第123回:フルHD DLPの価格破壊? 三菱「LVP-HC3800」
~実売20万円を切る低価格プロジェクタの実力は?~
透過型液晶勢にコストパフォーマンス的に差を付けられてきたリアルフルHD対応DLP勢だったが、2009年秋に発売となった三菱電機の「LVP-HC3800」は、果敢にもフルHD DLP機の価格破壊を行なった。
実売で20万円以下の価格設定されているこのLVP-HC3800は、DLP機というジャンルを超えて普及型フルHDプロジェクタとしての攻勢を強めているようだ。今回は、この注目のモデルを取り上げる。
■ 設置性チェック ~設置シミュレーションは入念に
「LVP-HC3800」。本体底面前側の左右にはネジ式の高さ調整用脚部を装備している |
ボディは光沢ブラック塗装で写真から予想していたものよりも質感は高い。ボディサイズは345×270×129mm(幅×奥行き×高さ)と近年のフルHD機の中にあってはかなりコンパクトだ。このあたりは投射エンジンがコンパクトに構成できる単板式DLPの優位性が表れているといったところか。重量も約3.5kgと重くないので、使いたいときにだけ設置するカジュアル派ユーザーにも出し入れが苦にならないはず。
投射レンズは1.5倍式ズームレンズ(f=20.6~30.1mm)で、ズーム調整およびフォーカス調整機構は外角リングを回しての手動式となっている。
100インチ(16:9)の最短投射距離は3.1m、最長投射距離は4.6m。ズーム倍率はやや低めだが、短焦点性能は最近の主流機と比べて遜色ないので、6~8畳くらいの部屋でも100インチ大画面はちゃんと楽しめるはず。
ただし、注意しておきたいのは、LVP-HC3800にはレンズシフト機能がないという点。購入希望者は事前に入念な設置シミュレーションが必要だ。
というのもレンズシフトがないだけでなく、光軸が約34%も上向きになっているのだ。例えば100インチ(16:9)投射の場合だとプロジェクタ設置位置のレンズ中央から上に42cmも打ち上げ投影になる。
投射レンズにレンズシフト機能がない。ここは設置の際の大きなポイントとなるので留意されたし |
つまり、画面の中央を着座時の視線に合わせる一般的なリビングシアター設置ケースにおいて、LVP-HC3800を台置き設置する場合には相当背の低い台を用意する必要がある。
疑似天吊り設置は、ボディがコンパクトなのでできなくもないが、LVP-HC3800にレンズシフトがないことから天地を逆転しなければならない。LVP-HC3800は投射レンズの存在により、上面が盛り上がっているのでそれもなかなか難しいことだろう。しかし、三菱電機はそうした疑似天吊り設置に向いた設置金具「BR-H3800」(16,590円)を純正オプションで設定している。天井加工ができない賃貸住宅の場合は、この金具と背の高い棚を組み合わせて設置するとよいかも知れない。
もちろん、天吊り金具も純正オフジョンとして設定されている。本体組み付け金具の「BR-HC3800S」が29,400円、天井取り付け金具の「BR-2」が23,100円と、組み付け金具と天吊り金具が別売になっている点には注意したい。このような、別売りになっているのは、すでに三菱ホームシアター機を天吊り設置利用しているユーザーへの配慮だ。すでにLVP-HC3000系、LVP-HC1100などの720p機、LVP-HC900系の1024×756ドット機にて天吊り金具設置をしているユーザーの場合、新たに購入するのはBR-HC3800Sだけで、元々の天吊り金具はそのまま流用できる。しかも、前述したモデル群はいずれもレンズシフトなしの仰角特性もほぼ同じなので、ボルトオンの置き換えでLVP-HC3800へ交換設置が行なえる。天吊り設置は何かと大がかりな作業なので、ここが面倒という三菱ファンならば、前述したような「レンズシフトなし」という制約も気にならないかもしれない。
