第144回:三菱もフルHD 3D SXRDプロジェクタを投入!

~完成度の高い2D画質 三菱電機「LVP-HC9000D」~



左右対称デザインとなったLVP-HC9000D。手前のエミッタと3Dメガネは別売

 三菱電機は三管時代からホームシアター向けプロジェクタ製品を出し続けている老舗メーカーだ。しかも、そのコアとなる映像デバイスには良い意味でこだわりがなく、よいものと認識したら、過去のしがらみに囚われることなく、積極的に最新デバイスを取り入れて製品を仕上げてくる。三管から液晶へ、そしてDLP。今回はソニー製のLCOSデバイス「SXRD」を採用したホームシアター機「LVP-HC9000D」を発表した。

 三菱の上位機に位置するモデルで、このタイミングの発売と言うこともあって当然3D対応となる。本連載では、ビクター「DLA-X7」、ソニーの「VPL-VW90ES」の評価を終えたばかりなので、これらの競合を意識したうえで、LVP-HC9000Dの評価を行なうことにした。



■ 設置性チェック~ボディは大型化。従来のLVP機用の金具類は流用可能

従来LVP機と比較してボディが大型化したLVP-HC9000D。ボディは黒色の他、白色もラインナップ

 これまでのLVP-HCシリーズで採用されてきた左右非対称デザインではなく、他社競合製品と同じく左右対称型のデザインとなった。この新デザインには、三菱伝統のLVP型番を名乗りながらも、透過型液晶機でもなく、DLP機でもない、同社初のLCOS(反射型液晶)機であることのアピールが感じられる。なお、ボディカラーはプレミアムホワイトとミッドナイトブラックの2色がラインナップされる。

 筐体は左右対称になっただけで無く、これまでの同社製の透過型液晶機やDLP機と比較するとだいぶ大型化している。ボディサイズは482×530×215mm(幅×奥行き×高さ)。これは競合機のビクターDLA-X7、ソニーVPL-VW90ESよりも大きい。

 重量も14.5kgで、DLA-X7、VPL-VW90ESよりも1~2kgほど重い。14.5kgというと、同社の透過型液晶機(LVP-HC7000/6800)などの約2倍で、過去の三菱製プロジェクタからの置き換えの場合は、ボディサイズと共にこの重さにも配慮する必要がある。特に天吊り設置時には入念な設置シミュレーションが必要だろう。

 天吊り金具は2つのパーツに分かれて純正オプションとして設定されている。本体側に取り付けるアタッチメントは「天井用取り付けアダプタ」(23,100円)として設定されている。天井側に備え付ける天吊り金具は「天井取り付け金具ベース」として設定されており、LVP-HC7000/6800/4000/3800用の「BR-2」(23,100円)と同じものだ。投射位置にオフセットを効かせる延長ポール「BR-1P」(26,250円)も引き続き流用が可能だ。

 底面には4点にネジ式で高低を調整出来る脚が実装されている。こちらは前後約30cm、左右25cmの間隔で配置される。最近は後部の脚を固定式にした機種が多いが、HC9000Dでは、後部も調整式の脚部になっており、お尻を持ち上げるような調整も可能だ。台置き設置やオンシェルフ設置の際にはありがたい。なお、台形歪みは縦方向±約15度、横方向±約15度の調整に対応しているがデジタル補正なのでできれば使いたくないところ。

 吸気口は前面と背面、そして底面のスリットに配され、排気口は正面向かって左側にレイアウトされている。排気口の数が少ないため、設置の際にはここを塞がないように気を付けたい。

 投射レンズは電動フォーカス、電動シフト、電動ズームに対応した1.8倍(f=21.4~38.5)ズームレンズだ。100インチ(16:9)の最短投射距離は3.4m、最長投射距離は6.3mとなっている。LVP-HC7000/6800では最短3.1m、最長5.0m、LVP-HC4000/3800では最短3.1m、最長4.6mだったので、倍率と焦点距離が従来モデルと異なっている。

 シフト幅は上下±100%、左右±45%に対応。競合DLA-X7、VPL-VW90ESのシフト量を超えており、設置位置の自由度はかなり高い。レンズカバーはプラスチック製のキャップをはめ込むタイプ。電動開閉式シャッターがあればよかった。

 光源ランプは230W出力の超高圧水銀ランプ。光源ランプは本体背面からユーザーが交換できる方式だ。位置的に天吊り状態、台置き状態のいずれの場合においても設置状態でランプ交換が可能なのは嬉しい。

光学系の新設計に伴って従来LVP機とは投射レンズのプロファイルが異なっているランプ交換は背面側から。設置状態からでも行なえるのは嬉しい

 交換ランプは「VLT-HC9000LP」で、価格は26,250円。ランプ価格はLVP-HC3800の時から据え置かれており、上級機としては抑えめのランニングコストといえる。

