西川善司の大画面☆マニア
第195回
赤色レーザー+シアンLEDの4K REAL「58LS1」の実力は?
三菱のオンリーワン技術を盛り込んだ画と音
(2014/12/26 10:00)
三菱電機は「レーザー光源」に拘るメーカーだ。液晶テレビの根幹パーツである液晶パネルはほとんど海外製。このことを知っている人は多いと思うが、実はバックライトモジュールも含めて海外でデザイン/製造したものをそのまま使った液晶テレビも少なくない。液晶パネルはともかくとして「光源ユニットだけでも独自デザインのものを……」と三菱電機の液晶テレビ「REAL」シリーズは頑張っているわけである。
三菱電機のレーザーへのこだわりは今は亡きリアプロジェクションテレビ時代から実用化を進めてきた。そのレーザー光源を採用した三菱電機の4Kテレビが「REAL 4K」シリーズの「LS1ライン」だ。65型「65LS1」と58型「58LS1」の2サイズ展開となっているが、今回は58型の「58LS1」を評価した。
設置性チェック~重量級の液晶テレビ。スピーカー性能は良好
58LS1は、最近の液晶テレビとしては重量級だ。スタンド有りで43.1kg、無しで42.1kg。いつもは筆者宅二階のリビングに運び込んで評価しているが、今回は重量や搬入の手間などを考慮し、編集部スタジオでの評価となった。いつもよりも評価時間が少ないことをお断りしておく。
直下型バックライトシステムでも、最近は58型で20kg前後なので、58LS1は破格の重さだ。これは設置の際には留意したいポイントだ。
また、最近の大画面テレビは脚部を大股に開いたスタンドデザインがトレンドだが、58LS1もご多分に漏れない。ただ、本体重量が重いことに配慮してなのか、その開きぶりが際立っている。
左右脚部の距離は143.1cmあり、表示画面の横幅の130.6cmを上回る。つまり、スタンド脚部が画面より外側に来るデザインなのだ。脚部の設置点が左右で140cmを超えているということは、一般的な横幅120cm程度のテレビラックやテレビ台には載せることができない。重量と併せて、この点も58LS1の設置面で留意すべきポイントといえる。なお、スタンド部の奥行きは40.2cmで、ここは一般的な寸法と言える。
ディスプレイ部の表示画面サイズは130.6×13.4×77.7mm(幅×奥行き×高さ)で、スタンドとスピーカーを含んで幅153.9cm、高さ84.9cm。巨大なスピーカーユニットが左右に配される関係で、横幅は最近の58型テレビよりも左右に10cmずつほど大きいイメージだ。
その巨大なスピーカーは、見た目の存在感だけでなく、音質も相当にいい。ツィータは左右各2基ずつ、ウーファは左右各1基ずつ、さらにパッシブラジエーターをも左右各2基ずつ備え、総出力は驚きの58W(ツイータ14W+14W、ウーファ15W+15W)。下手なサウンドバー製品よりもスペック的に優秀なほどの再生能力なのだ。
実際、音像の定位感は素晴らしく、疑似サラウンド機能をオンにせずとも十分なステレオワイド感を感じられるほど。
高音域の解像感もよく、ハイハットやライドシンバル、エレクトリックギターの高音アルペジオなどもリアリティと存在感が凄い。ウーファも「ダイヤトーンBASS設定」を「中」あたりにすると、よりリッチな感じとなる。
サウンド機能関連をいじってみて効果が高いと感じたのは「ダイヤトーンHD」機能だ。これはオン設定での常用をお奨めできる。これは、圧縮オーディオで失われてしまった周波数領域を復元するもので、いわば「音の超解像」的な機能だ。MP3のような圧縮オーディオもHi-Fiっぽく聞こえてなかなか感動的であった。
定格消費電力は290W。年間消費電力量 290kwh/年。直下型バックライト採用型の液晶テレビとしてはまずまずの省電力性能と言ったところ。
接続性チェック~4K/60Hz入力対応HDMI端子は2系統装備。LAN端子も2系統装備する
接続端子パネルは、本体正面向かって左側背面と左側側面に実装されている。
HDMI入力は4系統を搭載し、背面にある3系統がHDMI1、3、4、側面にある1系統がHDMI2となっており、ナンバリングが少々ややこしい。
HDMI3,4は4K/60Hz入力に対応するHDM I2.0準拠。もちろんHDCP 2.2にも対応する。今回の評価では、4Kチューナー/レコーダのソニー製「FMP-X7」を用いたが、HDMI3、4のいずれの端子でも4K録画コンテンツの再生が行なえていた。それ以外のHDMI1、2はHDMI1.4対応となる。ARC(オーディオリターンチャンネル)対応はHDMI3のみ。全てのHDMIはX.V.ColorとDeep Colorに対応する。
