第115回:レンズ性能が際立つD-ILA進化形

~新設計のフラッグシップ機。ビクター「DLA-HD750」~


DLA-HD750

 今期のプロジェクタ商戦はLCOS陣営が血気盛んだ。ソニーはエントリークラスのVPL-HW10とアッパークラスのVPL-VW80の2モデル構成を展開。対するビクターもDLA-HD350と上位機のDLA-HD750を出し、直接対決する格好となった。

 ビクターは、2008年日本国内のテレビ事業から事実上の撤退をしているので、いまや映像機器としての本命は独自のLCOS技術「D-ILA」だ。それだけに今期のD-ILAプロジェクタ新製品には期待がかかっている。

 そんなわけで今回は「DLA-HD750」を取り上げる。なお、今回の評価は、先代のDLA-HD100からどう変わったのか、そして価格帯的にも性能的にも直接のライバルといえるソニーのLCOSプロジェクタ「VPL-VW80」と比べてどうか、といった点に重きを置いた。


■ 設置性チェック
~非対称デザインのボディ。投射レンズも新開発でフル電動に

DLA-HD750は左右非対称デザインを採用。ホワイトモデルは限定生産で、カタログモデルは黒

 DLA-HD1、DLA-HD100と使い続けられてきたシンメトリックデザインの筐体を捨て、DLA-HD750は左右非対称の新デザインを採用。そのスタイルは唯一無二的な存在感を発している。今回のデザインには機能美だけでなく、独自性も感じさせてくれて好感触だ。

 本体サイズは365×478×167mm(幅×奥行き×高さ)となり、DLA-HD100(同455×418.5×172.5mm)よりも一回り小さくなった印象だ。DLA-HD100では奥行きよりも幅が大きい横長ボディだったが、今回のDLA-HD750では縦長のデザインとなっている。

 今回の評価ではボディカラーは白色モデルを使っているが、白色モデルは200台の限定生産モデルであり、通常のカタログモデルは黒モデルだ。

DLA-HD750では縦長の新デザインを採用している

 奥行きが増加したことで前後の脚部間の距離は、DLA-HD100の23cmから約30cmに拡大した。本棚天板などの設置では、天板を相当奥行きの深いものにするか、あるいは専用の設置台を使う必要があるかもしれない。なお、脚部は4脚の全てがネジ式の高さ調整ができるようになっている。最近の機種では前側だけネジ式で後部脚部は固定式のものが多くなってきたなかで、この配慮はなかなか嬉しい。

 さて、ビクターのプロジェクタは、天吊り金具を脚部に取り付ける構造のため、筐体デザインの変更ごとに天吊り金具が一新される。天吊り金具を共有できるソニーのVPLシリーズと違って、この辺りビクターはドライである。できれば、他社のように、天吊り金具のネジピッチを自社規格化した上で、共通の天吊り金具が流用できるようなユニバーサル設計にして欲しいと思う。

 なお、純正天吊り金具「EF-HT12」は、価格は54,600円と今回もかなり高価だ。さらに、DLA-HD750には、この純正天吊り金具に加えて、設置位置を下にオフセットさせる延長ポールキット「EF-EP1」(29,400円)も設定されている。

 投射レンズは電動ズーム、シフト、フォーカス対応の2.0倍レンズだ。2.0倍という倍率スペックこそDLA-HD100と同じだが、新開発のもので、光学スペック的には微妙に異なっている(f=21.4mm~42.8mm,F=3.2~4)。

 他社がドンドン採用していく中で、ビクターは電動制御レンズの採用が他社よりもだいぶ遅れており、前モデルのDLA-HD100でもフォーカスとズームは電動式なのにレンズシフトだけが手動式という仕様だったが、DLA-HD750は完全な電動制御に対応した。

 100インチ(16:9)の投射距離は最短で約3m(3.01m)、最長で約6m(6.13m)で、HD100と同じ。狭めの部屋から広めの部屋まで任意の位置で自由度の高い画面サイズが得られる接地性の高さはしっかりと受け継がれている。

 レンズシフト量は上下±80%、左右±34%で、ライバルのVPL-VW80を上回るシフト量だ。実はシフト量自体はDLA-HD100と同等なのだが、DLA-HD750は電動リモコン操作に対応した分だけ使いやすさは向上している。アスペクト比4:3と16:9の双方の映像のスクリーン最大表示も楽ちんだ。できれば次期モデルではシフト量とズーム率、フォーカス状態をプロファイルに登録できるレンズメモリー機能が欲しい。