光源ランプは出力230Wの超高圧水銀系ランプで、なかなかのハイパワーランプの採用となっている(低輝度モードでは190W)。光源ランプは専用設定された「VLT-HC3800LP」で、価格は26,250円。ランプのメーカー公称寿命は低輝度モード時で約5,000時間、標準輝度モード時で約3,000時間とのこと。交換ランプが低価格なことと相まってランニングコストはなかなか優秀だ。なお、ランプ交換は本体正面から行なえ、天吊り設置時には下から交換可能。これは便利だ。
光漏れは本体正面向かって右側からそれなりにあるが投射方向の影響はほぼなしとみてよい。
消費電力は高出力ランプを使っていることもあって最近の機種としては高めな330W。騒音レベルは低輝度モード時で25dB、標準モード時はもうちょっと大きくなる。最近の機種としては騒音はやや大きめで、出来れば設置位置は視聴位置から2メートルくらいは離したいところ。
エアフローは、正面向かって右側から吸気、左側へ排気という流れ。背面は(接続端子パネルはあるが)エアーフローに影響しないので、背面のクリアランスにはそれほど神経質にならずに、部屋最後面に設置できるはず。
こちらのスリットが吸気口。ここから若干の光漏れがあるが、投射映像への影響は無し | 排気口はこちら。LVP-HC3800は吸排気を側面に構えるため、設置の際は左右のクリアランスに注意したい。 |
■ 接続性チェック ~接続端子は各種1系統ずつ。トリガ端子もあり
接続端子パネルは背面にレイアウトされている。低価格機ということもあって、接続端子は必要最低限にまとめられている。
背面の接続端子パネル |
デジタルインターフェイスはHDMI端子が1系統のみ。バージョンは1.3になる。複数のHDMI機との接続を想定する場合はHDMI端子スイッチングが可能なAVアンプか、HDMIセレクターの使用が必要になる。
アナログビデオ入力端子はコンポジットビデオ入力端子、Sビデオ入力端子、コンポーネントビデオ入力端子が各1系統ずつあり、一応、アナログ映像機器も一通りは接続できるようになっている。
PC入力端子としては、D-Sub15ピンのアナログRGB入力端子を装備する。この端子は市販の変換ケーブルを用いることで追加のコンポーネントビデオ入力端子としても転用が可能だ。
PCとのデジタル接続にこだわりたいユーザーは、市販のHDMI-DVI変換アダプタなどを用いて接続することになる。実際にNVIDIA GeForce GTX280搭載PCにてHDMI経由でLVP-HC3800と接続してみたがドットバイドットの美しい表示が実現できていた。なお、HDMI階調レベルは「アドバンスドメニュー」階層下の「入力レベル」を「エンハンスド」に設定することでPCの0-255のフルレンジRGBを正しく表示できる。
PC画面をHDMI出力した際に問題となる出画率(オーバースキャン/アンダースキャン)についても、LVP-HC3800はちゃんと設定項目を設けている。「信号設定」メニューの「オーバースキャン」がそれで、90%~100%の設定値が与えられる。PC画面の全領域表示をするためのオーバースキャンのキャンセル設定はここを「100%」とすればOKだ。
この他、電動スクリーンや電動カーテンなどとの連動動作を想定した、本体稼働中にDC12Vを出力するトリガ端子、サービスマン用のシリアル接続端子などが実装されている。
■操作性チェック ~シネスコスクリーン、アナモフィックレンズ関連の機能が充実
全ボタンが自照式に発光するリモコン | 本体上面には電源ボタンや簡易メニュー操作スイッチ群がレイアウトされている |
リモコンはLVP-HC5000/6000/7000系に搭載されていたもののデザインをほぼそのまま踏襲している。LVP-HC5000/6000/7000系のものはシルバーやホワイト系だったが、LVP-HC3800のものは全面つや消し黒塗装となっている。
