さらにこの中身をみると「Reason」の表記がある。
日本語にも対応 | 「カテゴリー」タブを見ると「ReWire」の項目 | その中に、「Reason」がある |
もちろんStudioOne、Reasonともに64bitアプリケーションとしてインストールしているので間違いないようだ。これを左側にドラッグしてトラックを作ると、これでStudio OneからMIDIでReason6をコントロールするとともに、Reasonからオーディオ信号をStudio Oneに戻してミックスすることができた。また、ここでReason側を見てみるとスレーブとして動作している旨の表記を見つけられた。明らかにReWireが機能しているようだ。
Studio OneからMIDIでReason6をコントロールでき、Reasonからオーディオ信号をStudio Oneに戻してミックスできた | Reasonがスレーブとして動作していた |
■ Logic ProがReWire 64bitで動作。今後の各社の対応に期待
VOCALOID2のオーディオ設定画面で出力をReWireに |
次に試してみたかったのは、64bit版のDAWと32bit版のクライアントソフトがReWireで連携できるかということ。そこでVOCALOID2をインストールして試してみることにした。まずVOCALOID2のオーディオ設定画面において出力をReWireにし、Studio Oneを再度起動しなおして、ReWireデバイスとして見えるものかチェックしてみたのだ。が、結論からいうとまったく使えなかった。
その後、改めて英語のReadMe.pdfを確認したところ、ちょっとショッキングな記述があった。そうReWire接続はマスターが64bitの場合はスレーブも64bitでないと動かない、同様にマスターが32bitの場合はスレーブも32bitである必要があり、クロス接続はできないとあるのだ。つまり、64bit版のないVOACLOID2は64bit版のDAWとの接続はできないようなのだ。となると、やはりVOCALOID3の64bit版をリリースするとともにReWire対応してくれることを期待したいところだが、とりあえずは32bit版しかリリースされないあたりを考えても対応には時間がかかりそうだ。
ここまでWindowsの64bit版でのReWireについてみてきたわけだが、Macのほうはどうだろうか?手元には先日購入したLion搭載のMac miniがあるので、これで試してみることにした。やはりWindowsと同様にCubaseはダメで、liveは64bit対応していない。一方で、Logic ProがReWire 64bitに対応しているらしいという噂をきいたので、これを試してみることにした。
Macではアプリケーションを64bitで起動させるには設定が必要だが、これをしっかり確認した上で起動してみたところ、確かにバッチリうまく動作する。MacでもReWireは64bitでキッチリと動くようだ。あとは、各アプリケーションがいつ対応するのかということだけ。ほかにReWireに変わる競合規格があるのであればともかく、とくにそうしたものもないのだから、ぜひ各社の早い対応を期待したいところだ。
Macで64bitに設定して起動すると、うまく動作した |