 投射レンズでは「電動スライドレンズカバー」も新搭載している。レンズへの埃の付着を避ける目的で、電源オフ時にレンズを保護するレンズカバーが自動で閉まる仕組みが搭載されたのだ。電源オン時には「ガー」という音と共にカバーが開き投射レンズが現れるのだが、その様子はなかなかカッコイイ。

電源オン/オフに連動して開閉する電動スライドレンズカバー機構。開閉は引き戸のように横方向に行なわれる

 光源ランプは200Wの超高圧水銀ランプ。スペックこそDLA-HD100と同等だが、ランプモジュール自体は変更されており、型式番も「BHL5010-S」となった。価格は23,100円とDLA-HD100から据え置き。ランプ価格が安くランニングコストが低く抑えられるDLAシリーズの特徴は相変わらずで、この点も競合製品に対するアピールポイントとなっている。消費電力は280WでHD100と同じだ。

 筐体デザイン変更に伴い、エアフローは大幅に変更された。DLA-HD750では前面と底面から吸気し、側面排気というけっこう珍しいデザインになっている。背面に吸排気口がないので背面にはあまり気を使わなくて良くなったが、台置き設置やオンシェルフ設置時には本体側面に物を置いて排気口を塞いでしまわないように注意したい。

正面左側面に配された排気口

背面に吸排気口は無し。ネジ留めされた蓋を開いてランプを交換する

 稼働時の騒音レベルはランプ輝度モード「標準」で19dBで、ホームシアター向けDLAシリーズとしては過去最高の静粛性を達成した。ただし、ランプ輝度モード「標準」とはいうが、実は、最大輝度を得るにはランプ輝度モードを「高」にする必要がある。つまり、DLA-HD750の「標準」モードは他機種で言うところの「低」モードなのだ。高モード時も、従来機よりは静かになったが、本体が1m以内にあると、やはり「フー」という排気音はけっこう聞こえてくる。

 ランプ輝度モードを「標準」にした時には、クラストップレベルの19dBの静粛性能が得られ、動作音は1mも離れればほとんど聞こえなくなる。しかし、高モードで比較すると、VW80よりもHD750の方が騒音レベルは大きいので、輝度重視の場合はなるべく視聴位置から離して設置したい。ちなみにランプモード「標準」は150W出力相当、「高」が定格の200W出力相当になる。



■ 接続性チェック~PC端子とトリガ端子が復活

 

DLA-HD750の接続端子パネルは正面向かって右側の側面にレイアウトされ
 接続端子パネルは正面向かって右側の側面にレイアウトされる。ソニー系VPLとは正反対のレイアウトだ。ちなみにDLA-HD100では背面にあったので、先代とも違うレイアウトになっている。

 デジタル端子としてはHDMI端子を2系統を備えている。HDMIバージョンは1.3で、DeepColor、1080/24p、HDMI CECに対応している。

 アナログ端子としては、コンポジットビデオ端子、Sビデオ端子、コンポーネントビデオ端子を各1系統ずつ備える。コンポーネントビデオ端子はRCAピンで、D端子入力は実装されていない。

 PC入力は、アナログRGB入力対応のD-Sub15ピン端子を1系統持つ。DLA-HD100では省略されていたが、DLA-HD750で復活を遂げたことになる。なお、DVI端子は実装されないが、HDMI端子経由でPCとはデジタルRGB接続することは可能だ。

 嬉しいことにHDMI階調レベルはちゃんと0-255のフルレンジを指定できるので、PC接続時に暗部階調が潰れてしまうことはない。今回もGeForce GTX280で確認したが、0-255階調レベルに対応する「エンハンス」を明示設定したら、ちゃんと正しい階調表現ができていた。この階調レベルの明示設定はソニーのVPLシリーズにはない機能なので、PCやゲーム機との接続親和性を重視するユーザーにとっては嬉しいポイントとなる。

HDMIメニューで階調レベル設定可能。デフォルトは「オート」設定HDMI階調レベルを「エンハンス」(0-255)にしたところ。正しい階調レベルが得られているHDMI階調レベルが「スタンダード」(16-235)と誤認されてしまった例。暗部が黒に潰れてしまっている

 DLA-HD100にはなかった電動スクリーン、電動シャッター、照明などと連動させるためのトリガ端子は、今回のDLA-HD750で搭載されることとなった。この他、PCからのリモート制御インターフェイス用のRS232C端子も搭載されている。



■ 操作性チェック ~リモコンが新デザインに

 