底面には二つのくぼみがあり、ここに人差し指と中指をあてがうと親指が自然と表面の十字キー分にあてがわれるというエルゴノミックデザインは暗闇でリモコンを掴んだときにもボタンの位置の当たりが付けやすくていい。
リモコンの全ボタンは自照式に発光するが、ライトアップボタンがなく「リモコン上の何かのボタンを押すと光る」という不思議な機能デザインとなっている。単体で押しても意味をなさない十字キーボタンなどが、実質的なライトアップボタンとして活躍することになるのだろうが、その意味で、前述の「リモコンを掴むと親指が自然と十字キーにあてがわれるエルゴノミックデザイン」がここでも功を奏することとなる。ボタンの文字は大きくて読みやすいものの、ライトアップ輝度がやや暗め。もうちょっと明るいと使いやすくなると思う。
電源ボタンは、誤操作防止のために[ON][OFF]を別ボタンレイアウトしている。電源投入後はLVP-HC3800のロゴ(スプラッシュスクリーン)が表示されるが、これをOFF設定にすることで、最初は暗いものの映像表示までの時間を短縮できる。これはユーザーは覚えておくといいテクニックだ。ちなみに、スプラッシュスクリーンOFF設定時の、電源オン操作からHDMI入力の映像が投射されるまでの時間は約17秒で、まずまずの早さ。
入力切換ボタンは、順送り式ではなく、希望の入力に一発で切り換えられる個別ボタン方式。切り替え所要時間はコンポーネントビデオ→HDMIで約3.0秒、HDMI→コンポーネントビデオで約2.0秒で、タイム的には早いというほどもないが、順送りでなく直接希望入力へ切り換えられるで体感的には小気味がよい。
アスペクト比切換は[ASPECT]ボタンにより順送り切換式。切り替え所要時間は約1.0秒程度。切換のたびにいちいち画面が消えるのが少々煩わしく感じる。用意されているアスペクトモードは以下の通り。
モード名 | 機能 |
4:3 | アスペクト比4:3映像をアスペクト比を維持して表示 |
16:9 | パネル全域に表示。アスペクト比16:9の映像向け |
ズーム1 | アスペクト比4:3フレームにシネスコ(2.35:1)記録されている映像を字幕エリアを確保しつつ16:9パネルに拡大表示するモード |
ズーム2 | アスペクト比4:3フレームにビスタ(1.85:1)記録されている映像を字幕エリアを確保しつつ16:9パネルに拡大表示するモード |
ストレッチ | アスペクト比4:3の映像を疑似ワイド(16:9)表示するモード |
アナモフィック1 | シネスコ(2.35:1)記録されている映像をパネル全域にマッピングしてアナモフィックレンズを通して視聴するためのモード |
アナモフィック2 | アナモフィックレンズを通した状態でアスペクト比16:9などの映像を正しく見るためのモード |
ズーム1、2はレーザーディスクやVHSビデオなどのアナログビデオコンテンツを視聴する際に重宝しそうなモードだ。また、アナモフィックレンズ装着時のアスペクト比モードが充実しているのもLVP-HC3800の特徴だといえよう。アナモフィックレンズ装着時でも16:9映像などを正しいアスペクト比で視聴できるというアナモフィック2モードは、シネスコの映画視聴をメインにして固定式のアナモーフィックレンズを装着してしまった設置環境のユーザーにとっては嬉しいモードかもしれない(解像感低下はともかくとしても)。
メニューのデザインはLVP-HC3000の時から大きく変わってはいない。調整可能な画調パラメータは「コントラスト」、「ブライト」(ブライトネス)、「色の濃さ」、「色合い」、「シャープネス」などがあり、これらはメニューからでも、リモコン上の[CNT](コントラスト)、[BRT](ブライト)、[SHARP](シャープネス)、[COLOR](色の濃さ)からでも調整が可能。ただし、なぜか「色合い」については対応ボタンがなく、リモコンからは調整できない。LVP-HC3000の同じデザインのリモコンでは、ボタン配列がもう一列多かったのだが、コスト削減のあおりなのか、LVP-HC3800では一列少ないのだ。出来れば、もう一列ボタン群を設けて基本画調パラメータは全てリモコンから調整できるようにして欲しかったところ。
