西川善司の大画面☆マニア
第244回
4K、5K、21:9。PCディスプレイにもHDRの波。NVIDIAが65型大画面を提案
2018年1月22日 00:00
テレビやプロジェクタ、映像技術に加えて、いろいろな大画面ネタをお伝えしてきたCES 2018編もいよいよ最終回。PCを中心としたディスプレイにも大きな変化が見えてきたのも、このCESの収穫だ。LGを中心にPCディスプレイにおけるHDR対応、そして“NVIDIA”の謎の大画面戦略についても触れていきたい。
PCディスプレイにもHDR化の流れ。4K、5K、HDR&21:9
日本においてLGは、テレビ製品でも健闘中だが、ようやく大手の一角にはいったかな? といった感じだろうか。しかし、パソコン用のディスプレイ製品では、7年ほど前、バックライトがLEDに切り替わるぐらいから、評価と認知度が上がり、今では確固たるポジションを築くようになった。これは、日本のユーザーが大好きなIPS液晶を採用していることと関係が深いと思われる。
さて、今回のCESでは、そんなLGが20インチ後半から30インチ超までの大画面高解像度モデルを多数発表していた。そこから見えるPCディスプレイの今年のトレンドをまとめると、(1)アスペクト21:9の高解像度、(2)USB Type-CやThunderbolt3による接続に対応、(3)DisplayPort端子でもHDR10表示可能に、といったところだ。
簡単に各製品を見ていくと、「34WK95U」は、5,120×2,160ドットの「5K2K」ディスプレイ。画面サイズは型番から連想できるように34型でアスペクト比は21:9、シネスコサイズに該当する。
サイズ感とドットピッチ的には、27型の3,840×2,160ドットの4Kディスプレイをさらに横に拡大したようなイメージだ。
色域的にはDCI-P3色空間の98%をカバー。プロ用途も想定しているためハードアウェアによる色調整にも対応する。広色域が実現出来ているのは、液晶テレビ製品でも採用している量子ドット系技術の「Nano Cell」採用のIPS液晶パネルによるところが大きい。
「Nano Cell」とはRGB(赤緑青)の各純色波長の周辺波長の光を吸収し、純色光を鮮鋭化させることで、RGB混色時の再現性を向上させる技術のこと。動作原理としては、サムスンがQLED TVなどで優位性をアピールしている「Quantum Dot」(量子ドット)技術そのもので、ナノメートル級サイズの微粒子の光学特性を応用したものになる。量子ドット効果を実践する光学シートは、サムスンのQLED TVではユーザーから見て液晶パネル背面側に適用されるが、LGのNano Cell技術はユーザー側に光学シートが張り合わされているらしい。このデザインにより、色再現性に加えて視野角も拡大されると、LGは主張する。
34WK95Uの輝度は最大600nitで、「HDR 600」に対応したHDR表示に対応する。この詳細は後述する。接続端子はHDMI×2、DisplayPort×1、Thunderbolt3を装備する。
「38WK95C」は21:9アスペクトのディスプレイだが、こちらは画面が37.5型と、34WK95Uより大きいが、解像度は3,840×1,600ピクセルで34WK95Uより低い。液晶パネルはNano IPSではなく普通のIPSパネルで、色域はsRGB色空間カバー率99%。HDR10フォーマットに対応。可変フレームレートの映像をスムーズに映し出せるAMD FreeSyncに対応し、ゲーミング用途にも訴求される。
34型「34GK950G」は、アスペクト比21:9の液晶パネルを採用するが、解像度は3,440×1,440ドット。液晶パネルはNano IPSで、色域はDCI-P3 98%をカバー。ただしHDRには対応しない。
「34GK950G」は前の2機種よりもさらにゲーミングモニター製品度が高め、可変フレームレートの映像をスムーズに映し出せるNVIDIAのG-SYNCに対応。リフレッシュレートは最大120Hzにまで対応し、ゲームプレイに適した低遅延モード「Dynamic Action Sync」も搭載する。接続端子はHDMIとDisplayPort端子が1系統ずつ。
「32UK950」は、オーソドックスなアスペクト比16:9の4K(3,840×2,160ピクセル)。液晶パネルは平面型Nano IPS。色域はDCI-P3 98%で、プロ用途も想定しているためハードアウェアによる色調整に対応する。
最大輝度は600nitで、HDR 600規格に対応。