リモコンのデザインも一新された

ボタンは自照式

 筐体デザインの一新に合わせてか、リモコンも新デザインとなった。

 ただ、新デザインといっても白色樹脂製のサイズの小さいボタンに、小さな黒色文字を刻印という基本はDLA-HD100のリモコンと同じで、ちょっと安っぽい。もうちょっとボタンや文字サイズを大きくして質感の向上はできないものだろうか。最近はテレビのリモコンの質感が上がっている。70万円の商品のリモコンが、このクオリティなのはちょっと寂しい。

 いい面もある。リモコン最下部の横長の大きめの[LIGHT]ボタンは蓄光式で、リモコンのボタンのバックライト点灯の役割を果たす。このボタンの位置が絶妙で、迷うことなくリモコンをライトアップできる。

 電源を入れると電動スライドレンズカバーが開き、約40秒後に「D-ILA」のロゴが表示され、HDMI1入力の映像が表示されるのは電源投入後約48秒後であった。DLA-HD100よりも遅くなり、最近の機種としてもあまり早くない。

 入力切替は[INPUT]ボタンで順送り式に行なう設計。DLA-HD100ではダイレクトに切り替えるデザインだったので、使い勝手が後退してしまった印象を持つ。また、順送りの入力切替時の反応が遅いのも気になる。[INPUT]ボタンを押してもその反応がなく、しばらくして切替先の入力名が表示され、そこからさらに待たされてやっと切替先が表示されるのだ。

 リモコンの電池がないのか、と何度も押してしまったが、単純に反応が遅いだけだった。切替所要時間そのものも遅く、HDMI1→HDMI2で約4.6秒、HDMI2→コンポーネントビデオでは約3.8秒という結果であった。この点は改善を要すると思う。時間が掛かるのはあきらめるとしても「リモコン操作を受け付けた」という反応は、その瞬間に何らかの形で画面表示で示すべきだろう。また、ここまで入力切替が遅いのであれば、未接続端子はスキップする機能を搭載してほしい。

 アスペクト比切替は[ASPECT]ボタンで順送り式に行なう方式だ。用意されているアスペクトモードは以下の通り。

4:3アスペクト比4:3映像をアスペクト比を維持して表示する
16:9入力映像をパネル全域を使って表示する
ズーム4:3映像にレターボックス記録された16:9映像を切り出してパネル全域に表示する

 アスペクトモードはこの3種類のみで、4:3映像を疑似16:9化する疑似ワイドモードは搭載されていない。また、「ズーム」モードはSD映像に対してのみ選択可能な仕様となっていた。なお、アスペクトモードの切替所要時間はほぼゼロ秒で、操作を行なった瞬間に切り替わる。

 ところで、DLA-HD100ではHD映像時にアスペクトモードの「4:3」が選べないという問題があった。具体的にいうと、アップコンバート機能付きのDVDプレーヤーで再生した4:3映像コンテンツについては、信号自体がHD映像となるため、「4:3」が選べず、常に横伸びした全画面表示になってしまっていった。これについてDLA-HD750では対策が取られたようで、HD映像に対してもちゃんと「4:3」が選べるようになった。

 DLA-HD100に搭載されていたアスペクトモードで、アナモーフィック・レンズ使用時向けの「Vストレッチ」モードは、DLA-HD750では[ASPECT]ボタンで選択できなくなってしまった。ただし、機能自体がカットされていたのではなく、「入力信号」メニュー階層下の設定項目「Vストレッチ」に移設されただけで、この設定項目を「オン」設定にすればVストレッチモードを選ぶことはできる。

 プリセット画調モードは「CINEMA1」「CINEMA2」「NATURAL」「STAGE」「DYNAMIC」「THX」の6モードを備えており(各モードのインプレッションは後述)、「THX」モード以外への各モードにはモード名が記載された各個別ボタンを直接押すことでダイレクトに切り換えられる。切替所要時間はほぼゼロ秒。

「THX」モードはメニューからしか選択できない。なので他の画調モードとの往来が手軽に出来ず不便

 注意したいのは「THX」モードへの切替で、このモードだけ同名ボタンが用意されていない。「THX」モードへの切替は、メニューを開き「画質モード」の項目を選択してシネマ1、シネマ2、ナチュラル、ステージ、ダイナミック、、ユーザー1、2、3のさらに下までカーソルを持って行ったところにある「THX」を選択しなければならない。

 THXモードは、なぜかリモコンからもメニューからも隠され、しかもユーザーメモリの1グループ的に扱われている。まるで選んで欲しくないかのようだ。ちなみに、リモコン上の[CINEMA1]と[CINEMA2]の間にボタン一個分の隙間があるのも意味深で、何らかの事情でこうなってしまったと思われる。[THX]のボタンがこの隙間に配置されることを願う。