「画質」メニュー | 「設置」メニュー | 「オプション」メニュー | 「信号設定」メニュー | 「詳細設定」メニュー | 「情報」表示 |
LVP-HC3800にはプリセット画調モードはなく、「ガンマモード」という画調パラメータが実質的なプリセット画調モードとなっている。「スポーツ」「ビデオ」「シネマ」の3つのプリセットガンマカーブが用意されているが、あくまでガンマカーブ(階調特性)の設定なので色味は大きくは変化しない(多少変わる)。
ガンマモードもユーザーカスタマイズが出来るようになっており暗部、中部、明部の3つの階調区分ごとに各RGBごとの出力ゲインを設定できる。3(暗中高)×3(RGB)のマトリックス式の調整インターフェイスはシンプルだが、結果をイメージしやすくて分かりやすい。このユーザー作成したオリジナルガンマカーブはUSER1、2の二つのメモリに保存することが出来る。なお、後述のAV MEMORYごとにUSER1、2の2つが用意されている点に留意したい。
「ガンマモード-USER」メニュー |
色温度はプリセットとして「高」(9300K)、「標準」(6500K)、「低」(5800K)の3つと、ランプ特性がむき出しになる「高輝度」の合計4つが用意されている。この他、ユーザーカスタマイズができる「USER」モードがあるのだが、なぜか、デフォルトでは前出4つではなく、かならずこのUSERが選択されている。
USER色温度モードはR(赤)、G(緑)、B(青)の各色のコントラストとブライトを個別に設定することで作成する。意味合い的には他機種で言うところのゲイン=コントラスト、オフセット=ブライトというイメージで調整していくとわかりやすいかも知れない。
「色温度-USER」メニュー | 色温度=高輝度 | 色温度=高(9300K) |
色温度=標準(6500K) | 色温度=低(5800K) |
より高度な画質関連調整を行なうための「アドバンスドメニュー」のパラメータについてもいくつか触れておくことにしよう。
「アドバンスドメニュー」メニュー |
「スクリーンサイズ」はシネスコサイズにこだわりを見せるLVP-HC3800ならではの設定メニューで、設置した2.35:1スクリーンに対して16:9の映像の上下を切って2.35:1にするもの。アナモフィックレンズなしの2.35:1スクリーンの投射環境のための設定だ。
「CTI」(カラー・トランジェント・インプルーブメント)は色の滲みだしを低減させて色境界を鮮明にするフィルタ機能の設定で0~5までの設定が行なえる。こちらはアナログSD映像に対して効果を発揮する。
「入力レベル」はHDMI機器を接続時に利用する項目で、HDMI階調レベルを0~255の「エンハンスド」設定か、16-235の「ノーマル」に設定すべきか、あるいは自動設定の「AUTO」が選べる。筆者の実験では、PCをHDMI-DVI接続したときに「AUTO」では16-235の「ノーマル」が誤選択されていたので明示的に「エンハンスド」設定に直す必要があった。PS3をフルRGB出力させている場合もここは「AUTO」ではなく「エンハンスド」にしないと駄目だった。
PS3をRGBフル設定にてHDMI接続したとき。入力レベル=エンハンスド設定で正しい階調が現れる | 入力レベル=AUTOではノーマルが誤選択されて黒つぶれと白飛びが出てしまう。PCやPS3をHDMI接続した際には「AUTO」は選ばず自分で明示設定しよう |
リモコンの[C.M.]ボタンからも呼び出せる「カラーマネージメント」機能は、赤、緑、青、シアン、マゼンタ、イエローの6色に分類される色範囲について色調整を個別に行うもの。調整しても他の色には影響を最低限に出来るデジタル次元での調整となるので、VHSビデオなどのアナログソースなどで起こりうる、特定の色が減退していて気に入らないときなどに活用するといいだろう。