 騒音レベルは公開されていないが、ランプモード「高」「標準」の設定にかかわらず十分な静粛性が得られている。競合のDLA-X7、VPL-VW90ESと比較しても大差は無い。「高」モードになると若干音圧は上がるが1mも離れれば、ほとんど気にならないレベルだ。消費電力は360Wで、競合機と比較すると若干高めだ。

ランプモード=標準ランプモード=高(1,000ルーメン)
3Dエミッターと3Dメガネも借り受けて立体視の視聴評価を行なった

 ところで、LVP-HC9000Dは3D(立体視)対応のプロジェクタだが、3D映像を楽しむためには、別売りの3D映像同期用の3Dエミッター「EY-3D-EMT1」(実売1~1.5万円)と3Dメガネ「EY-3DGLLC1-PJ」(実売13,000円前後)が必要になる。

 LVP-HC9000Dでは、別売りのこの3Dエミッタを投射レンズの直下に取り付けるか、あるいは3Dエミッタに付属する15mの延長ケーブルを用いて、スクリーン側に設置するか選べる。筆者の視聴環境ではホワイトマットタイプ(拡散反射系)のスクリーンを使用し、3Dエミッタを投射ンズ直下に取り付ける設置方式で、投射距離約3m、スクリーンから約2m離れた位置で視聴したが、安定した3D視聴が行なえた。この部分は条件によって変わるはずだ。

 また、筆者の実験では、東芝のREGZA用3Dメガネ「FPT-AG01」が利用出来たことを報告しておく(当然、メーカー保証外)。


3D視聴に必要な3Dエミッター「EY-3D-EMT1」は別体で別売3Dメガネ「EY-3DGLLC1-PJ」も別売

 


■ 接続性チェック~HDMI入力は二系統。トリガ端子も二系統

接続端子パネルは本体正面向かって右側に

 接続端子パネルは本体正面向かって右側に配されている。HDMI入力は2系統で、いずれも3D入力に対応する。アナログビデオ入力端子はコンポーネント、S映像、コンポジットビデオ入力を各1系統ずつ配備する。

 PC入力端子としてはアナログRGB入力に対応したD-Sub15ピン端子が実装されている。Xbox 360とアナログRGB接続を試みたが、1,680×1,050ドット、1,440×900ドット、1,280×1024ドット、1,280×768ドット、1,280×720ドットなどを正確に認識して表示していた。一方で、1,920×1,080ドット、1,360×768ドットは他の解像度と誤認してしまい、正しい表示が得られず。取扱説明書によればアナログRGB接続時にも1,920×1,080ドットの表示は可能とあるので、相性があるようだ。

 他機器との連動動作用のトリガ端子は2系統を配備している。トリガ1は本機稼働時に常時12Vを通電するもので、トリガ2はアスペクトモードを「アナモフィック1」「アナモフィック2」に設定中に12Vを通電する仕様になっており、前者は電動開閉スクリーンや電動開閉カーテン/シャッターなど、後者は別売の電動脱着型のアナモフィックレンズと連動動作をさせるために活用する。

 右端にSビデオとよく似た端子があるが、これは3Dエミッタを接続するための端子。この他、RS-232C端子があるが、サービスマン向けのメンテナンス用端子という位置づけだ。

 HDMI経由のデジタルRGB接続のチェック項目「アンダースキャン/オーバースキャン」の設定、「HDMI階調レベルの設定」についても触れておこう。

 アンダースキャン/オーバースキャンの設定については「画質2」メニューにある「オーバースキャン」設定で行なえる。93%~100%の1%刻みで設定が可能で、ドットバイドット表示を行なうための設定は「100%」だ。

 HDMI階調レベルの設定は「入力」メニューの「HDMI入力」設定で行なうことができる。デフォルト設定は「オート」となっているが、この他「スタンダード(16~235)」「エンハンス(0~255)」「スーパーホワイト(16~255)」の設定を選ぶことが可能だ。

「画質2」メニューにあるオーバースキャン設定HDMI階調レベルの設定は「入力」メニューの「HDMI入力」設定で行なうことができる

 なお、この「HDMI入力」とよく似た設定項目に「画質1」メニューの「セットアップレベル」があるが、こちらはHDMI階調レベルを解釈してからの後段処理としての階調レベル設定となり、通常はデフォルトの「0IRE」のままで構わない。海外仕様のDVDソフト、LDソフト、VHSソフトなどで黒レベルが妙に明るく感じられるときには「3.75IRE」「7.5IRE」などを設定することになる。

 なお、PS3の「RGBフルレンジ(HDMI)=フル」設定時やPCなどを接続したときには「エンハンス」を設定しなければ正しい階調が得られていなかった。

 PS3では「RGBフルレンジ(HDMI)」をどう設定してもLVP-HC9000Dの「オート」設定では「スタンダード」と認識してしまう。そこで「エンハンス」を設定してやると正常になるのだが、ブルーレイソフトやDVDは色差信号なので「エンハンス」では黒が浮いてしまうのだ。