 レンズ制御が完全電動リモコン対応化したことで[LENS]ボタンが搭載となり、押すと順送り式にフォーカス、ズーム、シフトの調整モードに移行する。レンズ関連の新機能として面白いのが「レンズアパーチャー」でこの機能を設定するための[LENS.AP]ボタンも実装されている。この機能についてはインプレッションも含めて後述する。


画質調整入力信号設置
表示設定機能情報

 「画質調整」メニューで調整可能な画調パラメータとしては一般的な「コントラスト」「明るさ(ブライトネス)」「色のこさ」「色あい」が項目としてラインナップされているが、ここに「シャープネス」が列記されていない。

 実はシャープネスは、より高度な画調パラメータを調整するため、専用の「アドバンスト」メニューにて調整可能となっている。

「色温度」メニュー

 DLA-HD750のシャープネス設定は、画一的にディテール強調を調整するいわゆる一般的な「シャープネス」と、もう一つ、細かいテクスチャ・ディテール(高周波領域)に対してのみ選択式に強調できる「高域強調」の2つから成り立っている。「高域協調」は、あまり過度に上げると滲みが出てくるが、アナログソース視聴時などで「あと少しだけパリッとさせたい」と思ったときには心持ち上げるとよい。通常の使用では初期状態で全く不満がない。

 「色温度」は他機種のような高中低による指定ではなく、5,800K、6,500K、7,500K、9,300Kの4段階ケルビン値指定が行なえる。7,500Kは赤すぎず青すぎない純白なホワイトバランスとなり、ゲームやCGアニメはもちろん、映画などにも使える汎用性の高い色温度となっている。


5,800K6,500K7,500K
9,300K明るさ優先
「ガンマ」メニュー

 この他、照明下使用時に適した「明るさ優先」モードという特別な色温度モードも用意されている。さらにオフセットとゲインを調整してオリジナルの色温度モードを作れるカスタムモードも用意されている。カスタム色温度は3つまで作成可能で、これは全入力系統で共有される。

 「ガンマ」はガンマ補正を調整するもので、プリセットとしては「ノーマル」と「A」「B」「C」の4つが用意されている。ノーマルは最も階調特性が視覚上リニアに見えるモード。A、B、Cはどういう意図のガンマカーブなのか説明書にも解説がない。本連載のDLA-HD1編の時にも指摘したが、DLA-HD100では「ノーマル」「シアター1」「シアター2」「ダイナミック」という分かりやすい名称になっていた。しかしDLA-HD750では先祖返りして再び分かりにくくなってしまったのが残念だ。

ガンマ=ノーマルガンマ=A
ガンマ=Bガンマ=C

 ちなみに、プリセット画調モードでは、ガンマ「ノーマル」を「シネマ1」「ナチュラル」「THX」で、ガンマ「B」を「シネマ2」で、ガンマ「C」を「ステージ」「ダイナミック」で使用している。なお、ガンマ「A」は、どのプリセット画調モードからも利用されていない。解説もないので、どう使ったらいいのかよく分からないガンマ「A」だが、実際に視聴してみると、中明部以下を暗めに設定するガンマカーブとなっていた。暗部だけでなく中明部まで暗くなるのでコントラストが上がるわけでもなく輝度ダイナミックレンジだけが乏しくなる画調になるので、無理して使う必要はない。

 ガンマカーブはユーザー定義も可能で、12バンドのグラフィック・イコライザーのようなGUIで作り込むことができるようになっている。作成したユーザーメイドのガンマカーブは全入力系統で共有されるカスタム1、2、3の3つのユーザーメモリに記録することができる。

 さて、前述のシャープネスの他のノイズリダクション関係、カラーマネージメント関係のパラメータ調整は「アドバンスト」メニュー以下で行なうようになっている。

「アドバンスト」メニュー

 ノイズリダクションのチューニングは「RNR」「MNR」「BNR」の3パラメータが提供されている。何の略語かはマニュアルに記載されていないが、機能項目の説明から想像するにRNRはランダム・ノイズ・リダクション、MNRはモスキート・ノイズ・リダクション、BNRはブロック・ノイズ・リダクションを指していると思われる。なお、ノイズリダクションの機能自体はSD映像に対してのみ有効な設計となっていた。これはずいぶんと割り切った設計のように思えるが、あってもどうせHD映像では活用しない機能となるので実用上は全く不満はない(HD映像表示時は項目自体がグレーアウトする)。