接続端子はHDMIとDisplayPortが1系統。さらにThunderBolt3の端子を2系統備えていて、それぞれを入力と出力に利用できる点が注目だ。つまり、もう一台のThunderBolt3搭載ディスプレイとデイジーチェーン接続すれば、ホストPC側のThunderBolt3端子が1つしかなくてもマルチ画面表示が行なえるのだ。
そのため、この32UK950についてLGは、「世界初のデイジーチェーン接続対応4K液晶ディスプレイ」という、売り文句を与えている。
アスペクト比16:9のオーソドックスな4K(3,840×2,160ピクセル)液晶モニターは27型「27UK850」は、可変フレームレートの映像をスムーズに映し出せるAMD FreeSyncに対応し、HDMI、DisplayPort、スピーカー(5W×2)を搭載。USB Type-Cを備え、映像をDP Alt ModeによるUSB伝送できるほか、接続機器への給電も行なえる。北米価格は699.99ドル。
PC向けディスプレイを支えるVESAのHDR規格
さて、先に説明したLGディスプレイ製品に「HDR 600」という記述があった。これが何かというと、'17年12月にVESAが策定したHDR映像規格のキーワードだ。
「DisplayHDR version 1.0」規格では、エントリークラスの「DisplayHDR 400」(以下、HDR 400)、メインストリームクラスの「DisplayHDR 600」(HDR 600)、ハイエンドクラスの「DisplayHDR 1000」(HDR 1000)という3つが規定され、「HDR 600規格対応」は、このDisplayHDR規格1.0のメインストリームクラスの「DisplayHDR 600」に対応していることを表す。
この規格については、CESのVESAブースでも比較的大きく取り上げられいた。DisplayHDR規格1.0の概略はWebで公開されているが、発表されたばかりの新規格のため知らない人も多いと思うので簡単にスペックを整理しておこう。
DisplayHDR規格1.0で規定される「HDR 400」、「HDR 600」、「HDR 1000」のそれぞれの400/600/1000は、そのディスプレイのHDR映像表示時の最大輝度(nit)値を表している。あくまで最大輝度性能であり、常時その輝度で光っているわけではない。そもそも一般的なテレビの平均輝度は400nit、PCモニターは200-300nit程度なので600nitや1,000nitは相当に明るい。
長期に継続的に光らせるときの要求最低輝度はHDR 400、600、1000でそれぞれ320nit、350nit、600nitとなっている。これは「平均輝度をそこにせよ」といっているのではなく、ディスプレイ装置の性能として「上記の輝度を維持くらいの性能にしてください」という意味になる。
DisplayHDR規格1.0では黒レベルのパフォーマンスも細かく規定されているのが興味深い。
黒表示時の四隅の最低輝度値(黒レベル)はHDR 400、600、1000でそれぞれ0.4nit、0.1nit、0.05nitと定められ、全白・全黒のコントラスト比を955:1で保証し、その際の黒の最低輝度値がHDR 400、600、1000で、いずれも0.1nit以下と規定される。
このスペック規定を見ると、HDR 400はエッジ型バックライトでもなんとかなりそうだが、HDR 1000は直下型バックライトシステムに映像の明暗に合わせてバックライトの明暗分布を局所的に制御するエリア駆動は必須となりそうだ。HDR 600はエッジ型バックライトシステムでも、帯状のエリア駆動ができればギリギリ要件を満たせそうだ。いずれにせよ、HDR 400、600、1000のそれぞれの規格への対応は、ディスプレイのHDR表示性能をわかりやすく示してくれそうだ。
DisplayHDR規格1.0では、色に関しても規定があり、HDR 400ではsRGB色空間カバー率95%以上、HDR 600とHDR 1000では、sRGB色空間カバー率99%以上にプラスして、DCI-P3色空間カバー率90%以上を条件として盛り込んでいる。意外なことに、HDMI 2.0で採用されているBT.2020色空間について、規格内での言及はない。
また、映像パネルそのものの潜在性能についても規定されているのもDisplayHDR規格1.0の面白いところ。
HDR 400、600、1000のいずれにおいても映像処理は最低で10bit、映像パネルの画素駆動は最低で8bitで行なわれることを規定しているのだ。意外に知らない人も多いが、現行のテレビやPCディスプレイの映像パネル自体はネイティブ8bit駆動のものが多いため、ここは「最低8bit」と緩いままだったりする。
