西川善司の大画面☆マニア

第243回

善司、ラスベガスで騙される。LGのレーザー4Kは30万円台? VIVE PROも体験

 今年も大画面ネタをいろいろとお届けしてきたCES特別編だが、大手メーカーのテレビや映像技術以外にも注目したいネタが盛り沢山。会場で見つけた大画面ネタをいろいろと集めるとともに、個人的に笑ってしまったヘンテコネタも盛り込んでみた。

LGの4Kプロジェクタは、レーザー光源採用で30万円台!?

 LGは毎年プロジェクタのネタを律儀に送り出してくれるため、大画面マニアとしては本当にありがたい。今回、発表された「HU80KA」は、微妙にソニーのLife Space UXシリーズの影響を受けたようなカジュアル派にも訴求されるプロジェクタ製品である。

非常に注目度が高く、展示スペースは常に混雑状態。コストパフォーマンスが受けていたようだ

 しかも、光源はレーザーで、輝度は2,500ルーメンと本格ホームシアター級。レーザー光源は、エプソンやソニーのプロジェクタと同様に、青色レーザーを蛍光体にぶつけて白色光を作り出す波長変換式。寿命は2万時間で、一般的な水銀系ランプの10倍の寿命となる。これだけの高輝度性能ということで、当然HDR10フォーマットのHDR映像の投射にも対応する。

完全暗室だとこの表示レベル。2500ルーメンの高輝度性能を活かしてHDR10対応。最大150インチまでの投射に対応。展示ブースの画面サイズは130インチ

 気になる映像コアはテキサスインスツルメンツ製の0.66型4K UHD DMD(DLP660TE)チップ。つまり、単板式DLPプロジェクタということになる。ちなみに、このDLP660TEは、以前発表されたこちらのパネルの系統と思われる。

 特徴は、パネル解像度がWQXGA+と表記される2,716×1,528ピクセルということ。

 この2,716×1,528ピクセルという不思議な数字はフルHDの縦と横に「√2」(≒1.41421356)をかけた値で、総ピクセル数は約400万ピクセル強。リアル4K(3,840×2,160ピクセル)の丁度、半分の数になる。

 JVCやエプソンも、フルHD(1,920×1,080ピクセル)の映像パネルを45度方向に0.5ピクセル分シフトして疑似4K映像を作り出す製品があるが、本機も発想としては近い。ただ、チップ側のリアル解像度が高い分、「その疑似4K度」がより高品位である、というのがLGの説明である。たしかに同じ疑似4K映像とはいえ、200万ピクセルのフルHDパネルから作り出すよりも、TI/LG式の400万ピクセルから作り出す方が良い、という理屈はわかる。

 とは言え、他社製品は50万円を大きく超えてくるこの製品レンジに、LGの「HU80KA」は価格破壊を持ち込む。2,500ルーメンのレーザー光源を採用しながらも想定価格を3,000ドル、すなわち30万円台前半に設定するというのだ(国によっては約50万円となる可能性もあると補足された)。

縦置き状態ではレンズカバーに仕込まれたミラーで光軸を90度曲げて投射できる
ミラー部はただの平面鏡なので超短焦点投射には対応しない。投射距離スペックは定かではないが「一般的なホームシアター機と同等」とのことで、約3mで100インチといったところか
床置きで楽しむことも可能

 そして、カジュアル層に訴求すべく設計しているのも「HU80KA」のユニークなポイントである。

 まず、デザイン面だが、縦横165mmの正方形面に対して奥行きを470mmとした四角柱的な筒状の外観としている。天吊り設置のような本格設置も可能だが、本体をランタンのように立てても利用できる。その場合、反射鏡となっている投射レンズカバー開いて光軸を90度反射させて利用する。これは今までになかった発想だ。

 なお、このミラー部は非球面レンズになどはなっておらず、超短焦点の投射などには対応しない。

重さが6.5kgしかないので持ち運び自由。持ち運び用の取っ手も装備
天吊り常設設置も可能。

 本体の重さはわずか6.5kg。取っ手が付いているので移動もラクラク。スピーカーも内蔵していて、カジュアルに楽しむ場合には本体だけでOKというスタンスだ。

 接続端子は、HDMI(HDCP2.2対応)などの映像入力端子はもちろん、USBメモリ内のコンテンツ再生や、Miracastでスマートフォンのコンテンツをワイヤレスで投射することもできる。