 SD映像表示時にはノイズリダクションの他に「CTI」のチューニングが行なえる。いわゆる色の滲みだしを低減させて色境界を鮮明にするフィルタ機能だ。オフ、弱、中、強の設定が可能だが、デジタル接続やコンポーネントビデオ端子ではほとんど効果がない。コンポジットビデオ接続の映像を表示するときに活用するのが基本的な使い方となるだろう。

 「アドバンスト」メニューには、「カラーマネージメント」という項目もある。これは最近では他機種でも搭載が進むデジタル方式のカラーカスタマイズ機能で、DLAシリーズとしては初搭載の機能になる。


「カラーマネージメント」メニュー

 具体的には、赤、黄、緑、シアン、青、マゼンタの6色の代表色を選択して、この代表色を含む近辺の色の「色相」「彩度」「明るさ」を調整するという流れになる。実際の表示映像を静止させて見ながら調整できるので使い勝手は悪くない。ただ、ソニーのVPLシリーズの同系機能のように代表色以外の色をモノクロに落とし込み、調整対照色を分かりやすく見せるモードも欲しかった。

 なお、画調パラメータの調整は「画質調整」メニューを開いて行なう方法以外に、リモコン上の画調パラメータ名のボタンを直接押して、そのパラメータの調整メニューを直接呼び出すこともできる。[GAMMA]ボタンはガンマ、[C.TEMP]は色温度、[COLOR]は色のこさ、[TINT]は色あい、[N.R.]はノイズリダクション、[BRIGHT]は明るさ、[CONT]はコントラスト、[SHARP]はシャープネスに対応する。

 最後に、DLA-HD750の調整結果の特徴的な取り扱いについて触れておこう。

 まず、画質調整は、プリセット画調モードに対しても行なうことができ、そのパラメータの変更は特に保存動作をせずともそのまま維持される。注意したいのは、そのプリセット画調モードの調整結果は、全ての入力系統の同名の画調モードに影響するということ。「画調調整」メニュー階層下の「リセット」を実行することで工場出荷状態に戻すことはできるのだが、この仕様は少々不便だ。たとえば、HDMI入力のシネマ1の調整とコンポーネントビデオ入力のシネマ1の調整を個別に行なえないのだ。

 ユーザーメモリはUSER1、2、3の3つが用意されているが、「調整結果をユーザーメモリに保存する」という仕組みではなく、元々「ナチュラル」相当に初期化されているUSER1、2、3の画調モードを好みに調整するという感覚になる。もちろん、調整結果は全ての入力系統のUSER1、2、3に及ぶ(ユーザーメモリも全入力で共有仕様)。

 やはり、利便性を考えると他機種のように画質調整は各入力系統ごとに管理する方式に改善して欲しいと思う。


■ 画質チェック
 ~ネイティブ・コントラスト5万:1。レンズ解像力の高さは最強か

 DLA-HD750の映像コアに搭載されるマイクロ映像デバイスはビクターが誇る独自方式の反射型液晶(LCOS)パネル「D-ILA」(Directdrive Image Light Amplifier)だ。パネルサイズは0.7型でDLA-HD100と同じなので、製造プロセス自体に変更はないと思われる。つまり画素開口率に関してはDLA-HD100と同等と考えていいだろう。

 公称コントラストは50,000:1。これはネイティブコントラストの値で、フロントプロジェクタとしては業界最高値で、「光学系のリファインによって実現された」という。

 具体的なリファイン内容として「新開発の投射レンズ」「パネルへの光の導き方をL字型からストレート構造へ変更した」ことなどが挙げられている。DLA-HD100では最大輝度600ルーメンでネイティブコントラスト30,000:1、そしてDLA-HD750では同出力の光源ランプで最大輝度900ルーメンが実現されているので、DLA-HD750における光学系のリファインの効果は非常に大きい。

色収差による色ズレは多少あるが、フォーカス力が優秀なので視覚上の解像感は高い

 実際にセッティングして驚かされたのはコントラストよりもレンズ解像力の高さのほうだ。
 画面中央でフォーカスを合わせると画面外周までがくっきりと合焦して1ピクセル1ピクセルが鮮明に描き出される。視力が向上したような錯覚すら覚えるほどだ。レンズシフト機構付きの投射レンズでこのフォーカス性能とレンズ解像力は素晴らしい。これはVPL-VW80よりも優れている部分だ。