 整理すると、PS3のRGBフルレンジ(HDMI)の接続の場合、ゲームでは「エンハンス」設定に、BDやDVDでは「オート」か「スタンダード」に設定する必要があるということだ。HDMI階調レベルの設定はRGB信号と色差で場合分けするか、あるいはRGB信号だけに影響するものとして欲しい。今のままでは使い勝手が悪い。

PS3をフルレンジ設定にした状態で、HDMI階調レベルをオート設定にしているとこのように暗部が死に明部が飛ぶエンハンス指定。オートはアテにならないので、明示設定する必要がある

 なお、アンダースキャン設定、HDMI階調レベルの設定などは入力系統ごとに管理できるので、接続機器ごとに変えてやることができる。様々な機器を接続するマニア層には嬉しい配慮だと言える。


■ 操作性チェック~曲率スクリーンへの投影にも対応した曲面補正機能を搭載

LVP-HC9000Dのリモコン。そろそろデザイン刷新を期待したいライトアップ時、写真のように左右端のボタンが暗い

 LVP-HC9000Dのリモコンはボタン配置はアレンジがなされているが、基本的にはLVP-HC3800などに付属するものと同一デザインだ。質感はデータプロジェクタに付属するようなシンプルなもので、できれば上級機らしい質感の高いものが欲しかったところ。ただ、2つの凹みからなる底面のエルゴノミックデザインはよく手に馴染む。デザインの完成度は高いとは思う。

 ボタンは自照式で発光するが、ライトアップボタンは無く、何かのボタンを押すと発光するという独特の操作系が採用されている。ボタンはオレンジに光るのだが暗闇で見るととても暗い。中央側と左右端のボタンの輝度差が著しく、こういった部分でも少々質感の低さが垣間見られる。このあたりはソニーなどの方がうまい。

 電源ボタンは誤操作防止のためにオンとオフを別ボタンにアサインしている。電源オンボタンを押してから、HDMI入力の映像が表示されるまでの所要時間は73秒だった。これは最近の機種としてはかなり遅め。

本体上面には基本操作パネルが配される

 入力切り替えボタンは順送り式では無く、各入力系統名が記載された[HDMI1]、[HDMI2]、[PC]、[COMP]、[S-VIDEO]、[VIDEO]の各ボタンを押すことで直接希望の入力系統に切り替えられる。これも三菱機のこだわりの部分だ。入力切り替え速度はHDMI1→HDMI2で約4.5秒、HDMI1→PCで約3.0秒、HDMI1→コンポーネントビデオで約秒3.0秒であった。別段、早いと言うほどでも無いが、希望の入力系統に一発で切り替わるため待たされる感じは無い。

 一方で、アスペクトモードの切り替えと、プリセット画調モードの切り替えは順送り式となっている。

 アスペクトモードは、下記の4種類のみ。LVP-HC3800では、レターボックス記録された映像を拡大して見るズームモードがあったのだが、LVP-HC9000Dでは省略されている。切り替え所要時間はほぼゼロ秒に近い早さだ。


スタンダードアスペクト比を維持して表示する。4:3は4:3で、16:9は16:9で表示される
全画面アスペクト比に配慮せずパネル全域に表示する。16:9映像の場合は変化無し
アナモフィック1シネスコ(2.35:1)記録されている映像をパネル全域にマッピングしてアナモフィックレンズを通して視聴するためのモード
アナモフィック2アナモフィックレンズを通した状態でアスペクト比16:9、4:3などの映像を正しく見るためのモード

 プリセット画調モードの切り替え所要時間は約2.0秒だ。絞り機構の切り替えが入るためか、一度映像が消えるのがちょっと気になるところではある。

 画調パラメータは「色あい」を除く、「コントラスト」「明るさ」「色の濃さ」「シャープネス」「ガンマ補正」「色温度」が、リモコン上のそれぞれ[CNT]、[BRT]、[COLOR]、[SHARP]、[GAMMA]、[C.T.]の各ボタンを押すことで直接調整ができる。ちょっと「アレ?」と感じたのは、色温度の[C.T]ボタン、ガンマ補正の[GAMMA]ボタンだ。これらのボタンは、押した瞬間に色温度やガンマカーブが順送り式に選択されてしまうので、現在の設定値を確認してからの変更ができない。

 ライトアップボタンがない本機のリモコンでは、暗室で何かのボタンを押してライトアップしなければならないため、この操作系ではうっかりボタンを触って設定が切り替わってしまうことになる。コントラスト[CNT]、明るさ[BRT]、色の濃さ[COLOR]、シャープネス[SHARP]の各ボタンは押すと、現在設定値が表示され、リモコンのボタンもライトアップされてから調整ができる。この操作系の一貫性が取れていない感じは、使いにくい。細かいことだが改善して欲しい部分だ。