アナログビデオ入力はコンポジットビデオと、アナログステレオ音声入力端子のペアが2系統。D端子は無い。音声出力端子は、光デジタル端子とアナログ音声(ステレオミニ)を装備する。加えて、正面向かって左側面にはヘッドフォン端子もある。
特徴的なのはEthernet(LAN端子)が2系統あること。LAN1はインターネットを含めた外部ネットワークへ接続するためのもの、LAN2はレコーダやNASなど家庭内ネットワークへの接続用となる。
無線LANは未搭載だが、Bluetoothは搭載している。今回は評価できていないが、Bluetooth機能は、タニタのデジタル体重計(体組成計)やデジタル活動量計に公式対応しており、そうしたヘルスガジェットから取得した家族の健康情報をLS1側にダウンロードして分析したりグラフ表示したりできるようだ。
USB 2.0端子は1系統。2TBまでのUSB HDDを接続することで番組録画に対応する。USBハードディスクは8台までの登録が可能だが、USBハブ経由の複数接続には未対応とされている。
PC入力端子はなし。PCはHDMI端子との接続になるが、その際に問題となるオーバースキャン設定とHDMI階調レベル設定について調べてみた。オーバースキャン設定のキャンセルは「サブメニュー」-「画面サイズ」-「フルピクセル」から可能となっていた。
HDMI階調レベルの設定はなし。ただし、今回の評価でPS3やPCをテストした限りでは自動認識が正しく動作。正しい階調レベルの表示になっていた。
ゲーム機との接続時に問題となる表示遅延についても調べてみた。
画調モードとしての「ゲーム」はないが、表示遅延を低減するための「ゲームモード」機能が「サブメニュー」にある。ゲーム機との接続時はこれを「入」設定とするといい。
表示遅延の実測は、公称表示遅延時間3ms(60fps時0.2フレーム相当)を誇る東芝REGZA「26ZP2」との相対比較になるが、通常時(ゲームモード=切)が約184ms(60fps時、約11フレーム相当)、「ゲームモード=入」時で約50ms(60fps時、約3フレーム相当)となった。通常時(ゲームモード=切)ではゲームをプレイするのは困難なレベルの遅延となる。ゲームモード時はだいぶ改善はされるが、最近の液晶テレビのゲームモードの多くが20ms未満に縮めてきていることを考えると、もう少し頑張って欲しい気はする。
操作性~リモコンはフラットタッチ式
リモコンは実体ボタンのない平坦パネルのタッチ式デザインとなっている。ボタン部に触れて指に力を入れて押し込むと若干のクリック感はある。
液体をこぼした際にもリモコン内部に液体の侵入の心配がないため、汚れてもさっと拭くだけで綺麗になるため、メンテナンスフリーという利点はある。ただ、ボタンを押している感覚が乏しいのと、見た目の高級感がないため、賛否は分かれそうではある。
リモコン上のボタンの数は多め。その分、一通りの機能をリモコンで呼び出せるようになっているのは好感触。例えば、[画質][色彩][音質]の各ボタンは同名の各設定項目にダイレクトに飛べるショートカットボタンになっており、筆者のような調整マニアには歓迎されそうである。
一方で、[見る][予約][残す(ダビング)]という、分かりやすいキーワードを掲げてのテレビの基本機能へのアクセス誘導も分かりやすく、初心者への配慮もちゃんとあるのも立派だ。
操作面で気になった点が1つある。それはリモコン操作をすると、コンテンツ側の音声再生をミュートさせた上で「ピコン」というレスポンス音を鳴らすところ。多くの競合製品では、コンテンツ側の音声再生は途切れさせずにレスポンス音を上乗せミックスさせているので、58LS1の振る舞いには操作のたびに違和感を持った。ちなみに、この操作レスポンス音は「操作・報知音量」設定を「切」とすることで無効化できる。
今回は、評価環境にテレビアンテナが来ていなかったため、内蔵テレビチューナーを使った視聴は行なっていない。そのため、テレビ放送の起動/出画所要時間やチャンネル切換の所要時間計測は行なえていない。
なお、電源オン後、HDMIの映像が出てくるまでの所要時間は実測で約5.0秒、HDMI-HDMI切換所要時間は約4.0秒であった。最近の機種としてはあまり早い方ではない。
画質チェック~「赤色レーザー光源×シアン色LED」の実力は?