 さらに、北米モデルはWebOS3.5に対応したスマートテレビ機能も統合。テレビアンテナ端子やLAN端子を装備しており、テレビ放送やAmazonプライムビデオやNetflixなどの映像配信も楽しめるというから凄い。リモコンは、LGの最新テレビのWiiリモコンのようなジェスチャー入力対応タイプが付属する予定。

 北米での発売は今春を予定。この製品、けっこう日本でもウケそうな気がするが、実際、日本での発売も検討中とのこと。楽しみに続報を待ちたい。

接続端子群は縦置き時の本体下側にレイアウト。HDMI端子のバージョンは定かではないが、是非18Gbps対応を望みたい

HTC VIVEが進化。より高解像度に、よりスタイリッシュに

 続いて、「仮想」大画面のVRネタをお届けしよう。今回のCESでは、PC向けの定番VRヘッドマウントディスプレイ(HMD)製品として知られるHTC VIVEの新モデル「VIVE PRO」が発表されたのだ。

TCの新VR HMD「VIVE PRO」

 一番の進化ポイントは映像パネルの解像度アップ。従来は片目あたり3.6型の1,080×1,200ピクセルの有機ELパネルだったが、これがVIVE PROでは片目あたり3.5型の1,440×1,600ピクセルへと増加している。ドットピッチ的には1.373倍、ピクセル総数(≒解像度)的には1.777倍に増加することになる。

VIVE PRO。従来機が黒一色だったのに対し青と黒のツートンカラーとなった。デザインも全体的にスタイリッシュなものとなり、前面には2眼式カメラ(IPSDセンサー)

 最大リフレッシュレート(フレームレート)は90Hz、画角(視野角)は110度。このあたりは従来機から据え置き。高解像度化に伴い、接続端子は従来機のHDMIからDisplayPort端子へと変更された。トラッキングデータなどのやりとりに用いられるUSBはType-C端子のUSB 3.0へと変更。このあたりは時代に適応した発展といった感じか。

 HMD側の内蔵マイクはノイズキャンセル対応になり、ヘッドフォンはハイレゾ対応と高品位化した。

 外観デザインもリファインされており、ヘッドバンド部やその周辺もソニーのPS VRのようなスタイリッシュなものとなり、素材の質感も向上。また、装着時の前後重量バランスも最適化されて、装着しながら動いてもずれにくいような配慮がなされている。

 外観上で特に気になるのは前面に二眼カメラが実装されているところ(従来機は単眼)。この二眼カメラの具体的な利用例は公表されていないが、カメラで捉えた外界の様子を、ワイヤーフレームのような表示でVRコンテンツに合成するシャペロン・テクノロジー(Chaperone Technology)という技術に応用することは示唆されている。

 これ以外にもVR HMDを被った状態で外界を見るためや、外界視界の特徴点の運動視差などから外界を測距することに利用したり、といった応用が期待できそうである。

 VIVE PROの発売時期や価格は未定とのことだが、2018年内ということは間違いないようだ。「PRO」という名称からも連想されるように、価格が従来機の基本パッケージの84,110円を下回る可能性は低い。

 さて、今回のVIVE PROの発表に合わせて、新しい周辺機器もアナウンスされた。

 1つは、VR HMDの位置検出に利用するベースステーションと呼ばれる装置だ。この装置は、内蔵されている赤外光レーザーエミッターで室内をスキャン(走査)して、室内空間におけるHMDの位置、向き、傾きなどをVR-HMD自身に伝達する装置である。

 VIVE PROでも、従来機同様にこの装置を用いるのだが、今回のVIVE PROの登場に合わせてベースステーション2.0が登場することが予告された。仕様については昨年の時点で発表されており、従来機のベースステーションでは2基のベースステーションで対角5mの室内スキャンに対応していたが、新型ベースステーションでは最大4基までを用いることで10m×10mのスキャンにまで対応する。こちらも登場時期や価格は未定だ。

新型ベースステーション。なお、新型ベースステーションはVIVE PROにのみ対応し、従来VIVEには対応しない。これはベースステーションから発射されるスキャン用レーザーと同期信号の仕様が変更されるため

 2つ目の新型周辺機器はVR HMDの無線化アダプタだ。

 昨年(CES 2017)ではHTC VIVEの無線化アダプタとして中国のTPCast Technologiesが開発したものがHTC VIVEブースにて出展されていた。TPCastのものは60GHz帯の電波を使った「WirelessHD1.1」ベースのサードパーティ製品として紹介していたが、今年は純正オプションとして無線化アダプタをリリースする。