 ガンマカーブは映画向けの「シネマ」、「2.0」、ビデオ向けの「2.1(ビデオ)」、「2.2」、3D映像向けの「3D」、ユーザー設定の「ユーザー」が選択可能だ。「ユーザー」設定では、2%、4%、6%、8%、10%、12%、15%、20%、30%、50%、70%、80%、85%、90%、95%の15ポイントにおいて10ビットの出力値0~1,023を設定することで、任意のガンマカーブをデザインすることができる。設定はRGBを個別に設定することも、まとめて設定することも可能でかなり細かい調整が楽しめそうだ。

ガンマ=シネマガンマ=2.0ガンマ=2.1(ビデオ)
ガンマ=2.2ガンマ=3Dユーザーガンマ設定画面
ユーザー色温度の設定画面

 色温度は5800K、6000K、6500K、7500K、9300Kの他、「輝度重視」モードと「ユーザー」モードが選択できる。ユーザーモードはRGBの各ゲインとオフセットを数値で設定する方式だ。

 ユーザーカスタマイズ機能としては、この他、カラーマネージメント機能が用意されている。リモコンの[C.M.]ボタンでも呼び出せるこの機能は、色調をR(赤)、G(緑)、B(青)、C(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)の各キーカラーに対して、独立した「色相」「彩度」「明度」を補正できるものだ。

 他機種の同系機能のように調整対象色"以外"をモノクロにできるモードがあればよかったと思う。現在の操作系だと、いまいち、どの色が調整されているのか分かりにくい。なお、補正結果はカスタム1、2、3の3つのユーザーメモリに保存することが出来るようになっている。

ユーザー色温度の設定画面

 ユーザーモードの色温度とガンマ補正、そして3つのカスタム設定のカラーマネージメントプロファイルは、入力系統ごとでは無く、LVP-HC9000D全体で共通して参照されるグローバルデータとして管理される。

 ところで、LVP-HC9000Dでは、プリセット画調モードを調整すると、保存動作をしなくても、調整結果は維持される仕様となっている。厄介なのは、選択中のプリセット画調モードをリセットする術がない点だ(工場出荷状態に全リセットするメニューはある)。また、プリセット画調モードのパラメータ群は、全入力系統で共有されているので、例えばHDMI1の「シネマ」で調整を行なってしまうとコンポーネントビデオの「シネマ」でもその調整結果が反映されてしまうのだ。

重要な設定項目が並ぶ「画質1」メニュー。ここの調整結果だけをリセット操作が用意されていないので、いじる場合は注意が必要

 さらに言えば、ユーザー画調モードはユーザー1、2、3の3つが用意されているが、こちらも全入力系統で共有されている。

 このように、画質調整機能やユーザーメモリ機能は、他機種とは異なる、やや独特な操作系になっているので、最初は戸惑うかも知れない。

 さて、LVP-HC9000Dには、他機種にはないユニークな機能がいくつか搭載されているのでそれらを紹介しよう。


世にも珍しい「プロジェクション・アプリケーション」機能

 1つは「プロジェクション・アプリケーション」機能だ。

 これは、簡単に言えば投射映像を自在に変形させる機能だ。一般的な「台形補正」の他、「位置調整」、「回転」、「曲面補正」などの変形が利用出来る。

 「位置調整」機能はスクリーン面とプロジェクタからの光軸が直角になっていない時に利用するもので、いわば台形補正の自由度拡大版という感じの機能だ。具体的には、映像の四隅を引っ張ったり縮めたりする処理を行ない、スクリーン面に対し、映像の四辺を綺麗に直行させて投射させる。

 「回転」機能は、投射映像を±180度の範囲で1度単位で回転させられるものだ。本来はプロジェクタが傾いているときに使用する機能なのだが、±90度の設定をすることで縦画面表示も可能なのが面白い。ただ、±90度回転時は映像パネル内の1,080ドット×1,080ドットにしか映像が描かれない点には注意したい。

 「曲面補正」機能は平面スクリーンではなく曲率のある丸みを帯びたスクリーンに投射するときに利用するものだ。例えばユーザーをやや取り囲むような感じの丸みを帯びたスクリーンに対して、この機能を利用して投射すれば、映像がパノラマチックに投射できることになる。

 いずれにせよ、「プロジェクション・アプリケーション」機能は映像プロセッサによるデジタル画像処理で行なわれることになるため、解像度劣化は避けられない。この点には留意したい。

撮影したカメラが傾いているのではなく、映像を回転させている様子。最大±180度の回転が1度刻みで可能。縦画面ゲームをプレイするときに使える?平面以外のスクリーンへの投射に利用できる「曲面補正」機能
アスペクト比切換の他、映像のマスキングが行なえる「スクリーン」機能

 もう一つは「スクリーン機能」だ。LVP-HC9000Dでは、一般的な垂直水平の表示位置シフトだけでなく、上下、それぞれ最大30ドットまでを未表示にできる「シャッター」機能を有しているのだ。これはシネスコサイズ(2.35:1)のスクリーンを設置し、アナモーフィックレンズを固定的に組み込んだ環境で、スクリーンの上下にはみ出ることになる16:9映像を上下マスクして見せなくすることができる機能だ。ドットバイドット表示時に、画面最上端にノイズが出る映像などにおいてのノイズ隠しにも流用できる。