「カラーマネージメント」メニュー |
ユーザーメモリ機能は「AV MEMORY」という機能名で、各入力系統ごとに1,2,3の3つが利用できる。前述したガンマモードのUSER1,2はAV MEMORYごとに個別管理されるので、たとえばAV MEMORY1のUSER1ガンマモードとAV MEMORY2のUSER1ガンマモードは全く別扱いと言うことになる。
保存出来る内容は基本画調パラメータおよびアドバンスドメニュー階層下の全て。つまり「画質」メニュー階層下の全ての設定パラメータを保存出来る。
なので、AVアンプやHDMIセレクターなどでHDMI階調レベルが異なるHDMI機器を切り換えることが多いユーザーは、たとえばAV MEMORY1をエンハンスド設定にして、AV MEMORY2をノーマル設定にして、これを選択HDMI機器に応じて切り換える、といった使い方が出来る。
■ 画質チェック~パネル世代は古くとも上質なDLP画質
LVP-HC3800は単板式のDLPプロジェクタとなる。映像パネルは0.65型のフルHD(1,920×1,080ドット)のDMDで、パネル世代的にはDarkchip2となる。最新世代パネルはすでにDarkchip4に移行しているので、コスト重視のために二世代前のパネルを採用したということのようだ。そういえば、昨年夏に本連載で取り扱った「Optoma HD82」も、Darkchip4ではなくDarkchip3を採用していた。最近のホームシアター機はどうしても価格重視の傾向があるので、DLP陣営としても最新パネルの採用にこだわるワケにいかないのかもしれない。
最新世代のパネルではないが、DMDの開口率の高さは、最新の透過型液晶パネルを遥かに凌駕しており、画素を仕切る格子筋は100インチ投影して2メートルも離れればほとんど見えない。各画素の開口率は約90%はあるようで、面表現における粒状感の少なさはさすがDLPといったところ。
さすがDMD。画素開口率が高い。レンズシフトを省いた恩恵でフォーカス性能の高さと低色収差を獲得している |
投射レンズは、レンズシフト機能を省略した分、この価格帯にしてはフォーカス性能は上々。フォーカス斑がないわけではないが、画面中央と四隅で大体落としどころを決めてフォーカスを合わせれば納得のいく像は得られる。同様に、この価格帯にしては色収差も最低限に収まっており、優秀だ。総じて、解像感は良好であり、1,920×1,080ドットの解像感は充分に得られている。
公称最大輝度は1,200ルーメン(標準輝度モード時)。標準的なホームシアター機が1,000ルーメンあたりなので、若干LVP-HC3800は輝度重視のスペックになっているが、軽くカーテンを引いたくらいでカジュアルに楽しむ事も多いホームシアターでは、この高輝度性能はむしろ心強い。実際、蛍光灯照明下での評価もしてみたが、BrilliantColorオン、ランプモード=標準、色温度=高輝度とすれば、十分映像の内容は楽しめるほど明るかった。
ネイティブコントラストは3,000:1。LVP-HC3800は動的絞り機構などのダイナミックコントラスト機構を持たないため、掛け値なしのコントラスト値が3,000:1だ。最新のLCOS機などではネイティブコントラストが1万:1を超えるものが出てきているが、これはパネル世代がDarkchip2であることと、価格帯を考えれば、むしろがんばっている方だと思う。
ランプモード=標準。こちらが1,200ルーメンのモード。暗部情報量も多い。 | ランプモード=低。こちらは黒浮きは低減されるが暗部情報量も減る。どちらを選ぶかは鑑賞する映像のタイプ次第か |