 HTCの無線化アダプターは、Intelなどが中心になって開発した、60GHz帯の電波を使う無線通信規格「WiGig」ベースのものになる。

ホストPCの裏側。LEDが光っているのがHTC VIVEの無線化アダプタの送受モジュール。実体としては「WiGig」モジュール
無線化アダプタのアンテナ装置。60GHz帯の電波は可視光に近い特性となるため遮蔽には弱く、照明器具のように全体を見渡せる位置に設置する必要がある

 WiGigは,「IEEE 802.11ad」という無線通信規格をベースにしたもので,およそ10m程度の近距離に限られるが、7Gbpsという高速なデータ転送速度を実現できる。なお、7Gbpsでは、VIVE PROの解像度の増加した映像伝送を賄うことが出来ないのだが、これについては映像圧縮技術を組み合わせている。

 いわゆるMPEG系のフレーム相関性を用いた「フレームバイフレーム」圧縮ではなく、直近の本連載でも取り上げた「DSC」式のような走査線単位で圧縮する「ラインバイライン」圧縮を用いている。なお、WiGigは将来的にデータ転送速度を24Gbpsまで拡大するロードマップも掲げているので、より高い解像度やハイフレームレートへの対応についてはその進化を待つ必要がある。

VIVE無線化アダプタは新型VIVE PROだけでなく従来機と組み合わせて用いることもできる
前から見るとちょんまげを結ったように見えるのがユニーク

 さて、TPCastのものは映像と音声だけを「WirelessHD1.1」で無線伝送するもので、VR-HMDの位置、向き、傾きなどのトラッキングデータは別途WiFiなどの無線LANで伝送する必要があった。

 これに対してWiGigの方式では映像や音声だけでなく,そうしたトラッキングデータも同じインフラで伝送できる。ワイヤレス化による遅延は「ワーストケースで7ms未満」という。TPCastのものは2ms~5msという発表だったので、低遅延性能に関してはWiGig式の方が一歩劣ることになるが、まあ、「単一インフラで映像、音声、トラッキングデータの全てが伝送出来る」というWiGigのシンプルな実装系と利便性をHTCは採択したということなのだろう。

無線化アダプタ装着時はアダプタだけでなくHMD自身もバッテリ駆動するため、ユーザーはバッテリーを衣服などに偲ばせておく必要がある

筆者も新型VR HMD「VIVE PRO」を体験

 さて、実際にVIVE PROと従来機を比較しながら試せるデモをブースで体験したのだが、確かに従来機との解像度の差は歴然であった。VRコンテンツ内で描かれる岩肌、木の皮、砂浜などの微細凹凸が視覚できることに感動したが、シンプルに文字表示などが見やすくなっていることにも感心した。

CXC SIMULATIONが手がけるリアル系ドライビングシミュレーターを体験。「フェラーリ488GT3」を正確に再現しているとのことで、トランスミッションは2ペダルマニュアルしか選べない本格仕様。筐体は可動式
無線アダプタを搭載した従来VIVEを体験する筆者

 ただ、よく観察すると、まだサブピクセルの存在感は見えている。しかも、各ピクセルが「積み上げた煉瓦」のような「段違い」的な配列になっているように見える。これは従来機も同様だった。

 どうやら、今回のVIVE PROもペンタイル配列(千鳥足配列)の映像パネルを採用しているようだ。

 これはRGB(赤青緑)サブピクセルのうち、Gのサブピクセルのみをフル解像度とし、RとBのサブピクセルは半分の解像度としてしまう方式で「RGBが揃って一組のフルカラーピクセル」という考え方で実効表示画素数をカウントすると、スペック表記の約66%程度に落ち込んでしまう。つまり、今回のVIVE PROは両眼解像度で2,880×1,600ピクセルを謳ってはいるが、実効解像度は2,352×1,306ピクセル程度ということになる。

RGBストライプ方式とRGBペンタイル方式。一般的な直視型映像パネルは左のRGBストライプ方式を採用するが、コストを重視したり、あるいは高精細化限界を超えて見かけ上の解像度を上げるためには右のペンタイル方式を採用する