黒から白への輝度レスポンスは8フレーム以内で行なえることも規定されている。これはレスポンス時間がμ秒で応答出来るLEDバックライトシステムではなんの苦労もなく実現出来るが、水銀ランプを使用したプロジェクタ機器などではそれなりの条件だったりする。VESAは直視型ディスプレイだけをターゲットにしているわけではないので、こうした記述も盛り込まれているのであろう。
NVIDIAが65インチのSHIELD内蔵ゲーミングディスプレイを発表
CESではすっかり馴染みの顔となってきたNVIDAだが、CES 2018においては、自動運転技術にフォーカスした展示を行なっている。CES会場でも自動車関連の展示が集中する北ホールにブースを構え、その展示はまさに自動運転一色である。
しかし、実は、NVIDIAはCES 2018の開催と共にひっそりと大画面機器「Big Format Gaming Display」(BFGD)を発表。このBFGDをCES会場ではなく、ラスベガス市内ホテルでお披露目していたのだ。
「Big~Display」とネーミングされている以上、大画面☆マニアとしてはずわけはいかないと言うことで、CES会期中にアポを取り見てきたというわけである。
BFGDは、テレビではなくPC向け液晶ディスプレイというくくりなのだが、「Big~Display」と自ら名乗るだけあって画面サイズは65インチもある。
製品はAcer、ASUS、HPの3社から発売される予定。NVIDIAではなく、これらの会社が製品化し、NVIDIAは「BFGD」の規格や機能を定めるというポジションだ。
「規格や機能を定める」とはいうものの、当日取材した範囲では、どの程度の「揺らぎ」を規格に与えるものか…については、まだ決定していないのだという。とりあえず、第一世代製品としての仕様は、今回3社から発表された3つのプロトタイプがすべて共通スペックと言うところから推し量ることはできる。画面サイズも特に65型に規定しているわけではないそうだが、画面サイズバリエーションを設定するかどうかは未定らしい。
3社のプロトタイプ製品は、全てAUOの4K(3,840×2,160ピクセル)解像度の65型VA型液晶パネルを採用しており、リフレッシュレートは120Hzにまで対応する。NVIDIAが規格化したということで、当然、可変フレームレートの映像をスムーズに映し出すソリューションにはNVIDIA独自の「G-SYNC」技術を採用。
バックライトは直下型LEDバックライトシステムを採用し、映像の明暗分布に合わせてバックライト輝度を局所的に制御するエリア駆動に対応。最大輝度はハイエンドテレビ製品でも採用事例が少数派である1,000nitを達成。これに伴い、当然、最新のHDR映像表示に対応する。詳しくは未定だとのことだが、HDR10や前述したDisplayHDR規格1.0には対応するものと見られる。色域はsRGB色空間の他、DCI-P3色空間に対応するがカバー率は不明。
Gaming Displayを謳うことから、低遅延性能にも拘っていて、PCゲーム、家庭用ゲーム機、スマートフォン、あるいはストリーミングベースのクラウドゲーミングにおいても低遅延を実現すると訴えている。なお、120Hzのハイリフレッシュレート表示やG-SYNCベースの可変フレームレート映像表示はHDMIケーブルやDisplayPortケーブルでPCと接続した時のみ、実践される。
ここまでだと、ただの65型の大画面ゲーミングディスプレイ製品だが、BFGDには、NVIDIAらしい付加価値をもう1つ与えている。
それは、NVIDIAが2013年から展開しているAndroidベースのゲーミングプラットフォーム「SHIELD」(最新世代の製品名はSHIELD TV)を統合しているという点。
まあ、現状、SHIELDは「ゲーミング」プラットフォームとしては成功していると思えないが、Netflix、Amazon Video、YouTube、Huluといった映像配信サービス用として、北米では「使いで」があるため、フロントエンド機能として搭載しておきたい、という思惑で統合されたのだろう。統合されるSHIELD世代は最新の「SHIELD TV」と同世代らしいので、メインプロセッサ(SoC)はNintendo Switchなどと同じ「TEGRA X1」系だと思われる。
北米では2018年夏に発売される予定だそうだが、価格は未定。
日本での展開も未定とのこと。BFGDの特徴の1つである「SHIELD TV」自体が日本では発売されていないこともあり、BFGDの日本展開の可能性は低いように思える。