 色収差はやはり多少あり、画面の場所にもよるがだいたい約半ドットくらいのズレがある。ただ、前述したようにレンズ解像力が高いので、ぼやけた感じはなく、視覚上の解像感はとても高い。フルHDパネル採用機は今や珍しくないだけに、このレンズ解像力の差こそがプロジェクタ画質に大きく影響することを再確認した。

 DLA-HD750にも、画素をデジタルでシフトして色収差を低減する機能が「画素調整」機能として提供されているが、シフト単位が1ピクセル単位なのであまり役に立たない。ソニーのVPLシリーズでは擬似的に1ピクセル以下のシフトを再現していたので、この機能に関してはVPLシリーズに倣って欲しいと思う。

「画素調整」メニュー

 黒表現に絶対的な自信を持つDLA-HD750だが、実際のところ、黒の沈み込みは凄い。画面内に比較的明るい領域があっても、黒表現がその明るい領域に引っ張られることなくちゃんと"黒い"。これは投写型の映像機器としては凄いことだ。表現するならば「奥行きのある黒」といった感じだ。VPL-VW80と比較した場合にも優劣付けがたい。

 暗さが明るさに引っ張られないので、逆に明るさも際立つ。いわゆる視覚上もとてもハイコントラストなのだ。絶対輝度が900ルーメンなのにも関わらず、字幕の文字の白さが目に染みることもあるほど。確かに完全暗室で長時間の映像視聴ではランプモードは「標準」(他機種で言うところの「低」)の方がいいかもしれない。

 前述してきたように、スペック上の最大輝度はランプ輝度モード「高」で900ルーメンで、最新の透過型液晶機と比較するとスペック上は暗いことになるが、暗部の沈み込みが鋭いので、意外にも蛍光灯照明下でもそこそこに見えてしまう。完全暗室にできない昼間でも、軽くカーテンを引いてやればカジュアルな映像鑑賞ならば問題なく行なえると思う。

ランプ輝度モード=標準ランプ輝度モード=高

 今回の評価では先頃発売された「インクレディブル・ハルク」を視聴したのだが、この映画は暗いシーンも多く含まれ、DLA-HD750の評価には適していた。チャプター8の夜の雨のシーンでは、暗闇の深さのおかげで淡い光で照らされるシーン内の朧気なハイライトもちゃんと見えるので雨粒や水滴にすら奥行き感や立体感が感じられた。また、チャプター12の夜景も素晴らしい。ここでは夜の摩天楼の無数の窓枠が煌めくシーンがあるのだが、その窓枠の外周がとてつもなく黒いため、その煌めきが一層際立って美しく見えるのだ。DLA-HD750のハイコントラスト性能は夜景にも強い。

 発色もいい。青には深みがあり、緑の純度も高い。青と緑の2色に比べると、赤はもうちょっと鋭さがあればいい気もするが、水銀系ランプの光源であることを考えれば良質な赤が出ているとは思う。

 人肌も赤すぎず白すぎず、黄緑っぽさもなく非常に自然でリアルだ。最明部の白飛び気味の肌色付近のグラデーションも見事で、肌色表現には専用のチューニングが成されているのではないかと思えるほど美しい。

 階調表現は、やはり暗部付近の表現の優秀さに感銘を受ける。完全な漆黒の中に淡い暗色で描かれていてもちゃんとそのディテールが見えるのだ。これまでの投写型映像機器であればグレーで均一化して潰れてしまいそうな暗部の描写が行なえているのは凄いことだ。これに関連することだが、色深度もかなり深い。明色の鮮やかさはもちろんだが、漆黒付近の最暗部付近でもちゃんと色味を感じることができる。

 レンズ解像力、コントラスト、階調、色と非の打ち所がないDLA-HD750だが、視聴していて1点だけ気になったのは画面全体がスクロールするようなシーンで擬似輪郭が視覚されることがあるということ。明暗のはっきりした輪郭部分では気にならないが、グラデーション表現を伴うものが画面スクロールのようにパン移動するとそのグラデーションに擬似輪郭が見えるのだ。ちょうど、昔のプラズマテレビの映像で見られたような現象だ。これはD-ILAの駆動に起因する現象なのかもしれない。再現は簡単で、顔写真などを上下左右に動かして見ると特に分かりやすい。頬のグラデーションに等高線のようなものが現れるはずだ。アニメやCG映画などではこういったシーンは多くあるので気になることがあるかもしれない。