 そして「スクリーン機能」には、色収差や映像パネルのずれを補正するための「画素調整」機能も備わっている。RGBの各色ごとに垂直方向、水平方向、最大±3ドット分のシフトに対応しているが、ソニーのVPL-VW90ESにあるような「疑似的な1ドット未満のシフト」には対応していないため(ビクターのDLA-Xシリーズも同じ)、使える局面はあまりない。



■ 画質チェック~完成度の高い2D画質。超解像「細部強調」は3D映像やSD映像に効果大

 LVP-HC9000Dは映像パネルにソニー製の反射型液晶パネル(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の「SXRD」(SXRD:Silicon X-tal Reflective Display)を採用する。これまでエプソンの透過型液晶パネルやTIのDMDチップを採用してきた三菱が、ここにきてSXRDを採用してきたのはセンセーションである。

 ソニー以外のSXRD採用機としては、この他、昨年LGエレクトロニクスが発売した3Dプロジェクタ「CF3D」がある。その意味では、最近ではソニーはSXRDを外販できるほど量産性が上がってきているのかも知れない。透過型液晶パネルにこだわってきたエプソンも反射型液晶パネルの3LCD Reflectiveパネルを2010年9月に発表している(ただし、採用機のEH-R4000/1000は発売が延期されている)。今後、ホームシアター機では反射型液晶が勢いを増していくのかもしれない。

 SXRDパネルは0.61型サイズのフルHD/1,920×1,080ドット解像度のものになる。240Hz駆動に対応していることを考えると、おそらくソニーのVW90ESに採用された0.20μm製造プロセスの最新型が採用されているのだと思われる。

 さすがは反射型液晶パネル。スクリーンに近づいて見なければ、画素格子筋がほとんど見えない。100インチに拡大しても、視聴位置から画素仕切りによる粒状感がほとんど見えないというのは感動的だ。

SXRDらしい格子筋の殆ど無い高開口率の画素描画

 新設計の投射レンズもまずまずの完成度。今回のテストではオンシェルフ設置で行なった関係で光軸から30%ほど下シフトで使用したが、中央でフォーカスを合わせれば画面全体でしっかりと合ってくれる。細かく見ていくと、画面下部で若干フォーカスが甘い気もするが、画面下部で合わせてしまうと、画面全体の合焦度が甘くなるので、中央で合わせるのが正しいのだろう。

 色収差は良好に抑えられている。白色の1ドットの線を表示してもしっかりと「細い白線」として見えている。これも細かく見ていくと水平方向下に緑(G)が少々ずれている感じもするが、解像度劣化に結びつくほどではない。価格帯を考えれば納得のレンズ性能だとは思う。なお、この緑のズレは前出の画素調整で合わせることは無理だった(1ドットもずれていないため)。

 公称輝度スペックは1,000ルーメン。数値的にはホームシアター機として標準的な値だが、実感としての明るさはスペック以上だ。輝度最優先の「ダイナミック」画調モードにして、色温度も「高輝度」にすればPC画面やゲーム画面などは蛍光灯照明下でもしかっりと見える。データプロジェクタ的に活用することも十分可能な明るさだと思う。これは黒の締まりがしっかりしているからだろう。

 公称コントラスト値は12万:1。ネイティブコントラスト値は非公開となっており、12万:1と言う値は動的絞り機構を組み合わせたときの値になる。

 動的絞り機構の設定はリモコンの[IRIS]、あるいは「入力」メニュー(なぜ「入力」メニューの中にあるのかは謎。最初見つからなくて苦労した)の最下段の「アイリス」で調整ができる。設定範囲は「全開」(絞り開放)、「1」(絞り大=透過光小)、「2」(絞り中)、「3」(絞り小=透過光大)、「ユーザー」(18段階の固定絞り設定)、「可変」となっている。

 「全開」(絞り開放)でも、さすがはノーマリーブラックのSXRDだけあって黒の沈み込みは良好だ。暗部の沈み込みに優れているため明部の際立ちが凄い。12万:1の数値が実感できるかはともかくとして、圧倒的なコントラスト感は十分に実現できている。

 動的絞り機構の動作にも不満はない。「ダークナイト」のチャプター23のジョーカーの尋問シーンは明暗がころころと変わるカットが連続するが的確な絞りに瞬間的に切り替わってくれていた。ただ、動的絞り機構を使うと明部の輝度は抑制されることになるので、諸刃の剣だ。明部の伸びやかなエネルギー感を重視したい人は「全開」を、暗部の締まりを重視したい人は「可変」を選択するといいだろう。

 階調表現、色深度も共に目立った粗はなく優秀だ。単色の黒へのグラデーションを見てみると、しっかりと最暗部付近にまで色味が残っている。黒浮きが少なく最暗部がグレーに飽和しないLCOSらしい階調特性が発揮できている。補色同士の二色混合グラデーションも擬似輪郭などがなく非常に美しい。