絶対的な黒の沈み込みは最近の進化の著しい透過型液晶機やLCOS機にやや及ばない感じだが、それでも、DLPが潜在的に持つ光の利用率の高さから、ハイライト部分の鋭い煌めきは最新競合機に優るとも劣らない。暗いシーンではDarkchip2の世代の古さや動的絞り機構のなさが「黒浮きの差」になって現れるが、普通の暗部と明部が同居する映像では体感値としては3,000:1以上のコントラスト感を感じる。
階調表現も優秀で、暗部のグラデーションも美しい。今回の評価でも「ダークナイト」を用いたが、淡いライトに浮かび上がるバットマンの黒ずくめのマスクが、美しい滑らかな黒からグレーへのグラデーションで描かれていたことが確認できた。このあたりはLVP-HC3800の12bit浮動小数点ガンマ補正や、10bitパネルドライバDDP3021によるによるデジタルプロセッシングの優秀性の効果も大きいと思われる。
単板式DLP機は暗部表現でディザリングノイズが気になる場合があるので確認してみたところ、LVP-HC3800では、スクリーン表示面に1mまで近づくとこれが視覚出来た(個人差あり)。ただし、2mも離れれば分からない。なお、LVP-HC3800のロータリーカラーホイールは4倍速のRGBRGB-6セグメントタイプとのこと。ちなみに、6倍速のRGBRGB-6セグメントタイプを採用していたOptoma HD82は、LVP-HC3800よりはディザリングノイズは少なかった。ここは「カラーホイールの回転速度の違い」であり、「価格差の違い」が現れていると言うことなのだろう。
色深度も深く、この価格帯でここまでの色表現が出来るのかと感心させられた。2色混合グラデーションも非常になめらかでアナログ的で液晶っぽい。最暗部のカラー表現においても、ちゃんと色味が残っているのが素晴らしい。黒浮きが若干あるので最暗部はややグレーがかるが、その際暗部においても、その色の存在はちゃんと分かるレベル。暗いシーンではたしかに暗部の沈み込みは最新の30万円以上の競合機に及ばないが、色情報量に遜色はなく、暗い映像でも情報量はしっかりしている。
発色は上位機種に比べても全く遜色がない。これは、パネル世代が古くても、超高圧水銀ランプは最新世代だからだろう。やや水銀系ランプ特有の青緑っぽい色味はうっすらと感じるが、純色の赤は十分に鋭いし、緑や青とのバランスは悪くない。肌色はデジタルカラープロセッシングが別処理を行なっているためだろうか、水銀系ランプ特有のクセは感じられず、透明感のあるナチュラルな肌色が出せていた。
BrilliantColorモードについてのインプレッションも言及しておこう。BrilliantColorとは、単板式DLP機の中間色再現においてRG,GB,BRの混色までを動員するもの。光利用効率が1.5倍に向上するので輝度も高くなり、色ダイナミックレンジも向上するというDLP技術開発元のTIが編み出したテクノロジーだ。
LVP-HC3800では「AUTO」「ON」「OFF」が選択設定できるのだが、ON設定が強制的にこのテクノロジーを活用する設定となる。ONで常用するとたしかにマゼンタ、シアン、イエロー系の中間色のダイナミックレンジが上がって色味も豊かとなって映像も明るくなるのだが、一部の色境界でマッハバンド(擬似輪郭)が出ることがあった。場合によっては人肌にの陰影に大胆にマッハバンドが出てしまうので、OFFまたは、システムが適宜活用してくれるAUTO設定を選ぶべきだ。競合他機種にあるような広色域モードよりも、色再現メカニズムの根幹をいじるものなので慎重に設定したいところ。
【BrilliantColorが効果的な例】
BrilliantColorオン。地面の中間色のダイナミックレンジが広がり色ディテールが浮かび上がる | BrilliantColorオフ |
【BrilliantColorが裏目に出る例】
BrilliantColorオン。人肌が過度に赤くなってしまう | BrilliantColorオフ |