 ちなみにフル解像度を実現するのはRGBストライプ方式で、この配列はVR HMDではソニーのPS VRが採用している。

 PS VRは両眼解像度は1,920×1,080ピクセルで、VIVE PROの実効解像度は2,352×1,306ピクセルとなる。VIVE PROは実効解像度レベルにおいて、PS VRを超えているが、それでもたかだか1.48倍程度である。PS VR初代機の2年後に登場するモデルとしてはちょっと惜しい気がした。

 「ペンタイルで惜しい」といえば、別視点の話もある。

 ペンタイル配列の映像パネルに映像を表示する際、せっかくGPUがフル解像度で映像(CG)をレンダリングしても、ペンタイル駆動のために表示前段で色情報が平均化されて色解像度が圧縮されてしまう点だ。ザックリいえば、GPUがフルパワーで2,880×1,600ピクセル分の映像をレンダリングしても表示時には2,352×1,306ピクセルにまで間引かれてしまうということである。これはGPUパワーが「惜しい」ということになる。

 このあたりの課題に対し、もう一つのVR-HMDメーカーの競合Oculusの後継機がどう動くのかが気になるところである。

 最近、JDIシャープのような液晶パネルメーカーが超高速応答に対応したVR-HMD向けの液晶パネルを発表してきているが、果たして……。

ブースではMR的な体験が出来るコーナーも設置されていた。ただし、新型VIVE PROではなく従来機を活用。ゲームは「Arizona Sunshine」
筆者の華麗な立ち回りにも注目。かっこつけている割にはスコアは伸び悩み(笑)

全ては陰謀か…… 人体保存企業ブースがCESに出展!?

 今年のCES2018の「摩訶不思議な展示」といえばパナソニックブースの謎の劇場型の展示を挙げないわけにはいかないが、これに勝るとも劣らず不思議な展示を行なっていたのがPsychasec社だ。

 Psychasecは、クライアントの人体から遺伝子的に完全互換なクローンの人体を保存し、クライアントが万が一の状態の時にそのクローン人体をスペアパーツにして甦ることを支援する企業なのだという。

CES会場のサウスホールに一般企業ブース然として出展しているPsychasec社。
冷凍保存された人体を想起させるオブジェが入口に。一見しただけでは、プロモーションのためのブースだとは思わない人が大半

 ブースでは、かなり賢そうな面立ちの様々な人種のプレゼンターが、一定数の来場者を集め引き連れてブース内をツアー形式で回り、Psychasec社の人体保存への取り組み方を説明してくれる。

ツアーガイドのプレゼンターは全員があらゆる人種の美男美女

 そういえば、すでに北米ではアルコー延命財団のように、脳や人体を冷蔵保存して未来に甦ることを支援する企業や団体が実在するので、Psychasec社も、この類の企業で、ついにCESに出展するようになったのか、と筆者は思ったわけである。

 しかし、プレゼンターの説明を聞いていると所々に「え?」というような描写が出てくる。

「クライアントの皆様には脳髄のところにマイクロチップを埋め込んでいただくことで、定期的に脳の記録データをサーバー側にバックアップさせていただきます」

 確かに「人間の脳のデータ化」という研究は進められていると聞くが、商業的に実用化しているという話は聞いたことがないし……と、思っていると、ツアーの最後のセクションで「こちらをご覧下さい」と見せられた映像には「Netflix」のロゴが。

 このブース、実は「Altered Carbon」というSF小説の映像化作品の壮大な"騙し"プロモーションのブースだったのだ。

ブース最終セクションでは袋詰めにされた冷凍人体が横たわる。壁には「ALTERED CARBON」の文字が。ネタバレはこのあと(笑)

 この物語の舞台は27世紀。人間は死んでも予備のボディでよみがえれる設定で、記憶のバックアップは定期的に行なわれている。たとえ死んだとしてもバックアップデータと予備のボディがあれば一番最近のバックアップ記憶状態でよみがえれる設定だ。しかし、最後にバックアップした時点から死んだ時刻までの記憶は戻らない。「Altered Carbon」は、そうした記憶トリックをテーマにしたSFドラマらしく、Psychasec社はその物語に出てくる人体保存サービスの架空の企業名らしい。

 とてもお金と手間をかけたプロモーションに、エイプリルフールのごとく騙されてしまった筆者。しかも、「そのドラマちょっと見てみたい」と思ってしまう見事なプロモーションに感心させられてしまうのであった。

配信は2018年2月2日からだそうである(笑)

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。3D立体視支持者。ブログはこちら