58LS1の最大の特徴は、冒頭でも述べたようにバックライトにレーザー光源を採用しているところにある。
とはいっても、バックライトの光に必要な白色光を構成する赤緑青(RGB)の各色のうち、赤のみにレーザー光を採用している。青と緑の光源についてはLEDを採用しているのだ。青色光と緑色光は足し合わせるとシアン(水色)光になるわけだが、これは、青色LEDに緑色の蛍光体を組み合わせて作られている。
そう、LS1シリーズは、バックライトに、赤色レーザー光源と、シアン色LEDを組み合わせた構成を取っているのだ。
なぜ、赤色だけレーザーを採用しているかというと、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせて作る白色LEDでは、赤成分の輝度パワーが弱いため。まあ、直観的にも、波長の長い赤色光を、波長の短い青色光から作るのは何となく大変そうなのはイメージできる。ならば、赤色光はレーザー光から得ることにして、蛍光体から作り出す色を緑のみに限定することで、多くの緑成分の輝度パワーを獲得しようとしたわけだ。青色光は、青色Lの自発光成分からそのまま得られるので問題がない。
LS1は、液晶パネルの背面側にバックライトを配した「直下型バックライトシステム」を採用しているわけだが、これだけではLS1のバックライトシステムの説明としては不十分である。
実は、LS1では、直下型バックライトとなっているのはシアン色LEDのみで、赤色レーザーは左右エッジに配したエッジ型バックライトシステムを採用しているのだ。いうなれば、LS1は直下とエッジのハイブリッドバックライトシステムを採用しているということになる。
赤色レーザーは、拡散板で拡散されて導光板を通じて画面全体を照らす設計となっている。
シアンLEDは直下型配置なので、画面の任意のブロックを任意の輝度で照らすことが可能だが、エッジ配置される赤色レーザー光はそうなってはない。
実際に、黒背景に白箱を移動させるテスト映像を見てみたところ、白箱がある横方向の黒背景が浮き気味になる特性を把握した。さらに黒背景に対し画面中央を縦を貫く白帯を表示させて見たところ、全ての黒背景に黒浮きが出ていた。
以上の実験から、おそらく赤色光を導く導光板は左右から中央に対して横長の帯状になっており、赤色に限っては「左右2分割×上下複数段分割(分割数非公開)」の、いわば横長帯を2列、上から複数個並べたような簡易エリア駆動となっていると思われる。この赤の挙動にバランスする形でシアン色LEDも発光させなければならないので、上記のような黒浮き特性が出たものと推察される。
一方で、LEDとレーザーが双方光るためなのか、ピーク輝度は相当に明るい。色の艶やかさも手伝って、店頭などでは、「はっ」とするような、目を惹く存在となっていることだろう。
さて、このハイブリッド光源システムともいえるLS1の発色や画質の傾向だが、「映像モード」(画調モード)によってだいぶ印象が異なるので、各映像ごとにインプレッションを述べることにしたい。
まず「ハイブライト」だが、これは一般的なテレビでいうところの「ダイナミック」モードに相当する画調モードだ。コントラスト感はかなり強調気味で、色も鮮やかかつ派手だ。赤色レーザー光源による赤の鋭さも最大強調されるので、店頭でこのモードが設定されていれば相当目を惹きそうである。
「スタンダード」はいわゆる標準画調モードに相当するが、赤色レーザー光源を使っているLS1だけに、色域拡張はそれなりに行なわれている。不自然さはそれほどないが、赤はそこそこに鋭い。肌色の明部は血色の良い健康的な色あいになるが、一方で肌色の陰の部分が赤に強く振れ気味な傾向がある。「ハイブライト」よりは、階調破綻は少なく、LS1の発色をそれなりに楽しみつつ、原信号の旨味もそれなりに味わいたい向きにはお奨めな画調だと言える。
「シネマ」は色温度が下がり、前述の2つよりもだいぶ落ち着いた色あいになる。「スタンダード」のように純色の鋭さはあるが、肌色も良好なバランスに調整されている。「スタンダード」で気になった肌の陰の部分の赤に振れる特性もほどほどに押さえられている。赤色レーザー光特有の鋭い赤は、最も明るい赤に出るのみ。全画調モード中、最も安心して使える画調モードか。映画を見るとキセノンランプ搭載のプロジェクタっぽい画質になるのもいい。
「フォトナチュラル」は「シネマ」に近い画調で、「シネマ」よりもさらに赤色レーザー光の鋭い赤は、なりを潜める。sRGBソースとの相性が良いように調整されているようで、一般的なテレビやモニタの画調に近いといえる。コントラスト感よりも、階調表現を優先させており、暗部階調の視認性は良好。肌色も自然であった。