 発色はナチュラル系で、派手さはなく、HD色域を正確に再現しようとする意志を感じられる。水銀系ランプながら赤は朱色に寄らず、それでいて赤色LEDのようなやり過ぎな深紅感もない。緑と青の伸びやかな発色も美しい。

 この水銀系ランプの色特性をうまく補正できているのは、HC9000Dに新搭載されたというシネマフィルター機能によるものだろう。シネマフィルターは光源からの後段に配される物理的な色補正フィルターで、輝度は多少犠牲になるが純度の高い発色を提供してくれる。LVP-HC9000Dでは「ダイナミック」以外の全ての画調モードでこのフィルターが適用される。そのため、「ダイナミック」選択時だけ、シネマフィルターを機械的に外すとジーという稼動音がする。

 三菱はシネマフィルター機能は緑とシアン方向の色域を広げることに注力した、と説明しているが、肌色にも大きな恩恵をもたらしている。シネマフィルターを適用すると肌色に強く出ていた黄味が嘘のように取り除かれて自然な発色となる。肌色の色ダイナミックレンジも広く、茶褐色の日焼けした肌からハイライトを浴びた白人種の白に飽和寸前の肌色もリアルに描き出してくれている。前述した階調性能の優秀さとの相乗効果もあってか、焦げ茶色に沈む寸前の"影"が掛かった肌色もリアルだ。曲げた腕や足の内側の凹みの"陰"などにも立体感を感じるほどだ。

シネマフィルター=映画。通常はこちらを奨励シネマフィルター=明るさ重視。水銀系ランプの特性がむき出しになる

 LVP-HC9000Dは補間フレーム挿入を組み合わせた倍速駆動に対応している。この機能についても評価してみた。

 LVP-HC9000Dではこの機能は「フレーム・レート・コンバージョン」(FRC)と命名されており、「トゥルーフィルムモード」「トゥルービデオモード」「オフ」の3つの設定が選べるようになっている。1080/24p入力時に限っていうと、「トゥルーフィルムモード」は補間フレームを3枚挿入してオリジナルフレームと共に4枚を表示し24×4=96Hz(96fps)で表示するモードだ。対して「トゥルービデオモード」は補間フレームを4枚挿入してオリジナルフレームと共に5枚表示して24×5=120Hz(120fps)で表示するモードになる。「オフ」設定では、オリジナルフレームのみを4度描画しての96Hz(96fps)表示を行なう。

「フレーム・レート・コンバージョン」機能の動作図解

 トゥルービデオモードは最も補間フレームの影響が支配的となり、トゥルーフィルムモードはそれよりもややオリジナルフレームの影響が強めに表示される傾向にある。表示のスムーズさはトゥルービデオモードの方が優れているが、補間フレームのエラー発生時には、そのエラーを強くみてしまうことになる。

 実際にブルーレイ「ダークナイト」冒頭のビル群のフライバイシーンを再生して検証したが、トゥルービデオモード、トゥルーフィルムモード、共に左奥の巨大なビルで窓枠がブルブルと振動してしまっていた。ただ、トゥルーフィルムモードの方が、振動したエラーフレームの表示時間は短い。ただ、いずれにせよ、エラーは発生しているので、筆者としてはあまり使いたくない機能と感じた。

 一方、「オフ」設定ではオリジナルの毎秒24コマを等倍の96fpsで表示することになるため、事実上、オリジナルを正確に24fps表示することとなる。このため、エラーフレームも無く安心してみていられる。よほど残像感に神経質でない限りは、常用はこのモードだろう。

 今回の評価では、別売りのオプション機器で実現される3D映像表示機能も試すことができたので、そのインプレッションも述べておこう。

 3D映像視聴の際にはプリセット画調モードの「3D」の利用が奨励されている。こちらは輝度を高めに取り、3D眼鏡を掛けて起こりうる輝度損失に配慮した階調特性を提供するモードのようだ。

 LVP-HC9000Dでは、補間フレーム挿入による残像低減は倍速駆動対応止まりだが、3D映像表示に際しては240Hz駆動を行なって、左目用、右目用の映像を2度描きして表示している。3Dメガネ側は左右の目のシャッターを1/240秒間隔で2回ずつ開閉して、それぞれの目に120Hz(2/240=1/120)の映像を見せている。実効輝度よりもクロストークの少なさを狙った3D表示を行なっているということだ。

 実際に映像を見てみると、2D映像の高輝度の伸びやかさが失われ「暗い」という第一印象を持つ。ランプ駆動モードを「高」にしても、だ。

 また、左右の目用の映像が混合されて二重に見えてしまう「クロストーク現象」はそれなりに散見される。今回の評価ではクロストーク現象が分かりやすい「怪盗グルーの月泥棒」のジェットコースターのシーンを使用したが、一番クロストーク現象が目立つトンネル内のカットだけで無く、通常のシーンでもクロストーク現象が気になった。