 新搭載となったレンズアパーチャーについても触れておこう。

 レンズアパーチャーとは、DLA-HD750に搭載されている新開発の投射レンズに中段辺りに備え付けられた絞り機構のこと。いわゆる動的絞り機構でなく、あくまで迷光を抑えて黒をより沈み込ませるための「固定絞り機構」になる。固定絞り機構とはいえ、その絞り具合は-15(最大絞り)~0(絞り開放)の16段階が指定できる。

レンズアパーチャー=0(開放)

レンズアパーチャー=-8(中開度)

レンズアパーチャー=-15(絞り切った状態)

 ランプ輝度モード「標準」では、最小から黒浮きがあまりないので無理に使う必要はないかもしれないが、「高」モードだと明るいシーンではやや黒が浮くこともあるので、そういうときには若干絞るとよいかもしれない。ただ、一般的な視聴では、標準状態の絞り開放(0設定)でも十分なコントラスト感と黒表現ができているので無理に活用することはないと思う。


【プリセットの画調モード】
 1,920×1,080ドットのJPEG画像をPLAYSTATION 3からHDMI出力して表示した。撮影にはデジタルカメラ「D100」を使用。レンズはSIGMA 18-200mm F3.5-6.3 DC。撮影後、表示画像の部分を800×450ドットにリサイズした。
 
●シネマ1

 

 色温度が5,800Kに設定され、かなり赤みを帯びたホワイトバランスとなる。緑がシアンによって渋めになって、他の色も全体的に色域が狭くなる。ホワイトバランスは赤に寄るものの、人肌からは若干、彩度が奪われ白味を帯びる。赤の彩度も抑えめとなり映像表示としてかなり地味になる。

 階調は暗部が若干持ち上げられる傾向にあり、暗部表現を寄り明確化しようという意図が盛り込まれる。いわゆる、よくあるシネマモードの形態だが、ちょっと癖が強く、あまり実用性は高くないと感じる。

 
●シネマ2

 

 色温度が6,500Kに設定され、「シネマ1」よりも赤みが抑えられたホワイトバランスになる。シアンぽかった渋い緑が「ナチュラル」に近い伸びやかな色あいに戻って、色域も広くなる。人肌は「シネマ1」の時とよく似た、彩度を抑え白味の強い透明感重視の傾向になっている。彩度を抑えた赤表現も「シネマ1」とほぼ同じだ。

 黒の沈み込みは「シネマ1」と違いはないが、暗部の立ち上がりは「シネマ1」よりも早く、暗部の持ち上げは「シネマ1」よりも強め。全モード中、もっとも暗色に色味が強く残るチューニングで、コントラストよりも暗部ディテールの描写力に力を注いだ画調モードだといえる。

 一般的なシネマ画調として活用したい場合はこちらの方をお勧めする。なお、全モード中、2色混合グラデーションが最も美しかったのはこの「シネマ2」だった。

 
●ナチュラル

 色温度は6,500K。おそらく他機種で言うところの標準画調モードでRGBの純色のパワーバランスとホワイトバランスが最も良好なのがこの「ナチュラル」だ。

 「シネマ2」に見られた赤の彩度不足は、「ナチュラル」では問題なし。赤は鋭さを取り戻す。階調表現はシネマ系モードに見られた暗部の持ち上げが取り払われており、暗部の立ち上がりはリニアかつ、緩やかだ。暗部のディテール表現とコントラスト感のバランスは全モード中、随一。

 シネマ系モードで白っぽい透明感重視だった人肌表現は、「ナチュラル」では赤味を取り戻す。モード名通り、人為的な演出が一番少ないモードなので万能性が高い。
 
●ステージ


 色温度は7,500Kとして、白色を純白に近づけているのが特徴。

 赤の彩度が抑えめなところや人肌の白味が強くなるところ、純色の出色の傾向は「シネマ2」に近いが、階調特性は独特だ。暗部階調の緩やかに持ち上げつつも、中暗部から上は、かなり早めに明るく発色するチューニングになっているのだ。このため画面は全体的に明るくなり、輝度でコントラストを稼ぐような透過型液晶ライクなパワフルな描画になる。その代わり、暗部に割く輝度ダイナミックレンジが狭くなるため暗いシーンではディテール感に乏しくなる。

 人肌は赤味と白味のバランスが均衡していて自然に見える。明るい映像を明るくクリスピーに楽しみたい、そんな用途向けだが、人肌の表現が美しいので人物主体の映像視聴にもいい。

 
●ダイナミック

 

 色温度は「明るさ優先」モードが採択される。ホワイトバランス的に6,500Kよりも高いが7,500Kよりは低いという感じで、他機種の同名モードの青々したものと比較するとずいぶんと理性的なチューニングに落ち着いている。