単板式DLP機で気になる色割れ(カラーブレーキング)については、意図的に小刻みに視線を往復させなければ気にならないレベル。「ダークナイト」のアクションシーンでも気にならなかったので、おおよそのアクション映画ならば大丈夫だろう。また、Xbox360にて「ストリートファイターIV」などの格闘ゲームもプレイしてみたが大きな遅延は感じられず。また、プレイ中に色割れが知覚されることもなかった。
■プリセットガンマモードのインプレッション
LVP-HC3800には、プリセット画調モードはないが、ガンマモードがこれに近いので、インプレッションを述べておく。同じガンマモード設定でも、色温度設定やColorBrilliantの設定によってはかなり印象が変わる…ということを踏まえた上で参考にして頂きたい。
●スポーツ
他機種で言うところの「ダイナミック」モードに相当する。
水銀ランプの特性がむき出しになるため、全体的な色調は黄みがかるが、その分ピーク輝度は明るくなる。蛍光灯照明下でプレゼンをする際やパーティなどで環境映像的に映像を流す際にはいいだろう。
階調特性自体は過度なブーストはなく意外にリニア。このガンマモード=スポーツと色温度=高輝度を併用するとより明るい映像が得られる。
●ビデオ
他機種で言うところの「標準」モードに相当する。「スポーツ」で見られた水銀系ランプの特性は消え、一転して色らしい色が描き出される。
最暗部はしっかり沈み込ませながらも、暗部の情報量を多く描き出すようなガンマカーブとなっている。ただし、後述の「シネマ」よりも黒浮き感はある。
ピーク輝度もそれなりに確保されているので、屋外シーンの日向などはリアルに描き出される。DLPらしいハイコントラスト感が味わえるので満足度も高いはず。一般的な映画鑑賞にはシネマよりもこちらがお勧めだ。
●シネマ
いわゆる映画鑑賞用のモードで、黒浮き低減に力を入れたチューニングになっている。全体的に輝度が下がり中明部のパワー感も「ビデオ」よりも低くなる。
ほぼ完全な暗室で暗い映画を視聴する際のモードといったところ。黒浮き低減を重視するあまり、暗部の情報量は「ビデオ」よりもやや少ない。ここが気になった場合はモード名に左右されず、映画鑑賞時も「ビデオ」を選択すべき。
■ まとめ ~エントリ720p機からの買い替え派にお勧め
レンズシフト機能がなく、仰角が強いデータプロジェクタ的な、やや自由度の低い設置性は、昨今のホームシアター機の中にあっては、初心者に取っつきにくい部分となってしまってはいる。しかし、フルHDパネル採用のDLP機として20万円を割る実勢価格というコストパフォーマンスの高さが、設置性のマイナス面をユーザー側でなんとか解決策しようとさせる魅力となっている。
接続性も最低限に留められているが、一通りの接続端子は揃っているので、AVアンプやセレクタと組み合わせることを前提とすれば、なんとかなる。
画質に関しては、レンズシフトがないことが高い光学解像度を獲得することにも繋がっており、エントリクラス/広範囲レンズシフト対応タイプの透過型液晶機の、よく言えば「しっとり」、悪くいえば「眠い感じの」画質とは違った、クリアなDLP画質が際立って楽しめるのはLVP-HC3800の特長となっていると思う。動的アイリスは、あってもよかったかも知れないとは思うが。
輝度性能は1,200ルーメンもあるため、リビングでの使用も問題がなし。パネルもDarkchip2世代とはいえ、ネイティブコントラスト3,000:1は、2006年頃のハイエンド機レベルのスペックだ。光源ランプは最新のものが使われているので、発色は最新機種と同レベル。4年分の進化もちゃんと体感できる。
4倍速カラーホイールではまだ暗部階調のざわつきを完全には取り去れなかったが、2mほど離れた一般的な視聴距離では気にならないので、よほど近場で神経質に目を向けなければ妥協できるはず。
自分の設置環境に置けることさえ確認できれば、2003~2004年頃に発売された低価格720p透過型液晶機などからの買い替え組にオススメしたいモデルだ。
(2010年 1月 7日)