 LVP-HC9000Dでは、3D映像の明るさとクロストークの出方に関して調整の幅を持たせている。それが、「入力」メニュー階層下にある「3D 明るさ調整」だ。設定値の範囲は3Dメガネのシャッター機構の開放時間を表す「2.0~5.5」(0.5刻み)で、値が小さいほどシャッターが開いている時間が短くなり映像は暗くなる。ただ、それと引き替えにクロストーク現象は低減する。逆に大きい値にすると、シャッターが開いている時間が長くなって映像は明るく見えるようになるが、その分クロストーク現象が強く知覚されるようになる。

3D映像の明るさとクロストークのバランス調整ができる「3D明るさ調整」設定

 デフォルト設定は「4.5」で、最低の「2.0」に設定してもクロストーク現象はそれほどは低減されない。逆に「5.5」と「5.0」は「4.5」よりもそれほど明るくならないわりにはクロストーク現象は強くなるので、その意味では「4.5」というデフォルト設定は丁度いいバランスだと言える。

 なお、LVP-HC9000Dの3D機能は、Blu-ray 3Dに採用されているフレームパッキング(フレームシーケンシャル)方式の他、テレビ放送や一部のDVDなどで採用されている、サイドバイサイドやトップアンドボトム方式に対応している。ちなみに、2D→3D変換機能は有していないため、既存の2Dコンテンツを3Dとして見ることはできない。

 3Dフォーマットの切り換え操作はリモコンの[3D]ボタンで行なえる。このボタンで3D映像を2Dとして見るために2Dモードにも切り替えられるはずなのだが、2D表示にはならずブルーバック(未表示)状態になってしまった。

 画質とはあまり関係ないが、LVP-HC9000Dでは、3D表示時中における特徴的な動作についてもレポートしておこう。

 まず、メニュー画面は3D表示中でも2D表示のままとなるため、3D眼鏡を掛けなくとも表示を見て操作ができる(ソニーVPL-VW90ESでは3D表示時にはメニューも3D表示となり、3Dメガネを掛けないと二重表示となって操作がしづらかった)。

 また、3D表示中はフレームレートコンバージョンが利用出来ず、「オフ」設定と同等の等倍速表示に固定化される。恐らく処理速度的な制約からだと思われるが、「プロジェクション・アプリケーション」機能に関しては3D表示中も利用ができた。つまり、映像を回転させたり、曲面補正をさせた状態での3D表示が可能だということだ。この部分は、なかなか頑張っていると言える。

 歴代のLVP-HCシリーズから刷新された各種高画質化ロジックについても機能解説とインプレッションを述べておこう。

・TNR(Temporal Noise Reduction)

 名前は難しいが、要は時間方向のチリチリとしたランダムノイズを低減させる機能だ。オフ、低、中、高の四段階設定が出来る。「高」で掛けても糸引き現象は起こらずなかなか優秀だ。720p未満の映像にしか掛けられない。基本的にはLDやアナログビデオソースなど向けという感じだが、DVDに対して掛けると周期的にIピクチャに切り替わるときの違和感を低減できる。

・MNR(Mosquito Noise Reduction)

 MPEG映像の輪郭部分などに生じるモスキートノイズを低減させる機能だ。オフ、低、中、高の四段階設定が出来る。「低」で掛けても結構アグレッシブに効く。ただ、色ディテールが失われたり、テクスチャが眠くなる傾向がある。DVDビデオ程度のソースならば「低」で十分だろう。これも720p未満の映像にしか掛けられない制約がある。

MNR=オフMNR=オン。輪郭線周辺のモヤモヤが見事に低減された

・BAR(Block Artifact Removal)

 名前の傾向が前出2つと違うが、要はブロックノイズ低減機能のこと。設定はオンとオフのみ。低ビットレートの映像で評価してみたが、静止画には確かに効くが、動画にはほとんど効果がない。これも720p未満の映像専用の機能だ。

BAR=オフBAR=オン。ほとんど効果が分からない。他のテスト動画でも同様の結果に

・LTI(LUMINACE TRANSIENT IMPROVEMENT)

 輝度変化を増強するフィルタ機能のこと。効果としては輪郭強調とシャープネス増感が現れる。オフ、低、高の3段階設定ができる。後述の「細部強調」機能の方が優秀で、効果が重複するので利用する必要はない。720p未満の映像専用の機能だ。

LTI=オフ(480p)LTI=高

・CTI(COLOR TRANSIENT IMPROVEMENT)

 色の滲みだしを低減させて色境界を鮮明にするフィルタ機能のこと。オフ、低、高の3段階設定ができる。高設定にすると色情報が増強されるが、解像度情報と対応しない部分にまで色情報を適用し始めるため、逆に滲んだような箇所が出てきてしまう。常用するならば「低」設定だ。これも720p未満の映像専用の機能だ。