 「ダイナミック」モードというと、黒潰しの超コントラスト重視の画調が想像されるが、意外にもDLA-HD750の「ダイナミック」モードは暗部階調のリニアリティは保たれている。また、階調特性は「ステージ」モードとほとんど変わらない。ただし、中明部以上からは他モードよりも多めに輝度を割き、明るさ重視の画調に作り込んでいる意図は感じられる。

 発色も意外にもちゃんとしていて純色のパワーバランスに破綻はなく、出色の傾向としては「ステージ」に近い。見比べると青がやや強調気味になるが不自然さはない。

 人肌には水銀系ランプの黄緑っぽい影響はほとんど無く問題なし。「ステージ」よりもやや赤味が強くなるが、知らされなければ「ダイナミック」だと分からないかも。日差しの強いシーンなどの人肌表現では「ステージ」よりもリアルに見えるほど。意外に実用性は高く、CG映画、ゲーム映像と相性がいい。

 
●THX

 

 THXのホームシアター向け映像機器用品質規格「THX Certiied Display Program」の認証を得るために作り込まれた画調モード。色温度は6,500K。

 階調特性は「ナチュラル」とほぼ同じで、過度な階調強調は行なわず最暗部から徐々に立ち上がるチューニングで、コントラストと暗部ディテールのバランスがいい。発色は「ナチュラル」よりは彩度を抑え、シネマ系よりは高めにしており、純色は鋭さが抑えられたマイルドテイスト。

 赤の伸びは「ナチュラル」に及ばないが、人肌の質感は全モード中一番いい。赤すぎず白すぎずの落としどころが絶妙だ。試しに映像ソフトに含まれる「THX OPTIMIZER」を実行してみたが、(当たり前だが)どのテストケースも奨励状態に調整されていた。

 実用性は高いと思うが、色の豊かさで汎用性においては「ナチュラル」の方が上か。

 

■ まとめ
 ~DLA-HD750とVPL-VW80、どちらがお勧めか

 際立ったレンズ性能や、コントラスト、静粛性の向上など大きな進化を果たしたDLA-HD750。D-ILA上位機種の正常進化型となっている。価格も定価で735,000円と、前モデルのHD100(84万円)から約10万円値下げされている。

  価格帯が同じで、共にLCOSプロジェクタの上位機種と言うことで、VPL-VW80とDLA-HD750、どちらを選ぶべきか悩んでいる人もいることだろう。設置性に関しては同等といえそうだが、最大輝度で使用した場合の静粛性はVPL-VW80に軍配が上がる。消費電力はDLA-HD750の方が低く、また交換ランプも1万円以上安価だ。接続性もほぼ同等だが、DLA-HD750は、PCやゲーム機をHDMI接続したときに階調レベルを指定できる利便性がある。

 操作感はほぼ同等だが、オーナーシップの満足感という意味ではややVW80の方が上か。HD750はリモコンの質感がVW80にやや及ばず、入力切り替えのレスポンスの悪さも気にかかる。また、HD750は取扱説明書の説明不足ぶりも改善を望む。画調モードの解説がなく、ガンマ補正もA、B、Cについて何の解説もないのはユーザーを突き放しすぎだ。

 一番気になる画質面に関してはどうか。まず輝度に関して。VW80の800ルーメンに対してHD750の900ルーメンとなるが、視覚上の差異はない。両者共に暗室では最良の画質が得られ、蛍光灯照明下でもちゃんと見られるレベル。コントラストは、動的コントラスト60,000:1のVW80とネイティブコントラスト50,000:1のHD750となり、条件の違うスペック表記で比べ難いが、こちらも視覚上の大きな差はない。ともに明部に引っ張られない良好な暗部表現が出来ている。

 色再現性については、共に超高圧水銀系ランプを使用しながらも、キセノンランプに迫るクセのない発色をしている。HD750はどちらかというとモニタライクな素直な発色をしており、一方でVW80は豊かな色表現を目指しているようで、この部分については双方でそれぞれの設計思想の違いは現れている。

 レンズについてはHD750に軍配が上がる。映像は画面全域がクリアで、まるで直視型ディスプレイを見ているような感覚に陥るほど凄い。動画性能についてはVW80が優勢と見る。HD750に見られたようなパン映像における擬似輪郭は少々気にかかるし、また、VW80には倍速駆動技術が搭載されている優位性もある。

 直接比較すると大体そんな感じだろうか。自分の重視したい性能に重み付けをして、自分の使い方に合った製品を選んで欲しい。

(2009年 3月 6日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。