「フォトビビッド」は、派手目な発色で色あい的には「スタンダード」に近いが、階調表現を暗部からリニアに描き出していこうとする意図が見られる。赤色レーザー光特有の鋭い赤色パワーは健在。「スタンダード」のように、肌の陰が赤に振れる傾向あり。
総括としては、赤色レーザーの色合いを楽しむならば「スタンダード」がいいが、オリジナルコンテンツの色あいを重視するならば「フォトナチュラル」、「それではLS1の旨味がでない」ということであれば、広色域エッセンスがほどよく付加された「シネマ」がお勧め、といった感じだ。
ソニー「FMP-X7」で録画した4Kコンテンツも視聴してみた。見たのは4K試験放送で放送されていた「世界遺産」総集編だ。
主に見たのはイタリアのラヴェンナのガラスモザイク壁画のシーン。モザイク壁画にカメラが寄った映像では、ガラス片の質感が非常に精細に見えていた。ガラス片は手作業で砕いているので切断面が所々毛羽立っていたりするのだが、その切断面の微細な凹凸感が鮮明に見えるのが感動的であった。
カメラが離れ、モザイク画全体を捉えたときには、1つ1つの色が微妙に異なるガラス片が豊かな発色をし、モザイク画の定義を超えた微妙な陰影表現がなさけれていることを再確認させてくれる。
映像を見たときに「解像感が高い」と感じた場合、それは実質的には高周波のY信号成分(輝度成分)の鮮鋭度を実感していることに等しいわけだが、58LS1の映像はこれに加えて微妙な色ディテールまでを4K解像度で描き出せている感がある。シンプルな言葉で言えば「色情報量が多い」映像として見えるのだ。ここは、たしかに、「シアン色×LED赤色レーザー光源」のパワーが効果的に効いた結果ということなのだろう。
1つ気になったのは「MPEG NR」と「三次元NR」の設定。
いくつかの「映像モード」では、これらの設定がデフォルトで「弱」や「強」設定になっているのだが、これが原因で、BD映像や4K映像に対し「尾を引くような残像ノイズ」を与えてしまう局面が確認できた。
BD映像や4K映像のように、元々、高品位な映像の場合は「MPEG NR」と「三次元NR」をかけてもほとんど効果がないどころか、むしろ画質を劣化させる方向に働いてしまうので「切」設定にすべきだ。実際、この二項目の設定を「切」とすると、前述したようなノイズは回避できる。基本、ここは「切」設定でいいはずだ。
もし、人物の顔面が画面内を移動した際、頬の陰影などが糸を引くような残像に転じたときは、このテクニックを思い出すべし。
2Kコンテンツの4K化エンジンとして「ダイヤモンドHD」と呼ばれる超解像処理機能が搭載されているが、微細な陰影表現(テクスチャ表現)の強調だけでなく、なぜかフィルムグレインノイズをも強調してしまう傾向がある。あまり常用したくないが、どうしても効かせたいというのであれば「弱」設定くらいがいいかも。
独自路線の4Kテレビの価値
58LS1は、エッジ型赤色レーザー光と直下型シアン色LEDを組み合わせた独自のバックライトシステムを採用し、各社から出ている4Kテレビ製品の中にあっても唯一無二の存在である。
2014年12月時点の実勢価格は58LS1が46万円前後、65LS1は68万円前後と、同画面サイズの直下型LEDバックライトの4Kテレビよりやや高価な価格設定。この特殊バックライトシステムによる広色域性能を楽しみたいならば指名買いという人も多いかも知れない。
今回の評価で、58LS1の特殊な直下型バックライトは、その構造上の理由から、暗部よりも明部を際立たせる画作りと言うことが分かり、基本的には暗室で見るよりは、そこそこの明るさの部屋で見た方が満足度が高くなる。蛍光灯照明下でも明るい映像が楽しめる液晶テレビらしい階調特性、コントラストチューニングは、日本の家庭事情には合っていると思う。今後、ぜひともフル直下バックライトシステムの暗室視聴に適したモデルの登場を期待したい。
超解像エンジン「ダイヤモンドHD」は、もう少し性能が上がると、フルHD(2K)コンテンツを疑似4K化して楽しむ向きにも使えると思うが、現状は、4Kチューナを接続して4Kコンテンツを視聴することに重きを置いている感じだ。
「ダイヤモンドHD」をオフにすると、2Kコンテンツはマルチサンプル的なアルゴリズムによるアップスケールがなされるため、しっとりとしたアナログ感のある画調になる。これはこれで味がある。
サウンド性能が高いのも魅力。今後も、価格競争ではなく、こだわりの独自路線を突き進み、三菱REAL独自の価値を追求していって欲しいと思う。