CTI=オフ(480p)CTI=高。色輪郭がはっきりするがその分滲みも多くなる

・細部強調

 いわゆる超解像的な効果をもたらす機能。LTIと決定的に違うのはノイズを増強することなくテクスチャと色ディテールを選択式に先鋭化するところ。オフ、低、中、高の4段階設定が可能。これは1080p映像を含む全ての解像度に対して利用出来る。DVD映像に対して掛けると疑似HD映像っぽく楽しめて面白い。DVDの場合はIピクチャ周期が気になるので、その場合はTMRを「中」以上の設定にして軽減させるといい。かなり遊べる機能だ。この機能は3D映像に対しても効かせることができる点も特記しておこう。

細部強調=オフ(480p)細部強調=高。いわゆる超解像的な機能。なかなか優秀だ

■表示遅延について

 今回も東芝REGZA 19RE1との表示遅延を測定した。

 実験の結果、LCP-HC9000Dでは、「フレーム・レート・コンバージョン」(FRC)機能のオン/オフで表示遅延が大きく変わることが確認された。

 FRCが有効状態だと表示遅延は約9フレームにまで増大してしまう。FRCを無効にすると表示遅延は約2.5フレーム程度にまで短縮できる。ゲーム用途の際にはFRC無効化は絶対だ。

FRC有効状態FRC無効状態

 


■プリセット画調モードのインプレッション

【シネマ】暗部から明部までの階調をリニアに繋いだLVP-HC9000Dのスタンダードな画調モード。色温度が6500Kなのでホワイトバランスはやや赤みを帯びており、人肌などは赤に寄った色あい。これが気になったら「ビデオ」がいい【ビデオ】「シネマ」と表裏一体の画調モードで、階調特性は「シネマ」とあまり変わらないが、色温度が7500Kとなっている関係でやや涼しげな色あいになる。人肌などは太陽光を浴びたときのような自然な発色になる。ピーク輝度は意外にも「シネマ」の方が高い
【3D】3Dメガネを装着して見る、3D映像に特化した画調だ。3Dメガネによって損失する暗部の階調に配慮してセットアップレベルを意図的に3.75IREに持ち上げている。色温度は9300Kとかなり高い設定だが、3Dメガネを通して見るとそれほど青白くはない【ダイナミック】唯一、シネマフィルターが外される画調で、輝度最優先の画調だ。ただ、色温度が9300Kのままで、せっかく最大輝度を得るために用意されている「色温度=高輝度」が利用されていない。データプロジェクタ的に使いたい人は、ここの設定は「高輝度」に変更すべき。色味は水銀系ランプの牙がむき出しになった黄味の強いホワイトバランスになるが階調はリニアに保たれている。蛍光灯照明下でゲームをプレイするときなどにはおあつらえ向きだ

 


■ まとめ

 ホームシアター機の老舗、三菱とは言え、LVP-HC9000Dは同社にとっては新しいデバイスを用いた初号機。その完成度には興味があったのだが、結論から言えば、2D画質に関しては、競合のDLA-X7、VPL-VW90ESに拮抗している。

 フォーカス力、色収差特性、両面において、新設計の投射レンズもなかなか優秀だし、LCOS機らしい圧倒的なネイティブコントラストとナチュラルな発色もお見事だ。

 LOCS機の映像特性をさらに高める動的絞り機構、完成度の高い超解像機能、ユニークな「プロジェクション・アプリケーション」機能など、LVP-HC9000Dならではの特徴的な機能も搭載され、製品としての魅力も高い。

 オプション扱いとした3D映像表示機能については、その暗さとクロストークの出方の感じは、ソニーのVW90ESとそっくりだ。パネルも同系ならば、3D表示の特性も似てくるということなのだろうか。3D映像に関してはDLA-Xシリーズが頭1つ抜きん出ているという印象を持つ。

 ちなみに、アクティブシャッター3Dメガネを用いた方式では、その構造理論上、スクリーン上の映像輝度の約1/4程度の光量しか知覚できない。3D映像表示機能は、これまでのホームシアター機の基準的な輝度スペックであった「1,000ルーメン」では力不足なのかもしれない。だからこそ、LVP-HC9000Dでは3D表示機能はオプション扱いにしたのではないか。LVP-HC9000Dは、2D高画質機を求めるユーザーにお勧めしたい機種だ。

 最後に、コストパフォーマンスについても言及しておこう。2011年5月現在、主流3D対応LCOSホームシアター機の実勢価格は、VPL-VW90ESが65万円前後、DLA-X3が50万円前後、DLA-X7が75万円前後となっている。発売時期が最後発となった関係か、LVP-HC9000Dの実勢価格は60万~70万円だ。ただし、VPL-VW90ESは3Dトランスミッタ内蔵で3Dメガネも2個付属、LVP-HC9000DとDLA-X3/7は3Dエミッタ/3Dメガネが別売なので、3D視聴が前提の場合はその点も留意したい。

(2011年 5月 12日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。